真・這いよれ!ニャル子さん 嘲章   作:黒兎可

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いよいよ最終決戦・・・最終決戦? に入ってます;


絶対的相対性決着済/本線

 

 

 

 

 

 

「ョョ! こっちなのですヨ!」

 

 イス=カが妙に膨れた腕時計型の装置を確認しながら、先行して走る。真尋が強引に充電したそれは、奇怪な音を立てながら三次元上にレーダーのようなホログラフィックを展開していた。なお、そこに描かれている波形はとてもではないが人間が理解できる類の絵図をしておらず、しかし当然のように「ヨヨヨ!」と読み解くイス=カは、妄言の類ではなく違う文明の知生体なのだろう。

 やがて道中で、余市の後姿を発見する真尋たち。余市、否、余市と精神交換しているイース人は、真尋の姿を確認すると懐から見覚えのあるビデオカメラを連想させる銃を取り出した。真尋にむけ、トリガーを引く――――。とっさに危機感を覚え、フォークを振り回す真尋。先端から放たれる衝撃波と電撃が、相手の銃から放たれた「玉虫色の」光線をはじく。あらぬ方向にそらされた光線は、そのまま電柱に刺さるように照射され、黒ずんだ穴を発生させていた。

 

「ここまでくると隠す気ないなアンタっ」

「この――――、今、終わるわけには!」

「ヨ? もしかしてイス=ルギ? 貴方のような優秀なエージェントまでそっちに回っているとは、中々世知辛いのですョ……」

「くそっ、この体がどうなってもいいのか――――!」

「あ、そういう人質作戦みたいなお約束はちゃんとしてくるんですね」

「いや、余市殺したらアンタも死ぬだろ。さすがに精神交換中にやったら」

 

 真尋の指摘に「ぬっ」と言い返せない様子の余市ことイス=ルギである。流石に「0.1秒の隙がある」とか言い出して精神交換を行えるほどには相手もチート、もとい万能めいている存在ではないだろうと言う真尋の予測であり、実際それは正鵠を射ている。なまじ文明の粒度が真尋たち現代人に近い部分もあるためか、現実における暗黒神話群との遭遇であれど意外とコミュニケーションもとれるし、行動予測も立てられるといったところだ。

 ただ、それがすべて最良の結果につながるかどうかは別問題である。

 

「おのれ、人質も意に介さぬとはなんたる外道っ! こうなれば――――っ」

 

 イス=ルギは肩掛けカバンを開き、瓶を複数取り出したそれらの中には文字のような、光る何かがうずまいている。そのうちの一つを選び、彼は地面に叩きつけた。破壊された瓶の中から、のたうち回り這い出る文字、そして陣形。それらは地面に吸着すると一つの意味合いを為し――――やがて現れ出でる巨躯は、一目で真尋にその正体を知らせるアイデア、インスピレーション、第六感的直感を落とした。

 暴風を伴うそのシルエットは、ナイトゴーントよりもいくらか人間型をしていると言って良いが、だからと言って人間かといえばそれも違う。ゆがんだ全身、そのらんらんと輝く真っ赤な視線は眼下のものすべてをエサか何かのようにしか考えていない、否、そもそも知生体とかそういう同格の存在として扱う気配がない存在と言える。みえる手足には両生類にありそうな水かきめいた器官があるあたりから、元来都心部に出現する相手としては不釣り合いだろうことを真尋は理解できた。

 理解できたと同時に、その名前に思い至る――――イタクァ、北米におけるウェンディゴと呼ばれる妖精とも習合される、暴風と共に神隠しを行う「邪神」のそれである。その素性は主にネイティブアメリカンの信仰の中にあるウェンディゴのそれを紐解けば大枠はつかめる。人心に働きかけ狂気に陥れるその神は、あるいは形を描写されないためにか形態がさまざまであると言えるが、真尋の眼前にいるそれがおそらくもっとも広く知られた形態の一つであろう。もっとも風に乗りて歩むもの――――星間を風のようにわたる存在であるからして、その形態自体には本来さして意味があるわけではないのかもしれない。それこそ這い寄る混沌の形が何であるかと問われて回答するのが難しいように、この存在も名状しがたきものなのだろう。

 さて。

 そんな存在を眼前にした真尋たちが無事であるかと言えば、当然そうはあるまい。まず最初に真尋は、下半身が動かなくなりその場に倒れた。眼前の邪神を前に、さしもの真尋の正気度も恐怖からくるものか身動きがとれないらしい。否、夢の中で確認したときのそれとは状況が大いに異なるものの、確かに現実世界において「這い寄る混沌」がそれらしく振舞った際も同様レベル以上にダメージを負っていたので、これはどちらかといえば現状の方が正しいとみるべきか。また倒れた時点の勢いで腕にダメージがいったのか、左側にうまく力が入らず体を起こすことが出来なかった。正気同喪失による不定の狂気か、ともあれこれはかなり宜しくない。

 龍子はどうかといえば、突然「あははははっ」と笑いだしながら、携帯端末でかの邪神を撮影しまくっていた。撮影中は笑いが止まらないものの、目がまったく笑っていない。一体何に執着が走ったのか、ともあれ彼女とて正気の沙汰ではないだろう。

 唯一、イス=カだけがダメージもないように「なんでそんな簡単に邪神を召喚できるのですョっ」などと騒いでいる。判定を逃れたのか、何かべつな要因があるのかはさておいて。

 

「――――少年っ」

 

 クー子がさらりと真尋の眼前に現れ、今にも振り下ろされようとしているイタクァの拳を受け止める。龍子いわく「四人の容疑者の中から一番犯人らしい相手」をもう一人の協力者と追っていたとのことだが、状況的に真尋の方が緊急性が高いと判断して現れたのだろう。すぐさま両手を炭化させるほど燃焼させながら、イタクァの指を折り、焼き、押し返す。

 そうこうしている間にイス=ルギは走り、この場から退散する。彼もまた何かしらの正気度喪失を負っていないように見える。だがそちらを分析する暇もなく、クー子とイタクァとの大乱闘が大通り、車道の中心で続く。テレビ塔が背後に、公園が横手にあるこの状況、前後から走ってくる車が急停車したり、あるいはその怪獣大乱闘めいたこの世の終わりじみたプロレスを前に、燃やされたり踏みつぶされたり弾き飛ばされたりとあまりにさんざんな状況である。さすがに真尋一人のせいで北海道にここまで迷惑をかけている訳ではあるまいが、彼の正気の部分が妙にそこにひっかかりを覚え、申し訳ない気持ちがわいてきていた。

 クー子は攻めてこそいるものの、決定打にかけている。おそらく「本来の」クトゥグアの使い方としての、最大火力、恒星めいた熱照射およびエネルギー消費を行っていないためであろうが、真尋とてその使い勝手は重々承知である。おそらく使えば正気度喪失ではなく「SAN値ゼロ」のあたりまでいきかねない。そして、真尋の本能的なところからの警告か、彼の想像力は本当の意味で彼が正気度を削るような戦い方をするべきではないと知っていた。何か、それこそとある域を切った時点で、真尋は真尋でない何かと「つながってしまう」――――その存在を捉えてしまうと、彼自身理解できないまでも、おぼろげながら識っていた。

 

「何が――――っ、いや、そうか。俺から取り出した魔術が、別に一つとは限らないのか」

 

 そしてあのイス=ルギ。いかなる手段を用いたかは定かではないが、正気を失っていた真尋から古代地球外来生物種の召喚術式をうばっていた彼である。逆に言えばそれをするだけの時間的余裕があるなら、当然真尋から他にもいくつか召喚術などを抜いていてもおかしくはないのだろう。彼の持っていた複数の瓶を思い出し、真尋は冷や汗をかく。少なくとも5つ以上は何かしらとられていると見てよいだろう。

 と、そう考えていると真尋の前方の魔法陣の存在に気づいた。既に術は完成しており、「召喚」一方のみのそれで成立しているそれは、どこをどう捜査しても邪神を送り返す機能は存在しないことを想定させる。逆に言えば、召喚のみであるのならまだ使えるということを、真尋は痛感した。

 問題はそれこそ――――。

 

「俺が召喚を行って、正気でいられるかどうかって話だよな」

 

 匍匐前進のように腕を使って這い、真尋は前進する。龍子はいまだ使い物にならず写真を撮り続けており、とてもではないが何かを任せられる状況にない。一方のイス=カはといえば真尋たちをおいてイス=ルギの追跡に向かっており、状況としては正しいが真尋たちの生命についてはもはや眼中にはあるまい。

 ちらりと頭痛を覚える真尋。脳裏には一瞬、赤の女王の蠱惑的な笑みが浮かぶ。何故それが見えたのか理由がわからない彼であるが、頭を振り、魔法陣の目の前にたどり着いた。

 

「あははははははっ、真尋さん、真尋さん、屋根が! 屋根が!」

「何のパロディだよ、何の。っていうか、アンタいい加減逃げとけ、遊びでこのままいったら命が――――」

「いえいえ、いいんですよ! 遊びだからいいんですよ! 『私みたいな』『遊び半分の』存在が、この真尋さんを吊るされた男にするかけ事をひっくり返してやるんですよ!」

 

 意味不明であり、しかし何かしら本来の意味合いが存在しそうな言葉の数々であるが、しかし実態を把握できない真尋からすれば唯の狂人の戯言である。思ったよりもひどい、下手すると真尋よりも正気度を喪失しているのかもしれない。やはり彼女に頼るわけにはいくまい――――この現状においてあまりに慌てているせいか、真尋は「龍子」がその本性を考えれば「正気度喪失するのはおかしい」という事実に気づいてはいない。ごく当たり前のように一人の同級生として扱っていた。だからこそ、彼は決断を自らに迫る必要があった。

 目を閉じ、フォークを片手に構え、自らの内にある「実体のない」「捕えようのない」「今の自分よりも古い生」を探る。そこに行き着くことで初めて真尋は、現在の自分に掬う膨大な数の魔術、その一端に触れることができる。もっともふれたからといって使いこなせるかどうかは別問題であるため、そこが悩ましいところではあるのだが。それゆえ――――この場でもう一度、自らの手で従うイタクァをもう一体召喚するという行動が打開につながるとわかっていても、それを実行した後の保証が、それこそクー子を使うよりは生存確率が高いとわかっているからこそ。

 しかしそれでも、この後に追うことが出来るかというのとはまた異なる問題として、真尋が意識を保っていられるかどうかとはイコールでないと言う事実が、そのリスクが真尋を躊躇させていた。

 しかし。

 それでも、眼前で初恋の女性の、その忘れ形見ともいえるだろう龍子をこのまま、自分同様かろうじて危険ではないという程度の状況に押し込めたままでいられるはずもなく。フォークを振り上げた真尋の両目は、緑色に輝き、そして――――――――。

 

 

 

 

『――――何だ、えらく困ってるみたいじゃねぇか』

 

 

 

 そして、上空から何者かが飛来した。飛来したそれは、真尋たちに振り下ろされようとしてる巨大な拳を受け止め、イタクァ同様「暴風」をもってして打ち返した。明らかに常人ができるそれではなく、何かしらの魔術、あるいは暗黒神話群に連なる何かであろうことを真尋に想起させる。

 フォークをいったんとめ、顔を上げる真尋。そこには、猿のような白銀の仮面をつけた誰かがいた。髪は金髪、妙にキューティクルの主張が激しいが、それはともかく。身長は真尋より大きいだろう、制服姿で、そして首には黄色いケープめいたものをまとっていた。

 一見すればそう、それこそ「黄衣の王」の要素をデチューンしたような相手だった。

 彼は邪神に飛び蹴りを極めるクー子を見て、「うへぇ」と声を上げた。

 

『アイツ、あそこまで人外めいて動きやがってなぁ。昔はもっと可愛げもあったが…………、いや、昔からそこら中爆発させてたから、あんま変わらないか? でも燃料なしにセルフで出来るって時点で「取り込まれる」ってやっぱヤバいんだな』

「? アンタ、誰だ――――」

『――――お互い、名前は名乗りあわない方が良いと思うぜ。なんにしても敵ではないだろうけど。ホレ、使うだろ。何かやろうとしてるみたいだしな』

 

 真尋の目の前に、腕時計状の名状しがたき装置が投げ捨てられる。それは十面ダイスを二つ上部にあしらったような、見覚えしかない正気度保護装置たる、通称「SANチェッカー」のそれであった。

 

「……恩に着る」

『おう、せいぜい着とけ。着とくついでに、突然目の前からアレが消えた鬱憤をはらしてもらいたいから、頼むぜ』

 

 鬱憤の部分が何にかかるのか真尋としても意味が解らなかったが、彼はSANチェッカーを腕に巻く。脳裏に浮かんだ数値は「58」。どうやら前回、ドリームランド分の正気同喪失の補填もされたのだろうか、やけに頭がクリアになり、立ち上がりがこころなし楽になった真尋である。

 

「――――いあっ」 

 

 そして、心おきなくフォークを振り下ろし、魔法陣を再起動。出現するイタクァは再び暴風をともない、しかし脳裏に浮かんだ数値は「33」。やはり邪神召喚クラスになるとかなり消し飛ぶらしい。

 召喚されたイタクァは、眼前の他のイタクァを目撃するや否や、殴りかかり、道路を陥没させる。そしてそのままマウントを奪い返しあいながら、殴り合いが始まる。今度こそ、同じ大きさの怪物同士の怪獣プロレスだ! 手持ち無沙汰になったクー子は、真尋の方に少し寂し気にぽつんと立った。

 

『なるほどな、イタクァ同士は見つけ次第お互い殺しあうって話だったか。プレイングの参考になるな……』

「とりあえず場所を移すと言うか、イス=カを追いたいんだが……」

『おう、いいぜ。なんなら送ってやるよ。俺としてもこの状況は不本意だからな』

 

 この場にて龍子は完全に気絶。ぱたり、と真尋の肩に頭をのせる形で倒れてきていた。目を閉じてしおらしければ幾分絵になる二人であるが、生憎と白目向いてよだれを垂らしているあたりからして、全く救いはなかった。持ち上げ背負い、走る真尋。直感的に「廃人」には至っておらず、SANチェッカーで回復可能だと判断する真尋は、再び彼に頼む。が、黄衣の少年は首を左右に振った。

 

『やるんなら全部終わってからの方がいいぜ。そう何度も脳みそに負担かけるものじゃない、常人だったら500点も1時間以内に喪失したら、出血して死ぬからな?』

「なんだその、拷問道具みたいな使い方……」

『実際、拷問道具なんだよ。もとが這い寄る混沌由来の技術らしいから、狂気に陥らないっていっても諸刃の剣ってことだろ。うまい話はそう転がってないって点じゃ、救いかもしれないけどな』

「まぁ、気絶していた方がいいかもしれないっていうのは納得したんだが――――っ」

 

 轟音。

 何の音かと言われても判然とはしないが、まるで大型のオルガンの鍵盤でも同時に叩いたような不協和音めいた轟音のそれが、真尋と仮面をつけた秀太の耳を打つ。

 

 

 

 

 そして二人は西の空に、見た。

 地平線が真っ赤に染まり、煙のように巨大な、まるで艦隊めいたなにがしかのシルエットを。

 

 

 

 

 




次回、滅亡
※打ち切りエンドとかじゃありません;
 
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