無個性で普通の俺と魔獣母胎で病んでる彼女   作:鏡狼 嵐星

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書きたいもん書きたくりました。
変なところ絶対あると思うんで、感想で突っ込んでください。
あと知性魔獣は基本鯖系統なつもりですし、個性とかも勝手に決めてます。設定とかも全部結構ガバいところあります。わからなかったら突っ込んでください。
(全部感想が欲しいから言ってます)

あとがきにて今回出た知性魔獣集団の個性解説を書きました。めちゃくちゃアレンジ加わってるやつもいるので、そこは配慮してくだちい。

バレンタイン、男子勢持っているのは全員聞いたけど、イケボ多すぎて溶ける。

追記 CCCコラボの堕天の檻6より、ケイローン先生を魔獣として採用します。異論は認めない。


知性魔獣たちの蹂躙

「鉄哲! 無茶しないでよ!」

 

前を走っていく鉄哲に一応声をかける。まぁ、無茶するんだろうけど! さっさと追いつかないといざというときに大変だし。

 

「強き、強き意思が動いている。実に良い音色だ」

 

後ろから声! 振り返るとそこにいたのは黒と赤の全身スーツを纏った男だった。白の芸術品のようなマスクがより怪しさを引き立てている。

 

「わざわざ自分から声をかけて気づかせてくれるなんて親切ね」

 

「……ふむ、自己紹介をしていなかった。我が名はサリエリ。アントニオ・サリエリ。魔獣の指揮者。我が母に呼び出されしもの。慟哭燎原の怪物なり」

 

魔獣、母ってことは回帰母さんの個性ってこと? でも、こんな話せる魔獣っているの?

 

「さて、殺すか。いや、父から言われたから殺してはだめだった」

 

コイツほんとに大丈夫なの!? ってそんなこと言ってる場合じゃない。なんか銃声っぽいのも聞こえるし。

 

「このガスの中なら君たちの動きは筒抜けなんだよ」

 

追いついた! マスクの学ランの奴が銃を持って鉄哲に!

 

「筒抜けだって言ったろ?」

 

しまった、銃口がこっちにっ……。

 

「我が指揮に踊れ、死神」

 

横から現れた、宙に浮いた白装束の人形のようなものが銃自体を半分に切った。この場にいる個性の中で、これが可能なのは回帰母さんの魔獣だけだ。

 

「なんだお前、いきなり現れた!?」

 

「我はサリエリ。嫉妬、怨嗟、か。確かにいい音だが。だが、だが、だが、我が慟哭には程遠い」

 

「なんだよてめえ、死ねや!」

 

もう一つ銃を隠し持ってた! すぐに銃音が響いた。けど、その直線状にいるはずのサリエリってやつはため息をつくような恰好のままだ。

 

「我は慟哭。我は燎原の火。『無辜な慟哭』。ただそこにあるただの慟哭。我が体には、我が慟哭に匹敵する意思か感情がなければ、触れることはできない。お前の音は我に触れるほどではなかった。オオ、オォオ、我に触れらるものはどこに……」

 

何その個性、強いけど、悲しい個性。でも、この形もそうだ。まるで人間みたいなこの体も、全部、回帰母さんが作ったはず。これを理解して作ったのなら、それは……。

 

「ふざけんな、ふざけんな! そんなチート個性ありかよ!?」

 

銃を何度も撃つが、サリエリには当たらない。サリエリは自分の持っていた棒をまるでバイオリンの弓のようにして、まるでバイオリンがあるように引く。ならないはずのバイオリンの音色が聞こえ、さっきもいた白装束の人形が四人ほどが一瞬で現れ、銃を構え、構えぇ!?

 

「我が慟哭もまた実在しないはずのもの。我が一撃はお前の精神のみを攻撃する」

 

銃音は聞こえたけど、敵は倒れずにそこに立っているし、怪我もしてないが、いきなり座り込んで全身を抱き込んで震えだした。

 

「数時間で戻る。心配することはない。ないのだ。……ないのだ。我が身の慟哭は……誰のものなのだ。オオオォォォ、オオオオオ!!」

 

頭を抱えて苦しみだした。本当にこいつは、いったい何なの? 回帰母さんはこいつをなぜ作ったの?

 

「おい、拳藤、そいつなんなんだ? 敵ってわけじゃなさそうだけどよ」

 

「わかんないよ、鉄哲。わかんないよ……」

 

 

 

 

 

 

 

「梅雨ちゃん、梅雨ちゃん、かわいい呼び方ぁ、私も呼ぶね」

 

「やめて、そう呼んでほしいのはお友達になりたい人だけなの」

 

敵の襲撃でやってきた、ナイフを持った女の子と戦闘になった。梅雨ちゃんと一緒なのは心強いけど、この子、明らかに戦いなれてる!

 

「うふふ、私も友達になってよぉ!」

 

こうなったら、ガンヘッドさんのところで学んだ、ガンヘッドマーシャルアーツで……!

 

「騒がしいな」

 

後ろから声がした瞬間、後ろから巨大な何かに食われそうな感じがして、とっさに後ろを向いた。でも、すぐに後悔した。

 

「まったく。母様の命令だから仕方ないものの、本来なら人間の味方をすることはないのだが」

 

そこにいたのは巨大な女性に黄金色の蛇の下半身がついているような存在だった。私たちよりも三倍ぐらいの身長を持っていて、桃色の髪に黒いメッシュが入っている。ただ、その髪の毛が一部集まって、蛇そのものになっているうえに、その蛇の軍隊のようなものができていてる。

 

ものすごくグラマラスな体を持っているけど、真ん中に目のようなものが描かれたアイマスクをしていて、背中にある黄金の翼も相まって、恐怖があおられる。これがもし敵側だったらみじんも勝てる気がしないんやけど。

 

「我はゴルゴーン。魔獣の女王である。そこな女、今すぐそこに頭を垂れろ。我は父様のようにやさしくないぞ」

 

魔獣ってことは、愛ちゃんの個性!? こんなすごいのまで作れるん!?

 

「あ、あはは。これはさすがにやばいかも」

 

確かにこんなの敵やったらやばいやん。ってそんなこと言ってる場合とちゃう。

 

「あ、あの、ゴルゴーンさん、あなたは愛ちゃんの魔獣なんですか?」

 

「愛? ……あぁ、母様のことか。その名は二度と我の前で呼ぶな。その名は我々の中では忌み名だ」

 

え? どういうこと……? 確か親にひどい事されたとは言ってたけど、それが原因?

 

「さて選べ、今ここで我らに下るか、我の力、『変天の魔封体』の力を思い知るか、な」

 

周りの蛇が口を開け、紫色の光が溜まっていく。見るだけで、その一本一本がとてつもない力を持っていることも容易に想像がつく。

 

「……投降シマス」

 

女の子が苦笑いしながら、両手をあげる。

 

「……くだらん」

 

 

 

 

 

 

 

「おい、荼毘! おまえの分身体やられたぞ! 雑魚だなお前」

 

「マジかよ、弱いな俺」

 

「いいや、お前は強い。俺が保証する」

 

俺の分身体がやられたってことは、向こうのヒーローか、まぁ、学生どもにはめられたかだな。

 

「おい、トゥワイス、俺をもう一体増やせ」

 

「はぁ、無駄だろ? よし、まかせろ」

 

「せめてあのアサシンが魔獣女の恋人とやらを攫う時間は稼がねえと」

 

あいつさえ攫えば、目標は達成。他の奴もさらえりゃ御の字。さて、俺らはどうするっ!

 

「……おまんら、今、なんちゅうた?」

 

そこにいなかったはずの奴が、いきなり現れた。本当にそこにいきなり現れた。真っ黒な肌を持った人間のような体と真紅の髪。それが着ているのはまるで血に濡れた侍のような服装。藁で作られた笠の一部が破れていて、そこから狐のような赤い目がこちらを見てくる。

 

「たった二人かと、獲物が少ないきに、落胆しとったときにとんでもないことを話しちょる」

 

今気づいた。こいつ片目しかない。その上、口も、鼻も耳もねえ。だが外見が人間なせいで、違和感がある。これが個性を持った作られた生物、魔獣か。

 

「お前が何者かは知らねえが、聴かれたからには殺しとくか。まぁ、口を滑らせたの俺だが」

 

「マジその通りだよ、バカ! ミスは仕方ない」

 

コイツはあの魔獣女の魔獣でも強力な奴なんだろう。サンプルに連れて行けば、役に立つだろ。

 

「おまん、わしをなめとんのか。あぁ!?」

 

「おいおい、キレんなよ。人間みたいだな、怪物のくせに。笑えるな」

 

会話でき、知能がある。こいつがリーダーが言ってたイヴァン雷帝に似た性能を持ってるってことだ。ぶちぎれてくれるとはめやすい。

 

「……わしを笑ろうたな?」

 

まるで何もないところから刀を抜くような動作をしたと思ったら、そいつに刀が握られてやがった。こいつ、空間でも操れんのか?

 

「わしを笑ろうたなぁぁぁ!!!!」

 

真正面から突っ込んでくる。ありがたいぜ。火を押し固めて高火力で噴き出す。さらに火をその周りで回転させて攻撃する。

 

「ちぇすとぉぉぉ!!」

 

火を斬るかよ。マジでバケモンらしい。まぁ、予想はできたから対処は余裕。トゥワイスの出番はな、いっ!?

 

「おまんに恨みはない。が、おまんらを仕留められんと、かか様にどやされてしまうきに」

 

目の前にいる! 目の前で火を斬った状態の構えの奴がいる。なのに後ろから俺に一太刀入れてきた奴が、何もかもクリソツなクソ剣士がいやがる!

 

「荼毘! そいつ、俺の『二倍』が使えやがる、うおっ!?」

 

トゥワイスのやろう、何をしてるかと思ったら、さらにもう一人の侍と対峙してやがる。なんなんだこいつの個性は!?

 

「気配遮断、空間操作。おまんが想像しちゅうた、わしの個性ちゅうもんやろ?」

 

刀の背で肩を叩きつつ、こっちを見てくるそいつは冷静で殺気に満ちた目をしていた。

 

「わしののう、魔獣の侍、以蔵の個性ちゅうもんは『個性技術習得』、言うんじゃ。とと様は個人戦のために用意したとかぬかしちょったから、強力なもんなのは間違いないきに!」

 

……つまりこいつは相手側の個性を使えるようになる、ってことか? ふざけんな、そりゃズルだ。こいつ、明らかに対人用に能力が作られてやがる。

 

「まぁ、多少いたぶっても問題ないきのう。楽しませてもらうきに、全力で抵抗せいや?」

 

 

 

 

 

 

 

「我らは開闢行動隊! 邪魔なヒーローどもを排除しに来た!」

 

トカゲみたいな敵と巨大な棒を持った敵が現れた。その上、ピクシーボブがやられた。ここには生徒が何人かいるし、守らなきゃ。

 

「プッシーキャッツ、私たちも手伝います!」

 

残っていた生徒の何人かは既に戦闘態勢をとってる。戦闘許可は私は出せないし、この子たちに戦わせるわけにはいかない。

 

今、五組目が出発するときだったから、ここにいないのは常闇君、障子君、轟君、爆豪君、回帰母ちゃん、八百万ちゃん、麗日ちゃん、蛙吹ちゃんの八人!

 

「お前らみたいなヒーローもどきは粛清対象だ!」

 

ここで戦闘になるなら、生徒たちは逃がすべきだし、どうしよう。虎は棒を持ってたやつと戦ってるし……。

 

「おい、耳郎、どうしたんだよ!? うずくまって!?」

 

「……何か近づいてくる。巨大な奴が近づいてくるんだ」

 

「敵かよ? 敵がさらに増えるのかよ!?」

 

「わかんないよ!敵かどうかはわからないけど、馬みたいな感じ!」

 

馬? もし、それが向こうの援軍ならまずい、私たちは二人しかいないし、あとは生徒! 不利にしかならなっ!?

 

「我は覇王に非ず」

 

その場に響いた、老練さを含むような男の声。徐々に聞こえる四足の生物が駆けるような足音も相まって、何が近づいてきているのか想像したくない衝動に襲われる。

 

「唯歴史を拓くための時の歯車」

 

その足音が耳を防ぎたくなるほど巨大になる。私たちも、生徒たちも、敵たちもその音に警戒して動けない。森の奥に目視できるほどの風の塊が見える。木をなぎ倒しながら、その存在が近づいてくる。

 

「故に、阻めば」

 

森の奥から何かが飛びあがった! 明らかに巨大な体、人間じゃない。月光に照らされる青の体に四本の腕らしきものと馬らしき四肢。敵側と私たちの間に、それが落ちた。

 

「蹴散らすのみぞ!!」

 

着地と同時に起きた巨大な風の爆発に、屈まなければ吹き飛ばされてしまう! 他の生徒たちも何とか耐えられたみたいだけど、いったい何がやってきたというの!?

 

「姓は項、名を籍、あざなを羽。我が主導者にはそう名乗れと指示された。私を呼ぶことに関して、不満があるのならば項羽と呼ぶがいい」

 

その体を表現するならば、馬というより、青い麒麟というべきだと私は思う。下半身は馬のようであるというだけで、生物が持っているような体ではない。上半身も人とはいいがたい。虎よりも威圧感があり、四本の腕とその剣もさることながら、その体がとてつもないほどの力が凝縮されていることがうかがえた。その顔には白い牙のような仮面がついており、青い靡く髪とともに見ると怪物のはずの顔が人のような顔に見えてきてさえしまうような感覚に陥った。

 

「其は悪逆の兆しあり。故に見過ごす訳にはいかぬ。自ら投降するのであれば、主導者の言伝により、自由のみ奪う。しかし、逆らうのであれば、その身に恐怖を刻み込むこととなる」

 

敵側を見ながら話しているってことは少なくとも敵側ではない? 主導者ってのが何者かわからぬ以上、どうしようもない!

 

「……冗談じゃないわ。こんなのを相手にするなんて聞いてないわよ」

 

「まさかこいつが危険視されてる回帰母愛って女の魔獣か」

 

「然り」

 

項羽と名乗った存在が敵の言葉を肯定した。回帰母ちゃんの個性って、確かに生物を作る個性とは聞いてたけど、こんなレベルを作れちゃうの……?

 

「我が身は我が製作者が、最強の魔獣たれと思考して作り上げたもの。我が主導者からは魔物の将として扱われている。我が身は平和のための装置であるが故に、平和を乱すものをすべて敵とする」

 

「……ふざけんな! 貴様のような怪物がぁ、英雄の意思を持つわけないだろうがぁ!!」

 

敵の一人が大量の剣を巻きつけたと思しき武器を振りかぶる。

 

「見えた」

 

と思った瞬間にその武器が粉々になった挙句、トカゲ男がふっ飛ばされて、地面に転がった。何が起きたのか見えなかった。

 

「我が躯体の名を『演算戦術躯体』。私の意識、無意識下にある情報を持って未来を予測する力。汝たちの動きはすべて予測できている。おとなしく投降せよ。もう二度は言わぬ」

 

オカマのほうは歯向かう気がないのか、両手をあげた。正直、回帰母ちゃんのことが怖くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん、かっちゃん、うるさいんだよさっきからぁ!」

 

「一人で先進むんじゃねえ!」

 

伸びてきた白い刃みたいなのを氷で対処しながら、爆豪に一応の注意を促す。たまに油断はするがそれ以外では優秀だ。少々注意しておくほうがいいだろう。

 

「仕事ぉ、しなきゃ。肉ぅ、見せて」

 

それよりもこのヴィランだ。地形と個性の使い方がうめえ。相当な場数を踏んでる。とにかく爆豪のみになるような状況を作らないようにしなきゃならない。

 

アオオォォォーーーーーン!

 

……今のは、オオカミの遠吠え? なぜこんな場所で? いや、今は気にしている場合じゃない。敵が隠れながら戦う以上、こっちは常に警戒しながら戦わなきゃならない。プッシーキャッツの言葉が本当なら、爆豪を狙うはずだ。

 

「轟君、かっちゃん、離れて!」

 

「緑谷、障子!?」

 

後ろから緑谷と障子、それに黒い塊、って常闇の『黒影』か、あれは!

 

「どけえ、そいつらの血を見るのはぼくだぁ!!」

 

「ネダルナ、サンシタ」

 

敵と巨大になった黒影が激突するその時、

 

「ア、オオォォーーーーーン!!!」

 

青と銀の体毛を持ち、背中に黒いマントをはためかせる誰かを乗せた巨大な狼がその激突に飛び込んできた! 敵はその激突の勢いに抑え込まれて、森の奥にすっ飛んでいきやがった。

 

「ナンダア、ケモノフゼイガァ」

 

「グウゥウ、ウォン、ウォォオオン!!」

 

巨大化した黒影と狼が争いあう。上に乗っている人間の周りに舞っていたマントが何かの拍子にふわりと下がる。その場にいた全員の息をのむ声が聞こえた。首がなかったのだ、そいつには。

 

「……」

 

首無しのそいつは一昔前のドイツの軍服のような恰好をしていた。首のあたりが少し見えるが、肌らしきものがない。葉隠のように透明であると考えるのが妥当だが、コイツからは何か別のものを感じる。何を思ったのか、そいつは狼の背から飛び出し、こちら側にやってきて、手を動かす。

 

「おい、コイツはどうやら、少し待っていろと言っているらしい」

 

「わかるの? 障子君」

 

「俺は子供の頃に手話を習ったことがある。こいつはそう伝えてきた」

 

こちらが理解したのを理解したのか、身振りをやめた。しかし、次の行動が理解できなかった。

 

腕を透明になっている首に突っ込んだのだ。その光景に思わず口を押えそうになった。そして、まるで体の内臓を引きずり出すように、中から薙刀のような刀を二本引きずり出す。明らかに人の体の中に入るような代物じゃないが。

 

コイツと葉隠の大きな違いは頭が無い。透明は透明でもそこに実体がない。こいつは頭が無い状態で動きつつ、考えを持っている。異常だ。

 

「……? ……!」

 

その薙刀を両手で持ち、体を傾ける。そして、何かを思いついたのか、地面に文字を書いた。そして、敵が飛んで行った方向に走っていった。

 

「……! ちょっと待てぇ! あいつ、獲物を横取りしやがった!?」

 

「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ」

 

地面に書いてある文字を読む。へたくそな文字だが、『へしあん・ろぼ。まじゅうのふくしゅうしゃ』と書いてある。魔獣、ってことは回帰母の個性か。いや、それにしても、単騎であの状態の黒影を押しとどめている。

 

「ガァ、ノケエ、ケモノガァ!」

 

「ヴォフ」

 

完全に狼のほうが優勢だ。だがこのままじゃ、助ける前に常闇が潰される!

 

「爆豪!」

 

「うっせえ、命令すんな!」

 

抑え込まれている黒影に左右から火を使って明かりを当てる。一気に体がしぼみ、狼の手に押しつぶされている状態の常闇が現れる。

 

「……のいてくれ、もう脅威じゃない」

 

狼は興味を失ったのかのように踵を返して歩いていく。常闇を起こす。意識はあるようだ。

 

「大丈夫か?」

 

「すまん、皆に迷惑をかけた」

 

「ちっ、個性の相性が悪いのが惜しいぜ」

 

その時、こっちにさっきの首無し男が敵をひきずって、歩いてくる。首無しのほうには傷一つ見当たらない。あの敵は相当に場数を踏んでいたと俺が認識した以上、弱いわけはねえ。それを無傷か。

 

「……。……!」

 

敵をこちら側に連れてきて、少々の手話をすると、その敵を置いて、オオカミの背に乗って駆けていった。緑谷も障子も爆豪も俺も、三つ巴の戦いが起こったとき、それを見ていただけで、最終的に手を出したのは決着がつきかけた時。

 

あの魔獣はオールマイトの授業でビルの中で演習をやったときの魔獣どもとは比べ物にならない。だが、あれが最強の魔獣でもないことはわかる。USJで見たイヴァン雷帝ってやつは会話ができた。人の言葉をしゃべり、感情を持って行動していた。だがどうしてもあれよりも上がいるように感じてしまう。

 

回帰母、お前はいったいどこまで強い? 想像ができない。どうしてそこまで強いのか、やはり俺は知りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の林間合宿が始まるにあたり、ティアにあらかじめ伝えていたことがある。それは「緊急事態において、俺やティア自身以外の命や身柄が危険になった場合、知性魔獣を遠慮なく使う」ということ。

 

林間合宿の敵襲撃において、俺とティアが彼らの襲撃対象になりうる以上、爆豪くんや踏影くんの安全を引き上げておくのは悪くない手段のはず。ティア自身が攫われるとは到底思えないので、俺の心配もする。護衛の実力は心配してないが、嫌な予感がする。

 

……と思っていた矢先にだ。ヒーロー科補習組と一緒の部屋で、経営案とかいろいろ練っていたのだが。

 

「北水柊以外の人材は両手を頭の後ろに置け。膝をつき、目を閉じて、下を向け。一人でも、三秒でやらなかったらこの女を殺す。やめても殺す。僕が怪しい動きをしたと判断しても殺す」

 

まさかのまさか。エミヤアサシンが敵側にいるとは思ってもみなかった。物音が一つしたら、この状況だ。USJの時から警戒はしてたが、本物とか転生者なら相当まずい。話し方からして完全に目的は俺。解石さんは人質に取られ、銃を突きつけられている以上、先生たちも動こうにも動けない。

 

「北水柊。契約だ。お前の身柄とこいつの命を交換だ。五秒で答えろ」

 

本物だと仮定すると、彼は慈悲も遠慮も油断もない。俺が彼と取引をしたところで、ここにいる全員を何も感じずに殺すだろう。ならやることは決まった。

 

「もう一つ契約を増やせば、受ける」

 

「言ってみろ」

 

「俺が要求するのはここにいるあなたと俺以外の全員の命の保障。逆に俺が出すのは俺の護衛魔獣(シャドウサーヴァント)『ノワール』に、一時間何もせずにただここにいろと命令する」

 

相澤先生がわずかに動いた。そりゃそうだ、普通、ただの自暴自棄に近いように見える。ただ、こうでもしないとみんなが死ぬかもしれない。それは避けなければならない。

 

「……『契約成立』だ」

 

……? 今、なんか歯車が回った音がしたような音がした。そして、空中に赤い文字で契約内容が書きだされる。なにこれ?

 

「セルフ・ギアス・スクロール。契約を実行しろ」

 

セルフ・ギアス・スクロールって確か……! ここにいる全員がほんのり、赤く発光し、俺はそこにとどまっているはずなのに、なぜかエミヤアサシンのほうに歩いていく。成立した契約を守らせる個性か!

 

固有時制御3倍速(タイムアルター トリプルアクセル)

 

ちょっと待て、固有時制御(タイムアルター)!? こいつ、個性を二つ持ってるのか!?

 

体を持ち上げられると同時に、発砲音が二回し、景色が変わる。抵抗しようにも風が強くて動けない。数秒したら景色の移動が収まった。発砲音ってことは先生が打たれた?

 

「おろしてもらえない?」

 

銃口を頭に突き付けられる。さすがに無理か。この感じだと、ノワールは向こうに残ってる。原作のままならセルフ・ギアス・スクロールの強制力は確かだし、しょうがない。

 

「次いで契約だ、お前の命を保証する。その代わり、抵抗するな」

 

「抵抗する気なんて元からないよ」

 

「悪いが、僕は信じる気はない。抵抗する気がないなら応じろ」

 

……これ以上隠すのも無理か。起きていいよ、君の出番だ

 

 

 

 

 

 

 

 

今回、オールフォーワンに依頼された内容は内容自体は簡単だが、中身の依頼難易度が違うのが理解できた。青男からの依頼なのだ、簡単なはずがない。

 

この右腕に抱えている男もただの人間でないとして行動していた。しかし、それだけではどうやら意味がなかったらしい。

 

「……無個性だと聞いていたけど、ずいぶんと気味が悪い力を持っているらしい」

 

「ははは、まぁ、怖いのは確かだろうね。俺だって怖くないわけじゃないから」

 

腕が一瞬で黒くなったため、警戒して離れたことが幸いした。黒い部分が一瞬で大鎌のようになり、僕の首があった部分にそれが突き立ててあった。

 

腕の形は元の形をすでに保っていない。肩から一つのはずの腕は二本になっており、まるで昆虫の足のように節がある奇妙なものだった。その上、肩に巨大な口が現れた。まさに怪物だ。

 

「s4xj、bez、wg。b\c4」

 

「ラフム、殺すのはなしだけど、そんなこと言ってられないか」

 

何をしゃべっているのか、かけらも理解できない。コイツは誘拐対象じゃない。敵だ。

 

「手段は選んでられなさそうだし、君を倒させてもらうとする。誘拐されるわけにはいかない」

 

次は左腕も同じように変質する。腕と肩以外は人間だが、腕の部分は既に腕の切っ先をこちらに向けている。

 

「一つ聞いておく」

 

「なにさ」

 

「そんなものを植え付けられて、お前はあの女を気味が悪いと思わないのか?」

 

常人ならば、自分自身の肉体を作り替えるような力を他人から渡される状況なんてありえないし、あったとしても受け入れられないだろう。

 

「彼女は俺のことを考えて、この子をくれたんだ。受け入れても、文句なんて言うわけないだろ?」

 

ずいぶん当たり前のように言う。今まで持っていたこいつに対しての違和感が分かった。

 

「……そうか。依頼主が君を警戒する理由がわかる気がする。お前もあの女と一緒で相当にイカれている」

 

「相思相愛って言ってよ。彼女が俺を好きすぎるように、俺も彼女が好きすぎるのさ」

 

この個性の能力がわからない以上、本気でやるか。

 

時ある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)

 

「削り穿て、ラフムッ」

 

 

 

 

 

 

 

「返せよっ!」

 

「マジックは種明かしをしたら、去るのがセオリー。じゃあね」

 

しまったしまったしまった! かっちゃんと常闇君を奪われた! 今すぐ奪い返さなきゃ!

 

「まったく、マジックを見せるのは好きだが、他の奴のマジックのネタになるのは好きじゃねえ」

 

なんのはなしをしてるっ? くそ、急いでくれ、障子君!

 

「ま、大丈夫、彼は快く仲間に迎え入れ、っぐえぁ!?」

 

空を飛んでいた敵を、いきなり横から巨大な何かがまるでつかみ取るように飛んできた。それは赤黒いオーラのようなものを纏っている茶色い肌の大男。顔や体のいたるところに、赤いラインのようなものが走っていて、たくさんの鎖がついた鎧のようなものを装着している。髪も赤と黒の二種類があって、まるで鎖につながれた巨人のようだった。

 

「な、なんだこいつ!? 離せ、この、あがぁ!?」

 

巨大な叫び声とともに、敵を握りつぶすような恰好をする。敵も苦しんでるからその通りだと思う。というか、何がどうなってるんだ!?

 

「緑谷! 肩を見ろ、回帰母だ」

 

確かにあの巨人の肩に回帰母さんがいる。いるけど、様子が変だ。髪の裏側と表現できる部分が真っ赤だ。角の部分も筋が真っ赤で、いつも顔の変化が少ない回帰母さんの顔には明らかな怒気がある。

 

「一度しか言わない。このまま握りつぶされたくなかったら言え。しゅうはどこだ」

 

「おいおい、お嬢さん、こんな状況じゃ話せな、あぐああぁぁっ!?!?」

 

ボキボキと骨が折れ、グシャと肉がつぶれる音がした。握られているであろう彼の下半身から大量の血が出ている!

 

「おいおい、正気か? あんなのじゃ複雑骨折ってレベルじゃねえぞ」

 

轟君も驚いている。あれは普段の回帰母さんじゃない。

 

「次はない」

 

「……はっ、ほんとに、知らねえよ……。誘拐し、たのは、裏の……プロだ。何にも、知らされて、ねえよ」

 

会話がうまく聞こえない! というか、回帰母さんは何をする気だ!?

 

「そうか」

 

あ、手を離した! まって、そんな重傷者を落としたら死んじゃう!

 

「一応だ。お前らみたいな生きる価値のないやつでも、しゅうの言葉を守ってやる」

 

落ちる瞬間に回帰母さんの黒泥が敵を受け止める。しみ込むように消えていくと、敵の足が治っている。これも回帰母さんの個性の力!?

 

「マジかよ、痛みもねえ。だが疲労で動けねえ。。ははっ、あの女、バケモンじゃねえ。ありゃ、魔王とか破壊神とかそんなレベルだぜ」

 

回帰母さんを乗せた巨人は、なぜか宿泊施設とは全く違う方向に走り出した。とても追いつけるスピードじゃない。

 

「おい、まず爆豪と常闇を返せ。それと回帰母は何をする気か、答えろヴィラン!」

 

「コンプレスだ。仲間は返すよ、ほれ」

 

え? ずいぶんあっさり……。

 

「もともとそいつらはついで。うちの目標は既に達成されてっから問題ねえ」

 

「なんだと?」

 

目的は終わってる!? 回帰母さんが怒っていた理由はまさか!?

 

「柊くんを誘拐したのか!?」

 

「ザッツライト。もう凄腕がそいつを誘拐し終わってる。俺たちはそのデコイ。全く割に合わねえ、俺も刑務所行きか」

 

「どこだ!? どこに連れて行った!?」

 

「悪いが知らねえ。これはマジだ。同じことを言うが、誘拐したのは裏の業界の中でもトップのプロだ。俺は何の情報も持っちゃいない。つか、疲れたから俺は寝るぜ」

 

柊くんが誘拐された。これは多分相当まずい。回帰母さんの個性の性質を彼から知らされている僕は、その時に聞かされていた『魔獣母胎』の最悪の事態、その恐ろしさに戦慄した。

 

USJ事件の打ち上げの後、僕は回帰母さんの個性を少し知りたくて、柊くんに電話をした。その時、柊くんから回帰母さんの個性について少しだけ詳しく教えてもらった。

 

その中でよく覚えているのは、彼女の個性原動力は対象への愛。それは無限大の容量を持つ反面、その対象の状況で性能が大きく変わること。そして、ある柊くんの言葉。

 

「もし俺が彼女の目につかないようなところに連れていかれたり、俺が重傷を負ったりした場合の対処法を君には伝えておこう。俺を意識があろうがなかろうが、彼女の目の前に連れていくこと。正直、これ以上の対処法はない」

 

その時、僕は少し、ほんの少しの興味で聞いた。もしそれができなかったら、と。彼は苦笑いしたような声を出して答えた。

 

「最悪なのは俺が死んだ場合。彼女がそれを知ったら『魔獣母胎』が暴走するだろう。あれはティアの精神がまともな状態だからこそ働く代物だ。でも彼女の愛が続く限り、個性が強力になり続ける以上、彼女の精神がまともではなくなった場合、個性が暴走して無限に魔獣を生み出し続ける」

 

僕はその時どんな顔をしていただろう。彼は苦笑いからまじめな声音に変えてから、僕に改めて言った。

 

「もし彼女が暴走したら、今まで起こったやつとは比較にならないほどの個性災害が発生するだろう。まぁ、俺が死んでいたら彼女を止める手段は多分ない。敵として処理してくれ。逆に俺が生きてたら、俺を頼ってくれ。俺しか彼女を止められないだろうし、どうにかして見せる」

 

覚悟の声だった。多分、彼は彼女を救うために命を懸ける。本当にそんなことが起こったときに、僕は彼女を敵として見れるだろうか。

 

だが、今、それに限りなく近いものが起ころうとしている。本当に一体これから何が起きるんだ、柊くん……?




魔獣の指揮者 アントニオ・サリエリ 『無辜な慟哭』
感情、意思が強い攻撃でないと触れることができない。逆にサリエリ自身も実体に触れられない。サリエリ本人が体にあたるような攻撃をすると、精神に作用する攻撃となる。体そのものに異常はない。

魔獣の女王 ゴルゴーン 『変天の魔封体』
蛇を中心としたものに体の器官の変質が可能。しかし、それはあくまでサブの能力で、彼女のレーザーや目に見られたものの個性を封じ込める個性。

魔獣の侍 以蔵 『個性技術習得』
名前の通り。本人のやる気があればいくらでも習得可能だが、忘れやすい性格のため、相手のことを忘れて、個性そのものを忘れてしまうことがある。ちゃんと覚えてる相手なら、個性も忘れない。その剣覚えたぞ。

魔獣の将 項羽 『演算戦術躯体』
基本はFGO第二部三章の戦術躯体、未来予知の複合個性。

魔獣の復讐者 ヘシアン・ロボ 『堕落を纏うもの』(ロボ)、『魔たるもの』(ヘシアン)
ロボのほうは戦闘対象のスタミナ、能力を徐々に奪い、自分の能力にプラスする。ただし、いったん戦闘終了するとリセットされる。ヘシアンのほうはいろいろできる能力。首から体の中に手を突っ込んで何かを出すシーンはやりたかっただけなので許して。

魔獣の原体 ラフム 『細胞変質』
とりついたものの細胞を操作する。ラフムになれる。やったね、しゅうくん、個性が手に入ったよ(真顔)

魔獣の狂戦士 メガロス 『巨人の十二の試練』
十一回蘇生できる原作そのままの個性。いいの浮かばなかったので、申し訳ないです。

仮免、誰がいい?

  • 炎の厄災
  • 獣の厄災
  • 呪いの厄災
  • 奈落の虫

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