「よ! イッセー」
僕――――兵藤一誠は呼ばれた方向を向いた。
「あ、おはよう。松田君、元浜君」
今、僕にあいさつしてくれたのは松田君と元浜君。
この学校に入って初めて友達になってくれた友人。
変態なのが残念だけど。
「あ! ちょっと! イッセー君に変態二人組が
近寄らないでよ! 移るでしょ!」
『そうだそうだ!』
教室に入るや否や、女の子が変態二人組(元浜君、松田君)に
言葉の集中砲火を喰らわせた。
何故か、毎日2人が僕に近寄ってくるとこういうふうに
女の子たちに文句を言われる2人。
なんでだろ?
『それは相棒が女どもに人気だからだ』
「……ドライグ、皆の前で話しかけてこないで。怪しまれるでしょ」
僕の頭の中に突然、声が聞こえてきた。
今、語りかけてきたのはドライグ。
セイグリッドギアとかいうのに魂を封印された二天龍って
いうめちゃくちゃ強いドラゴンの片割れ。
「けっ! しっしっし! イッセーはこっちの領域なんだよ!」
「はぁ!? 違うわよ!イッセーくんはこのクラス
の共有財産よ! 皆の癒しマスコット君なのよ!」
『そうだそうだ!』
「ぐぅ! けっ! 覚えてやがれ!」
流石に女子の気迫と人数に押し負けしたのか、
2人は席に戻って卑猥なDVDをどうだとああだとか論議しあっていた。
僕が通っている学園は前まで女子高で僕たちよりも前の代から共学に
変わったから、女子と男子の生徒の数の比率は圧倒的に男子の方が低い。
だから、一クラスに男子は10人くらいしかいなくて残りの30人は
全員女の子な訳である。
「てな訳でイッセーくん! ここ教えて!」
「うん、良いよ」
『は~、癒される~』
……何故か皆、僕が笑うとこうやって言うんだ。なんなんだろうね。
「sinθの二乗+cosθの二乗=1となる」
数学の授業中、僕は聞いている様で聞いていない状態で授業を受けていた。
『相棒。授業聞かなくていいのか?』
うん、まあね。この範囲は昨日に予習済ませてるし。
『そうか…もしかしたらお前は今までの宿主の中で一番真面目君かもな』
真面目ね~…みんなよく言うけど当たり前のことをやってるだけだよ?
『当たり前のことを当たり前のようにできることが凄いんだよ』
ふ~ん……あ。
ふと、グラウンドの方を見ると綺麗な赤色の髪をした女子生徒が
体操服を着てグラウンドを走っていた。
あの人はリアス・グレモリー先輩。
字のごとく、外国の方で北欧の生まれだとか。
この学校のマドンナ的な存在で女子から絶大な人気を誇るこの学校の
本当にマドンナ。
『相棒、あいつは』
分かってるよ、悪魔なんでしょ?
そう、彼女は悪魔と呼ばれる種族に入っている。
ドライグによると天使、悪魔、堕天使っていう種族の方々がいるらしい。
悪魔というと人の魂を奪うだとかそんな怖い面があると思っていたけど
ドライグ曰く、それは僕たち人間が作ったおとぎ話の中の悪魔らしい。
でも、若干怖いのは内緒。
「ん! んん~。今日の授業も終わったよ~」
その日の放課後、僕は固まった体をほぐす様に欠伸をしながら
家へと向かって歩いていた。
『ほとんどの授業をボーっと受けていたお前が疲れるのか?』
「失敬な。キチンと聞いてるもん」
「あ、あの!」
「はい?」
突然、呼ばれて後ろを振り返るとそこにはめちゃくちゃ可愛い子がいた。
ロングの黒髪で目はパッチリしてて制服もキチンと
着こなしててもう、すんごい美人だった。
「あ、あの兵藤君だよね?」
女の子は顔を少し赤くしながら体をくねくねしていた。
「え、ええまあ」
『相棒、そいつは』
今は黙ってて!
「な、何か用かな?」
「あ、あの! 一目見たときから好きです! 付き合って下さい!」
僕はその告白を聞いて動くことができなかった。
生まれてこのかた十六年……今年で十七年! 女の子に告白されることなど
なかった僕に初めての告白!
……でも、初対面の人からの告白だからね……なんか、若干
怖いけど……こんなかわいい女の子だからいけるよね。
「よ、よろしくお願いします!」
そして翌日、初デートの日。
分かれ際に互いのメールアドレスを交換し、家に帰ってきた頃に彼女から
デートのお誘いを受けた。
だから前日の夜は必死にデートプランを立てて、その日に使うお金の予算なんかを
立てたり、ネットで僕が住んでいる地域のデートスポットを検索したりして
結局、ベッドに着いたのは夜中の1時だった。
「あ~眠れなかった」
『……相棒、だからあいつは』
「またその話? もう聞きあきたよ。夕麻ちゃんが
堕天使な訳ないじゃん。むしろ天使だよ」
『……もう何もないさ。楽しむだけ楽しめ』
そう言ってドライグは深いところに潜っていった。
……なんであんなにドライグが不機嫌になるのかが分からない。
あ、夕麻ちゃんだ!
顔をあげるとその先にある公園の入り口の前に、
夕麻ちゃんがカバンを持って立っていた。
「あ、ごめんね。待たせちゃったかな」
「ううん、今私も来たところだから」
うぅ! もう最高だー!こんなシチュエーション
マンガとかでしか会えないと思ったのに!
「ど、どうかな? 服とか」
夕麻ちゃんは半袖の上に薄い上着を羽織って、膝丈くらいの
長さのスカートをはいて、ハイヒールを履いていた。
こうして見ると僕と同い年には見えない色気が彼女から出ていた。
「う、うん。似合ってるよ」
「そ、そっか……よかった」
こうして僕は彼女という存在に酔いしれながら昨日、必死に考えたデートプランに
沿って夕麻ちゃんと一緒に生まれて初めてのデートを堪能した。
途中、何回も手が触れたりして気絶しそうになったけど。
「どうだった? 夕麻ちゃん」
「うん! 楽しかったよ」
もう既に空は茜色に染まりサラリーマンの人たちがちらほらと見えていた。
お仕事お疲れ様です!
「ねえ、イッセーくん」
すると夕麻ちゃんは公園に入ると僕に可愛い声で話しかけてきた。
「ん? 何かな」
「一つお願いしても良い?」
「うん! 良いよ!」
も、もしかしてキ、キスしてとか!? や、やばい! 口臭大丈夫かな!?
「そう……なら死んで?」
『避けろ相棒!』
ドライグの怒鳴り声を聞き、反射的に一歩下がった瞬間、僕の目の前を
白く輝く何かが通り過ぎていき、前髪が数本、落ちていった。
……夕麻ちゃん?
目の前にいる彼女はさっきまでデートしていた彼女とは容姿が変わっていた。
背中には真っ黒な翼を生やし手には光り輝いている槍があった。
「あら、よくあれを避けたわね」
「な、なんで? 何で夕麻ちゃんが堕天使なの?」
「あら、知ってたの? ま、もう関係ないか」
夕麻ちゃんは僕に槍を向けると体が言うことを聞かず、そのまま
地面に力なくへたり込んでしまった。
夕麻ちゃんはそんな僕を蔑むような眼でジッと見てくる。
『相棒……なぜ逃げる』
な、何故ってあんなのに勝てっこないじゃん!
それにあの子は夕麻ちゃんなんだ! 話し合えばきっと!
『いつまでお前は妄想しているつもりだ!』
ドライグの怒鳴り声を聞き、僕は思わず肩を大きくビクつかせた。
『もう奴はお前の知っている人間じゃない! 堕天使だ!』
じゃあ! どうすれば良いの!? 僕はただの弱い人間!
向こうは堕天使だよ!? 勝てる筈ないじゃん!
『勝てるさ。俺を使え。何を恐れる必要があるんだ?
相手は一人、お前も一人。強く願え、力が欲しいと』
「……い」
「何? 遺言? 残念だけどそんな物は聞かないのよ!」
「力が欲しい!」
すると突然、僕の左腕が赤く輝きだして夕麻ちゃんの投げてきた槍が消滅した。
余りの眩しさに目を瞑っていると、輝きが徐々に消えていくのがわかり、
目をゆっくりと開けると腕には赤色の籠手が装着されていた。
「す、凄い」
『それがお前の力、赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)だ。存分にやれ』
「な~んだ。危険因子だって聞いたから強力なものかと思えば、
ありきたりなセイグリッドギアじゃない」
これが僕のセイグリッドギア…………で、でもこれでどうやって相手と
闘えばいいんだろ。相手は遠距離からの攻撃だってできるのに……籠手じゃ
近くに寄らないと攻撃できないよ。
『Boost!』
宝玉からそんな音声が聞こえてくると、僕の中で何かがドクンと
音をたてて膨れ上がっていくような感じがした。
え!? な、何が起きたの!?
「さっさと死になさい!」
夕麻ちゃんはまた槍を投げてくるけど何故か、さっきはギリギリ
見えたくらいだったのに今は遅いくらいに感じられた。
「ごめん!」
「きゃ!」
僕は姿勢を低くして槍をかわすとその勢いのまま、
夕麻ちゃんにタックルをかまして吹き飛ばした。
「や、止めてイッセーくん!」
「っ!」
その声を聞いた瞬間、僕の全身が丸で金縛りにあったかのように
動かなくなってしまった。
今、目の前にいるのは僕の初めての恋人……できないよ。僕にはどうしても。
「ふふ、バーカ」
「がっ!」
『相棒!』
僕が腕を下ろした瞬間、腹部に激痛が走り、背中から地面に落ちた。
ゆっくりと手を痛みがある場所に持っていくとともに視線を向けると
光の槍が僕のお腹を貫き、地面に鮮血を撒き散らした。
「よく覚えておくといいわ。女は騙すならトコトン騙すのよ。じゃあね」
そう言って夕麻ちゃんは翼を広げ、どこかへと飛び去った。
「げほげほ! ……はは、あ、かい……な」
『しっかりしろ! 意識をしっかり保て!』
ドライグの慌てたような声が耳に入ってくるけどその声もだんだん小さくなってきた。
こんな所で死ぬのか~……まだ、母さんにも父さんにも孝行してないのにな~。
「ドライグ……今まであり……がとね。こんな僕の話し……相手に……なってくれて」
『馬鹿野郎! そんな今際のときみたいな事を言うな!
待ってろ! 今俺が辺りに悪魔がいないか』
「い、いよ。ドライ……グ、次の宿主さ……んとも仲良……くね」
『相棒!』
あ~だんだん瞼が落ちていく……生きたかったな~。いっぱいしたい事あったのに。
「……死にたくない」
「貴方ね、呼んだのは」
薄れゆく意識のはしに一瞬だけ誰かの声が聞こえてきた。
どうも~