真・這いよれ!ニャル子さん 嘲章   作:黒兎可

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SAN値回復ポイント、しばらくいちゃいちゃしてると言ったな。

あ れ は 嘘 だ。

※一応活動報告にて言い訳


 とある民俗学者の走り書き、あるいはネクロノミコン計画プロローグ

 

 

 

 

 

 嗚呼なんとかくも恐ろしい――――! これが誰かに読まれるころ、私がはたしてどうなっているかは定かではないが、それでも私はここにこれを書かねばならない。書かなければ、あのあまりに思い浮かべるだけでもこの世の地獄と形容するのすら軽いほどに名状しがたいビジョンを、過ぎ去った時間とともに忘れてしまう――――決してそうあってはいけない。それは私の、ひいては人類に対する裏切りに他ならない。

 私がこの筆致を正しく読み合せられる形で記述できているかすらすでに定かではないが、それでも私はこの眼前にたゆたうあまりにも悍ましく、感情あるすべての生き物に対して冒涜的とさえいえるこの惨状を残さなければならない、そういった使命感から筆を執る。

 だが、嗚呼――――目が覚めた時点で私の体は私の体ではなかった。これは何かの夢なのか、疑い続ける私であるが、しかし夢にしては妙にこの肌寒さと背筋をはい回る得体のしれない感覚が、違う何かを告げてくる。■■■■■■■■(※筆跡が塗りつぶされており読めない)とそこからおびただしい数がはい出ているこの惨状が私の眼前の光景である。空は赤く日の照りは黒々とし目玉が浮かんでいるようでさえある。それも一つではないが、それが常に私を見下ろしているかのように感じられてしまうのが、既に私の正気を保証■■■ない。見るがよい、あの天を覆い隠さんとばかりにビル群にまとわりつく巨大な吸盤を持つ触手の数々を! 左右にゆらりゆらりとそれはそれは恐ろしくも数々の膨大なその質量をゆらめかせ、時に地上を蹂躙する。この地と肉にまみれた臓物のような大地を歩くだけの気力を奪うには十分すぎる光景であるが、これを前にしても私は足を踏み出さないという選択肢はない。私はただの吹けば飛ぶ一つの節くれにすぎなかったとしても、この場においてただ一人正気の己を知覚し自覚し存在している古我なのである――――この連続性を担保することをせずして、そのための記録を残さずして何が、何が学者の端くれであるか。

 記そうぞ、嗚呼だからこそ記そうぞ。しかしやはり眼前の光景は何度見直しても変わらない。足を踏み込めば肉と化した大地が沈み血が噴き出す見るも目をそむけたくなる景色が広がる。砂という概念を喪失したこの世界で、しかし今現在においては地上を踏み歩く者はこの私をおいてほかにない。故にしかし、私はこれが夢であることを願い足を踏み出し続けたのだ。一歩一歩、踏み込めば踏み込むほど足は血の海に沈み靴とその内側に赤黒く浸食してくるが、それにより一つ分かったことは、これは地面の上に膨大な血肉が張られた状態であるというだけであり、本質的にはこの下にコンクリートの地面がいまだ残っているだろうということだ。肌は妙に寒く、ここが北国かさもなくば太陽そのものの機能が停止しているか、あるいは地上が氷河期でも迎えたかというところであろう。どちらにせよその何れかであるかを調べるすべはもはや私にはない。通信機器の電波系統は死滅しており、映像には砂嵐のごときノイズと、時折画面にちらちらと映る首を吊った人間のような不気味なシルエットが点滅する。それを直視し続けることがとても私にはできず、故にその映っている映像の詳細についてはここにおいて割愛させてもらう。

 足の不快感に顔をしかめながら道らしき道を歩いていくが、しかしそこかしこ視界に映る映像を見る限りにおいて、もはや私の脳では処理しきれないほどの凄惨な状況になっているらしいことはありありと理解できた。道行く道に■■や■■■やら、あるいは四肢の破片やらが無造作に転がっており、あるいは地面に突き刺されたりしている。まるで悪魔のガードレールか、地獄の電柱である。骨で構成されたオブジェを一目見た時点で、この世界を設計した存在のなんと悪趣味なことか、それを嫌でも理解させられた。そう、だからこそ私の手は震えている。一体何があった、私たちが暮らしていたかの世界がこれほど冒涜的な有様になってしまうのか。これほど暴力的な赤に染まってしまうというのか。人影一つなく、辺りには■■■■■■■■■■■■■■■を私■知らない。

 歩けば歩くほど息が詰まる。むせかえるような鉄の匂いと、焦げた肉の匂い。以前、一度、フィールドワークで中東の遺跡を訪れた際にテロが発生したときのことを思い出す。あれに巻き込まれた時も似たような匂いがした。人間が焼ける匂い、人間が解体される匂い。戦場でしか感じることのない、この国においてはほぼほぼあり得ない、距離的にも心理的にも離れたこの匂いが、この世界の、私の視界に映るすべてを侵略し尽くしている。端的に言えば、この時点で私は吐瀉物を抑えきれず足元にまき散らした。膝をつき両手と、はねた血で胴体も含め多くの箇所を赤く染めながら、喉や口を焼く酸をこらえきれず吐き出した。むせかえるようなドロドロとした爽快感の欠片もない、ただただ不快感を醸し出すこの空気を吸い、吐く。吐くものがなくなると今度は過呼吸に近くなり、しかしそれもやがて力尽きたように倒れた。気が付いたのはしばらく時間がたってからだろう、空はやはり赤々としていたが上っているものが月になったのはわかった。月は太陽と異なりらんらんと輝き、しかしその本来なら以前と変わらないはずの美しい惑星は、それを見ただけで私に言い知れぬ焦燥感を与えた。このままではいけない。このまま月の光に照らされていては、何もかもを失ってしまう――――そう連想した時点で、その連想もまた私の精神を犯している何かしらの狂気の類だろうと判断できた。

 あるけど、走れど、交通手段を自転車に変えもした。バイクを運用しもした。だがいずれにせよ、ここは出口の見えないマラソンだった。行けば行くほど体力も消耗するものの、しかし食事は意外と困らなかった。コンビニエンスストアの電源がいまだ生きている。すでに崩壊してボロボロとなったこの状況においては、誰一人として人間はいなかったのだが、しかしそれでも冷凍食品を加熱したり、あるいは冷蔵ドリンクを利用したりといった手段をとれたことは、奇跡的だったといえるだろう。もはやそれがなければ私も命をつなげまい。少なくともこの少年のような肉体であっては。なぜか持っていたフォークを使い熱された肉を頬張るあの感覚は、金銭すら払う必要もなくすべてが死滅したようなこの終末世界とでも呼ぶべき場所においては、私の社会性など塵芥に等しかった。ただただ生きることを念頭において、そして私は足を進めていた。

 海だ――――そして私は陸地の果てを見た。予想通りというべきか、堤防に近いその場所は肉のフィルムが剥がれているわけでもなく、腐り落ちたのかコンクリートの地面が露出していた。赤い空に照らされる海は色のコントラストの関係か妙に黒く、黒く、深く、色を反射しないそれであった。まるで深海そのものが眼前においてこの姿になっているような、そんな形容の難しいような直観を抱く。見るだけで意識が溶かされるような錯覚と、膝から崩れ落ちる脱力感。まるでその奥の、深淵に何かこちらの魂でも引きずり込むような得体のしれない怪物でも潜んでいるような。そんな詩的な表現が湧き出るくらいには私も参っていたのだろう。嗚呼――――そして奴らは現れたのだ! 私がその場に現れたのを聞きつけて! 音か、匂いか! もはやその時点の私には欠片も理解できない状況にあったそれは、海の底から浅瀬にかけて、徐々に、しかし実際には猛烈な速度で駆け上がってきた。気が付けば海水の黒いうねりには、それこそ数数えきれないほどの不気味な巨体がうごめいていた。おおよそ3メートルには満たないだろうが、しかしこの少年の体や、あるいは私本来の体と比べても明らかに大きいその背丈。体格もがっしりとしており、そして黒い海水のしめりけを帯びた全身は、てらてらと黒い太陽の光を反射していた。

 彼らは走っていた。水というそれは、彼らの動きを阻害する要因たりえない。彼らにとってホームである海中は、すなわち我々にとっての空気と差はなく、そして空気もまた彼らにとって動きを阻害されるものではないのだ。次々に水面から湧き出た彼らは、それはもう猛烈な速度で飛び上がりこちらに向かって走ってきた! 私は、もはや武器と呼べるものもなくただただ道中で見つけた猟銃を狙撃する。それも一発が一匹の頭部を打ち抜きはしたものの、それすら踏みつぶし、わたわたと海面を覆いつくす彼らは、私を見て、私めがけて足を運んでいた。嗚呼、なんと、なんと悍ましい――――! あの鋭利な歯は一体何のためにあるのか、あの剛腕は、筋肉は、猛烈な速度で動けるだけの敏捷さは、体の強度は、そしてそうであってもその身体構造が我々とさして大きくは違いないというその事実は、いったい何のために存在するか――――! 彼らは正しく侵略者だった。我々から見れば、彼らは侵略者だった。彼らから見た場合のことなど私には知るよしもない。おおむねかの小説群に記載されている内容のとおりであるのなら、むしろ我々こそが彼らにとっては歯牙にかける程度のそれでしかなく、我々はすなわち彼らに搾取される形態をとらざるを得ないのだろうか。嗚呼、なんと悍ましい事実! なんと恐ろしい光景! 身の毛も弥立つ、辺り一面を覆いつくす魚臭さ! 彼らのげに恐ろしきところは、私の知りえる科学的見解においても、いわゆる民俗学的情報においても、考古学的考察においても、欠片も存在を確認しえなかった点にある。ゆえにこそ、それが現実を汚染しているこの有様に■■■■が言っていたことをどうしても想起せざるを得ない。すべての物語に書かれていることは、すべての時代において必ず何かしらの形での実現を見る――――そしてそれらは、我々が認知できていない世界において、あるいは時間軸において、まったく順不同にばらばらに、いついかなる形であっても必ず履行され、そして滅亡につながるのだと。

 私には理解できない世界であるし、かの■■■■はそう言って涼し気に笑う程度の返答しか返さなかったが、嗚呼、あの日々は間違いなく私を今の狂気に落とし込むだけの下地ではあったのだと。時間が狂い始めている私にとって、すでに眼前のこの魚たちも、さらにその奥から盛り上がる巨大な影も、認知することも認識すらしたくはない。だがそんな私の前に、ようやくというべきか人影が現れた。それは黒く長いロングコートを身にまとった、白髪の長い老人だった。片手に銛を持ち、そして老人の出現と同時に、海中からクジラのバケモノのようなものが現れ、のたうち回った――――。海中から現れ出た巨大な半魚人や悍ましい数の彼らを吹き飛ばし、そしてそれに倣うように、イルカノのようなバケモノも、あるいは悪魔のようなシルエットを持つバケモノも天空から現れ出て、彼らに襲い掛かる。老人は身動きすらとれなくなった私を見て、鼻を鳴らし、襟首をつかんだ。

 中身が違うのか、くだらない――――何やらそんなことを呟いていたような記憶がある。震える手も、凍える足も、視点の定まらない視界も、聞き取りがたいこの耳も、肉体とのこの乖離すべてを一蹴し、老人は私はそのまま引きずって連れて行った。

 私が目覚めたのはその時点においてであり、そして当時の私は、そのあまりの体験に精神が崩壊まではいかないものの、大きな軋みをあげた。それまでの私にあった、神と、人間との関係に。人間の神に対するあり方に、その分析に、そして資料に、私が学習し、これから学ぼうとしていたそれらすべてを崩壊せしめた――――!

 ならば私は人類のために進まなければならない。神だ。あれらの神々に、私はコンタクトを試みる必要がある。私に限らない。私以降の人類でもいい。誰かしらが彼らと正しく接触を図らなければならない。さもなくば世界はああなるのだ。私が視てしまったあの物語のような、世にも悍ましい光景こそがすべてを塗りつぶしてしまう――――それではあまりにも救いがない。

 そのためならば私もまた、時に狂気に走ろう。古に封されし書物を紐解き、論文を解析し、そしてありとあらゆる規格をもってして、私が私でなくなったとしても、私は解き明かそう。

 そうでもしなければ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

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 あいあ、あいあ。

 たすけて。

 

 

 

 

 

 

(以降はボールペンで書きなぐったような、名状しがたい絵が続くため割愛)

 

 

 




本作のCVイメージ:
 手記の読み上げ:野島裕史
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