2ページ目に飛んでいないが投稿。何とかして春休み中にニルヴァーナ編を終わらせないとまたグダグダになっちまう!というか早くエドラス編を書きたいんじゃ!あと2話ぐらいで終わらせたいところで候。
暴威の顕現。塵魔はその全容を出さずとも恐怖を植え付けた。悪魔の角は火竜を易々と貫き、生贄を神へと捧げるかのように天へと舞い上げた。
「ナツ───!」
弧を描きながら落下するナツの体の下にルーシィは自分を潜り込ませクッション代わりにする。しかし何故かあまり重たくないのだ。細身であるナツはその分筋力で上乗せされており、更に空中から地面に落ちる落下速度でかなりの重圧を受けてもいいはずなのだがそれがない。そう思った時にはルーシィの手や服に何か生暖かい液体が付着していた。
「ちょっと、ナツ!しっかりしなさい!」
「ぅ・・・ジョニィ・・・カハッ」
咳き込むと同時に大量の血液が溢れ出した。それだけではない。腹部に巨大な穴が空いている。そこから血が噴水のように漏れ出していた。致命傷どころではない。死の一歩手前だ。
「私が時間をなんとか稼ぐ。その間にサクラとナツを任せる」
「でも・・・!」
ルーシィの先に見えるのは人間ではない。竜だ。そこにいないのは分かっているが巨大な角を持った赤目の竜が再び暴虐を尽くそうとしている。蟻が恐竜には勝てないように、人間もまた竜には勝てない。
「俺が安全地帯まで連れて行こう。早く」
「でも!それだとエルザが!」
「いいから行け!聞こえないのか!?」
決死の判断なのだろう。もう止められない。ルーシィはナツの腹部に自身の服の袖を破いて作った即席の包帯をキツく結びつけ、手を伸ばすジェラールの手を掴んだ。
「ウェンディ、君もだ」
「は、はい!」
ウェンディがジェラールの手を掴む。それを確認し流星を発動し、光の残像を生み出しジョニィが追いつかない所へと逃げる。しかし───
「う・・・おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
逃さない。三叉に割れた角の矛先を流星へと狙いをつける。万力の力を足へと叩き込み、流星すら叩き落とそうと踏み出す。
「アイスメイク
氷の壁がそうはさせないと立ちふさがる。エルザは背後を振り返るとやはりというか何というか、絶対絶命の危機だというのに口元に笑みを浮かべているグレイが立っていた。
「全く、私の声が聞こえなかったのか?」
「生憎と素直に言うことを聞くいい子には育ってないからな」
エルザの隣に立つ。リンと綺麗な音を響かせ作り出したのは銀と見間違えるほど美しい槍。
「お前はどう思う?」
「あぁ、ありゃ誰がどう見ても魔法に呑まれてるだろ」
目の前で敵意を向けるジョニィは苦しそうに変形していない腕で頭を抑えていた。何かを抑えているのに必死なのか口から溢れる唾液にも気づかない。三叉に割れた腕が元の腕へと戻ろうとしているのか徐々に角が解けて行くがそれでもかなり遅い。
「死ぬなよ」
「誰に向かって言っているんだ?」
「血が・・・止まりません・・・!」
一方戦線から離脱したルーシィ、ウェンディ、そしてジェラールは致命傷を負ったナツを治癒していたのだが、傷が深過ぎたせいで血が止まらなかった。
「ナツ!しっかりしなさい!」
ルーシィが軽くナツの頬を叩く。こうでもしないと意識が消えてしまうのだ。呼吸はもはや虫の息。ここで気を失ったらもう戻らないだろうと言うことがなんとなくだが分かった。
「俺がなんとかしよう」
「で、でもジェラールは治癒の魔法は・・・」
「あぁ、使えない。だが他のやり方がある」
そう言うなりジェラールは自分の手に魔力を流す。ボッ、と炎のような青い魔力がゆらゆらと揺れていた。
「先に聞いておくが、今の傷の半分だったら治癒出来るか?」
「でしたら多分・・・いや、します!」
「それは良かった」
笑みを微かに浮かべ、穴が空いた腹部の上に軽く手をかざす。一段と青の光が灯ると同時に時間が巻き戻るように穴が空いた腹部が修復されていく。
「時間の操る魔法だなんて・・・古代魔法じゃないの!?」
「いや、これはそんなに便利なものではない」
ナツの傷が3分の1程になり、青い光が消えると同時にジェラールの片腕に亀裂が入った。瞬間、血が溢れ出す。ドクドクと流れ出す血は腕を真っ赤に染め上げ、肌色を探す方が難しかった。
「ナツの傷を俺に移植した・・・!
これでなんとかなるだろう・・・」
疲れた様子で木にもたれかかる。ルーシィは余った布を取り出し、ジェラールの傷ついた腕を強く結び上げた。
「あんた・・・何でここまで・・・」
「記憶がぼんやりとしかないからはっきりとは言えないが・・・一つはエルザのためだ。そして・・・」
揺らぐ瞳で顔色に僅かな生気が戻ったナツを見た。
「ナツは希望だ。どんな暗闇であろうと照らして見せる・・・そんな輝きが見えたからな」
傷を負っていない手にジェラールは炎を宿した。ゆらゆらと揺れる炎は敵を燃やすものではなく、光。人の心を照らすかのように美しい炎だった。
「俺に出来るのはこれぐらいだ。後はナツに託すとしよう」
氷の城壁に穴が空いた。氷の破片は地に舞い落ち、飛び出た人影も弧を描くように地に墜落した。
「あいつ、加減なしで殴りやがって・・・」
上半身裸のグレイはそう言い残し地に倒れ伏した。鍛え抜かれた体には擦過傷、切傷、打撲痕とおおよその怪我が刻まれていた。最後までその手に持ち続けた銀槍は役目を終えたかのように空へと消えて行った。
何分稼げたかは分からない。が、体を包む暖かな火は確かに自分たちの役目を果たしたことを語っていた。
「ったく、来るのが遅ェんだよ」
自らの意志を託し終えたように眠りについた。きっと彼ならば大丈夫だろうと。そんな祈りを込めて。
そこを形容するには何といえばいいなだろう。そこら中から生えた氷の塊。そして折れた剣群と砕かれた細微な装飾が施された鎧。その中で蹂躙するのは黒い魔王とでも言えばいいのだろうか。元に戻った腕で華奢とも言える首を鷲掴みにし、空中にぶら下げる。
「がっ・・・あっ・・・!」
「ちっ、手こずらせやがって。面倒かけさせるんじゃねぇよ」
手足をばたつかせるが、それも虚しい抵抗だった。それ程まで圧倒的だった。S級のエルザと頭のキレるグレイがいながらも完璧にいなされ、弾かれ、避けられ今こうして死にかけていた。
「じゃあな」
空いた片手で、血濡れて神刀から妖刀へと成り下がった刀の先を心臓へと狙いを付け、躊躇いなく放った。
今にも砕け散りそうな鎧に剣先が刺さり、心臓を突き破るまで5cm。エルザ自身諦めかけたその時、オレンジの光が駆け抜けた。本来であれば心臓を貫いていたはずの刀は空を引き裂く音だけを残していた。しかし、ジョニィは焦らず、馬鹿にするような笑みを浮かべ通りすぎた光の方を見た。
「死に損ないが何をしに来たんだ?」
薄れゆく意識の中、エルザは笑みを浮かべた。この絶望に囚われた少年をきっと───
「───お前を助けに来た」
次から本番。