機動戦士インフィニットストラトス 怪盗が奏でる六つの協奏曲   作:ジャッジ

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第十話 「クラス対抗戦前夜」

怪斗side

 

「全く…この一週間は問題が起き過ぎだ。」

「ホンマそれ、クタクタやで…」

「ボヤくんじゃない、僕だって頭を抱えているのだからな。」

 

僕たちは今、食堂で夕食を取っている。明日はクラス対抗戦なのでギリギリまで特訓している奴もいた。明日は頑張って欲しいものだな。

そして、それと共に僕たちも疲れていた。理由はこの一週間で事件が連発したことにある、話は少し前に遡る…

 

 

 

一週間前、簪が僕たちにとんでもない事を依頼してきた所から始まる。その内容とは実の姉である楯無を殺して欲しいというものだった。

 

「更識楯無…うーんと…えっと………そうや、この学園の生徒会長…ってえぇ⁉︎」

「生徒会長を…殺すだと⁈ いや、それより更識ということは…」

「ああ、簪の実姉だ。いいのか、君は自分の家族を…」

「早とちりしないでくれ、この話にはまだ続きがあるんだ。」

 

僕たちはそれを聞いてホッと胸を撫で下ろした、流石に家族を殺して欲しいなとどいう依頼はな…第一、僕は暗殺依頼なんで受け付けない主義なのだよ。

 

「楯無は殺して欲しいが…刀奈は殺さないでくれ。」

 

この言葉を聞いて箒と江理華はさらに首を傾げた。僕も更識家の事を知らなかったらこんな顔をしていたのだろう。

 

「刀奈というのは楯無の真名のはずだ。言い換えるなら彼女は更識十六代目楯無。

だが、戸籍上では更識刀奈だと聞いている。合っているか?」

「ああ、更識家の当主は代々楯無の名を襲名するというしきたりがある。」

 

箒は理解したようで首を縦に振っている、それに対して江理華はまだ首を傾げている。

ハァ、とため息をついて簪は再び口を開いた。

 

「つまり、楯無=刀奈ということだ。」

「ほほう……大体わかったで。」

「本当にわかったのか?」

 

箒もまた同様にため息をついて首を垂れる。そしてふと、何かが引っかかるような感じに顔をしかめた。

 

「どうした箒、難しい顔をして。」

「いや、楯無=刀奈なんだったな。

それなら楯無を殺して刀奈を殺すなというのは…どう言う事だ?」

 

それを聞いた江理華もあっ!という顔をして立ち上がり、疑問を口にした。

 

「せやせや!あれや、えっと…その…う〜ん…そう、矛盾してるやん!」

「それはつまり…」

「つまり、楯無の存在を殺して、刀奈を保護して欲しい。

そういうことなんじゃないか?」

 

簪が話そうとした瞬間、僕は彼女の言葉に被せるようにそう言った。

そして簪は自分のセリフを取られたとじと目でこっちを見てくる…やめて欲しいね。

 

「ゔんっ!それで、いつ実行すればいい?」

「姉さんが学校を卒業するまでならいつでもいい。

けど約束してくれ、必ず成功させるって。あの人を更識の家から解放してやってくれ…!」

 

簪は座ったまま頭を深く下げて言った、ここまでされて断るわけにもいかない…か。

 

「……いいだろう、引き受けた。」

 

これが一つ目の事件、そしてその六日後…つまり、昨日の夕方に起こったのだ。

 

土曜日なので授業は午前中で終了。一夏はセシリア、メーヤ、実による、僕と箒は江理華の特訓を行っていた。ただし一夏らは第三、僕らは第六アリーナを使用していたという違いがあるが。

僕と箒は刀を使った打ち合い、江理華は中央タワーを使って高速移動しながらビームライフルを使っての的当てをしている。

 

「うん、江理華の動きも随分よくなったと思わないか?」

「それはそうだろう、初日からPICをマニュアルにして訓練させてたんだから…な!」

 

僕が吉行を横薙ぎで振るいながら話しかけ箒はそれをかわし突きで返しながら答える。

 

「最初はいきなりマニュアルで大丈夫かと思ったが、以外にいけるものだな。」

「ああ、彼女は実践さえすればすぐに覚える。ほら、もうノルマをクリアしたみたいだぞ。」

 

僕が指差した方向から少々フラフラしながらもブルーフレームが降りてくる。

今は速度を上げるため背中にタクティカルアームズと呼ばれる複合ユニットを背負ったセカンドLと呼ばれるモードに変形している。

 

「な、なんとか終わったで…言われた通りPICはマニュアルでやったけど…しんど過ぎ!」

「お疲れのようだな。まぁ、三回目にしちゃ頑張った方だと思うぞ。」

「江理華も終わった事だし、そろそろ上がるとしよう。

そうだ、隣の第一アリーナの一夏に会いに行かないか?」

「ええやんそれ!明日は勝ってもらわなあかんしな!」

 

という事で僕たちは第一アリーナに移動した。ピットに入った時はまだ戻って来てなかったが、数分ほど待つと姿を見せた。

 

「やぁ一夏、調子はどうだい?」

「それがさぁ、実もセシリアも全く容赦なくてさぁ…もうクタクタだ。」

「これくらいせんと、あの凰とやらに勝てんからな。」

「そうです!一夏さんには必ず勝って貰わなければ困りますわ!」

 

実とセシリアはムスッとした顔でそう答える、今日はやけに機嫌が悪いようだが…何かあったのか?

と、その時ピットの入り口が開き、明日の対戦相手である凰が入ってきた。

 

「待たせたわね一夏。」

「いや、別に待ってないんだけど…それで、何の用だ?」

「それで…何か反省した?」

「?…何についてだよ。」

「だーかーらー、六日前の事だってば!」

 

六日前…あぁ、一夏が鈴との約束を間違えたというあれか?

箒の推測を聞かせて貰ったが…もし彼女が言ってることが本当ならバカの極みだぞ。

 

「いや、約束は覚えてたじゃないか!」

「だ!か!ら!その意味が違うって言ってんのよ!」

「じゃあ、どんな意味なんだよ!説明しろよ!」

「せ、説明⁉︎そ、そのね…その…えっと…と、とにかくっ!謝りなさいよ!」

 

凰は途中言葉を詰まらせ、瞬時に耳まで顔を赤くした。かなり動揺して恥ずかしがってるな…

 

「じゃあ、これでどうだ?

明日の試合に俺が勝ったら説明してもらうからな!」

「ぐ…い、いいわよ。その代わり、私が勝ったら誤ってもらうわよ!」

「だから説明したらって言ってんだろバカ!」

「き、君たち…一度ヒートダウンした方が…あ。」

 

僕は一夏を見てから鈴を見たが…泣いていた。しかも大粒の涙を目尻に溜めながら。

これはまずい、本格的にまずい…

 

「あんた…ホントに覚えてないの?」

「だから!約束はちゃんと間違えずに覚えてたじゃねぇか!」

「〜〜〜ッッ!バカ!バカバカバカバカバカバカバカ!

今世紀史上最大のバカ!あんたなんて…大、大、大ッッッッ嫌い!」

「そ、そこまで言う必要はねぇだろ!」

「うるさい!ほっといて!」

 

凰はそう言ってピットから飛び出す。ダメだ、絶対に追わせないとあの二人は…!

 

「一夏っ!早く凰を追いかけるのだよっ!」

「い、いや…ほっといてって言ってたから…」

「悪いことをしたと思わないのか!」

「泣かせたのは悪いと思うけど…」

「チッ!このバカ野郎!」

 

いつまで経っても追いかけようとしない一夏に痺れを切らした僕は彼に代わって追いかけた。

だが、彼女は教室にも寮にも食堂にもいない…どこにいるのだよ!

 

「…何をしているのですか?」

 

寮の近くで探していた時、声をかけてきたのは…先日僕のイカサマを見抜いたミレイナ・アルフォースだった。

 

「アルフォースか、悪いが君に構ってる暇は…」

「中国の国家代表候補、凰鈴音さんの居場所ですか?」

 

それを聞いて僕は目を見開いた。まさか彼女が知っているとは…

いや、それより彼女の居場所だ。

 

「彼女は中央庭園のベンチです。

泣いていたようですが…もしやあなたが?」

「………一夏だ。」

 

僕はそう呟いてその場を走り去る、彼女が言ったとおり凰は中央庭園のベンチで三角座りしていた。その隣に腰掛けると凰は涙声で言った。

 

「……何よ、一夏の代わりにあんたが慰めに来たわけ?」

「まぁ、そんなものかね。あのバカはいつまで経っても追いかけようとしなかったから。」

「「そんなの別に必要ない」」

「……好きにしなさいよ。」

 

彼女の性格上慰められるのは嫌いなんだよう、次のセリフを予測するのは容易い。悪く言えば思考が読み取り易いんだ。

 

「あんたに分かるの?

ずっと約束を守るために頑張ってきたのに間違えられて…なんだろなぁ…千年の恋も冷めるような感じかしらね。」

「怒りや悲しみが一周回って冷静になった、か…

多分あいつも今頃後悔してるんだろ、そうでなかったらクズだ。」

「なんかねぇ…アタシの方がバカに思えてきちゃった。

一夏に会いたい一心で頑張ったのに…当の本人は忘れてるなんてね。

ほんと、笑過ぎて涙が出てくるわよ…結局、アタシのやって来た事は無駄だったわけね。」

「…そうだな、確かに笑えてくる。」

 

凰はそう返されて空を仰ぎ見る、それにつられて僕も見上げるが…美しいな。

そう言えば、夕焼け空を見るのは久しぶりだ。そして、フッと笑ってこう続けた。

 

「だが、今まで君がやってきた事は無駄じゃない。

少なくとも何か信念を固めてやった努力は絶対に無駄じゃない。

もし無駄だと笑う奴がいたら…僕はそいつを許さない。

まぁ、君自身が無駄だと思ってるなら本当に無駄かもしれないがな。」

「…はぁ?何言ってんのよ、私のしたことに…無駄なことなんて一つもないわよ。

絶対に勝って、あいつを謝らせるんだから…!」

「その息だ、まぁ精々頑張りたまえ。じゃあな凰。」

「………鈴、鈴でいいわよ。」

「そうか、では僕も怪斗で構わん。改めて、じゃあな鈴。」

「バイバイ、怪斗。」

 

そして、この大きな食い違いがあってから凰…いや、鈴は一切一夏と口を聞いていない。それは一夏も同じだ。

 

 

 

 

「怪斗…おい怪斗!」

「大丈夫か?やっぱ疲れとるんちゃう?」

「全くよぉ、明日は大丈夫なのか?」

「ああ、大丈夫だ。少々ボーッとしてただけだ。

それにもう後戻りは出来ない、予告状を出してしまったからな。」

 

そうそう、僕は食堂を出て寮の自室に戻って来てたんだったな。

今部屋には箒と江理華、それからオータムと簪も来ていた。依頼人が作戦に参加するのもどうかと思うがな。

 

「わざわざ誘拐すんのに予告状が必要なのか?」

「もちろんだとも、予告状は怪盗の必需品…誘拐だろうが盗みだろうが絶対に予告状を送らなければならない。」

「……へぇ。」

 

簪が興味なさそうに頷く。全く、興味が無いのなら聞くなよ…

 

「さて、作戦を発表する。しっかり聞いておけ。

まず、二年生の一回戦の試合途中に簪がピットにいる簪がターゲットに睡眠薬入りの飲み物を与え、彼女が寝ている間に保健室に運ぶ。」

「はーい質問、なんで保健室なん?」

「質問は後だ、そこで人体に影響が出ないほどの血液を抜いて、現場と打鉄の刀と装甲にぶっかける。

そして、現場にこのジョーカーのカードを置いて…作戦終了だ。」

 

僕は手にトランプのジョーカーを持ちながら言った。このカードは特注で僕だけしか持っていない。

いつも何かしらを盗む時にこれを現場に置くことで僕が盗んだ証とした訳だ。

 

「ホントにそんなのでいけんのか?」

 

オータムが少々不安そうな顔をして聞いてくる。

それに大丈夫だ、ちゃんとスコールの助言も聞いたし簪に協力してもらう事でターゲットを油断させる事が出来る。

 

「とにかく!明日はこの作戦でいく、わかったな!」

『は〜い。』

「よろしい、では解散!」

 

そういうと江理華以外は各々の自室へと帰っていく。さて、明日も早いことだし僕もさっさと寝よう。

 

だが、僕はこの時二つのミスを犯していた。一つはターゲットである更識楯無に予告状を送ったこと。

もう一つは一週間前にするように言われていた束女史への電話を忘れていた事だ。

 

第十話完




ちょっと後半駆け足気味になっちゃいましたね、すみません。
それでは次回予告。

始まった鈴と一夏の戦い。明かされる鈴の機体、一夏は彼女に勝てるのか?
そして試合の真っ只中、上空からビームが飛来して…
次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第十一話
「亡国を装う短剣」

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