リッチ少女のティリス放浪記   作:メメントロベリア

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第3話:炭鉱町ヴェルニース

 澄み渡る空と、どこまでも続く草原。その中に歩く旅人一人。

 フードを被り顔は見えないが、覗く長い白髪が透き通るように風になびいている。身体は黒く長いコートを纏いながら、少し丈が合わないのか袖を捲くり、突き出された細腕は地図を広げていた。

 

──ヴェルニース。あの洞窟から南東にある町。

──近くの山々、鉱山によって栄える町。

 

 太陽の影から進むべき方位を割り出し、今地図を元にヴェルニースへ向かっている。

 新大陸で訪れる初めての町。けれど今はその期待以上に問題があって──

 

──所持金額、約500gp。

──ううっ...これじゃあ三日宿に泊まるだけで尽きる...

 

 圧倒的金欠。家出をした当初は一緒に持ち出した衣服や装飾品を質に入れ糊口を凌いでいたものの、冒険者用の上等なコート、シャツ、パンツ、ブーツやその他もろもろ。更にはティリスへ渡る商船切符まで買ってしまえば余るものも余らないというものだろう。

 

──まずはヴェルニースで依頼を受けて路銀を稼がないと。

──うん、まさに旅人らしくていい!

 

 空元気で喜んでみようとも懐事情は解決せず。ただひたすら町を目指し一歩、また一歩と歩き続けるのだった。

 

 

 

「ここが...ヴェルニース!」

 

 炭鉱町ヴェルニース。パルミア王国最大の炭鉱町で、それを現すかのように街中には鉱石の積みあがったトロッコや、敷かれたレール、そして鉱夫らしき人々がツルハシを持って町を右往左往していた。

 自分が知る全ての町と違う。家の造りも、行き交う人々も。自分が家出をした後、他の町を見ることもあったが、それは全て違いながらも同じ空気を漂わせていた。ここにはそれを感じない。

 

──おおっと、感激してる場合じゃなかった。

──依頼を受けるならまず冒険者ギルドに登録をしないと。

 

 手続き自体は簡潔に済み、ギルド認定の冒険者という証明である冒険手帳を貰った。

 受けた依頼はこの手帳に記録され管理される。しかしこの手帳はそれだけではなく、他冒険者の動向が記録されたり、自分の社会的な立ち居地がどの程度か冒険者内でランキング化され表示されるらしいのだ。毎月冒険者に対して振り込まれる給料はこのランキングによって算出されているらしい。ランキングを上げるにはアリーナで名を上げるか、各地に点在するネフィアと呼ばれる遺跡群を踏破するか...方法は様々だがおよそ一流と呼ばれる冒険者はネフィアにこもりっきりで町にも顔を出さない者もいるとか。

 

──ともかく、今は依頼を受けないと。

──この懐じゃ明後日まで生きていられるか分からないから...

 

 しかし依頼掲示板を見るも要人警護や物資調達ばかりで魔物討伐の依頼は一件もない。

 

──うーん...どれも時間の掛かる依頼ばかりで即日で終わるものがない。

──こうなれば私もネフィアに入って高価そうなものでも探すしかないのかな。

 

 なんて一人掲示板前で悩んでいると。

 

「あの...冒険者さん、なのかな?」

 

 小さめのフードを被り、ワンピースの上に丈夫そうな皮のエプロンを着て、しげしげと私を見つめる女性がそこにいた。

 

「あっ、はい!冒険者です」

 

「私、依頼掲示板の使い方があまり分からなくて...こうやって冒険者さんが来るのをずっと見張ってたの。それで私も依頼があって、聞いてくれるかな?」

 

「はい、お伺いします」

 

──あまりにも時間の掛かりそうな依頼なら、申し訳ないながらもお断りすればいいし、話を聞くだけならタダだからね。

 

「私はミシェス。自分で言うのもなんだけどぬいぐるみ職人なの」

 

 ミシェスと名乗った女性は被っていたフードを搔き上げ、短めに纏めた金色の髪が姿を現す。

 

「それで家にもたっくさんのぬいぐるみを置いてるんだけど、最近になって朝起きるとぬいぐるみがボロボロになっちゃってるの!」

 

 目の前にいるミシェスさんとぬいぐるみ達の部屋を想像する。確かに想像に容易い。

 

「夜中にこそっと見張ってたら、どこからか入ったプチが私のぬいぐるみを食べてるのよ!それが最近になって突き止めたんだけど隣の地下坑道から来てるみたいなの!冒険者さんあのにっくきプチたちを退治しちゃってくれない?報酬ももちろん出すから!」

 

「はい!是非お受けします!」

 

──やった。これでひとまずは飢えずにすむ!

 

「地下坑道の鍵はこれね!」

 

 鍵束が手渡される。確かに職人らしい、繊細で柔らかい指だった。

 

「失礼を承知だけど...あなた武器を持ってないみたいだけど、本当に戦えるの?」

 

「私は魔法を使うので必要ないんです。私の力では剣や槍はとてもじゃないですが振るえませんし」

 

「魔法!?あなた魔法使いだったの!」

 

「...ええ、そう、なると思います」

 

 驚きと期待の眼差しを向けられる。こういう事は慣れていないから小恥ずかしくなってしまう。

 

「それなら安心して任せられるわ!頑張ってね!」

 

 これからまた仕事だというミシェスさんと別れ、一人になる。

 

──魔物とまともに戦ったことなんてないけど、プチなら多分大丈夫よね。

──この身体がどういったものなのか、自分でも確かめておかないと。

 

 私は淡い期待と恐怖を胸に地下坑道へ向かう。

 

 




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