無個性で普通の俺と魔獣母胎で病んでる彼女   作:鏡狼 嵐星

11 / 26
今回、視点が分かりにくいとの意見をいただいたので、後半は三人称視点で書きました。どちらがいいか感想お願いします。
説明不足目立ちますが、起源弾はオーバーホールの完成品の弾だと思ってください。感想ください。
オールフォーワン編が終わった後、何を書くか迷っているので、活動報告でいくつか例を挙げるのでどれがいいか選んでください。今後にかかわってくるので重要です。




魔獣再臨

「回帰母少女っ、くっ!?」

 

巨大な黒い間欠泉。そうとしか表現できないような勢いで、黒泥があたり一帯に広がっていく。北水少年に弾丸が着弾したらしく、彼女から黒泥が止まらない。一体どうするべきなんだ、この状況で!?

 

「英雄、お前はこちらだ」

 

後ろから引っ張られる!? 引っ張っているのは銀髪の男、確か回帰母少女の知性魔獣の一人のはずだが、彼は何を。

 

「老骨に対して、いきなり首を引っ張んな。首がいてえ」

 

「ん? それはすまんな。ただ、その泥には触れるべきではないからな。我が父の命令により、無事な場所に連れてきただけだ」

 

お師匠様まで連れてこられている。それにベストジーニストもここに。

外の光景はまさに黒い海だ。まるで大河のように黒い泥が周りを流れていっている。現実とは到底思えない光景だ。

 

「まさか、我が父が凶弾に倒れることになるとは。想像だにしていなかった。我が父が想定していた、最悪の事態そのままが実現してしまうとは……」

 

「すまない、名前も知らない青年よっ! 私はオールフォーワンを倒さねばっ!」

 

どんな状況であれ、あの男を倒さなければいけない。それは平和の象徴としての私の使命なのだから。

 

「その必要はありませんよ、オールマイト。彼らが踏んだのは獅子の尾でも、蛇の尾でも、羊の尾でもありません。竜の逆鱗を思いっきり蹴飛ばしたくらいなことをしています。生きて帰れません」

 

いきなり泥の中から這い上がるように現れたそれに、私は呆けてしまった。

そこにいたのは光る羊だった。単純な顔をした光る羊が目の前で私に向かって話しているのだ。流石の私も面食らう。

 

「よっこいしょ。黒泥から出るのも一苦労ですね。あ、どうも、皆さんご存知、魔獣の軍師ことドゥムジさんです。最後のアクセントはGではなくZですので気をつけてください」

 

「……はっ!いや、オールフォーワンはそう簡単に勝てる相手では」

 

「イヴァンを含め、本気状態かつ強者用の知性魔獣三体がかりのようですから、問題ないですよ。彼は個性を受け渡しができるそうですが、無限を持ったところで究極の一には敵わないんですから大丈夫です。ボロボロで引きずられてきますよ」

 

ドゥムジと名乗った羊は、ため息をつくような動作をしている。イヴァンという名前はUSJの時に敵と間違えてしまった魔獣のことだ。彼の攻撃を私は微かにしか見ていない。晴天に落ちた巨大な落雷。その本気、か。私よりも強力そうで、自分自身が不甲斐ない。

 

「ドゥムジ、お前が出てきたということは……」

 

「はい。十中八九、柊さんは生きているでしょう。私、彼の危機に起きる魔獣ですが、死んでたら起動しません。それに関しては安堵しています」

 

「っ、北水少年は無事なのか!?」

 

「ええ、あの中でですが」

 

彼?は、左前脚で指を指すように、一際目立つ黒泥を指し示す。そこは先ほどまで回帰母少女たちがいた場所。黒泥が湧き出し、その塊は徐々に巨大化しているのがよくわかる。

 

「ふむ、増殖速度からして、魔獣放出まで猶予は30分もありませんね。さて、ヒーローの皆さん、魔獣である私から一つ提案がございます。柊さんとティアさんを救い出して、敵を全員捕まえて、ヒーローらしくこの事件を終わらせる方法があるのですが」

 

「……この際、ヒーローとか魔獣とかは置いておこう。そんな方法があるのか?」

 

「ベストジーニストは話が早くて助かります。全部柊さんの対策と準備の賜物ですので、あとで全員で柊さんに土下座しておいてください」

 

どんどん話が進んでいくんだけど、北水少年がこの状況を想定していたことが特に頭に残った。つまり、誘拐されることを北水少年は既に察していたことになる。

あの少年は思考力などが緑谷少年に似た感じがしていた。ただ、状況把握能力や解決能力が非常に高いため、ひとまわり年上に感じるような少年だった。今の状況も相まって、彼はどうにも大人すぎるよ……!

 

「おいおい、まず前提を話せ、ドゥムジとやら。これから何が起きる? そこからだろうが」

 

「想像ついているんじゃないんですか、グラントリノさん? まぁ、簡単に言うと、魔獣が大量生産されます。そしてこの都市でもなく、県でもなく、この国が破滅します。ついでに他の国のいくつかがついでに潰れますかね。最悪なパターンだと大陸がいくつかなくなります」

 

単純にっ、言ってくれるね、この羊さんは!? 回帰母少女の個性だとできてしまいそうなのがより不安だよ!?

 

「保証はありません。ですが、柊さんが生きているこの状況で、彼の案ならうまくいけば、被害はこの都市だけで済むでしょう。あなた方、ヒーローにはそのために動いてもらいます。そうですね、名付けて『絶対魔獣戦線 神野区』。急ぎましょう、時間はありません」

 

「……すまない、どうしても不安なんだ、オールフォーワンの元に行かせてくれ」

 

「おい、俊典」

 

どうしても無理なんです、先生。あいつとは私がケリをつけねばならぬのです!

 

「仕方ありません。スルト、あなたの出番はもうしばらく後ですが、足場ぐらいは作ってあげてください」

 

「任せるぞ、ドゥムジ。お前がいなければこの策は成り立たん。我が父の命令は絶対だ。死ぬなよ」

 

「知性魔獣最弱の自信はありますが、生き残ることにも自信あります。逃げ足速いので、いざとなったら逃げますし」

 

本当に最後まで不安だな、この羊さんは!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿は白く、天使のようにすら見える。だが、戦う人材からすると、それは天使ではない。悪魔や魔人を超える、恐怖の対象だ。

 

「ふざけないでくださいますか!?」

 

「ふざけるな、か。お前は理由を理解できないほど間抜けか?」

 

黒霧はエミヤが北水を打ち抜き、黒泥が溢れ出すこの状況である知性魔獣から逃げ回っていた。

 

「私に白い肌が与えられたこの時点で、母様はもうお前たちを許す気がないらしい。まさか再臨を人間相手にさせられるとは。お前たちはよほど悲惨な死を迎えたいようだな」

 

(個性が使えない!? あの光る眼、イレイザーヘッドと同種の個性なのか!)

 

合宿の時よりひとまわり縮んだ彼女は足を生やし、マスクを外し、より人間らしく黒泥の上に立つ。黒霧はどうにか、無事な地面の上に立ちながら、相手を見据える。

 

「母様の黒泥の上にも立てない、劣等種中の劣等種の分際で。父様に手を出した挙句、母様の前で。よりにもよって母様の目の前で父様に傷を……!」

 

髪が固まり、いくつもの蛇が生まれていく。それぞれが光を口に溜め込んでいく。黒霧の個性は座標移動によるワープだが、現在はゴルゴーンの『変天の魔封体』により、個性を封じ込められている。その上、地面がまともでない上に、相手の主力が遠距離であるため、手出しが全くできずにいる。

 

「ただで死ねると思うな、お前には私の神殿を見せてやる。私の個性とやらの全力を持って、お前に苦しみを与えてやる。父様の命令がある以上、殺しはしない。だが、肉体と精神をどうしようと、私の自由」

 

髪がさらに大きく伸びる。いや、伸びるというよりも増えていく。蛇たちが何匹も交差し、巨大なとぐろを作り上げる。その中心に巨大な光が収束し、紫色が黒く染まっていく。そのとぐろはいびつな建物のように見える。

 

「母様の恨みを返してやろう! 溶け落ちるがいい、『強制封印・万魔神殿(パンデモニウム・ケトゥス)』!」

 

巨大な熱線。正確には熱を持っているわけではないが、そうとしか表現できないそれは、真正面から黒霧に向かっていく。身体能力が高いわけではない黒霧は避ける手段が見当たらない。

 

「く、弔っ……どうか無事で」

 

最後の望みをかけて避けられれそうな手段を探る。最後までそれを考えたが、ついにその光線に巻き込まれる。

 

 

 

 

 

 

「わしが人を殺すためでのうのに、この姿になるとはのう。おまんら、かか様をよほど怒らせたようじゃき」

 

真っ黒の肉体に一つだけの赤い目。その男はわずかに紫色にきらめく二本の刀を肩で叩きつつ、歩く。赤と黒の布に、金の線が描かれた侍を彷彿とさせる格好で、死柄木に迫る。

 

「……何なんだよお前ら。……これからって時にっ!」

 

「もうおまんに時間なんぞないわ」

 

飛びかかってきた死柄木を刀でいなしつつ、地面に叩きつける以蔵。

 

「おまんの個性を使うと刀が壊れてしまうきに、使えんのう。それにしても、まともな地面じゃのうが、よう動く。鍛錬は一応しとるみたいやのう」

 

「死ねよっ」

 

死柄木が以蔵の首や腕を狙っても、まるでわかっているかのようにその行動を軽く防ぐ。

 

「ほれ、もっと狙わんか。そんなんじゃ当たりゃあせん」

 

「さっきから何なんだよ、お前! バカにしてんのか!?」

 

「そうじゃ」

 

あっさりそう言い切ったことに死柄木は怒りをあらわにする。それもそうだろう、目の前の男は自分をバカにすると公言しているに等しい。

 

「わしはかか様やとと様への忠誠心ちゅうもんが高うない。項羽やらイヴァンやらキングゥやらみたいにのう。じゃが、わしを作ってくれた恩義はある。親へ感謝すんのと同じことじゃ。親を害したやつに天誅食らわす、至極当たり前のことちゅうことや」

 

死柄木の腹に一発蹴りを入れ、吹っ飛ばしながら、理由を述べる。以蔵は知性魔獣の中では対人用に作られているが、増強系個性を模倣しているため、その力は強力。死柄木は思わず、腹にあったものを戻した。

 

「おうおう汚いきに、こっち向くなや。わしは性格が悪い。存分に痛い目見てもらうきに、覚悟せいや、しがら、なんやったか」

 

死柄木は腹を抑えるふりをしていた片手で、以蔵の足を狙う。しかし、それを見越していたのか、触れようとしたその手首を剣で貫かれる。

 

「っ、アァアッ!」

 

「そんな姑息な手食らうと思うただか? 本来なら『始末剣』使うとこなんやかが……。まぁ、それ使わんでもええじゃろ。わしは格下も格下扱いはせんきに、喜べや!」

 

 

 

 

 

甲高い金属音が響く。その正体は銃弾と鎖が交差する音だ。

 

「まったく、あれに飛び込んでくるとは思わなかった。あの男はオーバーホールの事を知っているのか?」

 

銃を二種類構え、キングゥに撃ち放つ。それを空中を移動して回避し、服の中から十数本の鎖が出現し、エミヤに襲いかかる。

 

「……ボクは自分が恨めしい。1秒でも早く気付ければ止められた」

 

エミヤは自らを加速させ、その鎖の拘束を回避する。キングゥ自身は加速するような能力を持たないが、その頭脳を持って、動きを予測し、銃弾を回避する。

 

「会話が成り立たないな」

 

「キミは理解しているのか? キミが引いた引き金は絶対に引いていいものじゃなかった」

 

「だろうね。まぁ、構いはしない。僕は世界のことにまったく興味はない。いや、興味をなくしたが正しい」

 

キングゥはもとよりこの男を殺すつもりでいた。自分の父親を攫った張本人。逃せば、厄介になると判断したからだ。しかし、その父親本人により殺害を禁止されたため、捕縛に作戦を切り替えている。

キングゥの個性は『完全なる変容』。その体があらゆる物体に変質する個性。ラフムと違い、細胞そのものではなく、本人と本人が認識する全てを別物質へと改変すると言うもの。頭脳とは全く関係がない個性だが、彼の脳は今、フル回転でエミヤの個性を推測している。『セルフ・ギア・スクロール』は元々の父親の護衛であるノワール(シャドウサーヴァント)から聞いているため、そちらについては問題ない。ただし、もう一つは加速することしか理解していない。

 

固有時制御2倍速(タイムアルターダブルアクセル)

 

キングゥの推論は自分の体内の速度のみを上昇させるもの、反動は動悸などの運動器に関わるもの。彼の推論は概ね正しい。ただ、オールフォーワンにより、個性がより効率の良いものになっている。

 

「少なくともキミは串刺しにして、父様の前には跪かせる」

 

電気がなるような音がして、周りの土が鎖となり、空へと伸びる。

 

「キミを捉えるのに手間はかけない。ボクの全力を持って、キミを潰す」

 

自らも空に飛び上がり、鎖と共に空から地面にいるエミヤの元へと向かう。金色に光り出す鎖はキングゥに巻きつき、巨大な一本の鎖と化す。

 

「母はお怒りだ。滅びの潮騒を聞け! 『母よ、始まりの叫をあげよ(ナンム・ドゥルアンキ)』!」

 

確実に自分を捉える。エミヤは今までの戦闘経験からそれを察した。そこからの彼の行動は早い。

 

「やるしかないか。『時ある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)』」

 

加速した両者が正面からぶつかり合い、巨大な衝撃波が周りのものを破壊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本来、余らは莫大な量の黒泥を使う存在だ。いくら母でもノーリスクで余らを呼べぬ。力を優先した存在であるが故に、加減に疎く、力を制限もされている」

 

脳無を超える巨躯を持つ、青い鱗を纏う怪物。本来なら赤いマントを肩にかけているが、今は青いマントを背にまとっている。本来、薄い青色だったその肉体は濃い青色へと変化している。

 

「だが、今の余を見よ。迸る雷が体を駆ける。我が体内より蒼き光が溢れ出る。我が双角も雷光を放っている。意味がわかるか、叛逆者よ。母は、どうにかしてでも貴様に、友のための礼拝をさせたいらしい」

 

本気となったイヴァンは、巨悪の権化の前に立つ。自らの唯一無二とも言える、友に手をかけたその男の前に。

 

「ははは。聞いていた、見ていた、理解していた、と思っていた。だが、どうにも違うらしい。かつてのオールマイト並み、いやそれ以上の怪物だ、君たちは。僕は君たちを軽く見過ぎていた」

 

オールフォーワンに現在、視力はない。だが溢れ出るその気迫に後ずさりかけていた。

 

「その通りだ」

 

オールフォーワンの側面にもう一体の魔獣が降り立つ。その黒い肉体から溢れ出る緑色のオーラのようなものは、それそのものが質量を持っているかのように錯覚するほど濃く、空気を揺らす。天を駆ける麒麟と言うよりは死神に近く、6本の腕が持つその刀は全てが緑色に光る。その顔からは緑色のオーラが吹き出しており、人の顔が輪郭的にしか見えない。

 

「其は最悪であり、災厄なり。私にここまでの装甲が用意された。そして、我が主導者に危害を加えた。つまり汝は世を乱し、平和を害するものであることは間違いようがない。滅ぶべくして滅ぶべし」

 

知性魔獣、その中で最強の位置に存在する項羽。これは他の知性魔獣も認めることであり、自他共に最強の名をほしいままにするのが、この項羽である。それは未来予知と同義と言えるその演算処理能力と強力な肉体によるものだ。

 

「我は慟哭。ただ、今は無辜ではない」

 

地面から這い出す様にさらにもう一体の魔獣が現れる。それは今、辛うじて人型を保っていた。黒と赤で彩られたそれは、巨大な十字架のような剣を携え、それを握る手ですら人間とは表現できない。わずかに宙に浮きながら、オールフォーワンを見るその顔はドラゴンの牙のように銀と赤の歯が並んでいる。指のような刃をその顔に重ねながら、それは言う。

 

「今の我は死だ。闇だ。ただ殺すものだ。…………殺す、コロスッ、コロスッゥゥゥ!」

 

狂ったように叫ぶそれは、その声を聞くだけで対象の精神に攻撃ができる。常人が聞けば、その殺意に失神してしまうほどの濃厚な殺意にオールフォーワンはわずかに身震いしてみせた。

 

「僕の相手は君たち三人か。僕も本気を出さなきゃね」

 

最初に動いたのは項羽。一瞬で目の前に移動し、6本の腕により、剣を交差する。オールフォーワンは『瞬発力』×4と『空気を押し出す』、『エアウォーク』により、後方に退避。後方にいたサリエリが白い死神を五体出現させ、突撃させる。『筋骨発条化』、『エアウォーク』により、さらに回避。

 

「手を休めるな」

 

イヴァンが雷による高速移動で、その逃げた先に立つ。杖を大きく振り、地面に叩きつけ、雷の振動が周りに響く。オールフォーワンは電撃の前に『電撃耐性』×2、『絶縁体』で受け流しにかかるが、脳無ですら動けなくするイヴァンの雷も強化版では受け流せず、体にダメージが入る。

 

「フッフッフッフッフ、ッハッハッハッハッハッハ!!」

 

爪をバイオリンの弦のようにし、剣を弓のようにその爪を引く。もともと五体いた白い死神がさらに増え、まるで楽団のように、各々の武器を構え、オールフォーワンに向ける。対して、彼は『精神不変』、『意思固定』を使用し、逆にサリエリに突撃する。

 

「静粛に。最後の時を速やかに受け入れろ」

 

オールフォーワンの『筋骨発条化』、『槍骨』、『鋲』、『肥大化』、『増殖』により巨大化した腕にたじろぐこと一つなく、赤黒い霧を吹き出す。

 

「我は死だ!ただ慟哭を振り撒くものだ!『至高の神よ、我を憐れみたまえ(ディオサンティシモミゼルコディアディミ)!』」

 

その赤黒い霧はオールフォーワンを包むように動き、巨大な管楽器の音ともに爆発する。オールフォーワン自身のマスクのいくつか、服をボロボロにしたものの、倒すまでには至らない。

 

「力を以て山を抜き」

 

オールフォーワンの吹き飛んだ先にはすでに項羽が位置し、オールフォーワンの着地点と思われる場所に向け、暴風をまき散らしながら、その肉体が駆ける。

 

「気迫を以て世を覆う!」

 

その暴風がオールフォーワンに直撃し、はるか後方に吹き飛ばされる。彼は『衝撃反転』、『重量増加』でどうにかその暴風を耐えるが、すでに自らの上に項羽がいることを今、認識した。ただ、それは項羽にとってはあまりに遅すぎた。

 

「我が武辺、此処に示さん! セリャァーーーッ!!」

 

6本の剣を構え、空中を蹴ったように加速し、オールフォーワンに直撃する。3メートル近い巨躯、480kgという重さから放たれるその一撃は、『衝撃反転』で跳ね返されたように見えたが、項羽は『演算戦術躯体』にてそれを予知。項羽は『衝撃反転』は一瞬で2回行われた攻撃を反転できないことを理解し、攻撃が当たる瞬間に弱い衝撃を先に加えておくことで、その個性を完全に無効化した。オールフォーワンは『衝撃反転』を無効化されたことに対して対処できず、その衝撃をもろに受け、地面に叩きつけられる。

 

「悪夢のように現れ、悪夢のように殺す」

 

叩きつけられたオールフォーワンの前に、その愚か者を見下すように、イヴァンは杖を真上に構える。青く発光する双角が大きく伸び、青黒い稲妻が球状に固まっていく。杖、そして双角の三本に囲まるように形成された球状の雷は、周りの空気を吸収するかの如く、旋風を引き起こす。

 

「粛清の時は来た」

 

その雷球が一瞬小さくなる。そして暴発するように巨大化し、恐ろしく太い雷の塊となり、横たわるオールフォーワンへと降り注ぐ。

 

「『我が旅路に従え獣(ズヴェーリ・クレースニ―・ホッド)』」

 

降り注いだそれは、周りの黒泥を吹き飛ばし、クレーターなど生ぬるい巨大な穴を創り出す。オールフォーワンはその地の底で、自らにできる耐性系の個性をすべてつぎ込んだのに、いくつか吹き飛んだ自分の肉体を見ながら、口から空気を漏らした。

 

「じょ……う、だんじゃ……ない……ね…………」

 

「なぜ遠慮する? 鱈腹に食らうがよい、反逆者よ。礼拝はまだ終わらぬ。骸にはするな、という友の声は聴かねばならぬ。よって、余らは汝の相手をするのだ」

 

その地の底に直立不動で着地するイヴァン雷帝。その雷はいまだ衰えることなく、その体を走る。

 

「然り。汝はここで果てるが天命である。だが、我が主導者の慈悲により、後悔する時間は与えよう」

 

なんなく項羽も地面に降り立つ。その肉体からあふれ出るオーラはむしろ強大になっていく。

 

「我が体、我が慟哭。それに触れられる貴様は実に珍しい。もっと聴け、もっと我が闇の淵を覗いていけ」

 

空中から枯葉が落ちるようにゆったりとサリエリが落ちてくる。その顔は歓喜に満ちており、実に楽しそうだ。

 

「さぁ、礼拝を続けよう、反逆者よ。余らと楽しめ」




まさかこのシリアスでドゥムジ出てくるとは思っていなかったに違いない、多分。
以蔵さんですが、第三再臨状態ですが、肉体は第二のままです。

前話ですが、あんなに早く感想百件超えると思ってなかったです。感想もっとくれ。今回ほどじゃなくても早く作るから。

あと、活動報告にも意見お願いします。感想なかったら書きません、むしろ。

追記
サリエリの宝具なんですが、ルビの限界なので点の位置が違います。

仮免、誰がいい?

  • 炎の厄災
  • 獣の厄災
  • 呪いの厄災
  • 奈落の虫

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。