探索内容については冗長になりすぎたので、ばっさりしてます;
「……で、月曜日になったんだが、どうするんだ? 嬢ちゃん。期日まであと二日もないぞ」
「あはは…………、とりあえず今日のインタビュー含めて、怪しい生徒は四人に絞り込めたんですけどね」
おおよそ龍子の宣言通りの期間が過ぎ、つまり翌週の月曜日、放課後の新聞部である。
例の魔導書についてはつつがなく火曜日の夜には秀太のもとにとどく算段であり、特定生徒のプロフィールについても奪取。あとは龍子とクー子の蒐集した聞き込みやら情報をもとに、神話生物召喚の準備を仕掛けている相手をどうこうするという話なのだが……。
龍子よりも先に、まず秀太が口火を切った。
「とりあえず俺の方でも別途、何か怪しいものがないか調べられる範囲だが、学内で数か所調べて、それらしいのは見つけたから壊したんだが……、正直、その手の知識はないから過度な期待はしてくれんなよ」
「三か所ですか、ふむふむ……」
「ちなみに場所は、どれも準備室だ。……いや、というか、俺が陣の作成途中で発見して、結果的に壊されたっていう感じだな。完成度が最初に見つけたやつが五十パーセント、二回目が二十パーセント、三回目が十パーセントくらいだったし。というか、結構陣が大きすぎて、ロッカーには入らなさそうだったわ」
「作っていた相手は見つからなかったんですョ……」
「影も形もなかったな。まぁ、俺たちにその手の感知能力がなかったというのが実情だろうが」
魔術とかで姿を消されていたらたまったもんじゃない、と秀太。どうやら彼には、劉実やら何やらが時折使っていた「結界」に相当する能力の持ち合わせがないらしい。メガネの位置を調整し、頭をがりがりとかきながら彼は思い出す。
「状況と、指紋や毛髪とかが検出されなかったことから言って、おそらく魔法陣を作ってるのも、外部から魔法をかけてのことだと思うな」
「指紋とかどうやって調べるんですか……」
「そりゃ、順当に道具を使ってだな。その手の技能は一応『とってる』」
「だからそんなTRPGじゃないんですから……」
「いや、現実世界で取得するってのも、とるって表現するだろ? 別におかしくはないだろ。まぁ、点数化すれば80に、道具の補正が加わるくらいか」
「点数化してる時点で現実の技能ではないじゃないですか……」
「道具補正ですョ? 確かに何かレーザーポインターみたいなのをつかっていたですョ」
「結構本格的に準備して調査したからな。ガスも使ったし、穴はほぼなくなるだろ。点数でいえば10点加点ってところだ」
「シュータくん、学ばない」
例えはともかく、どちらにせよ基準がTRPGな秀太。やはり何かしら狂気にとらわれているのか、それとも冗句の類なのかは定かではない。
「で、さすがにそこからたどるのは難しいのと、一度設置されたところには現時点で再設置はされていないって点から、とりあえず小休止は出来てるんじゃないかと思ってるんだが……、一応、今の放課後遅くも捜索はするが、正直こっちだと特定できないんだが、どうなってるんだ?」
「あ、では私たちの方に移りますか。まず前提条件からおさらいしますね」
龍子の言葉に、イス=カが続く。
「前提として、学校に来ていない生徒は省いても良いのですョ」
「学校内に仕掛けるという前提でいえば、そうですね。この時期、季節外れのインフルエンザが何人かいますが、その人たちは除いても良いでしょう。私たちのクラスでいえば、余市さんとか。あと当然、真尋さんも。
さっきも言いましたが、その前提で聞き込みをして、怪しい生徒は四人に絞り込めました」
「……あー、根拠は?」
「企業秘密……、と言いたいところですが、お昼休みとかの所在不明時間と、登校時間、下校時間などをグラフにして集計して割り出しました。クー子にも張り込んでもらいましたので、まず情報漏れはないかなと……、私のお財布はだいぶ寂しいことになりましたが」
「網目模様、美味しかった」
「そっちもそっちで高校生レベルじゃねぇな、集計とかで割り出すのって……」
技能構成で言ったら私立探偵とかか? とその方面に明るくない人間には意味不明の発言の秀太。当たらずも遠からず、とは龍子の弁。当然のようにイス=カは意味不明といったようにぽかーんとした有様で、クー子はメロンの味を思い出してか、恍惚とした表情で「はうぅぅ……」とくるくる回っていた。
「それで、本日昼休みの時点でその四人の生徒にそれぞれインタビューしてきました。で、これがまた妙なことになっていまして……。四人とも、外見上のつながりはなかったんですが、SNS上でのつながりがありまして」
「SNS?」
「学校裏サイトから入れる小グループですね。まぁそこで、その、いわゆる降霊術系のを試してみないか、みたいな話があったみたいで」
「それで学校で準備するって話なのか? また面倒な……。って、それだと俺の調査結果と食い違うな」
「いえ、食い違いませんよ。本番は――――水曜日だそうですから」
「…………予行練習ってところか? いや、それでも魔術的にやってたんなら食い違うが」
「おそらくですけど、『描く』予行練習ではあったのでしょうと思います。という訳で、問題は―――『誰が』それを描くかに集約されるのではないかと」
降霊術、といっても本格的なそれではあるまい。いわゆる五円玉と門、YesとNoと五十音をもとに行う、一種のトランス状態を引き起こすような、簡易なものだろう。ただやり方が通常のそれと異なる上に、やや大掛かりな類のものであるらしい。
であるならば、それを執り行うメンバーのうち、魔法陣を制御する誰かが一番怪しいと睨むのは、龍子の推測として正しいと言えるかもしれない。
「そこで、まぁ、私もグループに入って、ちょっとインタビューしてみたんですよね。で、問題がそれなんですが…………」
「ョ?」
「真面目に推理力を要求される内容だった」
「論理パズルみたいなものですかね……、早い話が。えっと、より抽象化するために個人名は全部はぶいて、A、B、C、Dさんとそれぞれ呼称します――――」
女子生徒A
『担当、ぶっちゃけわかんないっていうか、私、恋愛運というか、占ってほしいから入っただけだし。……本当よ、私、嘘つかないから。つく必要もないし。もういい? 葬式明けで忙しいんだけど』
男子生徒B
『今回の降霊に関しては、いわゆるエンゼルさん系統のそれとはちょっと色を異にしてるんだよね。集まっているメンバーはクラスも学年もばらばら。いわゆる集団心理としてのトランス状態を働かせづらいような形にしようという意図で……、って、何? 誰が魔法陣とか準備してるかって? いや、僕の係ではないかな。現象に興味はあるけど、プロセスはたいして興味ないからね。そういうのはC君が担当じゃないかな。彼がやってくれるんじゃいかと思うんだけど』
男性生徒C
『いあ! いあ! ――――ん? 魔法陣? 興味ないね、僕はちょっと一身上の宗教の都合に忙しい。そんなもの僕は担当じゃないのだし、だれか用意するだろう。ま、僕以外は皆嘘つきなんだけどね――――いあ! いあ!』
女子生徒D
『Cくんがすみません、すみません……! 前に銅鑼からはじまった衛門で終わる映画見たときから、何かはまっちゃったみたいで……。で、えっと、魔法陣でしたっけ? どっちかというとAさんの方が詳しいかなと思います。誘ったのはAさんですし、その手の遊びのご経験も多かったみたいですし』
「――――という塩梅でして」
「Cだろ」
「いえ、さすがにそこまで露骨すぎると怪しいですし、その映画は私と真尋さんも見ました」
「そうでなくてもそれは、すでに別な病気なのですョ……」
「狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人なり」
龍子さえフォローする、中二病が発病した疑惑のあるCについてはともかく。
「確かに、完全に論理クイズになってるな。整理するとこんなところか?」
ホワイトボードに秀太が以下を記載する。
A.誰が魔法陣を担当するのかを知らない。私は嘘をついていない。
B.Cが用意するのではないか。
C.自分は担当ではない。自分以外は皆嘘つきである。
D.Aが用意するのではないか。
「この状態から論理的整合性をもって回答を導き出せばいいわけだが――――」
* * *
熱海で温泉を楽しんだ(?)後、真尋は劉実に「持ち去られて」、南下していた。
目指す先は奈良であるらしいが、いまいちその主目的が真尋には判然としない。
ともあれ道中、やはりそれはそれは名状しがたい光景が続いていたものの、詳細に思い出すことは真尋本人の精神的にダメージが大きいこともあるため、劉実のセリフのみをカットしてダイジェストとする。
「るみるみぱんち! ひゃっはー、汚物は消毒です! 海産物由来なんですから、良い出汁を出してください、魚人だけに! 魚人だけにっ――――」
「うぺぇ、真尋さんこれ、早く逃げないと塵になっちゃいますよっ、この! バイク頑張ってください、頑張ってくださいマシンシャンタッカー!――――」
「――――♪ ――――♪ (ほら、真尋さんも。歌ってごまかさないと、あれ起きちゃいますから、起きたら私たちもれなく食べられちゃいますから! 食料的な意味でっ)――――」
「ぎゃーっ、炎はダメですっ! お願いします信長公っ――――」『是非もなしじゃ――――まぁ儂も得意という訳でもないんじゃがなっ』
いや、セリフダイジェストだけでも真尋は疲労感を覚えた。既に人間の形をしておらず、体力を消費すらしていないというに、精神にはダメージが蓄積するらしい。しかし不思議と正気度が消し飛び発狂しない現在の有様に、ふと違和感を感じる真尋である。
移動中、異様に前衛芸術めいた文字で描かれた「神戸」の二文字を背景に走る劉実へ、真尋は問いただした。ちなみに現在の真尋は、劉実の胸とライダースーツとに挟まれる形である。動揺するような神経を既に物理的に持ち合わせてはいない真尋であったが、劉実はいたずらっぽく笑いながらそうしたのは言うまでもない。
「な、あ、」
「どうされました?」
「なんで、俺は、狂ってないんだ?」
「真尋さんが別世界の人格だからでは――――」
「いや、そうじゃ、なくて。今まで、見た、景色は、明らかに、危険なものだ、ろ」
「嗚呼、それですか。んー、真尋さん感づいているかと思いましたけど、さすがに理解はされていませんでしたね――――
問いかける劉実の一言で、真尋はそこから先を語るまでもなく正解に行き着いた。そうだ、そもそもよくよく考えれば今の真尋の状態で、生存できていること自体がおかしい。否、本来は「生存してすらいない」にも関わらず、意識を継続できているのが、ということだ。真尋が現在まで遭遇している暗黒神話に関係する存在は、一部例外こそあれど意外と物理的な事象に強く紐づいている。だからこそ、彼の知る彼女はもう「生き返らない」のであるし、その妹を「死なせるわけにもいかない」のだ。とするならば今の自分の状態とは。
「…………正気度の、判定を、省かれる、NPCは――――神話生物、ないし、邪神」
「ええ。今の真尋さんは、這い寄る混沌に『取り込まれた』存在です。アル・アジフ型の化身、というのが妥当な表現かもしれませんね」
「全く、笑えない、が、………………」
やはりその事実を聞いても、正気が消し飛ぶことはない。いや、既に自分の身は狂気の渦の中に委ねられているのかもしれない。そして、その話を聞いた時点で、真尋は一つ重大な事実に気づいた。正確にはその可能性について。それを問おうとするよりも先に、劉実は先行して話続けた。
「真尋さんの世界はどうか知りませんけど……、この世界では、暗黒の男とノーデンスは相対し、クトゥルフが復活。その衝撃で各地に眠っていた邪神とか、関連団体が活発に動き出し、一か月足らずでこの世界です。生き残った一部人類は、コロニー施設に引きこもっていたり、あるいはポストアポカリプス的にさまよっていたりですね。大陸ごとにまた違った様相を呈していますが、日本は全国的にこんな感じです。もともとの風土的に様々な信仰やら何やらを受け入れてきた文化のせいか、あるいはお陰か、ずいぶんと収拾のつかないカオスな状態です」
「誇って、いうことじゃ、ないな、それ、……、ノーデンスと、暗黒の男か?」
「はい。真尋さんがインスマスクラブ……、えっと、まぁ半魚人の相互扶助組織ですが、それの手にかかって誘拐され、私はその場で一度屍をさらし。ノーデンスに救出された後、その場で『なくなり』ました。その後に暗黒の男の手で現在の形にされ、取り込まれていますね」
少なからず、真尋は自分の世界とこの世界との状態の分岐点を確認した。決まっている、春先の事件のことだ。わずか三日の彼女との触れ合いの、その時点から既に様相が異なっていたらしい。少なくとも真尋の知る歴史では、自分はノーデンスの手にかかって死ぬ前に助けられ、そして出現したのは暗黒の男ではなく『彼女自身』だったはずだ。
「…………、な、ぁ――――」
「あ、つきましたね。ちょっとお待ちください」
話しかけようとした真尋を制止して、劉実はバイクを下りた。胸元から真尋を「抜き取り」、荷台の荷物に立てかける。
真尋の前方に見えるのは、いくつもの木々が生い茂った森のような何かだ。何かというのは、その木々自体が緑色で、まるでブロッコリーか何かを連想させるものであるためだ。しかしそれにしては嫌に枯れており、見た目でその真実に判断をつけるのは難しい。そしてそんな木々の中で、黒いシルエットが蠢く。あれは、鹿だろうか――――真尋には判然と見えない。ただ怪しく目の光る、鹿のような何か得体のしれないものが、この赤い夜の下でうごめき続けていた。
そんな木々のうちの一つをまさぐり、劉実は何かをもぎ取る。赤い、大きなニンニクのような果実はイチジクか何かか。
「――――――――ふむふむ、なるほど、大体わかりました」
それを食べながら、バイクの手前に戻ってくる劉実。噛り付く果肉からしたたる果汁が、ひと、ひとと首筋をたれて、開いたライダースーツの胸元に――――。それに興奮することも出来ず、何がわかったんだと聞く真尋に、「あっちの状況ですね」と楽しそうに彼女は答えた。
「大体、その果実、は何だ」
「果実は果実ですよ。情報のやりとりをするための。そしてあの森は――――アトゥの枝です。本体はもっと遠くにあるんですが、こっちにちょっとだけ出てるんですね」
「本当、こっち、の、正気、度を、削り取る、ことに、容赦、ないよな、アンタ、」
アトゥというのもまた這い寄る混沌の化身の一つであるが、この場ではとりあえず巨大な木のような何かという程度の情報で理解が足りるだろう。その枝だと劉実は言ったので、とするならば地下か、あるいは物質的な空間がゆがんでいるかして、その枝の先端だけがここに出て、真尋の眼前に広がっているということか。だとするならば、このアトゥの形とはどれほど巨大な物体として存在しているものなのか――――既にスケールが真尋の理解を超えている。超えているが、やはり真尋は発狂しなかった。
そして何をしていたのかについて、劉実は一応説明してくれた。
「このアトゥは、『本体』にとってかなり重要な位置を占める化身となっています。そしてこの化身は、本線と分岐であろうと繋がっていますので、そこからちょっと情報を参照させていただきました」
「つまり、俺の、いた、世界の、状況?」
「はい。ええっと――――」
簡潔とは言えない時間をかけて説明する劉実。真尋は表情を変えることができなかったが、たいそういぶかし気な目で劉実を見ていた。
「ガバガバだな、前提、とか、状況は、」
「いえ、意外と良い線いってると思いますよ? まぁ、探索できる程度に『本体』が手を加えている可能性も否めないですが。――――真尋さんは、真相はわかりました?」
「真相、というか、何をやろう、としていて、どう、すれば、防げ、るか、か、」
「ええ。『推理するための情報は一通り提示されています』。『話のヒントは今までの流れの中にあり』『原典を見ると推理が根底から破綻します』。まぁやっぱり、鍵になってくるのは真尋さんなんですけどね」
「俺?」
「論理的にありえない可能性を全て取り除いた後に残ったものは、どれ程論理的にありえなさそうに見えても、それが真実です――――そしてそれには、単純にして矛盾のない解答が用意されています。若干反則気味なところもありますが、それを導けずして、ハッピーエンドは迎えられませんよ?」
そしてくすりと微笑み、劉実は手元の真尋にウインクした。
出題編終了
以下の三点について、せっかくですから次の話前に推理してみてください。②については若干の飛躍が必要ですが、割とシンプルな真相になっています;
①犯人、イースに精神交換されているのは誰か
②何故、本来の時間軸だと秀太の対応だけで不十分となってしまったのか
③真尋がカギとなってくるのは何故か