機動戦士インフィニットストラトス 怪盗が奏でる六つの協奏曲   作:ジャッジ

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第二十話 「たった一人守れないで」

弾達が戦っている時、ラウラは、シュヴァルツェア・モントの再起動に追われていた。

 

生きている回線をつなぎ合わせ、動けるようにする。武器は誰からか貰えばいい、なんなら奪ってでも戦う。

ラウラは、その思いだけで動いていた。自分の戦いに、仲間を巻き込まないためにも。だが。

 

「くっ、やはり出力が足りない…エネルギーまでもか。」

 

二連戦、加えて四対一のダメージは、かなり蓄積されていたようだった。

シャルの推察通り、ガンダムに対抗するために、研究所から引っ張り出してきた試作機。

 

特に、エネルギー効率面においては、白式よりも、燃費が悪い機体となっていた。

 

『汝、願わくば力を貸そう。変革のため…より強い力を欲するか?』

 

そんな時、スピーカーじゃない、どこか奥に響くような声が、聞こえてきた。

 

どこから、一体何者なのか、彼女にとって、そんな事はもう、どうでもよかった。

純粋な力、奴らを倒し、ガンダムを取り上げる為の力。欲しいのはそれだけだった。

 

その問いかけに、ラウラの答えはただ一言だった。

 

「…よこせ。」

 

その瞬間、凄まじいほどの放電が、モントを中心にほとばしる。

それに呼応するように、力が溢れ出てくるのを感じた。

 

だが、それはラウラが望まない力…全てを飲み込み、破壊してしまうかのような暗い闇の力…

 

「(違う…こんなのじゃない、私が欲しいのはこんな力じゃない!や、やめろ…やめてくれ‼︎)

ぅぅぅ…ああぁぁぁぁ!」

 

絶叫と共に、シュヴァルツェア・モントの機体がドロドロと溶けて、新たな形に整形されていく。

 

ガンダムのようにスラリとしたボディ、雪片と同じ程の、長いブレード。

その顔は凹凸もなく、のっぺりとしていた。

 

「な、なんじゃあ、ありゃ…?」

「あれも、彼女の機体のシステム…なの?」

 

さっきまで、打ち合いをしてた弾もシャルも、その手を止めて、彼女に見入る。

 

すると、次の瞬間には、その機体は二人に向けて、ブレードを振るっていた。

 

「ぐあぁ⁈」

「うわぁぁ⁉︎」

 

ものの一瞬で移動したその機体は、一撃で二人を蹴散らした。

それだけにとどまらず、更にブレードを振りかぶる。その間に入ったのは、グリーンフレームのリューカだ。

 

「どうしたのさラウラ!なにがあったんだよぉ!」

「…………」

「お願い、目を覚ましてよ!」

「クロステルマンさん、どいてください!」

 

リューカが離れ、すかさず、ビームソードを振るうミレイナのブリッツガウェイン。

 

しかし、相手の恐るべき機動でよけられ、右手の複合シールドを切り裂かれる。

 

それを犠牲にその場を離れ、一夏達の立っている所に戻る。

 

「くっ。やはり、そう言うことですか…」

「一体、どう言うことだよ?」

「私見ですが…あれはおそらく、VTシステムかと思われます。」

「VTシステム…ヴァルキリートレースシステムか!」

「簪さん…やはり、あなたは知っていましたか。」

 

ヴァルキリートレースシステム。

通称、VTシステムとも呼ばれるそれは、過去に行われたISの世界大会、モンドグロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の動きを、トレースするシステムのことを指す。

 

ミレイナは、そう説明した。

更に、補足として簪が付け加える。

 

「本当なら、どの国家や企業も、そいつを作っても研究してもいけない。

アラスカ条約で、そう決められてたはずだ…」

「しかし、現にそれが目の前にありますし…

これは、あくまで私の推測ですが…あの機体は見るからに試作機、取り外すのを忘れた。というのも考えられます。」

 

なるほどな…の声と共に、簪は天羽々斬を構え直す。

 

真っ黒な機体は、そのブレードを中段に構え、今にも襲ってくるような冷たいプレッシャーを放っている。

 

そして、さっきと同じように、驚異的な速さで迫ってきた。

 

カウンターで放った胴も、流れるような動きでかわされ、それに畳み掛けるように放った一夏の斬撃もまた、かわされてしまった。

 

「なんてスピードだ、目で追うのが精一杯だ。」

「てりゃあぁぁ!」

「鈴…⁉︎動いて大丈夫なのかよ!」

「あったり前よ、ピンピンしてるわ。」

 

一夏の斬撃をよけたそいつを吹き飛ばしたのは、さっきまでラウラにやられていた鈴だった。

 

背中の、隠し腕のパーツをパージして、身軽になった彼女の飛び蹴りが、見事にクリンヒットした。

 

もちろん、復活したのは彼女だけではない。

 

「さぁ、戦線復活ですわ!」

 

その掛け声とともに、追加装甲を外したセシリアは、その手にスターライトMk-IVからビームを放つ。

 

それによって、一瞬だけ動きが止まったのを、シャルとミレイナは見逃さなかった。

 

「今です!」

「動きを封じる…その間に!」

 

ブリッツのピアサーロック(スレイブニール)とソードストライクのロケットアンカー(パンツァーアイゼン)を放ち、右手と左足の動きを封じる。

真っ先に反応したのは、メーヤだった。

 

「ナイスだぜミレイナ、シャルル。ついでにこれでも喰らっとけ!」

 

彼女の超高インパルス狙撃砲ライフルが火を吹き、真っ黒な機体に直撃する。

 

続いて、セシリアの狙撃とシャルの射撃が直撃する。

 

「今だよ、一夏!」

「今度こそ当てろよ、零落白夜!」

「任せろ!」

 

エネルギー的に、瞬時加速(イグニッション・ブースト)は難しいのか、白式のトップスピードで黒い機体に迫る。

 

黒い機体は、体に巻きついたアンカーを切り落とそうと、左手に持ったブレードを振り下ろそうとする。

 

「させるかよ。さっさとラウラを返しやがれ!」

 

弾のビームライフルによる射撃で、ブレードを叩き落とす。

それは手から離れた瞬間、ドロッとした何かが剥がれ落ち、さっきより、一回り小さい剣が現れる。

 

一夏は目の前の黒い機体に向けて、まっすぐと、真っ白な刀身を向ける。

 

「お前、言ってたよな。俺の存在を認めねぇって。

あぁ弱いよ、俺はまだまだ。他の皆から比べたらな。」

 

その声に呼応するように、零落白夜のビーム刃が変化する。

鈴との戦いの時に見せたダガーモードではなく、さっきまでの刀身をそのまま伸ばしたような。

 

名付けるなら、零落白夜『ロングブレードモード』

 

「けどな、お前の力だって、ただ壊すだけのもんじゃねぇか。そんなのは、本当の強さじゃねぇ!

本当の強さは、誰かを守る為のもんだ!」

 

一夏は加速しながらも、ただ一点、正面にのみ目線を向けていた。

それは、織斑千冬にも似た、速くく、鋭い袈裟斬り。

 

「俺も、一度だけお前を救ってやる!もう一度やり直してこい…

この……………大バカ野郎ッ‼︎」

 

ギィィン!

金属同士がこすれ合う嫌な音が響き、一機のISが吹き飛ばされる。

 

ただし、吹き飛ばされたのは白式で、吹き飛ばしたのは、黄金の…

 

『あ、アカツキ⁉︎』

 

全員の声と、目線の先には黄金のIS、アカツキが一夏に向けて、その拳を振り切っていた。

 

続いて、その両手にビームサーベルを持ち、黒い機体に巻きついているワイヤーを切り裂く。

 

「えっ⁉︎」

「な、何をするんです⁈」

 

アカツキ…怪斗はそのまま、ビームサーベルを捨て、ビームライフルもシールドも、その場に捨てる。

 

『……………ッ‼︎‼︎』

 

檻から放たれた獣のように、空を仰いで声の無い咆哮を叫ぶ。

そして、失った武器の代わりに、その拳が、アカツキに振るわれる。

 

が、それを怪斗はよけることなく、片手で防ぐ。

 

『……………!』

「……そうか、わかった。」

 

何かを聞き取った彼は、その手を離し、黒い機体が下がると同時に、足元の剣を蹴り上げ、それを手に握る。

 

右足を引き、体を右斜めに向け、剣を右脇に取り、切っ先を後ろに下げる。剣道で言う脇構え、またの名を…陽の構え。

 

そして、先ほど通りの、ロケットのみたいな加速で、怪斗に迫る。

 

「怪斗、危ねえ!」

 

迫るそれに、再び零落白夜で反撃しようとする一夏。

その白いビーム刃が、黒い機体を捉えようとする。

 

「大丈夫、痛いのはほんの一瞬だ。

我慢してくれるよね?だから…必ず救う!」

 

ガギィン!

怪斗の横一閃が、一夏の右腕に炸裂し、雪片を吹き飛ばす。

 

そしてすぐさま、黒い機体のナックルをターンでよけ、居合切りの構えを取り、その勢いで逆袈裟斬りを放つ。

 

それと同時に、黒い機体が真っ二つに割れ、その中からラウラが放り出される。

怪斗は彼女を優しくキャッチする。

 

「よっと!江理華ちゃん参上!

…ってあれ。もう、終わってもうた?」

「うむ、どうやらその通りのようだな。」

 

怪斗に遅れてやってきた、江理華と箒も、すぐに怪斗とラウラの元に駆け寄る。

 

「大丈夫なのだよ、彼女は気を失ってるだけだし。

僕だって怪我一つしてないしね。」

 

すると、怪斗はラウラを箒に預けて、一夏達の方に振り返った。

 

「ラウラが随分と世話になったようだね。すまなかった。」

「ちょっと待ってよ怪斗!なんであの時、一夏を邪魔したんだよ!」

「いや、いいんだシャル。怪斗だってラウラを助けたかったんだしさ。

でも、もうちょっと、手加減してもよかったんじゃないか?」

 

そう言われて、怪斗は一度、下を見てフッと笑った。

そして、その顔を上げて言った。

 

「…何を勘違いしてやがる。彼女がこの怪我を負ったのは貴様らのせいなのにねぇ!」

 

その瞬間、怪斗はオオワシに取り付けられたビーム砲を一夏に放つ。

彼は、それをギリギリでよけたが、目を丸くして彼の方を見ていた。

その目は炯々と、赤く光ってるようにも見えた。

 

「ですが!ラウラさんがわたくし達に戦いを挑まなければ…」

「僕が言ってるのは、その後の事だ。

そんな事しなくとも、何にか別の方法があったと思うのだよ。」

 

アカツキを解除した怪斗は、箒に預けたラウラを、再び抱きかかえてから、そう言った。

 

「少なくとも…少なくとも『救ってやる』なんて言ってる奴に、誰かを救うなんて、出来っこないのだよ。

今度の学年別トーナメントで、それを証明してやる、首を洗って待っていろ。」

 

怪斗は最後に、彼らに背を向けたままそう言って、アリーナを後にする。

 

怪斗は、その足で保健室へと向かった。

ぐったりとしているラウラを見て、担当の榊原先生はかなり驚いていたが、そこまで重傷でないとわかりったのか、ホッと安心していた。

 

「数カ所の打撲と、切り傷…それぐらいね。

他に、目立った外傷もないから、すぐに目を覚ますわ。」

「ありがとうございます。出来れば、そばにいてやりたいのですが…」

「ええ、構わないわよ。」

 

怪斗は、パイプ椅子を出してきて、ラウラのベットの横に座る。

 

一応、織斑先生か山田先生に連絡しておこう。

と思って、榊原先生が受話器を取った時。ラウラのベットの方から、声が聞こえてきた。

 

話し声ではなく…彼の、怪斗のすすり泣きの声が。

 

それを聞き、彼女も受話器を置いて、静かに、その場を後にした。

 

「うぅ…ぅぅぅ…」

 

実際、怪斗は泣いていた。

悲しいのでも、悔しいのでもない。怒っているのだ。彼女を傷付けた一夏達と、守れなかった自分に。

 

「何が守れないだよ…僕も、守れてないじゃないか…最低だ、僕は最低だ…」

 

涙をこぼしながら、怪斗はそう呟く。

自分で言っておきながら、何も出来てない。たった一人守れないで、偉そうに言う資格なんてない。

 

怪斗は、ひたすら後悔していた。もっと速く着くことが出来なかったか。彼女の行動を予測出来なかったか。

いくらでも、守ることが出来たはずだ。

それを、どうして出来なかったんだ…

 

「う、ぅぅ…怪…斗?」

「ラウラ…!大丈夫かい?」

「ああ…なんとかな、それで、私は?」

 

怪斗は、リューカから聞いた事の顛末を全て話した。

VTシステムの事も、そのせいでシュヴァルツェア・モントが壊れた事も、もちろん。

 

その話を聞いて、ラウラはアゴに手を当てて聞いていた。

 

「すまなかった、もう少し速く着いていれば、君をここまで傷つけることは。僕が弱いばかりに…」

「…バカ者。」

 

そう言って、ラウラはため息をついて、怪斗の肩に手を置き、微笑みを浮かべて話しかける。

 

「お前の弱さも、お前の強さだ。

それをわかってるからこそ、お前は、負け続けるんじゃなかったのか?」

「だが、今回ばかりは…」

「お前は悪くない。」

 

その言葉を聞いて、思わず怪斗は苦笑してしまった。

そして、怪斗はその手でラウラの頭を撫でる。

 

「んっ、何をする!私は子供では…」

「ははっ、僕達はまだ子供さ。自分の言ったことに責任がとれない、ね。」

「はぁ、やはり、お前は過保護だな。」

「そう言うことじゃ、無いのだよ。」

「所でだ、そこで聞き耳を立てているのは、注意しないのか?」

 

それを聞いて、怪斗はガラッと保健室の扉を開ける。

すると、箒や江理華、弾、リューカ、簪が、なだれ込んで来た。

 

「…何をしているのだよ、君たちは。」

「いや、私はやめろと言ったのだが…江理華とかリューカとかが。」

「わ、悪気はなかったんや。堪忍してくれ!」

「うう…ごめんなさい。」

「まぁ…いいんだけどね。」

 

ハァ、とため息をつき。立ち上がるのに手を貸す。

その時、簪のケータイが鳴り、それを見た彼女がニヤリと笑った。

 

「どうやら、次の学年別トーナメント。形式かタッグマッチに変更されたそうだぞ。」

「なんだって、それは本当かい?」

「姉さんからの確定情報だ、まず間違いない。」

 

それを聞くと、怪斗もニヤリと笑って、ラウラの元に戻った。

そして、ポケットから、金色のリングを取り出す。

 

「ラウラ、僕と組んでくれ。壊れたモントの代わりに、これを使うのだよ。」

「構わないが、その機体は?」

「ガンダムアストレイゴールドフレーム天だ。これを使ってくれ。

ついでに、僕の最初の任務が終わるしね。」

「いいだろう、お前と組んでやる。」

 

ふん、と鼻を鳴らし、ラウラはそれを受け取る。その顔はいつもより明るく、嬉しそうにその場を出ていった。

 

外へ出た時、空はさっきまでの曇天が、嘘のように晴れ渡っていた。

 

やっと、怪斗と一緒に戦える。

いつも守ってばかりのあいつに、恩返しできる。たったそれだけなのに、彼女にとっては、とても嬉しい事だった。

 

「これで私も、本当の強さを得られる…!

これほど嬉しい事はない。やはり、この学園に来てよかった!」

 

とても軽い足取りで、ラウラはアリーナに向かう。その顔に、怪斗も千冬も見たこの無い、満面の笑みを浮かべて。

 

第二十話完




テストもようやく終わって、後は夏休みを待つばかり。
もうちょっと、更新ペース上げたいですね。
では次回予告
学年別トーナメントが始まり、一回戦で戦う事となった一夏&シャルペアと、怪斗&ラウラペア。
大好きな人を痛めつけた怒りは、彼の本気を呼び起こす。

次回
機動戦士インフィニットストラトス
怪盗が奏でる六つの協奏曲
第二十一話
「アウェイクニング」
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