翌日の朝、朝食を終えた僕たちは地下の大広間に来ていた。
理由が理由なので学校には僕たちの姿を模した使い悪さんに行ってもらっている。
すると部屋のドアが開かれて、小言を呟いている先生が大広間に入ってきた。
「オーディンの爺さんからの贈り物だ。たっくあの爺!
本当に隠し持ってやがった! ミョルニルのレプリカ」
隣にいるロスヴェイセさんが持ってきたのは日曜大工なんかで使うハンマーの様なものだった。
……これがあの雷神トールが持っていたって言うハンマー?
「これをオーディン様は赤龍帝様にお貸しになられるそうです」
ロスヴェイセさんが言ったことに僕は内心、疑問を抱いていた。
今の僕はバランスブレイクが使えず、しかもいつ覇龍が発動するか分からない
不安定な状態。ミョルニルのレプリカを木場君や魔力の扱いに長けている
部長や朱乃さんに渡すなら分かるけど。
「ひとまず持ってみろ」
僕はロスヴェイセさんからハンマーを受け取るけど、
見た目と同じように重さも普通のハンマーだった。
「オーラを流してみてください」
「あ、はい」
試しにオーラを流してみるけど……あり? 何も起きないけど。
「馬鹿か、倍加させてからもて」
「あ、そっか」
僕は先生の言うとおり籠手を呼び出し倍加させてからオーラを流してみると
ハンマーが光り輝いてめちゃくちゃ大きなものになった。
……でも、見た目の割には軽い。いや、軽すぎる。
小さなボールを持っている感じだ。
「か、軽いですね」
「まあお前は純粋で馬鹿だから羽根みたいに軽いんだよ」
「むぅ! 馬鹿って言うなぁぁ!」
僕の叫びに呼応するかのようにハンマーからバチバチ! と電流が放出され、
ハンマーにものすごいプレッシャーが集まっていくのが感じられた。
「バ、バカ! ひとまず落ち着け!」
「え、あ、はい」
先生に結構なマジの声の大きさで怒鳴られてしまった。
そんなに強いものなのかな?
「危うく家ごとぶっ飛ぶととこだったぜ……ひとまず作戦の確認だ。
ロキ達が現れたらシトリー卷属で別の場所へ移す。
場所は今は使われていない採掘現場だ。滅多なことでは壊れないから存分に暴れろ。
ロキに対してはヴァーリとミョルニルを持ったイッセー。後の奴らはスレイブニルで
縛ったフェンリルをぶっ倒す。単純明快だろ?それと……匙」
「はい?」
「お前は俺と来い。ちょこっと改造してやる」
先生の表情は何かマッドなものを感じさせる笑みだった。
「匙君。その人が言うこと以上に君はつらいものを
見ると思うけど僕たちはずっと友達だ!」
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇ! それどういう意味ぃぃぃ!?」
僕の忠告に泣き叫ぶ匙君だけど先生は彼の首根っこを掴んで転移用魔法陣を床に展開した。
「いやぁぁぁぁぁ! 会長助けてぇぇぇぇぇぇ!」
助けを求められた会長だけど、会長さんは笑みを浮かべて手を振っていた。
それを見た匙君はこの世の終わりみたいな顔をして先生と一緒にバビュンと転移した。
僕は合掌した。
匙君と先生が転移してからは各自、寛いでいた。
「ドライグ、アルビオンとは話さなくていいの?」
『別に話すことはないさ、なあ白いの』
腕に勝手に籠手が現れ皆にも、聞こえるようにドライグがアルビオンに話しかけた。
ドライグとアルビオンの話に皆、興味があるのか聞き入っていた。
『私のライバルに仮面の戦士などという奴はいない』
『ま、待ってくれ! それはこいつが言われてるだけであって!』
『黙れ、それにア、アイスクリームで覇龍を解いたというではないか。
ひどい有様で泣きたいぐらいだよ……赤いの』
既にアルビオンの声は若干上ずっていた。
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉん! 俺だって! 俺だって!
泣きたいんだぁぁぁぁぁ!元からこいつは少し
子供っぽいとは思っていた! でもこれはないだろうがよぉぉぉぉ!』
ドライグは突然、大泣きを始めてしまった。
『いつもいつも戦いで特撮のまねをしてはしゃぐし! 晩御飯の後は
いつもアイスクリームを食べる! しかも前よりも量が増えたんだ!
お前に俺の気持ちが分かるのか!? 白いの!』
『ぐす! 二天龍と呼ばれた私たちも堕ちたものだ。ひっく!
テレビで宿敵を模した番組を見た私の気持ちもわかるか!?』
『しかも初回だけ本人が出たんだぞ!』
『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!』』
そんな感じで2人が同時に大声をあげて泣き出した。
「そう言えばテレビを見てる時もずっとすすり泣いていたな」
あの伝説の二天龍を泣かした僕ってある意味最強?
「兵藤一誠、こういう場合の慰め方はどうするんだ?」
「えっと………そのまま泣かしときなよ」
ドラゴンの慰め方なんて知らないよ!
そんな訳でトントンと時間は過ぎていき決戦の時刻となった。
「赤龍帝」
「なに?」
「今回の戦いでバランスブレイクが使えない状態でどこまでやるのかを見せてくれ」
「……まあ、見てなよ」
そんな風にヴァーリに言い返した直後だった。
目の前の空間から不快音が鳴り響き始め、真正面からあいつらは来た。
「作戦開始だ」
ホテルの周囲を覆うように巨大な魔法陣が展開されていき、
今回の戦いの舞台となる使われていない場所へと一瞬で転移した。
「ふははははは! これはこれは! まさか二天龍がこの俺を
倒すために2人とも現れてくれるとわな」
空間の歪みからロキとフェンリルがその姿を現した。
フェンリルが一歩、歩を進めた瞬間、部長が手を挙げた。
「にゃん♪」
その瞬間、地面から数個の魔法陣が現れそこから鎖が出てきてフェンリルを縛った。
「流石部長です!」
「行くぞ、赤龍帝」
『Vanishinng dragon Blance braeker!』
ヴァーリはバランスブレイクを発動させ真っ白な鎧を身にまとっていく。
『壊せ! 目の前の物を壊せ!』
ヴァーリの白い鎧を見た瞬間、歴代所有者の声が頭に響いてきた。
「ふん!」
僕は一発、気合いを入れる意味も込めて自分の頭を殴りつけて目の前の標的に目をやった。
「行くぞ」
「ああ!」
僕たちはロキに向かって突貫していった。
「あはははははははは! みるが良い!」
空間がゆがみ灰色の体毛に長く鋭い爪を持った二頭の獣が現れた。
「そいつの名はスコルとハティだ。フェンリルの子だ。さあやれ! スコルとハティよ!」
ロキの周りから魔法陣が発動し魔術の光が幾重にも重なり帯となって僕たちに向かってきた。
僕は横に、ヴァーリは上に向かって飛んで距離を取り、僕は腰にあるミョルニルを取り出した。
「退いてろ赤龍帝」
「で、でかぁぁ!」
上から声がして、見上げるとヴァーリの籠手から巨大な魔力弾が出ており、
さらに見慣れない術式も展開されていた。
「喰らえ」
凄まじい爆音とともに地面に大きな穴があき、爆煙が辺りに立ち込めた。
あの大きさの物を直撃したんだ! 無事じゃすんでないはず!
「ふははははははははは! 流石は白龍皇だ!」
しかし、僕の予想を裏切ってロキは無傷で立ち上がった。
『Boost!』
「行くぞぉ!」
僕は高速で移動してミョルニルでロキに殴りかかるけど簡単に避けられてしまった。
「どうした赤龍帝! バランスブレイクしないのか?」
「うるさい! 喰らえ!」
僕の籠手から先程のヴァーリ程ではないけど、
それなりの大きさの魔力弾がロキに向けて放った。
「こんなもの」
しかし、ロキはそれをまるでハエか何かをはじくように
軽い動作で、しかも片手で軌道をヴァーリの方に変えた。
やっぱり、バランスブレイクしない状態の魔力弾じゃ傷を与えるどころか
相手に直撃しないか!
『Divid! Divid! Divid! Divid!』
ヴァーリは籠手の力で僕が放った魔力弾から魔力を半分ずつ吸収し、
僕の放ったものを優に超える大きさの魔力弾を生成した。
ロキもあれを喰らえば!
――――――刹那。
「がっ!」
魔力弾を放とうとしているヴァーリを
部長達が鎖で拘束していたフェンリルが後ろからその鋭い牙でヴァーリを貫いていた。
「ヴァーリィィィィィィィィィィィ!」
僕は高速で移動してヴァーリを助けようとフェンリルを殴り飛ばそうとする。
フェンリルは僕のことなど敵として認識していないのか、全く違う方向を
見て、のんびりとしていた。
「なめるなぁぁぁぁぁぁ!」
『Boost!』
倍加とともに魔力が膨れ上がり、籠手に倍加した分の魔力全てが
集められ、赤色に輝く。
「くら」
僕がフェンリルを殴り飛ばそうとした直後、フッとフェンリルの姿が消えた。
「き、きえ」
―――――刹那、腹部に激痛が走り、僕の視界に赤い血が飛び散っているのが映った。
「ぐぁっ!」
鎧も何も纏っていない生身の身体がフェンリルの鋭利な詰めに抉られ、悲鳴を上げた。
血がダラダラと流れ出てくる腹部を抑え、地面に膝をついた。
「はっ……はっ」
さらに、追い打ちをかけようと牙でヴァーリを
突き刺したまま、フェンリルはこちらに向かってくる。
「そやつはやらせんぞ!」
タンニーンさんが巨大な火球を口からフェンリルに向かって吐きだした。
す、凄い熱量と大きさだ! これなら!
『オォォォォォッォォォォォォン!』
しかし、フェンリルの遠吠えが空間ごと
タンニーンさんの大きな火球を揺らし炎をかき消した。
そして、またフェンリルの姿が消えた。
「おぉぉぉ!」
タンニーンさんの悲痛な叫びが聞こえ、そっちを向くとフェンリルの爪で抉られた
個所から真っ赤な血が大量に噴き出していた。
そ、そんな……タンニーンさんが手も足もでないなんて。
「ついでだ。こいつらも相手してやってくれ」
突然、ロキの影が伸びて、そこから何体もの体が長ぼそいドラゴンが出てきた。
しかもかなりの大きさだ!
「ミドガルズオルムまで量産していたのか!」
タンニーンさんが憎々しげに吐いた。
『オオォォォォン!』
量産されたミドガルズオルムの巨大な足が僕に向かってくる!
「に、にげ」
『破壊しろ』
逃げようとした直後に頭に頭痛とともにこれまでの宿主の怨念にも似た
声が響き、思わず足を止めてしまった。
「イッセー!」
「ぁぁぁああぁぁぁ!」
凄まじい重さの足が僕を押しつぶし、全身の骨が一瞬にして折れたのが分かった。
「許さんぞ貴様ら!」
タンニーンさんは激昂し、めちゃくちゃ大きい火球を出して数体まとめて
吹き飛ばしてくれたお陰で追撃はなかったけどもう全身がボロボロだ。
もう……全身の感覚がない……。
アーシアさんも他のメンバーの回復に割かれているのと、
量産型のミドガルズオルムに阻まれて僕の所にまでこれなかった。
皆、必死に戦ってるのに僕だけが地面に横たわって休憩していた。
『相棒! しっかりしろ!』
ごめんね…ドライグ……体が……。
僕はそのまま意識を落とした。
『Juggernaut Draive!』
戦場が地獄へと変わる。
こんばんわ