とはいえ一話で解決はしませんが;
「この状態から論理的整合性をもって回答を導き出せばいいわけだが、まぁ論理クイズの方は簡単と言えば簡単だ」
「うん」
秀太の言葉に首肯するクー子。ほう、とつぶやく龍子と対照的に、イス=カは「ヨヨ!?」と驚いた様子である。
「な、何故わかったのですョ?」
「そんなもの、それぞれの言動が偽だった場合を確認しておけば問題ないだろ」
「んー、シュータくん、私説明する? さっきのシュータくんのまとめ方だと、たぶん伝わらない」
「頼むわ」
「ん。
じゃあ、まず最初に結論。魔法陣を持ってくるのは女子生徒A」
「ヨ? あれ、私、てっきりBかと思っていたのですョ」
「そっちの嬢ちゃんはどうだ?」
「情報収集者は聞き込み相手全員を平等に疑うものですよ?」
「まぁ、それは確かにそうですョね……」
「なるほど。ん、続ける」
クー子はホワイトボードに手を伸ばして、何か書き込もうとする。も、身長が足らず、女子生徒Aの欄まで届かない。しばらく単独でぴょんぴょんと跳ねて頑張ったが、あきらめたように手を下げ、秀太を見た。
「何だ?」
「はうぅぅ……」
「おい、俺に抱っこしろとか言わないよな。冗談キツいぞ?」
「違う。椅子かして」
「まぁ、それくらいならな」
秀太から奪い取ると、彼女はイスの上に立ち上がり、きゅっきゅとホワイトボードに書き込んだ。ちなみにそのさまをイス=カは微笑ましそうに、龍子は苦笑いで見ていた。
A.誰が魔法陣を担当するのかを知らない。私は嘘をついていない。
→真の場合:Aは嘘をついていない、誰が魔法陣を担当するかを知らない
→偽の場合:Aは嘘をついている、誰が魔法陣を担当するのかを知っている
「この時点では影響は低い。低いけど、誰が相手かを特定する情報ではありえない。次」
A.誰が魔法陣を担当するのかを知らない。私は嘘をついていない。
→真の場合:Aは嘘をついていない、誰が魔法陣を担当するかを知らない
→偽の場合:Aは嘘をついている、誰が魔法陣を担当するのかを知っている
B.Cが用意するのではないか。
→真の場合:魔法陣はCが用意する可能性が高い
→偽の場合:魔法陣はC以外が用意する可能性が高い
C.自分は担当ではない。自分以外は皆嘘つきである。
→真の場合:Cは担当ではない、C以外は嘘つき
→偽の場合:Cが担当、C以外は皆嘘つきではない
D.Aが用意するのではないか。
→真の場合:用意するのはAである可能性が高い
→偽の場合:用意するのはA以外である可能性が高い
「これらで場合分けをして、それぞれの状況を考える。
Dが偽証をしている場合、BとCの証言とコンフリクト、衝突を起こす。
Cが偽証している場合、Bとコンフリクトする。狂人の戯言と切って捨てるべきかはいったんおいておいて」
「一体何があたんですョ、Cさんハ……」
「Bが偽証をしている場合、C同様にコンフリクトを起こす。
そして、Aが偽証していた場合、実はどこにもコンフリクトが起こらない」
「でも、そうするとCサンも用意するって話ですョ?」
「微妙に違う。BもDも、どちらも可能性が高い、というレベルの話しかしていない。だからここで重要になってくるのは、反証を挙げられているかというのが一つ。そしてもう一つは――――文言」
「文言ですョ?」
イス=カは疑問だったようだが、龍子はそれを聞いて「ああ」と納得していた。クー子は龍子に確認し、メモ帳を借りる。
「さっきニャル子が言っていた、言葉を正確に使う。
Aは『誰が担当するかわからない。自分は嘘をついていない』。
Bは『Cが担当するのではないか』。
Cは『自分は担当ではない、自分以外の誰かが用意するのではないか。自分以外は嘘つきだ』。
Dは『Aが用意するのではないか』」
「ョ……? あれ、使ってる言葉がちょっと違うのですョ。つまり、担当って、調べたりするってことですョ?」
「あー、そうかもですね。そうすると、担当と用意は別な言葉として分けられるわけですか」
クー子は、そのまま秀太の書いた文言を部分的に書き直す。
A.誰が魔法陣を担当するのかを知らない。私は嘘をついていない。
→真の場合:Aは嘘をついていない、誰が魔法陣を担当するかを知らない
→偽の場合:Aは嘘をついている、誰が魔法陣を担当するのかを知っている
B.Cが担当ではないか。
→真の場合:魔法陣はCが担当である可能性が高い
→偽の場合:魔法陣はC以外が担当である可能性が高い
C.自分は忙しい。担当ではない、自分以外が用意する。自分以外は皆嘘つきである。
→真の場合:Cは用意する気がない、C以外が担当、用意する、C以外は嘘つき
→偽の場合:Cが用意するつもり、Cが担当、用意する、C以外は皆嘘つきではない
D.Aが用意するのではないか。
→真の場合:用意するのはAである可能性が高い
→偽の場合:用意するのはA以外である可能性が高い
「こうすると、状況が一変する」
「……いえ、CとBとで、自分以外嘘をついているところが思いっきりコンフリクトしているのでは……?」
「少し違う。この場合、Cの発言は真でも偽でも『全員と衝突する』。だからCの発言は、一つの発言に真偽が入り乱れていると考えられる」
ええ、とイス=カ。さすがにそこまで前提を覆されては、予測はお手上げと言いたいのだろう。
「そしたら結局、Cの証言が使えないから、特定できないじゃないですか」
「それも少し違う。Cの発言は、大きく2つに分けられる。
つまり『Cが魔法陣にかかわるすべてを受け持っているか』、『C以外全員が嘘をついているか』。このそれぞれを用いて、状況を考えてみる。まず『C以外が嘘をついている』という証言はコンフリクトを起こす。だけど前者の方は、コンフリクトを起こさない」
「えっ」
「つまり――――BはCかといって、Cは自分じゃないといって、DはAといって、Aは知らないと言っている。この構図で一番疑いが濃厚なのは、A」
「結構お粗末なのですョ……。大体、それを言ったらあえて証言を残してるBとDとも怪しい気もするのですョ?」
「ここで、少し特殊なのはCとDとが面識があること。面識があるのなら、お互いがお互いを証言していないということが、逆にお互いが問題の相手ではないという論拠の補強になる。その上で見ると、AとBどちらが偽証とした場合にきれいにかたづくかといえば、やっぱりA」
「まぁもっと言えば、Aが一番、嬢ちゃんの質問に適当に答えてるっていうのもあるか」
最後の方で割り込んだ秀太の言葉に、説得力があるような、ないような。しかし、どちらかといったらこう強引さのあるこの言い回しに、どこか龍子はTRPG的な和マンチのような気配を感じ取っていた。
「では、どうするんです? 女子生徒Aさんの方に張り込むんですか?」
「いや、そのあたりは俺と、そのクー子でやる。あと念のためBの方もだ。分担はこっちで決めるから、お前らは特に何もしなくていい」
「ヨ、ずいぶん適当な対応なのですョ……。というか結局Bの方も張り込むのですネ……」
「いくら推理って言ったって、人間の考えることには限界があるからな。だから、最悪のパターンも想像する」
「あの、その話ですとCとDに人を割かない理由は一体……?」
龍子の言葉に、肩をすくめる秀太。
「――――――――普通の人間がマジモンのを見たら、それっぽい振る舞いはできない。むしろ、そういうのとの繋がりを徹底的に隠すもんだ」
「経験談ですか……」
実際、クー子に指摘されるまで秀太をその手の関係者として認識していなかった龍子たちである。存外、その説明は重さがあった。
「じゃ、とりあえず先に行くわ。本名と住所とかってわかるか?」
「あー、はい。とりあえず嘘をつかれていなければ、女子ネットワーク内である程度は……、はい」
龍子の手渡したメモの走り書きを手に取り、秀太はクー子の背をたたいて促した。じぃ、と龍子を見るクー子は、やはり何か対価を要求していそうだったが、「ま、まぁ後日」とその場はとりなす龍子だった。
※ ※ ※
「――――とまぁ、あっちの方はそんな風に考えてると思うんですけどね?」
がたがたと彼女の胸元でバイクの振動に揺れる真尋の言葉に、劉実は周囲を警戒しながら軽く回答していた。
現在位置について真尋は正確には理解できていないものの、ともあれ現在は北上中である。アトゥから何かしらの情報を受け取ったのち、劉実は「だったらせめて座標はダブらせないといけませんか」など訳の分からないことをのたまい、そのまま真尋を伴って現状である。そして道中で真尋は気づいてしまっていた。現在劉実が乗っているバイクも、明らかに普通のバイクではない。ヘッド部分は馬のようなもの、車体全体は鱗に覆われ、全体から吹き上がる排気音はまるで生命の鼓動か何かのよう。名状しがたいことに、彼女の乗っているこれはどうにも「シャンタク鳥」、這い寄る混沌の扱う奉仕種族を改造か何かしたものだろうと。
そしてそのバイクは、尾部から巨大な蝙蝠のような翼をはやし空中を飛んでいた。物理現象としては決してありえないそれであるが、今更と言えば今更でもある。眼下に映る街は徘徊する
ふと、真尋は思い浮かんだ疑問を口にする。
「人間は、いない、のか、この世界で、」
「いますよ? まぁ人口でいえば半分以下にはなっているでしょうが。真尋さんのお母様とか、細かいところまでは把握できませんが」
「アンタでもか?」
「生憎、惑星の領域がここまで細分化されてしまいますと、『本体』も予測できる範囲とか、観測できる範囲が限定されてくるのではないかと愚考します。
それはそうと、真尋さん、あのクイズの正解わかりました?」
「わかるわけ、ないだろ、恣意的な、情報操作を咬ませないと、断言はできないだろ。そもそも、証言が、論理クイズとして、成立していない」
それに続いて、劉実が「本線」でおそらく推理されるだろう内容を真尋に披露した流れである。それに対し、真尋はため息をつきたかった。現状の体では呼吸すらしていないので、どうしようもないのだが。
「確かに、前提条件から、導けなくもないが、それだって、恣意的だ」
「とおっしゃられますと?」
「実際問題、論理パズルじゃないって、話だろ、これは、現実の話なんだ、から、証言全部、嘘つかれてる、可能性だって、あるだろ、」
「あの、それを言ってしまうと色々おしまいなのでは……」
「そもそも、クトゥルフ神話を相手取ってる、時点で、正気じゃ、ないからな、」
自らの出自すら覆されたことのある真尋のセリフである。さしもの劉実も反応が悪かった。なにせ真尋の言う通りであるし、そもそも劉実自身が真尋に「この世に探索者に優しいキーパー、神秘の森手たるGMはいない」と言っているのだ。
ただ、真尋は話を聞いている時点で、もっと大きな可能性に行き着いている。そしておそらく、それが妥当であることも、彼の想像力は導き出していた。
「大体、歴史が変わるっていうのも、眉唾だぞ、俺は、アンタの言葉だって、全部は、信じられない、」
「いえ、流石にこの世界の有様を見てしまって、それをおっしゃられるのはもはや狂気では……?」
「そもそも、それだけ大きな、歴史の変更があって、結果が、違うなら、それぞれの、独立度は、高い、はずだ。だったら、その歴史を観測した結果は、既に、第三者の介入が、あった結果、なんじゃないか?」
「とおっしゃられますと」
「前提が違うんだろ、たぶん。そもそも、イースの、俺の精神をこっちに送った、相手は、歴史を変える、ためにじゃなく、歴史をそのままにする、ために、送られた可能性だってあるってことだ」
「…………」
「その方が、余計な邪魔も、入りにくい、からな、」
つまるところ、真尋の言わんとしているのは。そもそも騙されて真尋たちのいる時間軸に送られたイス=カというのは、歴史を変えるために送られたのではなく、既に観測された歴史を補強するために送られたのではないかということ。規定事項として「イス=カが介入して失敗した歴史」があり、それを本来の歴史として扱いたいがために、イス=カ本人を騙し該当する時間軸に送ったのではないかということだ。
足りない? 何が足りないんだっ――――
秀太、真尋は名前を伏せられているのでまだ誰かはしらないのだが。見方を変えれば、彼のセリフとてつまるところ何かしら対処をした上でのセリフともとれるのではないか。そして、その可能性が実はかなり高いのではと真尋は踏んでいる。
「つまり、真尋さん、それは――――」
「大前提が、大きく違う、んじゃないか、それは、だったら、逆に、何が問題で、地球が滅ぼされるかを考えれば、真実にたどり着ける――――論理ゲーム自体が、茶番で、目くらま、しなら、そして、俺が、鍵だって、言うのなら、導ける結論はそう多くない」
おそらく本来なら面倒くさそうな顔をしているだろう、断言する真尋に対して。劉実はくすりと、それこそ慈しむような笑みを浮かべた。
前提から疑うのは探索者の基本