なのはたちが到着し、俺はなのはに治癒魔法をかけてもらい、フェイトはプレシアの傍に駆け寄り優しく上体を起こしていた。
「……何をしに来たの?――フェイト」
「っ、わ、私は、母さんに話があって来ました」
フェイトは、何かを決心したように口を開く。
「私は……母さんの顔色を窺い母さんの言うことを聞く人形でした。そんな私は、アリシアの代わりを務めることは不可能なんだと思います」
フェイトは、それでもっ。と言葉を続ける。
「私は、母さんに生み出された娘です。プレシア・テスタロッサの娘なんですっ!母さんが私を嫌っていても、母さんが育ててくれた娘なんですっ!」
プレシアは、フェイトの想いを聞き、目を見開き動揺していた。
「私はどんなことがあっても、母さんを嫌いになれません。――私は、私は、プレシア・テスタロッサが大好きなんです!この気持ちは嘘じゃありません!フェイト・テスタロッサの、偽りの無い想いです!」
これこそが、フェイトを今まで支えてきた根本の理由、想いなのだろう。
プレシアは、フェイトから顔を背けた。
「……だからなに?今更、娘のように見ろって言いたいの?」
「母さんが、私を娘として見なくても構いません。……でも私は、どんなことがあっても、母さんを護って見せます!――母さんが生んでくれた、フェイト・テスタロッサとして!」
フェイトの瞳には、決意が籠っていた。
今のフェイトは、プレシアの言葉に一切動揺しないだろう。
数秒の沈黙が流れ、プレシアはフェイトを見てから両目を閉じ、溜息を吐いてから口を開く。
「…………アリシアも相当の頑固者だったわ。…………あの子も妹が欲しいって言ってたかしら…………私は、いつも遅すぎる……」
プレシアは観念したように、
「……フェイト。聞きなさい」
「は、はい!」
今のプレシアからは、フェイトを拒絶するような気配はなかった。寧ろ、受け入れているようにも思える。――おそらく、いやきっと、フェイトの想いがプレシアに届いたのかも知れない。
「……私は最低な母親よ。それに、アリシアへの想いは消すことができないでしょうね。……それでも構わないって言うの?貴方を蔑にするかも知れない」
「母さんが、フェイト・テスタロッサと認めてくれるなら構いません。それだけで十分ですから」
プレシアは、……そう。と頷いた。
「……フェイト、貴女はこれから自由に生きなさい。……これは命令じゃない、私からのお願いよ……」
プレシアは、フェイトの左頬に自身の右手を添えた。
そして、笑みを浮かべる。作りものじゃない、本当の笑みだ。
「……強くなったわね、フェイト」
プレシアの視線が、俺を捉える。
「……千尋。癪だけど、貴方の言った通りだった、のかも知れないわね」
「いや、俺は何もしてない。その答えに辿り着いたのはプレシアさんだしな」
プレシアは、そうね。と言ったら、目を閉じた。だが、しっかり呼吸もしている。ただ、気を失っただけだろう。
「フェイトちゃん、よかったね」
なのはが、フェイトに声をかける。
「うん。……でも、母さんに私の想いは届いたのかな……」
「きっと大丈夫。プレシアさんに届いたはずだよ」
そんな時、クロノとユーノも到着した。何て言うか、タイミングがバッチリである。
クロノは周りを見渡しながら、
「無事か、君たち?」
「私とフェイトちゃんは大丈夫だけど、千尋君とプレシアさんの消耗が激しいかも……」
クロノは、プレシアと俺を見てから、
「そうだろうな。現状を作り出したのは、プレシア・テスタロッサと神矢千尋、だしな」
……うん、そうだね。庭園を破壊したのは、確実に俺とプレシアだしね。
そんなことを思っていたら、クロノの前に通信モニターが現れた。
《皆!無事!?》
「ああ、エイミィか。プレシア・テスタロッサも含め、皆無事だ」
《そっかー、良かった……。って、それよりも早く脱出しないと、庭園が崩壊するよ!?次元震も今まさに起きそうなんだからね!?》
そういえばそうだったわ。ジュエルシードを封印しないと、この事件は完全に解決とは言えない。てか俺、封印する為のバスター撃てるかな?いや、斬撃でもいいんだけどさ。
「……な、なのはさん。俺に魔力をくれたりする?」
なのはは現状を確認し、
「……わかった。でも、アースラに戻ったら私の指示を聞くっていう条件付きだけど」
「あ、ああ。構わない」
なのはのデバイスから放たれる桜色の閃光が俺を包み、俺は魔力を回復することができた。とはいえ、体が軋むの治らないけど。
「どうすっか?数分もしたら、ジュエルシードは暴走するな」
「うーん、私たちの砲撃で封印しよっか。ほら、竜巻のジュエルシードを封印した感じで」
「ああ、あれか。フェイトはどうだ?」
「あの時の砲撃……。うん、合わせるだけなら大丈夫」
フェイトはユーノにプレシアを預け、俺はなのはの肩から離れる。
そして、俺たちのデバイスは砲撃形状に変更され、狙いをジュエルシードへ。んで、クロノが砲撃のチャージ中のガード役である。
クロノが頷くと、俺たちデバイスに魔力が集束していく。つーか、砲撃のチャージをしてる反動だけで体がミシミシいってる。何本か、骨が折れてるだろうなぁ……。
「千尋君、フェイトちゃん、せーので封印!」
了解。と頷く、俺とフェイト。
「せーの!」
なのはの掛け声と同時に、俺たちはデバイスを力強く握り締める。
「疾けろ……」
「サンダー……」
「ディバイン……」
三つの砲撃は一つに変形し、漆黒の巨大な魔弾の周りには桜色の閃光が駆け回り、それを内包するように雷撃を纏っている。威力だけで見れば、SSクラスの砲撃になるのは間違えないだろう。
「――漆閃!」
「――レイジ!」
「――バスター!」
凄まじい砲撃が放たれ、空中で暴走寸前だったジュエルシードは完全に停止していた。それにしても今の砲撃で、内部を凄い勢いで貫通した。おそらく、被害にあった外周部は消し飛んでいるだろう。
ジュエルシードを封印したのはいいが、庭園の破壊は続いていた。早く脱出しなければ瓦礫に潰されてしまう。
「――あんたら、脱出口は確保しといたよ!さっさとズラかるよ!」
遅れて合流したアルフが、脱出口を確保していてくれたらしい。
ともあれ、クロノが封印されたジュエルシードを回収し、俺たちは空を飛んで脱出したのだった。ちなみに、プレシアはフェイトの背に乗っていた。
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ジュエルシードを封印しアースラに戻った俺だが、戻った直後に連行されたのは医務室だ。ちなみに、脱出から数分後、完全に庭園は破壊された。……殆んど破壊したのは俺とプレシアだが、次元震が起きなかったことで良しとしよう、そうしよう。
「……打撲に骨折、火傷に所々に血管破裂。……過剰な身体強化の副作用。他にも――」
医務室のベットに寝て仰向けになり、上体を上げてる俺は、アースラ専属の医師に怪我の内容を説明されていた。なんつーか、一番酷い怪我だったのは俺だったらしい。まあ、もろにプレシアの攻撃を受けたしなぁ……。ちなみプレシアは、俺に比べれば軽傷だそうだ。病気の方も、ちゃんと休養を取ればブリ返すこともないらしい。
「先生、ありがとうございます。続きは、私から言っておきますので」
そう言ったのは、ベットの隣ある椅子に座ったなのはである。
「そうですね。医師の僕たちが言うより、友達の方がこういう時は効果がありますからね」
そう言って、医務室から退出する先生。
するとなのはが、
「千尋君。今すぐドライブバーストの術式を展開して」
有無を言わせないなのはの言葉。なので俺は、おとなしく術式を展開する。
「レイジングハート、あの封印魔法をお願い」
“All right。my.mastar”
俺が展開した魔法陣の上に、桜色の魔法陣が重なるように展開し、
「リリカル・マジカル。漆黒に展開されし術式を封印せよ――」
なのはの言葉と同時に、桜色の魔法陣が、漆黒の魔法陣を雁字搦めにするように鎖を展開し完全に封印した。てか、――なのはの複合魔法である。そう、俺がなのはの魔法を使えるように、なのはも俺の魔法を使えたりもするのだ。
リミットブレイクは、俺が将来完全に制御することを視野に入れたので、なのはは封印することはしなかったらしい。
つっても、魔導師を始めて約一ヵ月なのに、既に魔法陣の解析が行えるなのはのスペックは天井知らずだと、俺は思ってたりする。
「……そういえば千尋君、アリシアちゃん……ううん、フェイトちゃんのお姉さんの遺体ってどうなるの?」
「ああ、そのことならプレシアさんの要望があって、ミッドチルダの集団墓地に埋葬するらしい。……プレシアさんも前に進んだ。ってことじゃないか」
埋葬には、プレシアとフェイトも立ち会うらしい。裁判の最中だと思うが、これは当然の権利だと俺は思うし。
「……そっか。プレシアさんは、アリシアちゃんを安心して眠らせてあげたいってことかな」
たぶんそうだろうな。と言って、俺は頷いた。
「ねぇ千尋君。これから、フェイトちゃんとプレシアさんはどうなるの?」
「たぶん裁判じゃ、プレシアさんは有罪で、フェイトは今までのことを考慮して執行猶予付きのほぼ無罪。ってのが妥当だろうな。でもまあ、俺はプレシアさんの罪を軽くするつもりだけど」
元を辿れば、プレシアも被害者なのだ。本局の奴らが実験に介入してこなければ、こんなことは起きなかったのかも知れない。それを証明する俺の証言と、その事故がどんな悲劇を起こしたかが明るみに出れば、プレシアの罪は軽くなる……と思う。まあ、頭の固いお偉いさんを黙らせるには、話を通さなければ俺はミッドチルダには一生戻らないと脅せばいいだけの話だ。
このことを話したら、なのはは神妙な面持ちをしていたが、徐々に口許を引き攣らせていた。ちなみに、プレシアとフェイトたちはアースラに帰還後護送室に隔離された。時空管理局と敵対関係であり、今回の事件の重要参考人なので仕方ない処置。になるのかも知れない。
「……千尋君って、凄いことを考えるんだね」
「いや、そうでもないぞ。俺は使えるものは何でも使う主義だしな。こういったら何だが、俺の頭脳はどこの企業も施設も欲してるものだ。それが無くなると脅せば、大体の要求は通るんじゃないか。……まあ、罪そのものが消えるってことはなんだけどな」
こうして、ジュエルシード事件は終わりを迎えることになった。後に、この事件がPT事件と呼ばれるのは、ずっと先のことになる。
そしてこの後、俺の無茶な突入や、力の使い過ぎのことをなのはに怒られたのは言うまでも無い。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
事件から数週間経過した頃、自室で寝ていた俺はなのはに起こされていた。ちなみに、時刻は朝6時である。
「千尋君っ。フェイトちゃんに会えるって、今クロノ君から連絡をもらったんだ。一緒に行こうっ」
「……いやいや、俺は必要なくね」
そもそも、俺はフェイトとはほぼ接点がない。あるとしたら、一緒にジュエルシードを封印したくらいだ。
「でも、フェイトちゃんは千尋君に会いたいって言ってたよ。お礼がしたいんだって」
お礼?と言い、俺は眉を寄せたが、
「ああ。プレシアさんの件のことか。それは、俺が独断で行動しただけだから気にすんな。礼を言われる必要性はないな。だから俺は寝る、フェイトによろしく伝えといてくれ」
なのはさん。「これが捻くれてるって意味なんだ」って言わないで。
まあそんな事もあって、俺はフェイトに会いに行くことになった。ちなみに、俺となのはは私服姿である。
指定された公園に向かうと、海を見ながら俺たちを待っていたフェイトたちが居た。流石に、本局に護送されたプレシアは無理だったらしい。
ともあれ、フェイトの元まで歩みを進める、俺となのは。クロノたちは席を外すらしい。
「……フェイトちゃん」
「久しぶりだな、フェイト。怪我が治ってなによりだ」
フェイトは俺たちを見るが、もじもじして話そうとする気配がない。
だが、何かを決心したように口を開く。
「……今回の事件、君たちには本当にお世話になりました」
フェイトは頭を下げる。
「ううん、私が好きでやってたことだから、フェイトちゃんが頭を下げることはないよ」
「俺もなのはと同意見だ。だから気にすんな」
フェイトは頭を上げ、
「ありがとう、君たち。……あと、その、友達の件なんだけど」
ふむ。お礼をもらったことだし、俺は退散しますか。
でも、君にも友達に……。っていうフェイトの言葉に止められて退散することができなかったが。
「えっと、あの。私は君たちと、友達になりたい。で、でも。友達ってどうやってなればいいのか……」
「友達になるのは簡単だよ。私たちの名前を呼んで。――私の名前は、高町なのは」
「俺は、神矢千尋」
フェイトは、「なのは、千尋……」という風に、俺たちの名前を繰り返し呟いた。
そして、フェイト俺たちを見て、
「えっと、……な、なのは」
「っ、うん!うん!」
「ち、千尋」
「お、おう」
その後、なのはとフェイトは暫しの別れを惜しむようにリボンを交換していた。
つっても、俺があげられるものは何もないんだが……。まあ、今度フェイトに何か送ろう。
「そろそろ時間だ」
良い頃合いを見て、離れていたクロノたちがやって来る。そして、フェイトたちの足元には、転移魔法陣が展開される。
「元気でな、フェイト」
「フェイトちゃん!元気でね!」
「なのはと千尋も元気で!」
手を振り合い、別れを告げる俺たち。魔法陣が発光すると、そこにはフェイトたちの姿はなかった。
俺は手摺に寄り掛かり、輝く海を見渡すと、海の向こう側には大きな虹がかかっていた。
なのはも手摺に寄り掛かり、
「……行っちゃったね」
「最期の別れってわけじゃないんだし、きっとまた会えるよ」
「……そうだよね」
なのはは気を取り直したように、
「私たちも帰ろっか。朝ご飯に遅れちゃうよ」
「了解だ。なのは」
――そんな俺たちの髪を風が優しく揺らし、海の輝きが照らしていた。
千尋君は、なのはさんの説教を受けましたね。ちなみに、事件後の千尋君の体には、かなりの痛み(安静にしていれば痛みは軽減)もありましたね。
アリシアの件も、アースラに帰還途中で、目を覚ましたプレシアと千尋君は念話をしてた感じです。
では、また次回。
追記。
ユーノも、クロノたちと同行してます。