真・這いよれ!ニャル子さん 嘲章   作:黒兎可

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すみません、ちょっと遅れました;
ここからは(珍しく)真尋さんのターン!


前提条件破棄によるタイムアタック/本線

 

 

 

 

 

 我を取り戻して最初にまずしたことは、倒れた龍子を起こすことと、とりあえず病人服から私服に着替えることだった。幸いにも母親が一応はもってきていたため、服そのものがないというようなことはなかったものの。しかし数日動かしていなかった体は、いかんせんきしみを上げていた。

 着替え終わってから龍子を再び病室に迎えると、真尋は直近の光景を思い出し、わずかに眉間をもむ。龍子も龍子で「それ」を意識しているのか、視線を真尋と合わせず「あはは」と周囲をきょろきょろ見回していた。

 

「どうでもいいが、何で白衣なんて着てるんだ」

「えっと、その、成り行きと言いますか……」

「まぁいい。…………回りくどいことを話してると一向に進まないから、手身近に聞くぞ。何があった」

「いえ、手身近すぎませんか? あ、時系列順でしたら説明はできますが」

 

 そうしてこうして、真尋が精神交換されてから現在にいたるまでの、龍子視点での説明がされる。イス=カなるイースの大いなる種族との邂逅、彼女ら組織内での問題、惑星保護機構の会合と、そこから参加者たる一人に協力を取り付けたことなど。また直近、真尋を見舞いに来たことと、余市が真尋から何か呪文を取り出していたこと。

 そして最後に、這い寄る混沌からメモで啓示があったこと。

 

「啓示って何だ、啓示て」

「これです」

 

 ポケットから取り出したそれに書かれていたのは、暗号でも何でもない単純な時刻表記と「Kiss him」の二文字。彼にキスをしろという命令形である。

 

「で、アンタはこれ何の疑いもなくやったと」

「えっと、まぁ、私の本体からの指示だったみたいでしたので、逆らう必要はないですからね。さすがにこの終盤で、真尋さんに不利な行為を働くことはないかなと。結果的に真尋さんも、復活しましたし。ね?」

「アンタ、何とも思わないのか?」

「……真尋さんは、私に、何か思ってほしいんですか?」

「――――そうかいっ」

 

 お互いその話題には触れまいと言う、暗黙の了解が形成された。

 実際のところ、龍子として口づけ程度は「覚悟の上で」日々生きているので、そのこと自体は実は問題ではなかったりする。どちらかといえば、這い寄る混沌から提示された真尋の状況と、それを破壊するだろう自分の行動とに思うところはあったのだが、それについて言及はしない。わざわざ言うほどのことでもなく、その選択を彼女に敷いた結果で真尋がさらに思い悩むのではという予感があったからだ。本性は本性であっても、龍子は龍子で恋する乙女らしさを併せ持っていた。もっとも、その方向性が妥当なものなのかどうかは定かではないが。

 ため息をつき、真尋はストレッチ運動をしながら話を続ける。

 

「俺を放置していたってことは、たぶん準備は完了したってことだな」

「準備ですか?」

「おそらくだが、余市もイースに精神交換されてるはずだ」

 

 真尋の推理、というよりは確度の高い推測を聞かされる龍子。イス=カが関わってくる歴史自体が固定されたもの、彼女たちが干渉した結果が惑星崩壊である可能性が高いと。その歴史を固定するために先方が動いていると考えれば、イス=カを陽動させるための策を前提として用意している。であるならば、その予想の枠の外側に出た場合をかんがえれば、必然、真尋が鍵となる。

 

「で、なんで余市さんなんでしょうか……?」

「流石に向こうの人選まではわからないが、たぶん学校で俺と一番話すのが余市だからじゃないか?」

「いえ、私とも話してま……、あっ」

「おい、何を察した?」

 

 男子の、ちゃんとした友達と呼べる友達が、余市くらいしかいない真尋であった。もっとも真尋の半眼を前に、指摘するほど龍子も野暮ではない。世の中には言及しなければ不確定で通せるという風潮があるのだ。もっとも犯罪はバレなくとも犯罪であるが。

 少なからず、と真尋は想像力を働かせる。少なからずそれなりに親しく、訪ねに来てもおかしくはない人選として選ばれたのだろう。珠緒や余市、ニャル子あたりが真尋と接触の多いクラスメイトであるが、そのうちで男性は余市一人のみである。イースといえど性別までは偽れないのだろうから、結果として彼が選ばれた訳だ。

 

「とは言え面会時間ギリギリだし……。これ放置して置いたら大変なことになるな」

「でも真尋さん、その間ずっとここにいるんですか?」

「いや、敵がわかってもそのまま対策一つ打たないのはどう考えても下策だ、下策。すぐに行動しないといけないが……、社会性を犠牲にする必要があるなこれは」

「社会性?」

「考えてみろ、直前まで入院患者だった相手が突然起きて消えて、しかもこの階は全員気絶してるんだぞ。間違いなく捜索願いも出されるし、見つかったらしばらくは検査とかで監禁必須だ」

 

 一度検査入院で監禁に近い扱いを受けた真尋であるからして、おおよそ数日は拘束されることを正しく予想していた。もっとも「前回」とは多少状況も違うのだが、どちらにせよタイムリミットには間に合うまい。となればとれる作戦は――――真尋は自分のベッドの横にある、切られたリンゴ、主にそこにささった小さな金属製の果物フォークを2つ手に取る。続けざまに窓を開けベランダの向こうを確認した。人の気配はない。ベランダの下方、下の階も現時点では出ている人間はいない。

 

「あの、真尋さん何をされてるんでしょうか……?」

「あんまりやりたくないが、飛び降りるぞ」

「いやいや、真尋さんそれは流石に…………。別に真尋さん、<跳躍>スキルとかとってませんよね。身長とその倍の方向へのジャンプに、成功判定のアドバンテージとかありませんよね」

「何だその言い回し。TRPGじゃないんだぞ、TRPGじゃ」

「うっ」

 

 長谷部秀太の言い回しが移っていたのか、思わず口走った龍子。真尋はそれを特に気にせず、フォークを構える。

 

「アンタはどうする? そのまま先に下に降りて、下で合流してもいいが」

「下で合流しない場合、どうなるんですか?」

「…………」

「えっと、一緒に飛び降りるってことですね、う~ん……。真尋さん、安全なんですか?」

「賭けの要素も大きいが、ある程度は成功を見込んでる」

 

 実際、彼が何故フォークを持ち出しているか、いまいち理由を把握していない龍子である。このあたりはそれこそ、TRPG風に言えば、真尋の「セッションのクリア特典」のようなものなので、彼から説明されなければ理由は判然としないのだ。もっとも真尋とてそこまで時間に余裕があるとは思っていない。その証拠に、廊下から人の足音が聞こえてくる。そして、この時点で選択肢はなくなった。

 

「あー……。文句は後で聞くから、ちょっと口閉じてろよ」

「ええ? ――――きゃっ」

 

 瞬間、真尋は龍子の手を引き、抱きしめ、そのまま彼女の背を手すりの側にして、押し倒すようにベランダから転落した。ぎゅう、と強めに抱きしめた際の、意外と感じる彼女の人肌としての温もりに一瞬目を半眼にする真尋。照れからくる感情か、這い寄る混沌の化身である彼女から感じる人間味じみたそれに鬱陶しさを感じたか、はたまたなにか別種のそれであるかまでは定かではないが、むしろこの場合、動揺は龍子の方が激しかった。何分、真尋と違い、相手に対する負い目の感情はなく、純粋な好意的なそれが大半を占めている。その状況でひしと、己の体を抱きしめ、離れまいと腰に手を回され、そしてあまつさえ倒れこむように落下しているこの状況。吊り橋効果もあいまって、彼女の心臓はバクバクと早鐘を打っていた。

 落下する時間は五秒もかからずか。そして真尋は龍子の首側に回していた右手、そこに逆手で握らたフォークを向け、地面へ向けて「突き刺すような」モーションを振るった。と、その結果。瞬間的に稲光がほとばしり、電気がスパーク、そして衝撃波を伴って、真尋と龍子の下方から砂ぼこりが上がった。

 着地、というほど素直に着地は出来なかったが、それでも落下死を避けられる程度には衝撃を殺す。

 立ち上がる真尋に、龍子は二重、三重の意味で硬直した状態から、おずおず口を開いた。

 

「怪我はないか、アンタ」

「あ、あの…………、何をっ」

「アンタ知らないのか?」

 

 そもそもこの武器(?)の使い方を教えたのが彼女の姉であり、どちらにせよ這い寄る混沌である。なのでてっきりその程度の情報は龍子も持っていると踏んでいた真尋だったが、ここに至り思い違いに気が付いた。丁寧とは言わないまでも、最低限の情報を共有する。

 

「……俺がフォークとか音叉とか、又の分かれた道具をもって振るうと、邪神とか神話生物とかと戦える武器になるらしい」

「邪神特攻の武器ですか……、って、どうしてそれが、こういう使い方できるんですか!? 死ぬかと思いましたよ色々な意味でっ」

「悪かったな。時間もなかったし、こっちも見誤ってた。……なんでって言われても、アレだろ、戦う以上は物理的な威力を伴うってことだろ」

「基本理詰めなのに説明がずいぶんと感覚的なんですね真尋さんっ」

「嫌味に言うな、嫌味に。俺だって好き好んで使ってるようなものじゃないんだよ」

 

 正気度が減りそうだし、と真尋はぼそりと呟く。そもそもこれがノーデンスが、八坂家の先祖に与えた加護であるにしても、それとて旧き神々、偉大なる大いなる意志が複数介在した時代からの遺物であろう。どう考えても、振るい続けてSAN値が直葬される恐れがないと、断言できるわけはない。クー子にしても「本来の」クトゥグアとしての使われ方をすると真尋の正気度が飛ぶらしいので、彼としては妥当な判断だった。

 そこまで細かく考察できるだけ、自分の身に宿った超常的なそれについて考えたくないという反抗である。

 もっともそんな己の生命の心配が先行しているため、龍子がわずかに頬を赤らめていることに気づいていない真尋。……否、気づいてはいるが、積極的にその話題を避けている真尋であった。

 ただ、と前置きをして彼は続ける。

 

「これが、今回はかなり重要だ」

「そりゃ、そうですよね。今回は物理的な戦闘を伴いそうですし」

「それもそうだが、それだけじゃない。……えっと、イス=カだっけ? 今、暮井と精神交換されてるヤツ。呼び出しって出来るか?」

「へ? あ、大丈夫だと思いますけど」

「頼む。場所は…………、高校の前だと不審者扱いだな。前に俺を撃った、あの公園近くで」

 

 とりあえず移動しながら電話を頼む、と真尋。首肯すると、龍子は彼に続いて走り出しながら、携帯端末を操作して名前を出す。と、そんな彼女の手首に、簡単に作られたパワーストーンのつけられたミサンガを確認し、真尋は視線をそらした。

 

「――――あ、もしもし? イス=カさんですか? えっと、今お時間は――――へ、ドラマ? 群馬? いえあの、そこまで群馬は未開の地では……、はい、別に白亜紀とかジュラ紀みたいなことにはなってませんから、そのっ」

「何やってんだ一体……」

 

 明らかに緊張感のないイス=カの言動に、真尋は妙に気疲れを覚えた。

 

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

 十分足らずで、三人とも公園に集合となった。

 真尋と龍子が向かうと、肩で息をした珠緒がその場にいた。もっとも中身はイス=カであり、服装は左右の靴下が違うといったような古典的な漫画のような慌てぶり。一言でいえばやはり世界観や時代、文化風習が違うと言うべきか。真尋はそこはかとない頭痛を覚える。彼女自身は真面目にやってこれなのだ、という事実が、ある意味で真尋がこれまで接触してきた中では母親などを思い起こさせ、頭痛の種であった。

 

「で、アンタがイス=カか」

「ヨヨ、真尋サンですョ! こ、こ、この度はそのまこと申し訳ありませんというかその是非とも上司には黙っていただきたき所存なのですョ……っ」

 

 そして出会い頭、いきなりの土下座である。何故かとなりの龍子が「女の子土下座させて何たくらんでいるんですか真尋さん」とでも言いたげな半眼で見てくるが、真尋はそんな態度をとられる謂れがないので、堂々と一瞥し一蹴。別に企んでいないのはわかっているだろうという内心の抗議は、龍子に伝わっているかどうかはさておき。

 

「そういう話は後でだ。後で。上司とか色々気になるワードもあるが、主目的はそこじゃないだろ、アンタ」

「そ、そうなのですョ! 私がここに来たから未来が固定されてしまっているという話なのですョ! アレですョ、観測者問題とかそういうヤツですョ?」

「…………あー、その、語尾っていうか、口調がなんとかならないか? アンタ」

「ヨョ!?」

 

 ある意味で、一人だけ世界観が違う弊害であった。

 会話すれば会話するほどに、真尋としては頭痛が加速する。

 

「観測者問題か? 似たようなものかもしれないが、こっちとしてはアンタがこっちに来て、色々あがいた結果がアンタらの観測した未来だと思ってる」

「ヨョ……、そ、それは流石に想定してなかったのですョ。でも、病院で真尋サンが何かされていたというのが、よくわからないのですョ……。真尋サンも、何か体に神話生物でもかかわってるんですョ?」

 

 不思議そうな反応のイス=カを前に、真尋は視線を龍子に振る。

 

 Q.コイツ、俺とかアンタとかの正体について何もしらないのか?

 A.たぶんそうですねぇ。

 

 意外と息の合った二人のアイコンタクトによるコミュニケーション。状況を察知し、真尋は言葉を選んだ。

 

「あー、まぁその……、そういう魔術的な要素とかかわりがあるんだよ、俺は」

「はぁ」

「時間があったらあとで詳しく話してやるから、続けるぞ? で、俺は這い寄る混沌の手を借りてこっちに戻ってきた。這い寄る混沌は、俺を経由して事態のあらましを把握したはずだ。

 這い寄る混沌は、分岐、この歴史を「本線」と言っていたが、そことは別な時間軸から俺に干渉してきた。

 だから、そこの小娘(ヽヽ)が俺の見舞いにいったのもイレギュラーで、急いで俺からポリプ召喚の呪文を奪ったってことは。状況は少しアンタの観測したものと、多少変動してきているはずだ」

「誰が小娘ですかっ」 

 

 真尋の言い様に軽く腹を立てた龍子であるが、当然のごとく無視される。

 

「つまり、真尋サンは何が言いたいのですョ?」

「同族を見つける道具があるって聞いた。それが充電中だって言っていたから、おそらくは電気エネルギーを使ってると考えたんだが、間違ってるか?」

「あ、いえ、合っているのですョ」

「それが一体――――」

「現時点で、それがないと相手の場所を突き止めることができない。この全体の状況が『相手がそうなるよう仕向けて』もたらされたものであるなら、それを覆さない限り、俺たちに勝利はない。だから、まずはその探査装置を復活させる」

「させるとおっしゃられましてモ……」

「で、道具はどれなんだ」

「これなのですョ」

 

 制服の上着のポケットから取り出したそれは、手でぐるぐると回すタイプの単二電池の充電器であった。ただし中に入っているものは、もはや電池と言って良いのかわからない、黒々とした長方形の塊である。街灯に照らされたそれは「てらてら」とまるで鱗か何かのように光を反射し、妙に生っぽい。うわ、と龍子が一歩後ずさる。真尋もかなり表情を歪めたが、それでも確認することは確認する。

 

「さっきまでコンセントで充電しましたが、とりあえず持ち運び用にということですョ」

「これって、普通にプラスマイナスの概念は一緒ってことか」

「ですが、一体何をすると言うのですョ……」

「何って、一気に充電する」

 

 そういい、真尋は両手に果物フォークを握り、充電器の電池差し込み個所に「振り下ろした」。

 とたん、両手がスパークし通電。名状しがたいエネルギーが衝撃波ではなくすべて電気エネルギーに変換され、異常なフォトンを放つ。電気エネルギーが強すぎるせいか、電流が逆流したせいか、充電器のモーターの個所が音を立てて稼働する。

 

「ウワヨョョッ!!?」

 

 閃光に絶叫を上げて目を覆いその場に倒れるイス=カ。龍子は半ば予想していたからか、真尋の手元から視線をそらし、イス=カをベンチに寝かせた。

 

「ま、真尋サンは何をしているんですョっ」

「まぁ、見た通り充電しているのでは――――」

「そういう話じゃないですョ! あれ、なんか異能力ですョ! 普通ああやったら壊れるですョ!」

「まぁ断言できませんが、真尋さんがそういった初歩的なミスをするとは考え辛いので、たぶん計算づくだと思いますけど……、あ、終わったみたいですね」

 

 少なからず、彼の精神がアクセスしているだろうネクロノミコンに記載されているのかは不明だが、真尋はどうやら電撃や衝撃波の出力を調整できるらしい。であるならば、充電とか、そういう方向性のものであってもある程度は対応できるのだろうという龍子の予想だ。

 実際、その判断は間違っていなかったらしい。龍子の言葉に視線を動かされるイス=カ。見れば確かに、充電池の色が真っ赤に染まっていた。充電が完了したその証を前に、イス=カは言葉を失った。

 

「ほ、本来なら、半年単位の充電が、一瞬で――――」

「半年単位とかどう考えても欠陥品じゃないか、欠陥品じゃ」

「これが、和マンチ……!」

 

 何だ? という真尋の視線に、イス=カは戦慄と畏怖を持って真尋の立ち姿を見ていた。

 なお、龍子はそれをなんだか面白くなさそうに見ていたりするが、これは完全に余談である。

 

 

 

 

 

 

 




真尋以外、秀太のTRPG脳に汚染されはじめている・・・
 
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