「ダッカー、テツオ!デカブツが北西から接近中、豪快に薙ぎ払ってくれ。ササマルは南の森からゴブリンとオークが30ほど、任せられるか?」
『おう!』『がってん!』『その程度楽勝だ!』
仲間の威勢のいい返信が通信機ごしから聞こえた後、
北西から向かってきていた巨大ミミズが飛んできた大量の剣によって荒れ果てた大地に縫い付けられる。
全長が10メートルもある巨体をくねらせて拘束から逃れようとする巨大ミミズ。
そこに身の丈よりデカい荒削りな石で出来た斧剣を持ったテツオが雄叫びを上げながら斬りつける。
テツオは腕力に物を言わせて苦しむミミズの巨体に何度も斧剣を叩きつける。
ダッカーもその後ろで空中から剣を射出し、ミミズが拘束から逃れようとするのを防ぐ。
二人共相手が巨体のため、拙い技量でも力と手数のゴリ押しで問題なく戦えているようである。
ちらりと森の方を見ると、そこでは30ほどいたゴブリンとオークがもう半数へと数を減じさせている。
ササマルは小さい体躯で片手剣を手に森の中を駆け回り、すれ違ったゴブリン達を鎧袖一触の如き一太刀で絶命させている。
死んでいくゴブリンは己が斬られたことを認識出来ていないのか、不思議な顔で倒れていく。
「流石剣の才能は俺達とは段違いだな」
そんな妙技に思わずため息が出てしまう。
木々をうまく隠れ蓑にし移動していているため、ゴブリン達はササマルが認識できていないのだろう、
仲間がいつの間にか死んでいく現状に混乱してか、右往左往しているのが上空からだとよく見えた。
あのままだとこっちより早く終わらせそうだ。
そうして俺も自分の相対する敵へと思考を戻す。
といっても、思考を並列化しているため、味方へと指示を出している間も止まること無く魔法を撃ち続けているんだが。
俺を無視し、上空から地上の味方へと攻撃をしようとする翼竜らへと魔法弾を撃ち込んで牽制する。
痛みは感じているのだろうが、それほどダメージを与えられた様子はなく、翼竜らは威嚇の声をあげながら俺の周りを旋回する。
「レイツー、ディバインシューターじゃ無理だ、ディバインバスターでぬけるか?」
「イエス、マスター、着弾時のデータから、1体あたり5秒のチャージで撃ち抜ける計算です」
手に持った杖からの返事を聞き思わずしかめっ面を作ってしまう。
今、俺の前にいる翼竜は3匹。
そいつらを地上へと行かせないように牽制しつつ、自分も食べられないように常に飛び回っている。
もしここで足を止めて5秒もチャージしようなら、食べられるか地上へと降りていってしまう。
溜めが必要なく連射の効く魔法弾"ディバインシューター"なら飛び回りながら使用可能だが、
威力の高い砲撃魔法の"ディバインバスター"だと動きを止めてチャージする必要があるのだ。
幾ら転生チートでSSS級の魔力量があっても、"レベル"の低い現状だと、高威力を出すのに時間がかかる。
"デカイタンク"に付いた"小さい蛇口"って事だ。
"レベル"が上がれば蛇口も大きくなっていくが、現状だとひたすら燃費が良いだけがメリット。
高い威力を出したければ"小さな蛇口"から魔法というバケツにチョロチョロと"魔力"を注いでいかなければいけない。
チャージ無しで高威力魔法を使用することは出来ないのだ。
「小学生で馬鹿みたいな威力を出していたリリカルなあの少女はきっと規格外の化け物だったのだろうなぁ」
思わず愚痴が溢れてしまうが、そうでも思わないと自分の才能の無さが悲しくなってくる。
もしかしたら転生チートの為、システムが本物の魔法と違うのかもしれないが、本物の魔導師にあったことがないので推論でしかない。
どちらにしろ、魔法の学者になる気はないので、使えさえすれば理屈なんてどうでもいいのではあるが。
現状問題、ここは大人しく逃げと牽制に徹して仲間の手が空くのを待つしかないか。
こうして思考を回してる間にも空中機動と牽制の魔法弾攻撃は怠らない。
本当に並列思考は便利である。
自身の戦闘と仲間の戦闘状況の把握、そして都合のいい説明が同時に出来てしまう。
はて?都合のいい説明ってなんだろう?
そんな訳で、飛行魔法と後方からの魔法攻撃が使え、戦闘中でも思考を分割できて色々考えられる俺は必然的に指揮官役をすることになっている。
原作でも俺のキャラがリーダーやってたから都合がいいと押し付けられた。
いや、原作だとリーダーはたしかに俺だが、戦闘指揮は前衛のテツオだった気が…。
だがそんなテツオは今、理性を無くして雄叫びを上げながら斧剣を振り回している。
そんなテツオをフォローするダッカーは引きつった笑みを浮かべて後方から剣を飛ばしている。
アレに巻き込まれたらミンチが一つ増えてしまうだろう。
どう考えてもあんなテツオに戦闘指揮が出来るはずもなく、しょうがなく俺が指揮をしているというわけだ。
本当に都合のいい説明的思考である。
『おーい!こちらササマル!ゴブリン共全部片付けたぞ!』
ササマルから連絡が来た。
『真下の木の上にいるから、こっちに引き寄せてくれ。そいつら纏めて落としてやるぞ』
チラッと下を見ると、確かに背の高い木の枝にササマルが立っている。
本当に楽勝だったようで元気そうにこちらへ手を振っている。
ならばと、俺は飛行魔法の速度を上げ、翼竜3体それぞれのすぐそばを通り抜ける。
そしてからかうようにすれ違いざまに魔力を籠めただけの平手打ちを翼竜の尻尾の付け根へと叩きつけて、地上のササマルめがけて落ちるように逃げて行く。
平手打ちのダメージは無いだろう。
だが叩いた際に魔力が弾ける音が大きく響いて、馬鹿にされたと感じた翼竜3体は逃げる俺を追いかけてくる。
視界の中でどんどんと大きくなっていくササマルが楽しそうに笑ってこちらへとジャンプして。
空中ですれ違う。
俺はすれ違った後もスピードを落とさないように森の中へと一目散に逃げて、そして転がるように着地して地に伏せる。
そうしないと巻き込まれるのが今までの経験から分かっていたからだ。
「鬼畜アタアアアアアアアアアアアッック!!!!」
上空からササマルの大きな声が聞こえ、
そしてそれよりも遥かにデカイ爆発音が聞こえ、爆発の衝撃波が背中を激しく叩く。
森の中に隠れていた鳥たちがギャアギャアと鳴き声を上げ逃げていく中、こんがりとローストされた翼竜が3体落ちてきた。
俺の魔法を苦にもしなかった翼竜が一撃で即死とは相変わらず馬鹿げた威力の必殺技だ。
難なく着地してきたササマルが恍惚とした笑みを浮かべながらこちらへと歩いてくる。
「また漏らしやがったのかよ」
ササマルの顔を見て、ヤツのズボンの中が今どうなっているのか察してしまった。
「いやぁ、この必殺技は体中から力を絞り出さないといけなくてさ、ついつい緩んじゃうんだよ、でもおむつを履いてるから大丈夫だ!」
困っちゃうよなぁこの必殺技はぁと頭を掻いているが、絶対わざとだ。
荒野の方からミミズを倒したテツオとダッカーが走ってくるのが見える。
もう少し待ってればダッカーの援護でチャージ時間を稼いで倒せただろう。
それはササマルも分かっていたのだろう。
だからこそ、ヤツはお漏らしができる理由を作るために、あっちが終わる前、しかも俺がよそ事を考えていた絶妙のタイミングで声をかけてきたのだ。
本当にどうしようもない変態である。
転生前のササマルはもっと真面目で努力家な好青年だったはずだ。
それが今では変態的エロスを達成するために真剣に努力する駄目人間になってしまった。
しかも俺らの中ではチート能力は一番地味だが剣の才能だけは最高だ。
剣での戦闘ならキリトさんどころか戦闘民族高町家並だろう。
遠距離戦が主体の俺とダッカー、腕力・生存性・耐久性なら桁違いだが戦闘中は理性がなくなるテツオ。
チートは凄いが性能がピーキー過ぎて、戦闘的才能は前世のままな俺ら3人。
そんな中で地味な剣での戦闘しか出来ないが、戦闘的才能はチート由来な安定性抜群の変態。
(((これもサチちゃんの幸せな未来のため)))
そう割り切りつつも、できるだけ尿をズボンの中に溜め込んだ変態から距離を取ろうとする俺ら3人。
大丈夫だよー横漏れ防止だしーと腰を振りつつ近づく変態。
触るんじゃねぇとテツオが変態をぶん殴ったけど見ないふりだ。
「取り敢えず今日の"レベル上げ"はここまでだな、もう腹減った」
そう言ってお腹を押さえて帰還を提案するダッカー。
確かにもうそろそろ帰らないと心配されるだろう。
「結構頑張ったからな、そろそろレベル上がるんじゃね」
「俺はおととい上がったばかりだから無理だろうなぁ」
「ここじゃまたゴブリンとかが来るかもしれないから帰ってから確認するか」
「んじゃ転送魔法使うから集まれー」
そう言って俺と皆は手をつないで、転送魔法を使い、
今日も無事に『地球』へと帰還するのだった。
1話あたりは短いけど、チマチマと更新していくスタイルで頑張ります!
情報もチマチマと小出ししています。
それぞれのチート能力は2話の段階でも推測は出来るかも。
【転生チートガチャの結果】
ケイタが"ウルトラレア"の最上位の大当たり
テツオが"スーパーレア"
ダッカーが"レア"
変態が"ノーマル"のハズレ扱いです