深夜、彼は今日も戦う。
何とだって? 決まっている。
今日も彼、
ざっと見る限りではおよそ千体は倒したのであろう。澪斗は肩で息をしていた。
「この剣ももう使い物にならないな。」
澪斗はそう言うと装備していた剣を投げ捨て、何処かへと走っていく。
さて、何故澪斗が武器を持っているか疑問に思う人もいるだろう。その理由は、ただ一つ。
「おっ、あったあった。」
こうやってタルタロス内に存在する宝箱から武器を調達していた為である。
澪斗は試しに手に入れた剣を軽く振ると満足そうに腰のベルトに差し込んだ。
「よし!これなら使えるな。」
そう言って先へ急ごうとする澪斗だったが、
ジャラ、ジャラ、と目の前から鎖を引きずる様な音が聞こえてくる。
「.....来たか。」
澪斗は嬉しそうにそう言って剣を構える。
澪斗の前に現れたのは大きな人の形をしたシャドウだった。両手には弾丸が二発同時に発射できる大きな拳銃を持っており、その銃身は澪斗を狙っていた。
「面白れぇ!......オラァ!」
澪斗はシャドウに向かって走りだし、そのまま剣を振りかぶった。
だがシャドウは澪斗の攻撃を素早く避けて、銃を撃ってくる。
「おっと。」
澪斗はそれをバックステップで避けると、ズボンの左側に取り付けたホルスターからリボルバーを取り出してシャドウに撃つ。
だが、シャドウは撃たれたのにまるで効いていないようだった。
「なら、こいつはどうだ!」
澪斗はリボルバーを自分の眉間に向けるとそのまま引き金を引く。
「ペルソナ!」
すると澪斗の背後から剣を持った甲冑姿の男性が仁王立ちしており、シャドウを見据えていた。
「ジオンガ!」
澪斗は自分のペルソナに命じて攻撃を放つ。どうやら先程の銃撃よりも効いているようだ。
だが、シャドウは直ぐにタルタロス内へと消えていく。
それを見た澪斗は気付く。
「そうか.......もう時間か。」
敵シャドウが去っていったのは、恐らく"影時間"が終わろうとしていたからだろうと澪斗は悟り。剣をベルトに差し込み、リボルバーをリロードしてからタルタロスを出て向き直る。
(いつか....絶対に倒す!)
そう決意し、借りている部屋に戻ろうとしたところ。
「おい、ちょっと待て。」
ふと、誰かに声を掛けられる。
(おかしい。今は人が結晶と化している"影時間"だぞ、人がいる筈がない。)
そう考えながら声のする方に振り向くと其処には制服姿の青年が立っていた。
彼の名は 真田 明彦
月光館学園 三年生 ボクシング部の主将を務める男だ。
「あの......何か?」
真田は澪斗をまじまじと見ると一言、
「何故此処に居る?」
そう澪斗に訪ねた。
「此処って?」
澪斗はその質問の意図を理解したうえで真田に聞き返す。
「
真田は澪斗に詰め寄って再度質問をする。
「えーと、眠れなくて散歩してたらいつの間にかこの建物の中に。」
「ほお。」
澪斗がそう答えるが真田は納得がいかないのかまだ澪斗を見ている。
「な、なんですか?」
「散歩.....ねぇ。その
「!!」
澪斗は驚愕した。彼は今、通っている高校の制服を着てその陰になるようにして片手剣を隠していたのだがそれを真田にあっさりと見破られてしまったのだ。
「これは中で拾ったんですよ。此処は得体の知れない化物が出てくるんでこれで対処してただけですよ。」
「ふうん。」
真田は澪斗の答えにまだ納得していない様子だ。
「なら、それは俺が預かる。異論は無いだろう?」
「それは......」
真田は手を伸ばして澪斗の剣を取り上げようとした次の瞬間、
ピピピピ!
と何かの通信が入ったような音が真田から聞こえてきた。
澪斗は逃げるチャンスだと思い、直ぐに走って逃げた。
「あっ、おい!.....」
後に残されたのは真田と未だに鳴り響く音。
ピッ!
「どうした美鶴?」
「明彦、そろそろ"影時間"が終わる。寮に戻れ。」
通信の相手は 彼の仲間 桐条 美鶴 だ。
「分かった。直ぐに戻る。」
明彦は美鶴にそう返すと通信を切った。
「名前....聞きそびれたな。」
真田は澪斗が走り去っていった方角を見ながらそう誰に話すでもなく呟いた。
──────────
翌日、月光館学園にて。
澪斗はいつものように登校する。
「おはよー!」
「ああ、おはよう。」
そしてこんな風に友達とたわいもない会話をする。
こうしてまた、ごくありふれた日常が戻ってくる。
昼休みまではその筈だった。
「おい澪斗。」
「ん?何だ友近。」
澪斗に話しかけてきたのは友人でありクラスメイトの友近健二だ。
「三年の真田先輩がお前の事を呼んでるぞ。」
げ、あの人まだ俺に付きまとうのかよ。
そんなことを考えてしまうが、流石に相手は三年生の先輩なので無視は出来ない。
「....分かった。ちょっと行ってくる。」ハァ
澪斗はため息を吐くと同時に席を立ち、廊下に向かった。
──────────
「お前が昨日の夜の奴だな?」
真田は澪斗の顔を見るなりそう聞いてきた。
「....はい、そうですけど。」(此処で誤魔化しても話が拗れるしちゃんと答えておこう。)
すると真田は澪斗の顔をまじまじと見ると窓の方に顔を向けながら澪斗に話す。
「単刀直入に言おう。実は俺もお前と同じ"力"を持っている。」
「!!」
真田のこの発言に澪斗は驚いた。
(だが、この人の言っていることは正しい。確かに"影時間"の中を普通の人間が動くことは出来ない。なら、俺と同じ
「それで先輩。要件は何です?こういうこと言うのも悪いとは思うんですけど、わざわざカミングアウトしに来た訳じゃないでしょ?」
澪斗は何が目的なのか真田に本当の目的を訪ねる。
「...そうだな。確かに回りくどい聞き方をしたな。....なら、はっきり言わせてもらう、お前の力を貸してほしい。」
「何故です?」
「俺達はあの時間帯を"影時間"と読んでいる。そこではお前も見た通り普通じゃない。人がまるで棺桶のようなオブジェになり、何もかもが停止した時間帯なんだ。」
(知っている。....俺は..いや、
澪斗は真田の言葉に耳を傾けながら真田の真意を理解する。
「成る程。詰まるところ俺にあんたの仲間になれと、そう言ってるんですね?」
「ああ、そうだ。」
「なら、今返事を返させてもらいます。....お断りします。」
真田は澪斗が断るなんて考えなかったのか驚いてしまった。
「な、何故だ?...何故断る必要があるんだ?」
「理由は単純ですよ、俺は群れるのが嫌いなんです。あと、俺みたいにシャドウとの戦いに慣れてる奴なんて居ないでしょう?だからですよ。いくら群れたって弱い奴は何時まで経っても弱いままなんですよ。....俺が断る理由としてはそれです。」
「静寂....。」
「それでも納得がいかないって言うならあなた達"三人"のリーダーでも連れてきて俺を説得でも何でもして仲間にしてみてください。....それでは。」
澪斗が教室に戻ろうとすると、真田が呼び止める。
「待て。今、あなた達"三人"と言ったか?」
真田は自分がそんなことを言った覚えがないのでそう澪斗に聞いた。
「ええ、言いましたよ。昨日、俺を追及してたときに誰かから連絡が来てたじゃないですか。あれ、多分あなた達のボスでしょ?...それに真田先輩とそのリーダーの人だけで組織が出来るとは考えにくい。だから三人居るなと思っただけですよ。....そろそろ昼休み終わるので、それではまた。」
澪斗は真田に頭を下げると教室に戻った。
一方の真田はというと、
「やれやれ、これは骨が折れそうな相手だな。」
そう呟いて自分の教室に戻るのだった。
────────
そしてその日の夜。
澪斗は何時ものようにタルタロスにてシャドウ狩りを行っていた。だが、此処である異変に気付いた。
(おかしい。今日は何時もよりシャドウの数が少ない。)
それだけでなく何時もの"アイツ"が現れない。何故なのか。
「....今日はもう帰るか。」
澪斗は何時までも此処に居るわけにはいかないと思い、片手剣とリボルバーを仕舞うと外に出る。
「!!?」
すると澪斗は即座に何か嫌な気配を感じた。
(何だ、この嫌な気配は!!?何時もより...いや、もっと違う何かを感じる。何処からだ?....あっちか!)
澪斗はその嫌な気配の場所を見つけると走ってそこへ向かう。
────────
同時刻、澪斗が感じた嫌な気配の主が学生寮の屋上で二人の男女を襲っていた。
「あなたは逃げて!....大丈夫。ちゃんと出来る。」
そう言って少女は自分の眉間に銃口を向ける。だが、
「....駄目、引けない。」
恐怖しているのか引き金を引けないでいた。すると彼らの眼前にいた巨大な"シャドウ"が彼女を襲う。
「きゃあ!」
少女はシャドウから攻撃を受けると銃を少年の近くに転がしてその場に倒れこんでしまう。
「........」
少年はその銃を拾うと自分のこめかみに銃口を向ける。そして、
「ペ、ル、ソ、ナ....!」
その掛け声と同時に引き金を引くと、彼の背後から巨大な竪琴を背負った男が現れる。
『我は汝、汝は我。我は汝の心の海よりいでし者。幽玄の奏者 オルフェウスなり。』
少年のペルソナ、オルフェウスはシャドウに向かっていく。
オルフェウスはシャドウに竪琴での打撃や火炎攻撃を繰り出す。だが、シャドウには全くと言っていいほど効果が無い。すると今度はシャドウがオルフェウスに襲いかかる。シャドウはオルフェウスを殴る、殴る、殴る。そして止めとばかりに持っていた剣をオルフェウスに突き刺した。
「ぐああ!!」
少年はオルフェウスがやられたためか頭を抑えながら苦しんでいる。
するとオルフェウスの身体が縦に割れ、中からまるで死神を思わせる風貌のペルソナが現れた。ペルソナは懐から鋸歯の剣を取り出すとシャドウを切り裂く。そして残った部分を引き裂き、喰いちぎる。巨大だったシャドウは最早ただの肉片となってしまった。
そうなった途端にペルソナは消失し、召喚した少年は気絶してしまった。
「ねぇ、ちょっと君!」
少女は気絶した少年を揺すって起こそうとするが、返事がない。
少女が少年を起こそうとしていると背後から先程肉片にされたシャドウから腕が伸び、少女に襲いかかろうとしたその時、
「スパルタクス!」
パキン、と何かが割れる音と同時に剣を携えた男が少女の背後に現れた。
「何これ.....まさかペルソナ?」
少女は振り向くと背後に現れた存在の確認をとる。
「よぉ、無事か?」
そう少女に訪ねた声の主がペルソナの肩から飛び降りてきた。
「あなたは.....一体?」
「悪いが、今は説明してる暇は無い。.....だが、ちょうどいい。今からあんたに"ペルソナ使い"本来の戦い方を見せてやる。」
澪斗はスパルタクスと呼んだペルソナをシャドウに立ち向かわせる。スパルタクスは剣で切りつけると同時に雷を放ってシャドウを倒す。
「本日の業務は此処までっと。」
澪斗がスパルタクスの肩に乗って学生寮の屋上から飛び降りようとしたその時、
「ま、待って!」
後ろから先程助けた少女が呼び止める。
「何だ?」
澪斗は面倒そうに聞く。
「あなたも"ペルソナ使い"なのよね。.....なら、」
「却下。」
「ま、まだ何も言ってないわよ!」
「どうせ私達の仲間になれ。とかだろ、それなら今日の昼休みの時に断った筈だ。.....俺は群れるのが嫌いだ、だから断った。それだけだ。」
すると扉の方から誰かの声が聞こえた。
「そろそろ行くわ。じゃあまた機会があれば。」
そう言って澪斗は飛び降りた。
「ち、ちょっと!此処五階....えっ!?」
少女は飛び降りた澪斗を追いかけようと下を見下ろすがそこには誰も居なかった。
─────────────
「あぶねー。もう少しで昼休みの時の真田さん達が来るところだった。.....こっちは一人で好き勝手にやってんだ、邪魔すんなよ。」
その後、澪斗は自分が借りているアパートの一室で
そしてまた"影時間"は闇の中へと消えていく。ごく一部の人間に認知されながら......。