真・這いよれ!ニャル子さん 嘲章   作:黒兎可

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素人探索者集団、アマチュア探索者招聘
一見、原型をとどめていない「彼」の登場です・・・


風惑う不確実世界/本線

 

 

 

 

 

 とにもかくにも真尋をそのまま捨て置く訳にもいかず、龍子たちは救急車を呼び真尋の搬送に付き添った。再びの緊急入院につきではあったが、同伴する保護者たる母親と再び顔を合わせることとなり、龍子はたびたびの恐縮であった。ここ直近、自身の周囲で真尋が神話的事件に巻き込まれる頻度の高さもあいまって合わせる顔がないというところではあるが、しかし一方で八坂頼子、真尋の母親である彼女は龍子と珠緒を責めはしなかった。

 ただし、彼女にとっては不可思議な質問をされはしたが。

 

「まぁ二人を責めたところで仕方がないでしょ。別にあなた達が何かしたって訳ではないでしょ?」

 

 このあたりで珠緒、というよりもイス=カのリアクションが若干怪しいところはあったのだが、気づいているのか気づいていないのか、母親はそれを見なかったことにする。不安そうにする二人を抱きしめ、優し気に諭す。

 

「大方、何かヤバいものを見てショックを受けたんでしょ? 大丈夫、こういうのは時間が経てばなんとかなるわよ。私も経験あるし」

「いえ、それでもここまでおかしくなっていると……」

「そうは言ってもこういうのは、究極的にはウチの問題だから。お嫁さんに来てくれるとか、そういう話だったらまた別だけど、違うでしょ? 二人とも」

「え、ええっ」「ョョっ」

 

 龍子は羞恥により、イス=カは珠緒がどう見られているかという事実により、それぞれ取り乱す。そんな二人に「大丈夫よ」と笑う彼女は、たとえ接触が少ないにしても息子に対する信頼の強い、力強い母親の姿だった。

 

「そこのところ、別にどうなっても私から何か言うことはないから、好きにやりなさい? できれば裏切ったりはして欲しくないかなーって、親心には思うけど。見たところ二人とも悪い子じゃないみたいだしね」

「その評価は、見方によってはかなり的を外すところになると言いますか……」

「でも、ウチの子とこんな時間までずっと一緒に遊んだりしてるって、中々ないわよ? あの子、お父さんにコンプレックスがあるのか、周囲にあんまり心開かないし」

「コンプレックスですョ?」

「ええ。私も細かくとらえきれていないから、指摘するのが難しいんだけどね……。えっと、そういえばだけど、二谷龍子さんだったかしら」

「へ? あ、はい」

「二谷……、貴女、知り合いに二谷辰隆(よしたか)って人がいない?」

「えっと、一応父親なのですが……、お知り合いですか?」

「結構浅からぬ縁なんだけど、今どこにいるか知ってたりする?」

「その、生憎と失踪していまして……。今は、姉が入っていた会社(ヽヽ)とかの関係者さんたちに、お世話になっています」

「そう…………。貴女も苦労してるのね」

「わぷっ」

 

 頭を撫でられながら、龍子は終始恐縮し続けていた。

 ともあれ、いったん真尋の安全を確保し、二人は翌日に行動を起こすことにした。

 翌日に始業よりも一時間早く登校した二人は、新聞部の部室へ集まった。当面の作戦会議がてらである。ちなみにだが部室に入った時点で、部屋のパイプ椅子に何故か当然のようにクー子が正座で座っているあたりが中々にカオスである。そして無言で食べ物を催促する彼女に、なぜか龍子は手に持っていた煮干しのお菓子の小袋を手渡した。

 

「はう、網目模様……」

「すみません、さすがに学校では準備ができていませんので、しばらくそれで我慢を……。明日には自宅に届きますので、そっちでお願いします」

「ん、わかった。私は寛大」

「いえいえ、なにとぞよろしくお願いします……」

 

 ははぁ、とひれ伏すニャル子に、ちびっ子なクー子がえへんと威張る風。本性たる存在として見ればなかなか業の深い光景であるが、彼女の側からしてみれば「ただの人間」の体に対して「邪神の変化してるだけの存在そのもの」であるクー子は文字通り危険物でしかないので、妥当な対応だった。ちなみにイス=カ自体は現実逃避して虚空を見ながら「あ、ちょうちょ」とありもしない光景をつぶやいている有様である。よっぽどあの照明弾めいた所業がトラウマになっているのか、はたまたそれにより彼女自身のSAN値が削り取られているのか。

 咳ばらいをし、イス=カはともあれ説明を始めた。部室備え付けのPCの電源を入れると、イス=カは慣れた手つきでブラインドタッチしながら、何かのサイトにアクセスする。

 

「時間にして昨晩から一週間後、ここの学校に惑星保護機構の調査員が来るんですョ」

「よくわかりますね、そんなこと」

「我々もそういった情報は大枠でしか確認はできないものの、媒体が映像なのでそこはわかるんですョ。具体的に言うと統一コスチュームがあるんですョ」

「戦隊ものとか、エックスメンみたいなものですかね」

「とりあえず動画が我々の共有サイトに上がっているので、見てみるんですョ『U=tathlb(ユー=タス゜ブ) チャンネル』」

 

 彼女が提示したサイトはウェブサイトであるという一点以外、明らかに地球産のものではなく、一目見た時点で龍子の顔から血の気が引いた。というかサイト名がまず人間に発音不能な音を含んだものだったし、画面に表示されている文字自体も彼女たちとは大いに文化圏のことなる象形文字めいたそれだった。また背景は原色パステルカラーな紫、マウスは黒く色々とドギツい。まだしも画面の大部分が、イス=カの選んだ動画で占領されているのが救いか。猛烈な立ち眩みを覚える龍子の手を、クー子がそっと握る。

 

「――――っ、熱! って、クー子ですか。どうしました?」

「ニャル子、大丈夫?」

「一応大丈夫ですよ。……年下っぽい子に精神分析されるのもどうかと思うんですけどね、私も」

 

 一応その手の技能はキャラシートにあったはずですが、と大分メタフィクショナルなことを言う。当然クー子もイス=カも疑問符をうかべるが、なんでもありませんと流し動画に集中した。

 数人の学生服同士の話し合い。中央にはボロボロの黒いフード姿の何者かがおり、全員で何事か話し合っている。その黒い外套の男のシルエット――――ひどく頭部が「長い」シルエットからなるべく目をそらす龍子はさておき。全体の話し合いらしきものが進むも、「足りない? 何が足りないんだっ」という叫びが聞こえる。少年のその言葉に何も言わず、外套の男は背を向け、窓の外で指揮棒を振るように腕を動かす。と、亜空の彼方から無数の光の雨が、滝のように降り注ぎ、画面そのものが光に包まれてホワイトアウト。

 龍子は動画の保存されているwebページについて確認することを完全に放棄したうえで、動画について確認した。

 

「足りないといっていましたけど、これは……」

「こちらでも読唇での解読班を用いて、何かをしなかったからこうなった、というあたりまでは特定したのですョ」

「何かとは?」

「その、相手方がそれを話しているようなので、ちょっと確認がとれないのですョ」

「ほぼノーヒントな訳ですね……」

 

 その後、龍子のイス=カへのインタビューにより、以下の情報に集約。彼女はホワイトボードにマジックで書いた。

 

・約一週間後、水曜日に惑星保護機構の調査員が地球を訪れる

・現地職員と複数の人間たちとで会議

・「星の戦団」と呼ばれる軍団をすでに伴っており、このときの会議は何か重大なものであることが推察

・何か重要な行動をしなかったことにより、その不手際で地球が危険惑星となった。ここは要調査

・その結果、「星の戦団」による光線の集中砲火で地表は蒸発、焦土で効かないレベルの有様になる

・その更に数日後、惑星の状況変化により邪神たちが目覚め地球を離れ、その余波で惑星はチリとなる

 

「なんですかこの詰み状況は……」

「それ故に我々も頭が痛いのですョ……。ほかの時系列の我々とバッティングしない転送タイミングが一週間前だったもので、そこを起点に今の私は動き始めているという訳なのですョ」

 

 互いに頭を抱えるイス=カと龍子。現状、打開策が見えてこない状況であったが、クー子がその画面を見て、ぼそりと「しゅーたくんだ。マヌケメガネ」と呟く。もっともそれは二人の耳には届いておらず、状況は変化しない。

 

「そろそろ朝読書の時間が始まりそうですのでアレですが、放課後もう一度集まりますョ? 少なくとも情報収集が足りていないのは確定ですョ」

「いえ、あの、そもそも何の情報を集めるべきなのか、集める周辺の前提条件がすべてふわふわしているかと思うんですが……」

「ョョ……」

「クー子、何かアイデアはありませんか?」

 

 龍子の言葉に、クー子は断言する。

 

「シュータくんに聞けばいい。ここに居るし」

「へっ」

 

 画面を指さすクー子。そこには、暗がりで顔立ちなどはよくわからないものの、眼鏡をかけた、明るい髪色の制服姿の男子生徒の姿が見える。

 

「現地の調査員、たぶんこのシュータくん。ダメガネ、マヌケメガネ、メガネ本体」

「いえ、あの、どなたですョ? お知り合いですョ?」

 

 イス=カの言葉に、龍子は思い出すように上を向いて、人差し指を口元に当てながらゆっくりと口を開く。

 

「秀太……、長谷部さんのことですかね? 長谷部秀太。二年生、陸上部の幽霊部員で、中学時代はスプリンターとして将来を有望視されていましたが、暴力事件を起こし停学、休部。学校には来ていますし、その能力を買われて部の所属になっていますが、公の大会にはその事件以降出ていないみたいですね。二年生になってから、逃げるようにこちらの学校に転入してますし、高校一年生の時もひょっとしたら何かあったのかもしれません。現在はどちらかというと、ゲーム同好会の方に入り浸っていますね」

「ョ、えっと、ニャル子サンもお知り合いですか?」

「いえ、さすがに」

「なのにその詳細プロフィールは一体……」

「まぁ女子同士の会話ですので、それは、企業秘密です。それはひとまず置いておいて……。どういうことです? クー子」

「シュータくんは、ヒゲの人よりも前にしばらく行動を一緒にしてた。抜けてるところもあるけど、使えると思う」

「ヒゲの人ですョ?」

「クー子の召喚者ですかね……。んん、とするとまずそっちの接触をして、何か情報を持っているかどうかを聞くのが優先ですか」

「大丈夫。説得は私がやる」

 

 龍子とイス=カは顔を見合わせる。見た目、小学生くらいの女の子にしか見えない彼女がこう断言するあたりに違和感を感じている二人である。いや、なまじ彼女が邪神の化身、魔人としか形容のできない異常な能力を持っていることはすでに確定的に明らかではあるのだが、それはそうとして見た目がこれであるというのは違和感に拍車をかけていた。もっともクー子もそれを察したのか、ふくれて腰に手を当てて抗議する。

 

「はぅぅ……。一応言っておく。私、シュータくんと同い年」

「ええっ!? というと、えっと、17? 私たちより年上じゃないですかっ」

「いえ、私よりは年下ですョ。この珠緒サンとは同い年みたいですが……、って、十七歳?」

 

 再度、龍子とイス=カはクー子を見る。まじまじと見る。

 それが不満であったためか、クー子は半眼で、右手の平の上に小さな火球を生成した――――。

 

「って、やめてください死んでしまいますよ! なんでこんな冗談みたいな流れで命の危険にさらされるんですか、私いないと真尋さんの代わりに食事をあげられる人がいませんってっ」

「大丈夫。これは威力が弱い。死にはしない。つまり子供用、小児用……、私、幼児じゃないけど」

「わかりました、わかりましたからっ」

 

 龍子がなだめ、イス=カは焦点直前状態で何かに祈り始める始末。クー子はしばらくそんな二人を見つめた後、手元の火を消した。それでもまだ不満の残っている様子の彼女に何度も説得をかけ、対価の食糧の献上をもっと上げることで決着がついた。

 

「とりあえず今は解散して、お昼休み再結集といきましょうか」

「そうですネ」

「ん、たぶん無意味だと思う。私に任せて」

 

 その一言と共に、まるで火が燃え尽きるようなエフェクトを発しながら、煙を上げてクー子はその姿を消した。こころなし彼女の座っていたパイプ椅子が焦げているようにみえなくもないが、龍子もイス=カもこれは無視した。触らぬ神に祟りなしである。もうちょっと冗談を軽く言い合えるようになるためには、彼女ともっと仲良くなる必要があるらしかった。

 

 

 

 ※   ※   ※

 

 

 

 

「――――ところが残念だったな。さっき<幸運>ロールを失敗してるから、確定で1D100のSANチェックのダイスロールだ」

「ぬあ!? なんだと……、さてどう出るか、あっ察し」

「……おいマジかよ。残念、発狂おめでとうだ。元シナリオに従えば精神病棟送りだが、そういう感じでいいか?」

「あー、まぁここまで来たらどうしようもないよな…………」

「じゃ、そっちのボディビルダーのPCはこれで終了。めでたくクトゥルーエンド直行だな、うん」

「「「「これは酷い」」」」

 

 ゲーム同好会の部室にて、長谷部秀太はクトゥルフ神話TRPGのキーパリングをしていた。そしてプレイヤー3人と至ったエンディングに対し、率直な感想を述べていた。シナリオの決着、最後まで生き残っていたプレイヤー二名のうち、一人は地下鉄の奥からヨグ=ソトスがあふれ出たその余波でがれきの下敷き、もう一人はなんとか逃走こそしたものの判定に失敗しヨグ=ソトスの体内に首から上を突っ込まれ、発狂、生存はしたが精神病棟送りという流れである。

 

「後でリプレイにまとめるけど、とりあえず講評といこうか? シナリオ的にPC1は色々気づいていたみたいだけど出目が悪かったな。完全にダイスの女神様に鼻で笑われてたわな」

「なんで最後、がれきの下敷きになってんだよ……」

「PC2はロールプレイっていうか、キャラの性格にそって行動しすぎだ。ちょっと警戒心が足りないから、唯一生存できても数週間後に取り込まれるオチなんてのになる」

「まぁ色々おいしい感じでいいんじゃねぇ?」

「いやせっかく別なシナリオで生き残ったんだから、ちゃんと生かしておけって」

「でも今回生き延びてもSANが15しかないし、既にオワコンというか」

「禿同」

「PC3は、まぁ一番探索者してたな。…………ボディビルダーだったけど。今更だけど何だよ、この、芸術(肉体美)の技能99って。なんで極振りなんだよっ」

「いや、ネタでとったつもりだったんだけど、意外と有用に運用してたのはサンキューってことで」

 

 わいのわいのと各々、思うことを言い終わって、とりあえずとパソコンに簡単にまとめる。リプレイ――――プレイ時の状況やロールプレイ、マスタリングのまとめは後日にということで、本日は解散した。

 

「しっかし意外と馴染むもんだなぁ。こんなところに転入させて油売らせてアホかと思ったけど。霧彦(ヽヽ)のヤツ、一体何考えてるのか」

 

 己のふわふわとした金髪を適当になでつける秀太。髪がこの色に「変色」してからすでに数年は経っているが、いまだになじんでいる感じはしない。下渕メガネの位置を調整し、彼は靴を履き、自転車を取りに向かった。

 ――――そして、その道中で、見覚えのある少女を見かけた。

 ともすれば小学生にも間違えられそうな身長。ワンピース姿の、赤毛の、愛らしいと形容できる顔。

 それら一連の情報を見た瞬間、秀太は絶叫をこらえて自転車を全力で漕ぎ、裏門から脱出した――――脱出したが。

 

「――――って、先回り!?」

 

 角を曲がった瞬間、その前方に再び彼女はいた。逆光、そして少しうつむいている関係で表情はあまり見えないが、口元が笑っていることは理解できる。完全にホラー映画の演出のごとき状態である。当然のごとくドリフトし、秀太はベクトルを切り替えた。

 彼女に対して直角に逃げるよう全速力で自転車を漕ぐものの――――。

 

 

 

「――――どうして逃げる?」

「――――ひぃ!?」

 

 

 

 悲鳴を上げるのも当然、面食らったのも無理はない。

 自転車の背後、後輪の上部。荷台に当然のように座り、秀太の肩を持ってささやきかけてきたものだ。思わず転倒しそうになりながらもなんとか停車し、彼は肩で息をした。秀太はまるでモンスターにでも出くわしたかのような大慌てぶりで声を荒げた。

 自転車をとめ、慌てて降りる秀太。同時に飛び降りた少女に、彼は冷や汗をかきながら確認する。

 

「な、なんでお前がここにいるんだよ、子論(ころん)っ」

 

 子論と呼ばれた彼女は、ふるふると頭を左右に振った。

 

「違う、今はクー子」

「あん? あー、そうか。子論とお前とじゃ、厳密には『別人』か。中身はたいして変わってなさそうだが」

「はうう~。そんなこと、私に言ってて大丈夫じゃない」

「断言すんなよ、殺しにかかられても困るぞ。俺だってこんなところで『全力で反撃』したくないしな……。っていうか、どうした?」

「協力要請。たぶんキリヒコ様(ヽヽヽヽヽ)の仕込み」

「あ゛ー、他を当たってくれって言いたいが逃げられそうにねーな……」

「そもそもお昼休み、学内にいればこういう手段はとらなくて済んだ」

「そりゃご生憎様だな。窓の外から屋上に行ってただけだよ」

 

 そして数分後彼は龍子、イス=カ、クー子の臨時特別素人探索者チームに編入される運びとなった。

 

 

 

 

 

 




本作のCVイメージ:
 長谷部 秀太(ハス太):草尾毅
 
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