緊迫した空気と、ただ少しの沈黙が流れ──破ったのはロミアスだった。
「──君がまさか不死者だったとはな。ならばあの時、君を助けた事は大きなお世話だった訳だ」
「いえ、二人には本当に感謝しています。魔力に存在の比重が多少置かれた不死者といえど、戻る肉体がなければそのまま発散して消滅してしまいますから」
「...君は不死者でありながら、他の魔物のように凶暴化しているということはないようだな」
「私が不死者になったのは事故によるもので、それも偶然の積み重ねのような出来事でしたから。今、私が凶暴化してないのも、今まで運が良かっただけかもしれません」
また少しの沈黙。ひとまずは敵ではないと分かって、二人の警戒は解かれたようだ。緊迫していた空気は薄らいで霧散する。
そして、私はずっと言いたくて言えなかった言葉をここぞとばかりに放つ。
「...そして、遅くなってしまいましたが、助けて下さってありがとうございました」
私は二人へ向き直り、深々と頭を下げる。
「あなた達の助けが無かったら私は死んでいました。既に死んでいる私が言うのも少し変だと思いますが...二人は命の恩人です、私にできる事なら何でも──」
「待った。私達は何も礼が欲しくて君を助けた訳ではない。面倒事が起こるのを疎んじて、その先ほんの気まぐれで君を助けたんだ。君の身の上も礼も興味は無い」
──そうだ。二人は異形の森の使者で、パルミアへ急務があるんだ。
──なら私が付きまとって、大切な時間を奪ってしまうなんて最悪だ。
「す、すみません!出過ぎた真似を...」
「私達は直ぐにここを発つ。君の無事が確認された以上、ここに留まるのは無意味かつ無駄だ」
二人は足元に散らばる雑多な道具、大岩に掛けられたコートや、明かりの付いたランタンを素早く片付け身に纏っていく。そして焚き火を残し、最後にただ広々とした洞窟へと戻る。
そんな二人を眺めていると、ラーネイレが近づいて来て地図を渡してくる。
「これどうぞ。あなたはここの大陸の人じゃないでしょう?これから旅するにしろ何にしろ、地図は持っていないと」
「あ、ありがとうございます!前大陸に居た時にもティリスの地図は見かけたのですが、あそこからは遠い土地という事もあって高くて...」
「どういたしまして。東にあるヴェルニースの町はここから子供の足でも一日かからないわ。あと、これも」
ラーネイレから私へ手渡されたのは、少し古めかしさが残るも今だ輝きを失わない綺麗な首飾り。
「これはお守り、今はあなたが持っていて。いつか役立つ時が来るかもしれない」
程なくして、二人は洞窟から出て行った。去り際にロミアスは振り向き一つせず、ラーネイレは少しこちらを見て手を振り。
「また巡り会う時まで、あなたに風の加護のあらんことを」
二人が去って洞窟にただ一人。衣服も既に乾いて、朦朧していた視界と意識も回復して。立ち上がる事も難しかった身体も、二人の施した回復処置が効いてきたのかもう全く痛まない。
──旅立ちの時だ。
新大陸での滑り出しは良かったとはいえない。けれど自分の乗っていた船が沈没したり、エレアの人と実際に話すことができたり。
──新しい発見と体験、沢山しちゃったな。
──きっとこれからもっと新しいことを知り、身に感じることができる。
新大陸での旅を楽しみに、思わず頬がほころぶ。
──さあ、考えて想像しているだけじゃなくて歩みだそう。
そうして私は薄暗い洞窟を抜け出そうと、光洩れる外界へと向かった
次から本筋の探索へ入っていく予定です...入っていけるといいなあ...