『Reset』
籠手からの音声が鳴り響き、あれほどあった魔力が一瞬にして消え失せた。
「ハァ……ハァ……アーシアさん」
僕は涙を流しながらもう二度と動かないアーシアさんの頭を撫でていた。
僕が……僕がもっと勇気がれば……もっと強かったらアーシアさんは
こんな目に合わなかったのに……。
「やあ、イッセーくん。お疲……どうかしたの?」
「別に何もないよ。木場君」
僕は泣いているのを気づかれないように空元気を出して笑顔を作った。
「それでなんでイッセーはここにいるのかしら?」
教会の中から部長と朱乃先輩の2人が出てきた。
「……」
何も言えないでいる僕に救いの手を差し伸べてくれたのが小猫ちゃんだった。
僕が吹き飛ばしたレイナーレをズルズルと
向こうから荷物を持ってくる感じに引きずってきた。
「……持って来ました部長」
「でも、凄いですわ。堕天使を倒すだなんて」
姫島先輩がこの暗い雰囲気を明るくしようとしたのか僕を褒めてくれた。
「い、いや。ドライグがいてくれたお陰で勝てので。いなかったら
僕なんかあっという間に瞬殺されてますよ」
「ふふ、謙遜は時には相手を怒らせる時もありますから気を付けてくださいね?」
「は、はいぃぃぃ!」
その明るい雰囲気は一瞬にして消え失せ、姫島先輩の笑っているんだけど
怒っている微笑みの前に僕は屈した。
「話はそこまでにして朱乃」
「はい♪」
朱乃さんは魔力で水を作ると顔にビシャっとかけた。
結構古典的な起こし方なんだね。
「げほ! げほ!」
「お目覚めはいかがかしら? 堕天使レイナーレ」
「……その髪、グレモリーのものか」
「ええ、そうよ。貴方には消えてもらうわ、
堕天使さん。貴方が持っている神器を回収してだけど」
「冗談じゃないわ! この力はシェムハザ様とアザゼル様に!」
部長の言葉にレイナーレは表情を鬼のような形相に歪めて、怒鳴り散らした。
「愛のために生きるのもまた素晴らしいわ。でもあなたはあまりに汚れている」
グレモリー先輩は手をレイナーレに向けると
すると徐々に手に魔力が集まっていき紅色の魔力が集まってきた。
「助けてイッセーくん!」
「っ!」
突然、レイナーレ……ではなく、夕麻ちゃんの声が聞こえてきた。
「この悪魔が私を殺そうとしているの! 貴方のその力が
あればこんな悪魔簡単に倒せるわ! ねえ! 私はあなたのことが好きなの!」
な、なんで。なんで今になって夕麻ちゃんにもどるんだよ!
せっかく振り切れそうだったのに!
「黙りなさい。私の可愛い下僕に話しかけないで」
部長が冷たく言い放ち魔力を放とうとした瞬間――――。
「ま、待って下さい!」
僕は部長の前に立った。
僕は……やっぱり放っておけないよ。
「イ、イッセーくん」
「イッセー!? 何で止めるの!」
部長は僕の行動に驚きを隠せないでいた。
「待って下さい!少し時間を」
「貴方だけでも殺しておくわ」
え? なんで僕の胸に光の槍が貫通してるの?
なんで皆泣きそうな顔してるの?
なんで僕はこんなにも痛いの?ねえ、なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
………なんで夕麻ちゃんの腕は真っ赤に染まってるの?
それを最後に僕の意識は途絶えた。
「イッセーくん!」
僕が堕天使の光の槍をセイグリッドギアで作った魔剣で
光の槍を消失させると、堕天使はすぐに部長の消滅の魔力を受けて消え去った。
でも、イッセーくんの怪我が消える訳でもなくただただ血が出ていた。
「朱乃、アーシアを悪魔に転生させて下僕にするわ。その間までの時間を稼いでおいて!」
「はい! 分かりましたわ!」
暗い、暗い、暗い。僕はそんな空間にいた。
フワフワと浮遊感が感じられる。
そして目を開けるとそこには椅子に座った何人かの人物がいた。
その大多数は男の人なんだけどそのなかに一人だけ女の人がいた。
「あ、あの貴方達は」
『こいつらは俺のもと所有者、つまりお前の先輩だ』
「うぉ! 君、そんなに大きかったの!?」
隣にはかなり大きな体をしているドライグの姿があった。
「弱い」
「え?」
急に声が聞こえたかと思うと次々に声が上がっていった。
「弱い」
「弱い」
「弱い」
全員が口をそろえて僕に向かって弱いと言ってくる。
「今回の赤と白の対決はもう既に決まったようだ。白の圧倒的な勝ちだ」
「し、白? ……あ! えっとあの白龍皇でしたっけ?」
「貴様と話す価値もない」
そう言って一人、また一人と消えていく。
でも、最後、女の人だけは消えなかった。
その人は静かに立ち上がると僕の傍にきて頬に手をあてた。
「確かに魔力の量は赤ん坊クラスね」
「うぅ、何も言い返せません」
「でも、魔力の質は歴代最高よ」
女性は優しい笑みを浮かべて僕にそう言ってくる。
「魔力の……質ですか?」
『エルシャもそう思うか』
「ええ、この子の魔力は言うならば点火剤、Boostという火で
爆発的に燃え広がり、そのキャパシティは天井知らずよ。
私も見てたけどたった数回のBoostであそこまで
魔力が増大するとは思えない」
『キャパ知らずか……相棒が欲を持たないのが功を奏したのか』
「どういう意味?」
「私が説明してあげるわ。悪魔の持つ魔力はどれだけ多く持っていても
その悪魔個人の許容量を超えればお終いよ。まあ、一つの箱だと思っていいわ。
この箱には魔力の他にも欲望、感情なんかがいっぱい入ってるの。箱以上の
物を入れれば箱から溢れ出す。でも、君は欲がないお陰で他人よりも最初の
箱の大きさがはるかに大きい。ちょっとやそっとの量の魔力じゃ満たされない」
「……え、えっとつまり」
『つまりだ。相棒は弱くないという事だ』
「で、でも僕アーシアさんを護れなかった」
今でも涙があふれ出てくる。
でも、エルシャさんがその長くてきれいな細い指で僕の涙を拭ってくれた。
「駄目じゃない。男の子が泣いちゃ。男の子は女の子を護らなきゃ」
「でも、僕に護れる力なんて」
『あるさ。俺という力がある』
「ドライグ……」
「周りなんて関係ないわ。貴方は貴方の速さとやり方で強くなっていきなさい。
どんなに惨めでも構わない。心を強く持ちなさい」
「エルシャさん……はい! 僕頑張ります!」
「はぁう!」
僕がエルシャさんに笑いかけるとなんでだかエルシャさんが
胸を押さえて顔を少し赤くしていた。
「あ、あのエルシャさん?」
「だ、大丈夫よ。ほら戻りなさい」
「はい!」
こうして僕は元の世界へと帰っていった。
「ドライグ……あの子は一体何なの!?
この胸キュンは何!? あの子の笑顔は癒し製造機なの!?」
『………女の気持は分からん』
こんな会話があったなんて僕は知る由もない。
「……ここは」
目が覚めるとそこはいつもの見慣れた天井だった。
まあ、つまり僕の部屋である。
「あ、おはようございます! イッセーさん!」
「ああ、おはよう。アーシアさ……えぇぇぇぇ!?」
ちょ! ちょ! ちょ! ちょっと待って!なんでアーシアさんが!?
あの時にセイグリッドギアを抜かれて、それで。
「ふふ、実は私も悪魔に転生しました♪」
彼女がそう言うと背中に2対の黒い翼が生えた。
つまり……僕と同じ下僕?
ひと先ず僕は下に行った。
そうしたらいきなり満面の笑みの母さんに抱きつかれた。
「もう! イッセーたら! こんな可愛い子をホームステイ
で連れてくるなんて! お母さん嬉しいわ!」
はい? 何の事?
母さんの言っていることに理解が追いつかない僕を見てか、
アーシアさんが僕に耳打ちしてきた。
「実は私この家に住まわせてもらうことになりました。名目上は
ホームステイという事になっています」
あ、そう……なんだかもう色々あり過ぎて理解が追いつけないよ。
とりあえず、僕は用意されている朝食を食べることにした。
こんばんわ~