リッチ少女のティリス放浪記   作:メメントロベリア

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第6話:「ぬいぐるみを守れ!」③

「ファイアボール!」

 

 瞬間、空間が熱され余波の熱気とその風が、大きな室内でありながらも隅々まで突き抜け、壁を受け私に反射される。そして熱気と風は爆風に昇華され、辺りに散らばるようにいたプチやスライムを跡形もなく蒸発させた。

 スライムを倒すには何も凍結だけが答えではない。液体なのだからその逆、蒸発させてしまえば個としてあった液体の身体はばらばらにされ、主を無くして沈黙するしかない。ただ一つ問題点を挙げるとすれば、それが降りかかって衣服が酸っぱい異臭に悩まされそうなのが唯一で一番なのだけれど。

 最後の大部屋も片付いた。大きくため息一つ、全身から力が抜けていくのを感じる。今日食べた物もかじったプチ一つぐらい。お腹も減ったし、体力も精神も、この坑道では色々ありすぎて限界だ。暗さとカビ臭さと酸臭さの閉鎖空間なんて、ずっと居たら不死者の身体といえどどうにかなってしまいそうだ。

 とにかくここから出てミシェスさんに報告しよう。そして報酬で沢山食べて今日は寝てしまおう。

 

──────

 

「ふぃいいー...」

 

 間抜けな声が出てしまう。階段の床扉を下から押すのも億劫で英雄の魔法を使ってしまった。

 外は薄い夜。昼だと坑道から戻った目じゃ焼けてしまうのと、私が不死者の身体である以上、太陽光や神聖なものを近くに受けると少し気だるくなってしまうから少し安堵。

 さて、依頼は達成したし、このままミシェスさんの家に向かおう。

 

 事の経緯を説明しにミシェスさんの家を訪ねたところ、そのまま中まで招待されてしまった。

 

「あらあら、スライムまで居たの?そう言えばすこしあなた酸っぱ臭いような...それは大変だったわね、ともかく依頼ありがとね!」

 

 そう言って彼女は金貨が入っているだろう小袋と、白金の特殊な彫りがなされた硬貨を二枚、タンスの上から取り私に差し出した。

 

「金貨は大体3000枚ほどかな?あとプラチナ硬貨ね」

 

「ありがとうございます!...えーと、こちらは?」

 

 私はプラチナ硬貨と呼ばれた白金の硬貨の表裏をしげしげと眺める。

 

「ああ、それは冒険者ギルドで発行されてる特殊な硬貨なの。それを使って専門家から色々な技術を学べるとか。依頼者はそれを受託者に渡す義務があるんですって...って冒険者さんなのに知らないって事は、あなたは外から来た人なの?」

 

 話すべきか、話さざるべきか。少し思案するけれど。

 

「はい、ほんの数日前に船に乗ってティリスに来ました。まあ、その船は沈んじゃって自分は奇跡的に助かったんですけど...」

 

「あらあら!また大変だったわねぇ...そうだ冒険者さん!今夜食事私の家でどう?冒険者さんの話とか色々聞いてみたかったのよね!」

 

「えっ、良いのですか!」

 

「ええ、もちろん!私のぬいぐるみちゃん達を守ってくれた恩があるもの。なんならそのまま泊まって行ってもいいわよ!」

 

 なんて、願ってもない。彼女の善意に対して頭に過ぎったものが、食事代と宿泊代の節約だったのはなんとも私の貧乏性だけど。

 

「ささっ、そのコートも脱いじゃって!今日の内に洗っちゃうから!」

 

「わわっ」

 

 彼女が私のコートをするりと素早く脱がしてしまう。

 

「他に洗物はない?...ってそのシャツも煤けて汚れちゃってるじゃない!まだ酸っぱい臭いするし...もう、先にお風呂に入ってきちゃったら?その間に夕食の用意しちゃうからさ!」

 

「わ、分かりました。行ってきます」

 

 言われるがままの私。

 

 お風呂も終え、借りたバスローブに着替える。

 

「ふぃー...」

 

 やはりお風呂は良い。この血が微かに通う身体に熱く染み渡る。そして何よりさっぱりする。

 

「あら、もう上がったの?ご飯そろそろ出来るから待っててね」

 

 肉の香ばしい香りと、とんとんと小気味良い包丁の音が聞こえる。

 待っている間、部屋を見回してみる。子熊のぬいぐるみ、プチのぬいぐるみが生活の邪魔にならない様、隅に置かれているものの、目にしない角度はないほどに敷き詰められている。そして彼女か立つ調理用の機械。その一角のみ、木造のこの家で石床になっている。

 

「...ここの機械は凄いですね。私の故郷、エウダーナではこんなものはありませんでした」

 

「そうねえ、もう最近はイェルスの輸入機械も安くなって行ってるしね。私がこうやって料理で退屈を紛らわせられるのもそのお陰かな。エウダーナかあ、そっちではこういうのってどうしてるの?」

 

「家庭用魔道具がそれに相当すると思います。お湯を出す魔道具であるとか、風を送る魔道具であるとか」

 

「なるほど全部魔力かぁ、こっちで言う電気みたいなものかな」

 

「ええ、近いと思います」

 

「魔法かー、私も使えたら冒険者として...よしっ!ご飯できたよ!」

 

 テーブルの上に並べられたお皿達。そしてその上のパンとハンバーグやサラダやスープ。明かりの下できらきらと光っていてとても美味しそうだ。

 

「それじゃあ、ぬいぐるみちゃん達の無事を祝って~いただきます!」

 

「いただきます!」

 

 まずはスープ。うん、魚の出汁が取れてコクがあって美味しい。そしてハンバーグをナイフで切り、食べやすい大きさにしてから口に入れる。おおっ!これは私が好きな羊肉だ!美味しい!この美味しさは空腹だけがスパイスではなかろう。

 

「とても、美味しいです!」

 

「あら!ありがとう!...私がこうやって料理をしてるのも退屈だからなのよね。炭鉱街じゃパーティなんてないし、ましてや私自身に戦ったりする力はないしね...なんて愚痴っちゃってごめんなさい!せっかくの美味しいご飯が冷めちゃうわ」

 

 いつもの明るい姿を一転させて悲しげな顔を残した彼女。私はきっとかつての私を重ねてしまって。

 

「...少しずつでも、ほんの少しずつでも始めてしまえば叶います、絶対。だってミシェスさんの料理、こんなに美味しいんですから」

 

「...ふふっありがとう」

 

 少しの会話を挟みつつも、食事の手は止まることなく、そして。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでした!」

 

 少しの休息と就眠への準備をしていると彼女から。

 

「そういえば今気付いたんだけど、私って一人暮らしじゃない?だからベッド一つしかないのよね...」

 

「私はソファで大丈夫ですよ」

 

「ダメよ!シャツやズボン洗っていて気付いたんだけどあなたとてもボロボロだったもの!今日くらいはぐっすり休んで欲しいわ!」

 

「うーんでも私がソファで寝るって言うのもなぁ...そうよ!なら一緒に寝ましょう!」

 

「えっでも」

 

「いいのいいの!あなたの年から言えば私の妹みたいなものだし!」

 

 押し切られてしまった。何だか最近押し切られてばっかりな気がする。

 

 そうして二人同じベッドに入る。入ってしまった。

 暖かい。他人の身体がこんなに暖かいなんて、生きていた私は知らなかった気がする。

 

「...あなたの身体ぬるいわね」

 

「そ、そういう体質ですから...」

 

 少し身体を寄せてくる彼女。

 

「ふーん、そういえばあなたの名前、ずっと聞いてなかったわ」

 

「ネリネです」

 

「ネリネ...ネリネちゃんね、分かった。ネリネちゃん、今日は本当にありがとね」

 

「いえ、どういたしまして。実は私ここに渡って来たばかりなのに金欠で、即日で終わる依頼がなければそのまま、野垂れ死んでしまう所でした。だから、ミシェスさんの依頼には本当に感謝しています」

 

「ふふっ、感謝を言うのはこっちの方なのに」

 

「...冒険者ねえ、私も初めてみようかな剣の修練とか」

 

「良いと思います剣。でも、今なら機械が安価になってて銃器とかも安くなって来てますから、そちらの方がいいかもしれません」

 

「銃器かあ、休暇を見計らってサイバードームとか訪ねてみようかしら...」

 

 なんて、他愛もない会話をしながら少しずつ言葉数も減ってきて。

 

「じゃあ、おやすみね」

 

「おやすみなさい」

 

 深い、深い眠りに。泥に沈み込むような意識をそのまま手放した。

 

 




なんでミシェス依頼編で3話も使ってるんですかね(困惑)
探索シーンとか日常シーンも上手く書けるようになりたいです。
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