リッチ少女のティリス放浪記   作:メメントロベリア

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ミシェス依頼編に対応した話数の名前を変えました。


第7話:再会

──────

 

「それじゃあまたね!」

「はい、ありがとうございました!」

 

 ミシェスさんに見送られながら、ひとまずヴェルニースを後にする。遠く聞こえるザナン皇子の遊説も、結局はいつもの言い分だろう。異形の森(ヴィンデール)災いの風(エーテル)という脅威、それを一掃せよと。知っていることだ。自ら嫌悪を呼び起こしに行くのも馬鹿らしい、喧騒に背を向けそのまま無視する。

 得た報酬で多めに食料などを買い込み、次に目指すは王都パルミア。なんてヴェルニースの門を出て地図を広げていると、後ろから一人の少女が駆け寄ってきた。

 

「ネリネお嬢様、ですよね?」

 

 荒い息を整える、私よりも少し背の高い金髪の少女。長剣(ロングソード)を腰に吊っていて、重層篭手(ガントレット)は金属で堅牢そうながらも、アンバランスに身体は外套(クローク)などの軽装な旅着で包まれている。そして、かつての見慣れた格好とは違えど、見紛うはずもない。

 

「リナリア!」

 

 使用人(メイド)ではなく、旅人の装いで。

 

「ああっ...良かった。あの後探しに探して、船に乗り込んでいく姿が見えたからそのまま追って来たんだ。本当に、ご無事で...っ!?」

 

 彼女が私の手を取る。不死者と化した証の、血の気が退いた青白い手を。

 

「...ごめんなさい。私、もう生者じゃないの。あの後迷宮(ネフィア)に入って、その先で...私自身もよく分かってないのだけど気が付いたらこんな身体に」

「...私が、付いていれば...でも、どんな形であっても、お嬢様が居てくれて良かった...」

 

 彼女が私を抱きしめる。すすり泣く声、私が彼女を悲しませてしまった。

 

──私のせいなのに。

──私の身勝手が、彼女を悲しませてしまった。

 

 私の旅着は意図せず、不死者であることを隠すのに都合が良くなっていた。丈の長いフード付きの外套(クローク)、丈夫な合成靴(ブーツ)下衣(ズボン)。そして酷い溶け跡があったにも関わらず、ミシェスさんが補修してくれたお陰で新品にも思えるような法衣(ローブ)

 ミシェスさんには夜の中、暗い明かりのみだったから誤魔化す事ができた。朝は少し早めに起きて用意してフードを被ってしまって。

 双方の事情を確認する。彼女はティリス到着後、冒険者として路銀を稼ぎながら私を探していたらしい。話し合いの結果、彼女も旅に同行してくれる事となった。前例がある事だし、危険な旅なんて止めようと言われたが、それでも譲る事が出来なかった。ここで私が家に戻ってしまったら、私は二度と出られないような場所へ幽閉されてしまうだろう。彼女にも酷い罰が下りてしまうに違いない。そして、私が不死者になった事を知られてしまったら...考えるだけでも恐ろしい。

 二人の持ち物を確認しあい、必要なものは分け与え、受け取っていく。

 

「またよろしくね、お嬢様」

「ええ、でもリナリア。"お嬢様"はなしよ。他の人に聞かれたら、色々勘繰られてしまうかもしれないから」

「分かった...じゃあ、ネ、ネリネ」

「うん、よろしくねリナリア」

 

 彼女が、私に対してこのような軽口で接するのは二人きりの時だけだった。その時からずっと思っていたのだ、"お嬢様"だなんて堅苦しいと。今回で改められて良かった。

 こうして、不死者(リッチ)従者(メイド)の旅が始まった。

 

──────

 

 今だ天頂に届かぬほどの太陽と、ただひたすらに澄み渡る空と、見渡す限りの青々とした草原。そして地に敷かれた、東に伸びる舗装された一本道。ヴェルニースとパルミアはこの道で繋がっている。この道を私と彼女の二人で歩く。

 

「思えば遠くまで来たものね...」

「エウダーナにも地平はあったけど、草原じゃなくてひたすら砂漠だったしね。この緑を初めて見た時には驚いたよ」

 

 遠くに見える迷宮(ネフィア)を次々横切り無視する。私がパルミアに向かっているのは情報を集める為だ。魔物についての情報であるとか、比較的凶暴でない魔物が住む迷宮の情報であるとか。そしてなによりも、都市にはその国柄が色濃く出る。それを私はこの目で見てみたい。なんてまだ見ぬ町へ期待を膨らませていると。

 

「ネリネ、魔物が前から」

 

 その声を聞き、即座に物質感知の魔法を走らせる。肉眼では見えないが、姿形はおおよそ分かった。それは人型で、武器のような物を持っているという事だ。それが数体。正確な数は分からない。思いを巡らせている内に、それは影を形取って向かってくる。

 

──コボルト。

──私を殺した、魔物。

 

 自己の魔法領域から魔法記憶を引き出し、先んじようと右手を伸ばす。がしかし、手でリナリアに制止される。

 

「ネリネにはまだ見せてなかったね。私が戦うところ。この位の相手なら私一人でも大丈夫。そこで見てて」

 

彼女はそう言うと、コボルトに向かって一歩、また一歩と歩み出す。私はそんな彼女をただ黙って見守る事しかできなかった。

 

 "私"は長剣(ロングソード)を右手で抜き放ち、半身で構える。盾はない。あるのはこの重層篭手(ガントレット)のみ。

 コボルト、数は四体。凶暴化した魔物に統率も糞も無い。馬鹿正直にこちらへ走り向かってくる。

 最初に接敵した一体目。大上段から力一杯に棍棒(クラブ)を殴りつけてくる。私はその一撃を剣では受けず──篭手の左手で斜めに入れて逸らし、そのまま真横へ解いてやった。力の方向が変わり、両手持ちだった棍棒も今は右手のみで保持され、がら空きの胸が晒け出される。そこの胸を剣で刺し貫く。手ごたえを感じると共に引き抜いてやる。噴出す血を受けないよう、半身で外套(クローク)に吸わせる。次だ。

 

 次、二体目はすぐ傍まで来ていた。短剣(ダガー)小盾(バックラー)を構え、用心深くこちらを伺っている。私は剣を両手で構え直し、相手の構える盾目掛けて振り下ろす。当然ガードされるが、その一撃に重心を取られ、即座に短剣で反撃とは行かなかったらしい。その隙を見逃さない。剣から手を離し、相手が左手に構える短剣目掛けて、蹴りを繰り出す。落ちる短剣、そして私は盾に刺さったままの剣を両手で構え、力一杯押し込んでやる。剣の重さと、盾の粗さが競い合い、当然剣が勝つ。みるみると相手の顔へ押し付けられる剣、そしてそのまま刺し貫いた。

 

 三体目、長槍(スピア)を構え突進してくる。こちらはまだ盾から剣を引き抜ききれていない。ならばとこちらは剣から手を離し、腰に差してあった包丁を抜く。刃こぼれしないように峰を使い、槍の刃、持ち手の勢いを捌く。そしてそのまま近づいてくる体。胸の辺りに包丁を寝かせ、刺し掻っ捌いた。あとで消毒しておかねば。

 

 最後、大斧(バルティッシュ)を振り下ろすコボルトの姿は非常に近く、間に合わない。犠牲にする思いで左篭手で守ろうとした、その瞬間。

 

「ライトニングボルト!」

 

 視界の端で来たるは直進する束ねられた黄雷。その一撃は軽く触れた身体を黒く焦げ付かせ、直撃したコボルトの右腕を焼失させた。振り下ろした勢いの余り、地面に倒れるコボルト。その背を前の相手が持っていた槍を拾い、突き刺し抉り地面に繋いでやる。起き上がれないともがいている間に、盾から剣を引き抜きそのまま首を刎ねる。最後に付いた血を剣と包丁ともども振り解き、鞘に収める。

 

 咄嗟の判断だったけれど、念の為に事前に詠唱しておいて結果的に良かった。

 しかし、リナリアがこうまで強いとは思ってもみなかった。紅茶を淹れる彼女。私にドレスを着付ける彼女。そのどれとも今の彼女のイメージは重ならない。

 しかしあのライトニングボルト。もし私が撃たなかったとしても、きっと彼女はコボルトを殲滅できていただろう。それだけの戦闘熟練を彼女には感じる。

 

「お疲れ様。驚いたわ、リナリアがあんなに強いだなんて」

「ありがと。カッコいい所見せたかったんだけど、ちょっとヒヤっとさせちゃったかな?」

 

 リナリアは少し微笑み目線を私に寄越す。

 

「うん、少しね。私も少しなら戦えるのだし、頼ってくれてもいいのよ?」

「我が主がそう言うならそれもいいけど、私は一度守れなかった無能な従者だ。だから、清算といっては何だけど今度こそは守りたいんだ」

「そう、ね。ごめんなさい...」

 

 自分から彼女の元を離れてしまったのは私だ。私が、私の不意が彼女に責任を感じさせてしまっている。

 

「ああ!そういうつもりで言ったんじゃないんだ。とにかく!私が一緒に居れば大体は安全さ。だから今度はもう、絶対に離れないでね」

「...うん、分かったわ。ありがとう」

「ふふっ、なんてことないよ。私はネリネの従者(メイド)なんだから。全ては主の仰せのままに」

 

──────

 

 周囲の安全を確保し、コボルト達の残した装備を纏める。この様に旅人や商人を襲って得た武具だろうか。その中でもまだ使えそうな物をのみを荷物へ纏める。パルミアに着いた時に売れば多少の足しにはなるだろう。私自身が鑑定魔法を使うことができれば、今ここで何が良い物かを判別できるのだが、まだ私は覚えられていない。

 

 王都への道のりはまだ長く。そして、パルミアまで長い長い道を二人で歩く。




剣戦闘!一回書いてみたかったんだ!
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