『相棒』
ドラ……イグ? ……ここは。
『ここは相棒の精神世界。言うならば俺が住んでいる空間だ』
そっか……僕は負けちゃったんだね。
オーフィスに鍛錬してもらったのに最後は呆気なく自滅……
ハハ……何が部長は渡さないだ……結局、僕はただ単に
無様に負けて部長をがっかりさせただけじゃないか。
『……違うな』
どういう意味?
『お前はフェニックスの卷族を三人も自らの力で打倒し、
さらに撃破にも貢献した。お前はよくやった……ただ、
自分がやらなければならないという大きな不安のために魔力が
逆流して籠手から一気に膨大な量の魔力が解放された。それだけだ』
大きい不安……はぁ。やっぱり、僕は精神的にも弱いんだね。
『この現象はお前に限ったものじゃないと思う。メンタルが弱い面は
前々から分かっていたこと……俺がお前を抑えてやれなかったのが原因だ』
違うよ。ドライグは何も悪くない……僕のメンタルが弱すぎたんだ。
「ケホッ……あれ?」
ドライグが話している途中で僕は現実に意識が戻り、
完全に意識を覚ました。
ここは……僕の部屋か。
「お目覚めですか?」
隣りから声が聞こえ、眼だけ動かして見てみるとそこには
メイド服を着たグレイフィアさんが正座していた。
「僕たちは……負けたんですよね?」
グレイフィアさんは僕の質問に何も言わずに首を縦に振った。
そっか……ということは今頃、部長は結婚式の真っ最中ってことだ。
「イツツツツ」
僕は痛む体をどうにかして動かしながらベッドから起き上がった。
魔力を一気に開放したせいなのか体中のあちこちが筋肉痛のようなものが
起きていて少しでも動くたびに痛みが走る。
部長…………。
僕はグレイフィアさんに頭を下げた。
「お願いです。僕を……僕を部長がいる場所まで
連れて行ってくれませんか?」
「……どうしてでしょうか」
「……部長を助けるためです」
僕はグレイフィアさんの目をジッと見ながらそう言うと、
グレイフィアさんは最初は目を見開いて驚いていたけど、
すぐに冷静な表情に変わった。
「仮にお嬢様を助けに行ったとしても何もできません。
運よくお嬢様を助けられたとしても貴方は全ての悪魔に
喧嘩を売るということになるのですよ。それでも良いのですか?」
……確かに、この結婚は純潔悪魔同士のもので生まれる子供も
純潔の悪魔……数が減っている純潔がさらに増えるということになる。
もしも、ただの転性悪魔の僕が結婚を潰せば全ての悪魔から
敵意を向けられるだろうね……。想像しただけでも気弱な僕の身体は
大きく震えてしまうくらいに恐い……でも……でも、やらなきゃいけないことの前では
恐怖心を抑えなきゃいけないこともあるんだ!
「それでも僕は行きます。全ての悪魔に喧嘩を売ってでも
僕は部長を助けます。その後のことはまたその時に考えます」
そう言うとグレイフィアさんはポケットから一枚の紙を
取り出して僕に渡してきた。
その紙をよく見てみると表と裏に魔法陣が描かれていた。
「それを使えば会場まで行くことができます」
「感謝します……アーシアさん」
彼女の名前を呼んでみるとガチャッと控え目に開けられた
ドアからアーシアさんが部屋に入ってきた。
その表情は既に覚悟を決めたものだった。
「行こうか」
僕はアーシアさんとともに魔法陣を使い、会場にまで転移した。
「ひぇ~。やっぱり、壮大だね~」
僕は今、アーシアさんに傷を癒してもらいながら
大きなドアの前に立っていた。
今は音楽隊の演奏でも行われているのか綺麗なメロディが
ドアの向こうから聞こえてくる。
「アーシアさん。ありがと」
「はい……あ、あのこれを」
アーシアさんはおずおずと僕に十字架のついたネックレスと
小さな瓶に入った液体を渡してきた。
「も、もしも戦うときはそれを使って下さい。ネックレスと聖水です。
グレイフィアさんにお願いして今は聖なるオーラを抑えています。
そっか……悪魔は聖なるものが弱点……つまり、もしも
闘うことになったらこれで応戦すればいいんだ!
『相棒。聖水ならともかく、十字架はそのままでは使えんぞ』
え、そうなの!? じゃあどうやったら……。
『その腕を悪魔以外のものにする……だが、それはあくまで最終手段だ。
気づいていないとは思うがお前はバランスブレイクの域に達している』
セイグリッドギアの最終戦闘術……それがバランスブレイク。
世界のバランスをも壊しかねないもの……それが今の僕が使えるっていうの?
『ああ。オーフィスと戦ったことでセイグリッドギア自体が刺激を受けたのか、
それともお前の才能なのかは分からない。だが、お前は圧倒的な力を手に入れる』
どうして、一回目のゲームのときにそれを教えてくれなかったのさ。
『ライザーとの戦いのときに教えるはずだったんだがな……だが、
発動したとしてもまだ、未完成のバランスブレイクだ。使い勝手が
分からないだろう……そのまま戦い続け、俺が使うと判断した時は……
お前の腕を貰い、力を底上げする』
「……分かった」
僕は聖水とネックレスをポケットに突っ込み、
セイグリッドギアを発動して、倍加を始めた。
「ねえ、アーシアさん。こんな時は派手に行った方がいいよね?」
「え、えっと……注意を引くにはそうするしか」
「だね。離れてて」
僕はアーシアさんに離れてもらうように頼んで、安全圏まで
離れたのを確認して籠手の先に魔力を集め始めた。
「え、えっと誰も吹っ飛ぶドアにあたりませんように! たぁ!」
『Explision!』
魔力が爆発を起こし、巨大な魔力弾が放たれて、大きな扉を
木っ端微塵にしながら、破壊した。
ドアがなくなり、突然のことに驚いている参加者達の
目線が全て僕に注がれた。
っっ! あ、後ずさったらダメだ!
僕は足を強く殴って一歩ずつ前に進んでいく。
一番奥にはウェディングドレスを着た部長とタキシード姿の
ライザーさんが驚いた表情でこちらを見ていた。
「ど、どうも。ぶ、部長を取り返しに来ました!」
コツコツと歩く音を会場に響かせ、若干声を上ずらせながら
徐々に二人のもとへと近づくと目の前に騎士が数人、現れた。
「そこまでだ!」
「ごめんなさい!」
――――――ドゴォ!
「ガッ!」
一言、謝罪を入れてから僕は相手が動き出すよりも早くに
相手の腹部に肘を入れると鎧が砕け、騎士さんは倒れた。
あぁぁぁ! 後で怒られないかな!? 怒られるよね!?
『まあ、その時は誠心誠意謝れ』
「てめえ」
ライザーさんはひどく怒った表情を浮かべ、僕を睨みつけてくる。
「部長を返し」
「そこまでだ」
突然の声に振り向くと、そこには部長と同じ紅色の髪を
もった男性が立っていた。
……な、なんだろ。この人からすさまじい何かを感じる。
「え、えっと貴方は」
「サーゼクス・ルシファー。魔王をやらせてもらっているよ」
「……ま、魔王様!?」
ま、まさか結婚式に魔王様が出席されているなんて……もしかして、
僕は魔王様に今ここで血祭りにあげられるんじゃ……。
「君はリアスを取り返しに来たんだね?」
「は、はい!」
「そうだね……君の戦いぶりは見ていたよ。先日のゲームも
かなり面白かった……でも、少し君たちが不利だった」
「魔王様。それはゲームが不服だったというのですか?」
ライザーさんは少々、不満げなようで魔王様にそう言うと
魔王様はニコニコと笑みを浮かべた。
「いやいや、そういう訳ではないよ。ただね、リアス達は
まだ若い。それにイッセー君は転生したてで魔力の扱いも分からない状態で
ゲームに臨んだ。それに対してライザー君は既に成熟し、何度か
ゲームを経験しているからね」
「サーゼクス。お前は結局、何がしたいのだ」
男性の野太い声が聞こえ、そっちに視線をやると
そこにも部長と同じ紅色の髪を持った男性がゴージャスな
装飾なんかを施した服を着て座っていた。
……魔王様を呼び捨てたってことは……もしかして、
この人は魔王様のご両親……つまり、部長は
魔王様の妹さん? ……なんか凄いな。
「お父様。私は彼とライザー君を戦わせたいのです。
リアスをかけて、フェニックスと伝説の龍が戦う。
これ以上の式が盛り上がるものはありません」
すると、魔王様のお父様は目を閉じ、何秒か考えて、
答えを出したのか目を開けた。
「好きにしなさい」
その一言に周りは少し、騒がしくなったけどまた静かになった。
「お許しも出たことだし、ライザー君と兵藤君。
是非、リアスをかけて戦ってくれたまえ。あ、そうだ。
兵藤君、君が勝てば何が欲しい?」
……つまり、それは契約ってことですか。
「何も。強いて言えば僕が勝てばリアス様を返していただき、
僕が負ければ……な、なんでもします!」
その一言に魔王様は苦笑いを浮かべて驚かれたけど、
一番驚いていたのは部長だった。
な、なんか言い方がおかしかったかな?
「わかった。では君が勝てば、リアスを。負ければ……
君の命をもらうことにしよう」
い、命!? ……こ、怖くて震えてきそうだけど勝てばいいんだ!
余裕のテストを受ける前の自信を持つんだ!
「わ、わかりました!」
そう言うと、魔王様は一瞬だけ笑みを浮かべて会場から出て行った。
その後、急遽、式はいったん中止となり正式に僕と
ライザーさんが闘うことが決まった。
こんにちは