転生したら取り敢えず原作ルートをぶっ壊すだろ 作:杜甫kuresu
あの日を俺達はきっと超えるだろう。
「エンプラちゃん、最近調子いいな」
優しげな指揮官の声で昼の執務室が色づき始める。数少ない無色のエンタープライズははて、と小さく首を傾げる。
指揮官はどの艦にも甘い。コレに関しては軍的に賛否両論で、ユニオン出身贔屓の者からは彼は相当な言われようだ。
甘ちゃん、腑抜け、へっぴり腰、ただの産業廃棄物。最早ただ罵倒されたことも有ると言うし、このやり方を良いことに言われたい放題もまま有るそうだし、重桜出身というだけで貶された時も有ったという。
それでも腐らず、反骨心も見せず、やる気もない。曰く
『いや、俺が頑張るのは良いんだぞ? でもお前らがもしついてきてくれたとして、俺をバカにしたりふんぞり返ってるだけのアレがお前らに何かしてくれると思うか?』
とのことだ。やったことには結果が帰ってこないと嫌だというのは彼の性格がよく出ている所だろう。
その返事をする時の眼は、英雄とさえ呼ばしめた父親のそれとまるで同じだ。
実際甘いし腑抜けであったわけだが、どれも突き抜ければ支持を得るに足る。あんまりな言われように、彼に代わって動き出したのは配属艦の方だったというのがオチである。
自由を掲げるユニオンらしい部下の自主性でパールハーバーの隅のぼろ小屋の主から、今では一大拠点の管理をするようになった男というわけである。
彼としては『無理に頑張るなよ』とのことで、逆に言えば努力することにもそうとやかく言うつもりはないらしい。
結果としてはバカにしていた軍人より今の彼はずっと高い地位にいるので、当人達としては大満足の実績が上げられているようだ。
「そうだろうか、自分では実感がないな」
「独り言が増えた辺りからでしょうか――――とかヨークタウンさんは言ってたぞ」
「うーん…………?」
明らかに答えあぐねているエンタープライズを見ている間にどんな心境の変化が有ったのだろうか、手でニヤつくような笑いを隠しながら目を細めて尋ねる。
「もしかして彼氏か?」
「なっ――――あなたまでそれを言うのか?」
『なあ、お前行き遅れ扱いだぞ』
それなりに鋭く失礼極まりないそんな一言は、幸いにもポケットの中でイヤホン越しに虚しく響くばかり。
あたふたとしているエンタープライズを愉快だと言わんばかりのこらえ笑いとともに指揮官は眺めていたが、いよいよ発艦手前に近いのではという剣幕が見え始めた辺りで手を上げて降参の意を見せる。
「後は音楽聞くんだって? 2nd-ghost好きなのか?」
「――――あ、ああ。最近は好きだな」
一瞬戸惑ってしまう。
彼女と会話をするのは百歩譲ったとしても、彼の存在がバレると高確率で解体されてしまう。
常に音楽を流しているのは、怪しまれても音楽を聞いているだけという建前を作っている一面もあるのだ。
実際何隻かはイヤホンを手にとっているのも有って、それが指揮官の耳にまで届くのは大して不思議な話でもない。
「良いチョイスだって評判だぞ――――いやあ、照れますなあ」
頭を掻いて何だかニマつく指揮官は気色が悪いが、それよりも意味がわからなかった。
エンタープライズは眉をひそめて尋ねる。
「何故指揮官が照れる」
あ、いや。と手をブンブンと振り回してあからさま過ぎる誤魔化し方をする。
「ほ、ほら! お前って何か妹みたいで心配だしさ! 褒められると俺も鼻が高いと言いますかね!?」
「誰が妹だ…………全く」
満更もなさ気な溜息に、鼻持ちならない彼はと言うと
――なーんかうさんくせーのー。
このようにもう完璧に嫉妬している。何なんだお前。
だいたい俺のチョイスだし―、とかもう笑えてくるほどに不機嫌。子供か。
異性として意識しているかと言われたらお互いに少し考えて
『「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」』
とかなり淡々とした口調で返されるのだろうが、こうべったりだと互いを一番理解しているのではないか――――なんて思うのも有り得る話だし、実際その可能性はある。
とは言っても指揮官とエンタープライズはお互いに初陣からの関係なので、距離が一番近いのは彼らなのも同じように疑う余地がない。
「でも溜息も多いって心配のお便りも来ているんだが、大丈夫か?」
エンタープライズは突然歯切れが悪い返事をして誤魔化そうとする。
――そういや俺と喋ってる時もその気配はするな。
勿論彼だって少しだけ怪しんでいたところだ。悩み事を隠しているというところまで突き止めても、それから先に進めない以上は触れるべきではないだろう。
彼女が隠し事をすること自体がおかしいのは二日目で分かりきっていたことだが、彼は大人だ。
解決もできないことに首を突っ込んだ後の惨状を、よく知っている。
「た、大したことではない。コンディションに影響はない、はず」
ふーん、と察したような顔付きで指揮官はエンタープライズの眼を見つめる。
段々と目をそらされてしまったのを切り目に
「まあ、今は
と言った後、ポケットに入れていた彼の方へと視線を向ける。
――気づかれている? いやまさかな。
この見透かされているような感覚は今に始まったことではない。
着任当初からエンタープライズの事について指揮官は妙なくらい察しが良い。なぜかと尋ねてもマトモな返答が返ってきたことはなく、適当にはぐらかされてばかりだ。
逆に言えば長い間そんな感じだから、今更違和感を感じるわけでもないのだが。
「えー、まあ姉妹には心配掛けないようにな。質問は終わりだ、時間を取って悪かった」
「こちらこそ要らない心配をかけさせてすまない」
そう言ってエンタープライズは部屋を後にする。
『俺絶対あんな奴に似てないけど。ってか指揮官ってカッコいいのか?』
「顔のことか? まあ、世間ではそう言われているんじゃないか?」
やっぱりな、と機嫌が悪そうに黙り込む。彼女は普段と同様、月明かりが差した窓際の机で頬杖をつく。
いつも夜になると、彼は何かに備えたようにおしゃべりになる。とりとめもなければ、とめどないそれにエンタープライズも慣れてしまっていた。
――子供みたいだな、全く。
ふふ、と小さく笑ってしまったから彼がまた質問攻めにする。
「何だ、妬いてるのか?」
『妬いてるって、まず彼氏でも何でもねえぞ俺』
「分かりやすいな、前からそうだったのか?」
――分かりやすいとか言われたこともねえよ。
強がってそう答えて黙り込む。
もちろん音楽が鳴り始めたりするわけもないので、対応に困って更に苦笑い。
「悪かった悪かった、そうヘソを曲げられると困る」
最初は無視を決め込んでいた彼だったが、エンタープライズにどうせ時間を置けば機嫌も直る、と決め込まれているのを察したらしい。
少し経ってからゆっくりと尋ねた。
『…………それはそうとして。結局悩み事は一体何なんだよ』
ころりと変わった話題に、エンタープライズの顔がピタリと固まる。
――やはり指揮官に、どこか似ている。
普段のおどけた口調でこそ分かりにくいが、真面目に喋りだすと指揮官そっくりに彼女には聞こえる。
心配性で、どこか適当で、人をからかうのが好き。もしかすれば彼女は重ねている部分もあるのかもしれない。
「今日が何日か知っているか?」
『お前日付の話は敢えて避けてたろ』
分かるわけねえよとぼやくと、気づかれていたかとエンタープライズが困ったように笑う。
本来の彼はそこまで頭が回る男ではなく、変化に敏い方でもない。
――状況が功を奏したな。今回は。
視覚だけなら分からない、触覚だけなら分からない、味覚だけなら分からない、嗅覚だけなら分からない。
偶然だ。彼は偶然、そのどれも持ち合わせない。言語と思考が彼の全て、あまりに大きすぎる犠牲でありながら――――故にこそ、男は本来辿り着けない地点までその感覚が到達していた。
日付の話がない程度、普通は偶然で済ませる。
だが彼にはそれが意図的だと言える理屈と直感、確信がある。どんな細やかなものだとしても、今の彼は見逃さない。見逃せない。
「
『――――真珠湾攻撃か?』
エンタープライズの紫水晶の目が見開かれる。
「知っているのか」
『色々あんだよ。それで、まさか『再現』されそうとかいうオチか?』
返事はない、男は息を呑んで黙り込んだ。
真珠湾攻撃。
彼は知っている。正史のそれではなく、この世界で起きる地獄の幕開けを。
血反吐を吐くほど何度も何度も繰り返す、殺戮と硝煙の記憶。彼はゲームをそれほどやり込んだ覚えはないが、永遠に繰り返すものであることは記憶していた。
理由は単純。結論としてそれは『セイレーン』のマッチポンプによる実験であるから。
ただの観察対象であることを、他人事に彼は把握している。
「重桜の動向が妙だ。連合の中でも険悪なもので、指揮官も帰国できない状況が続いている」
『ふーん、ハッキリ言えよ。要するに『何とかしたい』って事だろ』
そういう事だ、重い返事。
話は聞いてみたものの、考え始めると彼も気が重い。
――止めれるもんならな。意味もなく死ぬ美少女を眺めてたら俺の善良心パラメータが振り切れて爆発事故を起こす。
しかし悲しいかな。男は今となってはただの喋るカセットテープレコーダーに過ぎない。
「最近は同じ夢ばかりだ…………血と油の匂いで噎せ返る海でいつも一人きり。時には死骸を眺め、残骸を見つめ、ただ意味もなく歩くだけ――――正直、散々だ」
『そりゃお前が主人公だったところで嫌だろうな、当たり前だ』
彼女は両肩を抱きながら小さく震えた。
「アレは夢の筈なのにとても鮮明で…………ああ、思い出す。血でべたつく体に、鼻の曲がりそうな油の匂い。硝煙で目が痛くて『嫌だ、嫌だ、こんなはずじゃ』と頭で繰り返して前に歩いていく」
「こういうのは――――何て言うんだろう」
震えた言葉に男の最後の
当然だよな。
殺戮の記憶が染み付いても。
幾ら強くなっても。
乗り越えたつもりでも。
運命が決まっていると分かっても。
それでも尚進むと決意したところで。
――お前は、唯の女の子だもんな。
『怖い、だろ』
「怖いか――――ありがとう、ずっと分からなくて」
――理解できてないんじゃねえ。教えられないし、お前らも理解したくないんだ。
だって解れば海の上に立つ度自覚して、呑まれて、次に今の全てを呪いたくなる。
本当はそういう地獄を歩いているのを、必死で誤魔化してるだけなんだから。
『逃げ出しちまえ、何でもどうにかなったらそれこそ問題だぞ』
「――――――逃げれるなら私だって逃げてるよ!」
初めての彼女の大声は、彼を確かに驚かせる。反省して、戒める。
――そうだった。お前は強いんじゃないんだった。
全ての心有る者は原初から変わらず、死ぬまで貧弱に過ぎる。
生き続けようとそれは変わらない。傷はつき続けて、残り続けて、ただそれを誤魔化して傷まないと思い込む方法論を身を以て覚えているだけだ。
だがどうだろう、凄惨ばかりを記憶とされた彼女達は。
たった一つの心では耐えきれないものを背負っている。元からそれは危うい存在なのだ。
「でも逃げて別の誰かに押し付けたくない! 誰かが死ぬのを当然のように受け入れられない!」
「何も解決しない、意味がない――――!」
必死に叫ぶ。ただのワガママなんて分かりきったことで、それでも唯の少女は叫ぶ。
しかし当然の願いだ。どうして誰かがそんな意味のわからない戦争で死ぬ必要がある、そう思って何がおかしい。誰が否定できる、恐らくできないだろう。
不可能だ。どれほどワガママで、理想論だとしても――――それは悲しいほどに蔑ろにされ、忘れ去られた正当な願望なのだから。
「でも止める方法も分からない。時間は止まってくれない、焦って正解なんてもうさっぱりでやってられない!」
「でも――――――そうだとしても!」
「
――いいえ? 全く正当なお願い事だろうさ。
男は言葉を挟まない。嗚咽を聞き、言葉を吟味し、慰めもせずに思考する。
どうしてやるべきなんだ?
慰め? 否。
逃げ道を教える? 否。
否、そうじゃねえ。足りない頭を使え、漸くマトモな頭の使い方だろうが。
――俺の話はバッドエンドにまっしぐら? いいや、絶対違うね。
『仕方ねえなあ、
溜息を付いて、仕方ないなと笑いながら。
エンドロールは笑ってさようなら。最後は皆で幸せに。向かうはトゥルーエンドじゃなく、グッドエンド。
――
エンタープライズが息を呑んで目を丸くする。
『いや、だからそんなに嫌なら俺らがどうにかするんだよ。人任せは性に合わないだろ? やってやろうぜ』
そこに理屈はない。
――まあ、俺ってバッドエンドに向かってもキャラ的に面白くないしな。
つまらない冗談はいつも虚栄。失敗を悔やんでも、不幸を恨んでも仕方ないから――――失敗絶えないソイツはそれを知っていた。
『この足りない頭とお役立ち付録なトンデモ情報は全部くれてやる』
『隠し事はナシだ。やるなら全力でぶっ潰すぞ』
彼女は答えない、嗚咽は少し小さくなっていた。
気を遣ったつもりなのだろうか、彼は下らないことを言って誤魔化す。
『ま、取り敢えず鼻水でも拭いてこい。出てたら幾ら美少女でもブッサイクだからなあ』
「…………空気読んでよ」
ちょっとだけ、その声は弾んでいた。
『よし、じゃあまずは俺が隠してた情報を全部教えてやる』
彼が語ったのは、文字通りの全てである。
この世界がゲームとほぼ同一であること、エンタープライズを以前から知っていること、予想通りの戦争は起きるであろうこと。
セイレーンの目的も分かる限り。そして戦争は繰り返されているとことも。
自分が眺めているだけの傍観者であったことも、全て、全て洗い浚いに。
「…………俄には信じがたいな」
当然、エンタープライズの反応は芳しくない。彼からすればむしろ戯言と切って捨てないだけタフだと感心するほどだ。
世界が創作物である、もしくはそれをモデルにしたものであるという発想自体がトンデモナイものだ。かの安心院なじみでもなければ、それを嬉々として受け入れるほうが気味の悪い話だ。
ましてや――――自分もそんな世界のパーツなのだと認めるのは、とても難しいことだろう。
『少なくとも俺から見ればそうだ。ゲームやってた頃は胸をひたすらタッチして反応を見てニヤついてたぞ?』
「――――このヘンタイ」
『最高の褒め言葉をどうも』
完璧に顔を真赤にしているエンタープライズを彼は知ることはない。
彼もこうなってからつくづく思っていることだが、表情から得られる情報量は思いの外多いらしい。
「――それで、一応聞くが…………私とは、その」
『ケッコンしてた☆』
「ゲームとは言え相手を選ぶんだ私…………」
――え、そこまで言っちゃう?
普通の反応だ。セクハラばかりする上司とケッコンするというのを一般的な常識に当てはめれば分かるが、相当にやばい。
若干ショックを受けているのはさておき。
『えらくあっさり信じるんだな、コイツいよいよ頭が――――とか思わないわけ?』
侮ってもらっては困るな、とエンタープライズが鼻で笑う。
「あなたがこんなタイミングで巫山戯ないのは分かっている」
「情報じゃない、あなたを私は信じているんだ」
うぐ、と彼が言葉を詰まらせる。
――これだから主人公は駄目なんだ、人誑しめ。
表情が彼に見える訳がないが、少なからず彼には不敵に笑っているように思えたしそれで正解だった。
『何、俺狙いなの? 指揮官諦めた感じ?』
「…………? すまない、聞きたくないから聞こえなかった」
『辛辣ゥ!』
段々と二人でハハハハ、と薄っぺらい笑いをして話はお流れとなる。
「それで、私は何をすれば良い?」
――何をすれば良い、ね。
彼にはそう思う感覚がなくなっていた。もう自分の行動で何かを変えることを忘れていたのかもしれない。
居もしない過去の自分を見つめて、小さく笑いながら彼は答える。
『だから要するに、セイレーンが出てこざるを得なくすればいい』
その心は、と表情を崩さずに続けて尋ねる。
『簡単簡単、同じ敵がいればみんな仲良しアルヨ?』
「そんな適当な……」
『ところがどっこい、歴史を見ても内輪もめなんて大体『外敵が居ない』から起きちまいがちなんだ』
世界史のうろ覚えで彼は喋っていたが、その発送は意外と的を射ていたりする。
ナポレオンが諸外国へ向かう頃に大きな反乱は起きていない。ローマが分裂したのは明確な敵が射なかった頃だ。
極端な外敵を前に混乱する場合もなくはないが、大抵ぬるま湯につかった集団の間で内輪もめは起きる。
――意外と言えているな。
『数十年も戦えば間延びしてくるし、最近は対抗でき始めちまったんだろ? もう今揉めるしか無いじゃんってタイミングだし対処法も単純だろ』
「…………珍しい、納得できた」
『あのね俺だってハートってもんがあるんだぜ分かるか!?』
それはすまなかった、と笑い混じりの謝罪が響く。
あまり反省しているような調子ではないが、彼はもう諦めることを覚えてしまっている。
――まあ、妥協妥協で俺らは生きるもんな。
彼女は今回は偶々、それでは納得できなかっただけ。
それでも。だけど。理屈じゃない。嫌だから。そんな理由で動くことを段々と人は無意識に辞めて行ってしまうようになる。
世界を動かしてきたのは、いつだってそうして今を否定してきた一人からだった筈なのに。
『まあ…………要するに予定外で引っ張り出す。その為には実力が必要になる』
「どれだけの力が有ればいい?」
紫水晶の眼が爛々と輝く。それはどんな要求でも応えてやろうという自信と、どんな旅路でも走り抜けるという覚悟。
見えない彼にすら届くその光は眩しくて、ついつい目を逸らしそうになる。
――俺も昔はこうだったのかもしれない。
眼は希望に煌めき、表情は期待にはにかみ、心は未来に昂ぶる。
知っている、それは今でも変わらないのに、男自身がもうしなくなっただけなのだと。
虚無感に食いつぶされて、じき呑み干した。今は自分のことではなくて彼女のことだ。
『もちろん誰も沈めるな、誰も失うな。今じゃ全然足りない、もっと先に行かなくちゃダメだ』
「そうか、あなたが望む限りに私は応えてみせよう」
『頼もしい返事だ、道は頑張って考える。だからお前も頑張れ』
バカバカしい、彼のどこかが自分を嘲る。
――自分でできないのにこんな娘にしろって言うのか、俺。
つい最近、自分と大差ないことを思い知ったばかりなのに。自分と変わりないただの子供に、自分は出来なくてしもしないことをしろと?
滑稽で、卑怯だな。
――でも、何だか夢は有る。
「他の艦にも伝えるべきではないか?」
『却下。あんま目立つ妙な動きは勘付かれる、俺達が最大単位の規模だと思ったほうが良い』
問題は山積みだ。
男の計画は果たして正しいのか。
少女はそれについて来られるのか。
走り抜けた先で、それでも後悔しないのか。
わからないことばかりで彼ら自身、立ち止まってしまいそうなくらい嫌になる。
「…………壁だらけだ。これだけ情報は有るのに」
『馬鹿言え、強くてニューゲームな俺と世界最強の空母だぜ――――――何にも変わらなかったら、世界が間違ってるんだ』
最強の空母様と来たか、とエンタープライズは小さく笑う。
――そんなものだったのかな、私達。
二人はその地獄で、尚不敵に笑う。
道は続く。雲は空を覆って、霧は一歩先すら隠して、雨は彼らを濡らして、風はいつも向かい風。
それでも笑った、何故って――――。
「あなたがそう言うと、妙な自身すら湧いてくるな」
『空元気と虚栄が偉業の第一歩だ、気楽にやろうぜ』
しかし地獄は地獄。それだけで現実は変わらない。
『今日の演習の結果は?』
「横のサラトガが中破。ダメコンも怪しかったな」
『ダメだ、もっと早く潰すのが手っ取り早いかな』
「了解した」
だが、彼らの道は変わらない。
「セイレーンの発生場所は不定期だったが、確かに大きな海戦には現れている」
『だろ? 打電記録は何冊読めた?』
「すまない、一日の空いた時間では二冊が限界だ」
『十分十分、体調は崩さないようにな』
一日、二日、三日。地獄が迫るごとに、彼らは息を切らして走り続けた。
雲を切り裂き、雲を払い、雨を弾き、風を穿つその未来だけを瞳に移して。
『体調崩すなって言っただろ? ほら、ろれつも回ってないし早く寝ろ』
「そう、だな…………」
『あ、おい! すげえ音したけど大丈夫か!? ちゃんと毛布は掛けて寝ろよ、頼むから!』
「わかっている、すこしたおれそうになっただけだ……」
無理はした。挑戦もした。絶望だってした。それでも互いに肩を押した。
少女は見えぬ先行きに嘆息した。男は飲み物もよこせない無力に苦悩した。消耗して、もう倒れそうだった。
それでも止まりはしなかった。
――それだけは出来ない相談だ。
これだけが、彼らの共通意見だったからだ。
やっとあらすじ回収。お前早く面白くしないと読者離れるってそれ何度も。
エンタープライズ素の口調は普通疑惑の取扱いに困ってる。変に使えない……。
抗ってこその人生。人をやめて人の在り様を知るなんて、面白い男だよなあ。