真・這いよれ!ニャル子さん 嘲章   作:黒兎可

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今回は切りが悪かったので一気にエピローグとつないだら、文字数がかなりアレになりましたです・・・ご容赦;


絶対に疑ってはいけない前提条件/D分岐⇒本線

 

 

 

 

 

「ん、少年。ニャル子。そう長くは持たないから、手身近に…………、はうぅ……」

 

 早々にクー子からのアラートがあった真尋は、周囲を確認。遠方に転がっている女子高生を見て、腕のSANチェッカーを外し立ち上がった。移動するぞ、と真尋の声掛けに、龍子とクー子はじわじわと足を動かす。

 

「真尋さん、何をされるんですか?」

「情報収集だ、情報収集。あの、イス=ルギだったか? がわざわざ精神交換か何かした相手なんなら、少しくらいは情報を持っていてもおかしくはないだろ。だから手始めに、あそこで転がってるヤツの意識を取りもどす」

 

 と、少女付近に寄った瞬間にドームの一部、彼女が入れる程度の穴が開く。妙に芸の細かいクー子である。彼女をドーム内側に入れると、真尋はSANチェッカーを彼女の腕に取り付ける。ダイスの回転を見ることなく、真尋は彼女のほほを軽くたたいた。と、そんな彼女の顔を覗き込み、龍子はつぶやく。

 

「おや? えーこさんですね」

「……さっきクー子も言ってたんだが、何なんだそれ」

「だから、えーこさんですよえーこさん。四人のうちの一人の」

「…………アンタ、ひょっとしてA子ってことか? アルファベットのAに子供の子で。つまり、女子生徒A」

「はい」

「いや、そんなのわかるかっ」

 

 A子、とはつまり、前哨戦あるいはカモフラージュのように出されていた謎解きに出てくる犯人と思われる彼女か。

 

「そのあたり、クー子たちが見張っていたみたいな話だったと思ったが、そのあたりどうだったんだ?」

「A子をシュータくんとつけてたけど、特におかしな動きはしてなかった、ように思う……、緊急度的に少年の方に来た、はうっ」

 

 炎のドームにポリプが数体体当たり。ぐらりと一瞬クー子の体が揺らぎ、真尋たちに動いたドームの熱気が襲い掛かる。つられて体勢を崩しその場に転がる龍子と、それを抱きとめる真尋であった。

 

「気をつけろよアンタも」

「あ、ありがとうございます。……それで、なるほど。A子さんをSANチェッカーで復活させるとして、それで何がわかるんです?」

「わからないかもしれないが、情報自体が足りてない以上はとにかく集める必要がある……。何の情報が集まるかはともかく、今使える材料は全部使う」

 

 体を起こし、膝立ちの龍子。と、真尋の背後で肝心の彼女がうなり声を上げる。後ろを振り返り、軽く彼女のほほを叩いた真尋。胡乱な視線で真尋を見上げる彼女だったが、しかし周囲を覆う炎のバリアと、その向こうに見える名状しがたい数々を前に体を抱えて震えた。からから、とSANチェッカーが回転しているので発狂はあるまいが、それでも眼前の光景の異常さに色々と「やられて」いるらしい。

 

「な、なんで!? 何ここ!? 病院どこ!」

「病院? いや、まぁ少し落ち着け。話ができない」

「っていうかアンタら誰! 私! めっちゃ熱いんだけど!?」

 

 面食らったのも無理はない。

 しばらくまともに会話ができそうにない有様であったがそうもいかず、真尋は龍子を手招きした。

 

「真尋さん、私にどうしろと……?」

「いや、少なくとも男一人相手にこの状況で話しかけられるよりは、多少マシかと思ったんだが」

「どちらにせよ混乱してますし、意味はあまりないような気もしますけどね。で、ええっと、三年生の江洲英子(えす えいこ)さんであってます?」

 

 どんな名前だとツッコミを入れたくなった真尋だが、伊達に龍子も龍子なんて妙な名前をしている訳でもない。

 ただ少なくとも同性の相手が話かけてきたこと、同じ学校の制服を着ていることなどで、多少落ち着きを取り戻したらしい。見ず知らずの男を相手にするよりは幾分、日常に近い状況だということだろう、そのあたりは真尋の推測通りではあった。ただ「誰、アンタ」とか「ここどこ?」など、直近説明が難しい話が続く。

 

「そのあたりの話をする前に、まずアンタ、何してたんだ? 交霊術とか一体どうして手をだしたんだ」

「え? えっと、何? こーれい? っていうかアンタたちって同い年? 先輩に対して態度でかいわねコイツ」

「まぁ真尋さんそういうところありますので……」

「そういう話はおいておく、というか時間が真面目にない。質問に答えろ。アンタが何しようとしてたか知らないが、その結果がたぶんコレだ。正直に話してくれないと、こっちとしてもやってられない」

「結果って…………、私、ただ、お見舞いに行こうとしただけなのに」

 

 お見舞い? と真尋と龍子。首肯するA子は「入院しているお父さんの」と続ける。

 

「いつ死んじゃうかわからないから、出来る限り毎日いってるの。……だから、そんなのやってる時間ないっていうか、」

「どうしましょう、真尋さんこれ手づまり感が…………」

 

 龍子と彼女の言葉を聞きながら、真尋の脳裏にいくつかの言葉がよぎる。それは龍子から話されたイス=カの言葉であったり、あるいは自身が語った仮説の中で繰り返した言葉であったりだ。そしてそれが電撃的につながりを見せた時点で、敵方も敵方でかなりのリスクを冒していた、という事実に行き着いた。

 眉間を抑え、頭を振る真尋。龍子は不思議そうに、A子は訝し気に彼を見つめる。

 

「――――上塗りされても影みたいに残る、ってことか」

「へ?」

「いや、何でもない。忘れろ。…………謎というか、どういう手段で時間を省略したかがわかった。あと、アンタが何を準備していたのかもな」

 

 真尋からの言葉に、龍子は驚いたように目を見開く。一方のA子は更に表情に猜疑心を深めたが、真尋は彼女に視線を向け問いただした。

 

「こっちに文句をつける前に確認だが、アンタ、今日は何日だ?」

「はぁ? いや、普通に10日じゃないの? 5月10日」

 

 ゴールデンウィークあけてちょっと、と。その彼女の語った日付で、龍子も少しだけ察しがついた。

 

「およそ一週間前――――というよりも、真尋さんが昏倒させられた日ですね」

「より正確には、イス=カたちがこの時代に介入してきた日付だ。アンタもわかったか?」

「わかったような、わからないような……」

「頼りないな。まぁいい。結論から先に言うぞ――――江洲英子。アンタのその父親は、おそらく見舞いに行ってから数日もかからず、死んだ」

 

 真尋の言葉に、A子は「は?」と疑問符。

 

「父親が死んだあと、アンタは学内のSNSで何事か、交霊術みたいな企画があることを知る。そしてそこで、父親と再会できるかもとわずかな希望というか、まぁそういう不確定な感情を抱いて3人に協力することにした――――そして、それが今さっきここにいた『アンタだ』」

「ちょっと、言ってる意味が……?」

「スマホ確認してみろ。今日は15日――――アンタが見舞いに向かった日から、一週間くらい経ってる」

 

 言われるがまま自分の携帯端末を取り出して画面を見るA子。表示されている日数を見て、引きつった笑み。「何これ、どっきり?」という発言は平時ならばまともな思考だが、この異常な光景を前にしては、それこそ許されない。

 

「厳密に何があったかまでは定かじゃないが、この時間のアンタはおそらく何かしら術式を覚えさせられたか、組み込まれたか、そこは知らないが、ともかく何らかの手段で術式を精神に保持させたまま、過去に飛ばされた。たぶん謳い文句としては『死んだ父親に会える』とかそんなところか。後はこの発狂した本人の精神を復活させ、過去に戻せば万々歳ってところか」

「え? え? え?」

「つまり、真尋さん――――」

 

 

 

「――――論理パズルめいたアレの正解は、『全員共犯だった』ってことだ。術式を準備したのは結果的に一人だったかもしれないが、その他の事柄はすべて残りの3人がやったってことだろ。最悪、全員既にイースの連中と精神交換されていたか」

 

 

 

 真尋のそれは、論理パズルの前提を覆した発想であった。そして彼のアイデアは、今回の本来あった構図を描き出す。

 まず、この時代に来ていたイースは最低でも5人。イス=ルギを含め、例のB、C、Dと精神交換したものと、そして「真尋と交換されただろう誰か」。現地入りしたイースは、まず3人が父親を亡くしたA子に接触し、洗脳めいたことをしながら自分たちの協力者に仕立て上げる。ここまででおおよそ5日程度と見込める。イス=ルギは真尋と残りの一人とを精神交換し、術式を準備する。そして準備した術式をA子の精神に保持させ、精神交換。過去に送られたA子から情報を引き出した後、再びA子同士の精神を交換し、A子を再び洗脳する歴史を形成する。

 これにより円環構造的なものを保ちながら、ポリプを大量に用意するという難所を潜り抜けられる。真尋たちはともかくとして、敵の準備期間はそれこそ一週間分は余計に存在したと言うことだ。仮にイス=カがその介入による時代の消滅を観測して介入してきても、大枠の流れをカモフラージュさえ出来ればポリプの用意に感づかれることはあるまい。そもそもイースたちの観測できる情報にも制限があるからこその作戦であろう。

 手違いがあったとすれば、真尋の精神交換、そこが起点になる。本来あった流れにおいて、真尋と交換された精神はイースの誰かしらだったはずだが――――そこに這い寄る混沌の手が入った。結果、真尋は別世界の自分自身と精神交換され、自力とは言わないまでも早々にこちらに帰ってきた。そして龍子に目撃され、敵対イースたちの目論見は看破されたわけではなかったが、しかしタイミングとしてはまずかった訳だ。なにしろ肝心の、A子の精神交換よりも前の段階で気づかれてしまったのだから。

 

「でも、それっておかしくありませんか? 真尋さん、わざわざA子さんの精神を交換する必要は――――」

「だから、そこだ。アンタ仲介して聞いた話だから記憶が怪しいが、精神交換された状態からさらに精神交換とかはできないんじゃなかったか?」

 

 ――――時間転移は「一往復で固定される」ので、ここからさらに過去に遡ったりは出来ないですョ。

 

 龍子の脳裏に、イス=カの言葉がよぎる。A子は混乱の極みと言った様子で、わけわかんないと言いながら頭を両手で抑えていた。錯乱のせいか、それとも自分で外したのか、SANチェッカーは既に地面に落ちている。それを拾いながら、真尋の話に龍子は耳を傾ける。

 

「向こうは初めから魔術の準備とかなかったんだろ。だから現地調達という話になるが……、最初から介入できた時間は、あの一週間前の時点だったってことか? そうとでも考えないと辻褄は合わないが、まぁそこは重要じゃない」

「だったら、なんで今こんな状況に――――」

「俺たちにバレそうになったから、A子本人にメッセージをわたすなり何なりして、計画を速めたってことだろ。もはや取引がどうのこうのって話じゃないと。あー、なんとなくだが、こうやって現地人を色々な時代に移動させるのは、向こうとしてもタブーのはずだ。そうすると――――」

 

 そもそも何故この時代を滅ぼさなければならないのか、という問題が別途で出てくるが、その検討は後回しである。そこまでのことをして何故、という疑問をおき、真尋は龍子の顔を見る。

 

「つまり、そうなると――――現状を回避するためには、誰かが、過去に飛ぶ必要があると。アンタの用意した手段っていうのは、つまりイス=カたちが使っていたアレだな」

「ええ」

 

 す、と。腰の裏側から、ビデオカメラめいた例の銃を取り出す龍子。おそらくそれはイス=ルギがA子を撃ったときに使用されたもの、つまり彼女の精神交換をしたはずの道具であるはずだ。そして真尋の想像力は、その破損した外皮から除くラベルを見て直感した。すなわち座標情報の記述がないそのラベルは、時刻のみを指定して過去に精神を送るものであると。

 つまり――――使用すれば、真尋たちがイス=カと遭遇した、あの時間軸の公園付近まで精神を飛ばすことになると。座標の誤差は不明だが、A子の精神を飛ばした以上、彼女もまた「あの日この公園にいた」ということに他ならない。

 ガチャガチャと何やらそれをいじっている龍子に、真尋は確認した。

 

「俺が使ってたSANチェッカー、まだ壊れてないな?」

「ええ」

「つまり――――過去に飛べるのは一人だけと」

「ええ」

「そうかい――――」

 

 次の瞬間、真尋は手元にもっていたフォークを龍子の足元めがけて投擲した。眼前に落ちる稲光、轟音。驚き慌てた龍子はその場で転び、手元から銃を取り落とす。それを拾い、彼は龍子を押し倒す形で馬乗りになり、ポケットに入っていたSANチェッカーを奪った。

 対する龍子は乗りかかる真尋の体重も忘れてか、顔を赤らめやや慌てる。

 

「え? あの、真尋さん、こういうのはもっと色っぽい感じでしてもらわないと、私も心の準備が――――」

「何を色ぼけてるんだ、何を」

 

 言いながら真尋はそのSANチェッカーを「龍子の腕に付ける」。驚く彼女を前に、真尋は銃を構えた。

 

「あの、真尋さん――――」

「――――俺は、アンタが戻るべきだと思った。ただそれだけ」

「っ、ど、どうして」

「だって歴史が変わったら、今の俺たちと変わった後の俺たちは別人じゃないのか? ――――今現在の自分を引き継いだその相手以外は」

 

 いわゆる本線、分岐の考え方だ。分岐から本線に移動し本線で新たな活躍をした場合、その本線と分岐はまた別な歴史の扱いになるはずだ。であるなら、分岐での経験、自己同一性を引き継げる相手は本線に向かった相手以外有り得まい。

 

「だったら、なおのこと真尋さんが――――」

「それでも――――、俺は、アンタに行ってほしい」

 

 それはいかなる感情の発露か。現時点で龍子にその情報はない。だが真尋の顔が偉く悲観的である以上、少なからず彼女の姉が関わっているだろうことを龍子は察した。自嘲げな笑みを浮かべ、真尋は。

 

「悪いな――――アンタには迷惑かけっぱなしだ」

 

 龍子が言葉を続けるよりも先に、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

「――――そんなんだから、真尋さんは姉に出し抜かれたんですよ」

「え?」

 

 

 

 

 

 引き金を真尋は引いた。だが、銃は起動しなかった。ふと考えてみれば、見た目の比重からして嫌に軽い。慌てて破損したカバーを開け内部を確認すると、そこには先ほど真尋が見たフィルムめいた何かは存在せず――――。

 がちゃがちゃと、前方から音。銃を下げて龍子を見れば、彼女は頭上で「もう一つの銃」――――おそらくはイス=カのものだろうそれに、さきほどのフィルムを組み入れて真尋に向け。

 

「次はもっと、色っぽい展開でお願いしますね♪」

 

 にこりと微笑み、引き金を引き―――かしゃり、という音と、光と、鈍痛を感じ、真尋は意識を失った。

 

 

 

 ※  ※  ※

 

 

 

 突如発狂に陥った、としか考えられない状況を前に、龍子は彼を背負い走り出した。基本的に、彼女は普通の女子高生である。生憎と自分よりがっしりしてそうな男子高校生一人をお姫様抱っことかで抱えられるほど体力はない。幸か不幸か公園手前で倒れたこともあり、いったんそちらに運び込む。幸いにもベンチ2つのうち、一つはちょうど女子生徒が立ち上がり空いたところだ。

 と、ベンチに真尋を寝かせた直後、ニャル子と真尋の前に珠緒が現れる。カメラと拳銃を足して二で割ったような道具を片手に、ニャル子たちに向けて構えたまま。

 

「――――そこまで俺は悪趣味じゃないぞ、アンタ相手にっ」

「!? ま、真尋さん?」

 

 珠緒が話を始めるよりも先に、真尋は意識を取り戻した。SANチェッカーもなしに発狂することもなく――――そこはかとなく蠱惑的な笑みが脳裏をよぎるがそれは放置して――――真尋は周囲の状況を一瞥し確認した。龍子がベンチに自分を運び寝かせ、珠緒、おそらくイス=カが接触してきた。

 聞いた限りの約一週間前の状況を前に、真尋はふらつく足のまま立ち上がる。

 

「――――いあっ」

「ええええ!?」「ヨヨ!?」

 

 そして、見つけた。真尋同様ふらつきながら歩く第三者。見覚えのうっすらある真尋たちと同様の制服姿。A子、この時間に送り付けられた彼女であるはずだ。

 真尋は自身の思惑に反して己を送り付けた龍子に対する悪態を考えるよりも先に、制服にしまっていたフォークを投擲。稲光、衝撃波が彼女の後方を襲い、転ばせる。

 龍子の肩を借りながら、真尋は指をさし、彼女のもとへ。何かを察してか、それとも真尋が意味もなく行動する訳ないという信頼からか、龍子は何も言わずに首肯して従う。一方のイス=カは意味も解らずしりもちをついていた。

 真尋は立ち上がろうとするA子の前にしゃがみ、その額を見る。と、真尋は直感に促されるまま、転がったフォークを手に「いあっ」と掛け声とともに、彼女の額を軽く小突いた。

 

 

 

 ――――瞬間、その全身から「玉虫色に輝く文字のような何か」があふれ出し、霧散する。

 

 

 

「あっ……、あっ……、お、お父さん…………っ」

「悪いが、これでチェックメイトだ。

 アンタには悪いが、会うことは出来るかもしれないけど――――」

 

 死んだやつは生き返らない。

 

 それだけ言って、真尋はその場で大の字に寝ころび。

 いまだ状況を把握していないイス=カは、目を白黒させていた。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「とりあえず地球の危機は去ったってことで、良いんだろうか……」

「ヒロ君どうしたの? お味噌汁、冷めちゃうわよ」

「何でもない。……あと、ヒロ君はやめろってのっ」

 

 決着の日から一週間後、つまり本来なら世界が既に滅んでいてもおかしくないその日。八坂家の食卓にて、真尋は帰ってきた母親を出迎え夕食を取っていた。テレビでは相も変わらず飽きもせず炭化した例のクジラについて特集が組まれ(ついにはオカルト番組の企画が組まれていたのか、それがちょうどゴールデンタイムに流れている)、辟易すること請け合いである。一週間前に真尋が降らした雷などごくごく少数レベル、ニュースに取り上げられる規模の話ではないのか、はたまた誰かが手を回したのか。少なくともそのことでここ一週間、真尋が命を狙われるようなことはなかった。

 真尋がA子を確保してから。事態の推移はかなり簡単に決着がついた。真尋より情報共有されて早々、イス=カはこの時間に転移してきた他の反乱分子のエージェントを、例の協力者(秀太)と協力して拘束し、取引もつつがなく終了したと連絡が昨晩はいる。終わってみればこともなく、まるで一度世界滅亡の危機に瀕したという事実が丸ごとなかったことにされているような、そんな不条理のような感情を真尋は感じた。結局、彼個人は多くの情報を知りえず、何がどうして世界崩壊に結び付くという流れだったのかさえ知らず、外皮をなぞるような対決しかしていないのだ、そこも仕方ないところではある。

 まぁ、そもそも特撮番組しかり時間旅行の取り扱いは複雑怪奇であるからして、真尋の立場でそれをすべて理解しようとすればそれこそリアルSAN値が消し飛ぶのだが。

 

「まあどっちがマシかって話なんだろうけどな…………。母さん、これ味噌汁の味変だけど、何入れた?」

「あ…………、わかっちゃった?」

「そういうのいいから」

「その…………、田楽みそでも、味は一緒かなーと思って」

「出汁の存在をせめて忘れるなよ……」

 

 母親と平和な会話を交わしながらも、真尋の思考は別方向に飛んでいる。結局、問題点さえ取り除きさえすれば、事態は特につつがなく終了の運びとなっているらしい。実際、この現在、仮に「三周目」と言うべきか。今のところこの三周目が崩れている気配はない。去り際のイス=カも「今ここの現在が本線なのでョ」と断言していた。真尋はその際の会話を思い出す。

 

『とりあえず国際電話経由で、米国の支部とも連絡がついたので、来週中ごろには再び珠緒サン達は戻ってこれるのですョ』

『例によって向こうにいた時の記憶は消去してか?』

『おおむねそんな感じですョ。まあ、偽造の記憶も組み込むから、そこまで問題はないはずなのですョ』

『それはわかった。良かったんだが、それはそうとして……、疑問があるんだが』

『ョ?』

『その、別分岐? 俺が直前までいたときの分岐なんだが、その分岐世界にもアンタらは精神を飛ばしてたんだよな。だったら、俺がそれを上書きしたとき、アンタらの精神はどういう扱いになるんだ? 未来に戻ったらおかしなことにならないか?』

『んー……、これくらいならSAN値はあまり減らないと思うので、情報公開なのですョ』

 

 ちなみにこの会話の場所は駅前の喫茶店であり、龍子は真尋の隣で謎のチョコレートらしき名状しがきソースがかかったパフェをモリモリ食べている。ともあれ声を潜め、イス=カは話を続けた。

 

『まぁこうして色々分岐はするのですが、最終的には時間っていうのは収束するものなのですョ』

『収束?』

『例えばこう、織田信長が本能寺で死んだか生き残ったか、とかそのあたりの問題を出すと、別にノブナガがホムンクルスとして現代に復活するとかしようとしまいと、過去において信長が死んだという事実はかわらないのですョ。それがいくつかの説が並列で存在していても、最終結果はかわりないと』

『それはわかったが、アンタ一体何を見てるんだ何を……』

 

 劇場大戦でコアな映画でも見てそうな発言はともかくとして。

 

『今回において、本線をこれ以上動かすことはできないということなのですョ。それをするためには、新たに反乱分子が別途活動をする必要があるけど、それは、流石に我々も警備を厳重にするし「失敗したと言う事実」が残ることによって、そちらの側に収束しやすくなるのですョ。そして、収束した結果に対して、存在はおのずと一意の存在となる、よって今の私が、たった一人のイス=カという訳なのですョっ』

『だから、アンタらはどうしてこう、過程を省くんだ過程を……。なんでそっちに収束しやすいんだ』

『介入者側からすると、成功の事実よりも失敗の事実の方が重かったりするというか……、んー、このあたりは真尋サンの正気が心配なので、今回は見送るのですョ。』

 

 今回とは。次回でもあるようなその発言にほほを引きつらせて、そして真尋の想像力は同時に一つの可能性に思い至る。

 

『じゃあ、つまり…………。アンタらはどうあっても歴史の影響を受けない場所から、この時代に介入していると。つまりそれは――――もしかして、もはや「邪神」とかその存在さえ、消え失せたような、そんなはるか先の時代からってことなのか?』

『――――――そのあたりは、黙秘するのですョ』

 

 良い線いってると思うのですョ、と続けはしたが。彼女もそれ以上の情報ははぐらかして伝えることもなかった。

 ため息をつき、龍子の方を見る真尋。楽し気に、そして少しだけ不思議そうに、疑問符を浮かべて真尋を見やるその顔。口元や目元を見た瞬間、猛烈な恥ずかしさが脳裏をよぎり直視できず、真尋は視線を逸らした。

 

「何? ヒロくん。恋煩い?」

「…………あ、り、え、な、い、絶対ありえないっ」

「あら、強く否定するところが色々想像力を掻き立てられるわねぇ……。さぁ、泣かせた女の数を数えろっ」

「なんで母さんまでネタを被せてくるんだよ」

 

 ため息をついて、真尋は両手を頭の後ろにやり、背もたれに寄り掛かる。テレビの音を聞きながら目を閉じ、思い出を馳せる。

 真尋が龍子を直視できなくなっているのは、なにも一度キスまがいのことをしてしまったからというだけではない。もちろんそれも理由に全く入らない訳ではないが、それが全てであろうはずもない。

 真尋を、便宜上「2周目」とでも呼ぶべき前の分岐に戻した時点の、劉実の発言。意趣返しと言っていた彼女のその言葉が、彼の頭の中を大きく混乱させる。

 彼女たちが別個の人格を有した、ネフレン=カのようなそれであるならば、真尋は確実に己の手をもって、劉実という存在を殺してしまったと言う事実。

 そして龍子と劉実が別人であるならば、何故彼女はいまだ真尋のそばにいるのか。

 

 それに対する彼女の返答は、ただ一つ――――。

 

 

 

 

 

『――――私、本当は妹なんていないんですよ?』

 

 

 

 

 

 嗚呼、だとするならば。

 彼女の妹を名乗る二谷龍子とは、果たして一体何なのであろうか――――。

 

 いまだ回答の出ない問題を。その前提条件さえ覆しかねない言葉に、真尋の思考は泥沼に陥っていた。

 

 

 

 

 

  【真・這いよれ!ニャル子さん 嘲章】

  【ザ・シャドウアウト・オブ・メロディアス】

  【END】

 

 

 

 

 




以上で3章完結となります。正確には次回予告? 的なのを更新したら、3章終了です。

毎度お気に入り、ご感想、ご評価ありがとうございます。
続きがあるかについては前回同様、ここまでの感想の状況(数とか今後の需要とか)、評価、お気に入り、あとは冒涜的天啓が再び降ってきたらになるかと思います;
 
それではまた深淵に\ドロップ/\ドロップ/
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