東京に台風が接近して来ている週明け、アリアは今日も学校を休んだ。
そして俺は何時も通り武偵高に通い、普段と対して変わらない授業を受けていた。
しかし授業の内容が一切頭に入らない。
それ程俺は、別の出来事を寝ても覚めても考えていたからだ。
あの日警察署で、俺は・・・アリアの重大な秘密を───知ってしまった。
武偵殺しとされているアリアの母親、神崎かなえさんが容疑者として・・いや違うな、確実に犯人扱いとして。
それにアリアの実家のH家の事もその時知った。
どうやらパートナーと一緒にいる事によって、能力が上がる特性を持っているらしく。同時に様々な功績を作っていたようだ。
そしてアリアが武偵殺し逮捕を急ぐ理由。
かなえさんの罪を冤罪として、裁判を覆す為に真犯人を見つけようとしているから。
警察署で出会ったかなえさんは、事件を起こした犯人が持つ独特な雰囲気を一切持っていない柔らかみのある女性。
目に見えて犯人じゃないのは俺ですら理解できた。
こんな事情を知ってしまっただけでも頭が痛いのに、更に気がかりなのは俺を誘導したあいつだ。
俺を誘導したという事は、恐らくアリアの事情を知ってるだろう。
見舞いに行った時に聞かれた864年の数字。
あの数字はかなえさんの刑期の長さ。
それは最早終身刑と変わらない、そして大和はかなえさんの情報を前もって握っていた。
しかし行かせた理由や話をしようにも、大和は俺が学校に来てから話し掛けて来ないし、俺を避けて動きやがるから話ができない。
キーンコーンっと授業終わりのチャイムが鳴る。
はぁ~、今日は全く授業に集中できなかった───んっ?
俺は携帯を確認すると、理子から一通のメールが来ていた。
えーと内容は?
「「キーくん。授業が終わったら台場のクラブ・エステーラに来て、大事な話があるの。」」と書かれていた。
正直理子からの大事な話は殆ど信用できんが、今は状況が状況だ。
理子は今日も調査で学校に来ていない、だから何か情報を得たのかもしれない。
しょうがない、行くか。
こうして俺は台場のクラブ・エステーラと言う場所に向かい、少し時間を掛けてその店前に到着する。
クラブ・エステーラは外から見た感じだと、高級そうなカラオケボックスのようだった。
そして駐車場に見覚えのあるバイクが置かれていた。
普段理子が乗り回している、魔改造されたベスパが置いてある。
ならここで合っているか。
理子が居ると確定した俺が店内に入ろうとした時、今度は携帯が鳴った。
こんな時に誰だ?
携帯をポケットから取り出し通話を繋ぐ。
大和 「「キンジ。聞こえる?」」
電話先は暫く俺を避けていたはずの大和だった。
キンジ 「あぁ、大和か。どうした?」
大和 「「ちょっと伝えたい事があって電話したんけど。」」
キンジ 「済まないが先に言わせてくれないか。お前、あれを知っていたのか?」
大和ならあれの意味も知っている。
アリアの行き先と用事の内容、そしてかなえさんの事。
大和 「「・・・知っていたよ。」」
大和は若干の間を置いて認めた。
やはりと言うか、大和が認めた事を意外だとは思わなかった。
既に何となく予想はついていたからか。
キンジ 「そうか・・・お前には色々と聞きたい事が山程ある。が、今はすぐに行かないといけない用事あるんだ。話は後にさせてもらう。ところで伝えたい事ってなんだ?手短に頼む。」
今すぐにでも直接話をしたいところ。
しかし今は理子の用事の方が先だ。
大和 「「キンジ。確証はない、間違っている可能性の遥かに高いよ。でも一応伝えておくね。───理子には気を付けて。」」
───はっ?今、大和はなんて言った?
理子には気を付けて、だと。
キンジ 「おい、それどう言う意味だ───切れた。」
理子には気を付けろって、一体どういう意味だ?
大和なら意味の無い情報は伝えないよな。
それに今俺はその理子に一人だけで呼ばれ、向こうが先に到着して待っている。
何か罠を仕掛けるには良い機会。
───ひとまず警戒しながら行くしかないか。
俺は嫌な予感を肌で感じながらも、クラブ・エステーラに入って行く。
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大和 「はぁ・・・手間掛けさせちゃったかな。」
一応キンジに警告だけは伝える事は出来た。
と言ってもこれは私の予想だから、キンジには無駄な推理リソースを吐かせちゃったかも。
可能性があるけど理子が犯人と決まった訳ではないし、理子を信用していない訳でもない。
それでも念の為に、ね。
大和 「んっ、雨?」
私の髪に一粒の水滴が当たる。
空を見上げると、厚い雲で空が覆い尽くされて少しづつ色が黒く変化していく。
雲の様子的に、今はまだ大丈夫だけどこれから降り始めそう。
うーんここから直接部屋に戻るより、学校に置いてある傘を取りに行ってからの方がいいかな?
私はそう考え、若干急ぎで学校に足を運んだ。
駆け足で大体十数分掛けて着いた学校で、私は自分のロッカーから傘を探す。
大和 「えーと、あったあった。」
ロッカーの中から黒の大きな傘を取り出し玄関へ戻る。
そして玄関に行く途中の廊下で、偶然武藤と正面から出会った。
武藤 「よう大和!何をしているんだ?」
大和 「あっ武藤居たの?ちょっと雨が降り始めたから傘を取りに来たの。」
武藤からの質問に傘を見せつけ答える。
武藤 「そうか。今は台風が近づいてきて強くなるらしいぞ。帰るなら急いだ方がいいな。」
大和 「助言ありがとう。じゃあ私は急いで帰るからじゃあね。」
武藤 「おうっ!またな!」
こんな風に武藤と軽い話を終え、玄関に到着する。
外は来る時とは違って、グラウンドの表面が湖みたいになる位強い雨が降っていた。
それに普段この時間帯ならまだ少し明るいんだけど、今日は分厚い雨雲が原因で、夜と変わらない暗さになっていた。
大和 「あっちゃー、結構降っているね。これは急いで帰ら──んっ?」
いざ傘を差して帰ろうとした瞬間、胸ポケットに入っていた携帯が振動する。
携帯を開いて電話に出る。
武藤 「「大和か!今どこにいる!」」
電話先はさっき廊下で出会った武藤からだった。
でもさっきと違い、切迫している雰囲気が電話越しからでも伝わってくるのが直ぐに分かった。
大和 「まだ学校の玄関にいるけど、何の事件?」
武藤 「「良かったぜ、まだ近くにいて。悪いが俺達の教室に来てくれるか?内容は来てから話す。」」
大和 「了解。」
電話を切ったら目的地の教室へ走って行く。
幸いにも玄関と教室の距離が離れていなかったから、そんなに時間は掛からなかった。
教室のドアをちょっとだけ勢いよく開けて部屋に入る。
中の教室には武藤やレキの他、数名の生徒が一生懸命通信機を弄って悪戦苦闘している姿があった。
そしてドアを開けた時の音で武藤が私に気が付く。
大和 「何があったの?」
武藤 「少し前に羽田空港を離陸したANA600便がハイジャックされたんだ。」
大和 「ハイジャック?」
武藤 「そうだ。こいつを見てくれ。何とか手に入れたANA600便の乗客名簿だ。」
武藤からそこそこの厚さを持つ名簿を渡され、受け取った名簿の乗客者リストを素早く一枚一枚確認していく。
するとふと、ある一人の名前が目に止まった。
大和 「アリアが乗っているのね。」
武藤 「俺たちも名簿を確認している時にアリアが乗っている事が分かったんだ。だから教室でANA600便に通信を試みている所なんだが。」
旅客機がハイジャックされ、アリアも搭乗している。
航空機、それも四発の大型ジェット機。
もしもアリアが武偵殺しのターゲットだった場合、私が予想する条件と一致し、このハイジャックはアリアを狙ったものである確率が高くなる。
一番最悪な想定をしつつ動かないと。
大和 「なるほどね。ちなみにどうやってハイジャックの事が外に漏れたの?」
武藤 「詳しくは知らんが、客の誰かが機内電話で通報したんだろな。」
航空機のハイジャックするなら、ハイジャック犯は情報を外に漏らさない為、何名かで客を監視するのが定石。
なら簡単にハイジャックの事が外に流れる訳ない。
情報の管理を失敗した?
いや、もしかしてしなかった?
アリアの対応に人数を割かれたからかな。
でも事件が発生した直後とすれば、寧ろこの場合は出来なかったの方が正しいのかな?
出来ないとするなら敢えて放置しているか、出来るほど人数が居ないか?
などと現状確認と想定を平行で行っていると、通信科の生徒が武藤を急いで呼び出す。
通信科の生徒 「武藤さん!やっと繋がりました!」
武藤 「よし良くやった!代われ!」
武藤は通信科の生徒からヘッドフォンとトランシーバーを受けとり、通信を替わる。
武藤 「ANA600便、聞こえるか!・・・・はっ?なんでお前が居やがるんだよ!」
通信を試みた武藤から、多分全く想定しない人物との会話で驚愕の声が教室中に響き渡る。
外からだと武藤が驚愕した通信はヘッドフォンのせいで聞こえない。
でも、私には存在感知がある。
私は目を瞑り、余程集中しないと聞こえない微弱な音すら逃さない位のレベルで神経を研ぎ澄ます。
常時発動している存在感知を、ヘッドフォンへ意識を集中させる。
存在感知でヘッドフォンから発する音の振動を捉え、捉えた振動を無意識のうちにノイズや周囲の音を切り捨て解析する。
そして解析した振動を脳で音に変換、通信の内容を予想する。
通信 ((字は───今、540になった。どうも少しづつ減って行っているみたいだ。今、535。))
武藤 「くそっ!やっぱり漏れていやがる。」
通信 ((えっ!燃料が漏れているの!はっ、早く止める方法を教えなさいよ!))
通信の内容を予想する限り、ハイジャックされたANA600便のパイロットの代わりに別の二人が操縦している状態。
操縦している片方は口調的に多分アリア。
ならもう一人が武藤の驚いた予想外の人物になるね。
武藤 「悪いが方法はない。B737-350に搭載されている四発のエンジンのうち、内側の二基のエンジンは燃料の流出を防ぐバルブの役割でもあるんだ。だがその機体は内側二基のエンジンが破壊されているはず、燃料の流出を止める術はない。残った燃料と流出する燃料を考えると、飛行できるのは・・・精々・・・あと、十五分ってところだな。」
通信 ((残りは十五分・・・となると羽田しかないな。済まないが管制官、近接する航空機全てと通信を繋いでほしい。))
武藤 「おいおいキンジ。お前聖徳太子じゃねぇーんだからよ!」
えっキンジ?
えっと、アリアとキンジがそこにいるって事は、ANA600便のハイジャック犯は武偵殺しでほぼ確定だよね。
でも普段のキンジだとそこまでたどり着けなさそうだから、十中八九何処かでヒスったのかな。
幸いにもヒステリアモードが今も続いているみたい。
だとすると、なんとか着陸できる可能性は無い訳じゃない。
武藤 「ふざけんな!」
突如武藤がトランシーバーに大声をぶち当てた。
私は武藤の叫びで一旦思考を後にし、もう一度神経を尖らせる。
キンジ ((おい防衛省。機体の近くにあんたの知り合いが見えるが?))
防衛省の、知り合い?
多分航空自衛隊の機体、恐らく戦闘機。
この時代の航空自衛隊の戦闘機としたらF2A/BかF4EJ、それかF15J/JDのどれか。
いや、今はそんな事はどうでもいいね。
内容を聞く限り、羽田空港の滑走路を封鎖されて今は別の考えがあるらしい。
で防衛省の指示を無視し、機体は横浜方面を飛行している感じ。
武藤 「しかしキンジ。羽田空港を使えないとなると他に滑走路はねぇぞ。」
キンジ ((武藤、そこにレキはいるか?))
武藤 「居るっちゃあ居るが、どうした?」
キンジ ((レキに学園島の風速を教えてほしい。))
武藤 「風速?おいレキ、学園島の風速分かるか?」
武藤が窓枠に腰を下ろしているレキに問う。
レキ 「私の体感でしたら、五分前に南南東の風・風速41.02mです。」
キンジ ((例えば風速41mの向かい風で着陸した時、着陸に必要な滑走距離はどの程度だ?))
武藤 「そうだなぁ。エンジン二基のB737-350が2450m位だろ。それに風速と雨の滑りを合わせると、そうだな・・・2050は欲しいな。でもよ、滑走路代わりになる場所なんてないぞ。」
武藤の言う通りだった。
幾ら滑走距離が短くなったとしても、それでも2000m近く。
例えば高速道路だったら長さは確保出来るけど、緩いカーブが掛かっている上に横幅、そして強度の問題もある。
頭の中でも横浜周辺の地図を思い出し、2000mの直線を作って配置し続ける。
でも東京と言う巨体な都市には大きな平地は無く、最低限の可能性がある木々の生い茂る林すらもない。
今日でなければ海に不時着する手段もあった。
しかし台風の影響で海面が波打って、着水しようものなら機体が粉々に粉砕されるのが目に見える。
やっぱり2000mの直線を確保できる場所は本当に海以外───海?
あー成る程。
キンジも無茶するよ。不時着する時点で無茶も良いところだけど。
考えてみれば横浜周辺で2kmの直線を確保するとしたら、あそこしかないよね。
前の世界にはなかった土地だったから盲点だったよ。
そして武藤の傍に行ってから、ちょっと悪いと思いつつ武藤からトランシーバーとヘッドフォンを奪う。
武藤 「お、おい。」
大和 「ちょっとごめんね。こちら東京武偵高校。ANA600便、応答せよ。」
キンジ 「「その声は大和か?」」
大和 「そうそう大正解!」
アリア 「「アンタ達!今は呑気にしている暇は無いの!」」
ヘッドフォンからアリアの怒鳴り声が届く。
大和 「冗談だよ。それより間に合うか分からないけど、滑走路の準備を開始するよ。」
キンジ 「「ほう・・・?流石だな大和。元パートナーだけあって、俺のやる事を理解してくれる。」」
大和 「褒めても滑走路位の小さなものしか出せないよ。」
キンジ 「「それは最高のプレゼントだ。」」
アリア 「「え、ちょ?アンタ達何処に降りる気よ!」」
私達の会話にアリアがついて行けてないみたいで、きっと今頃パイロット席で困惑しているのが目に浮かぶ。
大和 「近くで滑走路代わりになる場所なんて一ヶ所しかないよね。でしょ、キンジ。」
キンジ 「「あぁだろうな。アリア、俺たちが降りる場所は、レインボーブリッジ北側の人工浮島である空き地島だ。」」
アリア 「「はぁ!?あんな所に着陸出来る訳無いでしょ!」」
あり得ないとばかりにアリアが声を張り上げる。
キンジ 「「じゃあ俺と心中でもするかい?」」
アリア 「「うぐっ!アンタと心中するなんて勘弁よ。」」
キンジ 「「ならやるしかない。」」
キンジに言われ、数秒の沈黙の後アリアは静かに答えた。
アリア 「「・・・・・アタシだって死にたくないもの。やるわよ。」」
キンジ 「「それでこそアリアだ。」」
聞きたい事があるのにどうも会話に入りにくい。
でもそんな風に思っている暇はないんだよね。
大和 「ちょっと割り込むよ。機体の状態は?まずは油圧系統。」
キンジ 「「昇降舵、補助翼、方向舵どれもコントロールが効く。」」
アリア 「「でも自動操縦の方は完全に無理そうよ。」」
確かB737-350は手動は上部、自動操縦の油圧が下部にあるから、自動操縦の油圧はエンジンの破片で破断でもしたのかな。
幸い手動が生き残って良かった。
自動操縦だけじゃあ、着陸機器の存在しない浮島に降りるのは厳しかった。
大和 「残ったエンジンに被害は?」
キンジ 「「二番と三番は途中で下車してしまったが、残りの一番と四番は安定している。ただ何時まで持つか。」」
大和 「次にフラップ。」
アリア 「「動く。まだ生きているみたい。」」
今の間は問題なく動く。
でも結局エンジンが止まれば、油圧も作動しなくなり墜落は確定する。
大和 「最後に降着装置。」
アリア 「「・・・ギリギリね。動作は遅いけど何とかなるかしら。」」
大和 「OK。それだけ機能するなら不時着は可能だね。こっちも準備を始めるよ。」
現状かなり絶望的ながらも、光が僅かに見えたと判断した途端、機体側の二人から良くない通信が流れる。
アリア 「「えっ?何の警報!?」」
キンジ 「「こいつは・・・クソッ!アリア、第四エンジンに愛着は無いな!」」
アリア 「「どういう意味?」」
その時全員が予想にもしない事態をキンジが口にする。
キンジ 「「第四エンジンから出火だ!」」
アリア 「「なら消火しないと!消火装置は・・・ええっとぉ~、これ!」」
これは本格的危険な状況へ行っているのが容易に想像できる。
こうなったらもう背に腹は変えられない。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
新宿のビル群にぶつかりそうになる低高度を飛行しているANA600便は空き地島に着陸すべく、減速しつつ大きな右旋回を行う。
その最中に右翼が出力差による揚力のずれで上へ上がり、機体が左に傾く。
キンジ 「アリア、ペダルを踏み込め!そして操縦桿を右に!」
アリア 「やっているわよ!左のフラップを少し出すわ。」
左側のフラップを出したお蔭か、揚力のバランスが取れたらしく水平に戻る。
キンジ 「しかし、俺達の乗っているのがこのB737のこの型番で良かったな。」
アリア 「本当にそうね。別の機体だったら既に墜ちているわよ。」
キンジ 「ハッハ、間違いない。」
武藤の無線から聞いたんだが、こいつB737の350型は富裕層向けに造られ、安全性を最重視された特殊な機体だと。
通常のB737はエンジンが双発の機体。
しかしこいつは四発、そして操縦に必須な油圧系統はどれか一つでもエンジンが生きていれば作動する。
それに最悪エンジンが全滅しても、予備バッテリーで短期間なら滑空が可能だ。
アリアは言う通り、これが別の型番であれば今頃地上で挽き肉なっているだろうな。
それはそうと。
キンジ 「よし東京湾が見えたな。空き地島もそろそろ見える頃だが。」
東京湾の全容はなんとなく面影で確認出来る。
だがその中の空き地島に関して言えば、真っ暗闇に包まれて完全に位置が把握出来ない。
しかし既に空中待機可能な燃料は残っていない。
このまま予測で空き地島に着陸するコースを取りつつ、大和達の滑走路製作が間に合うよう祈る。
もし間に合わなければ、恐らくそのまま墜落するだろう。
俺の額に一滴の冷や汗が滲み流れる。
刻一刻と高度計の数値が下がり続け、現状を保つと危険だと対地接近警報が鳴り始める。
しかし俺達は警報を切り、このままアプローチを続けた。
そして───
アリア 「あっ!あれ!」
先ほどまで暗闇に包まれ輪郭する認識出来なかった空き地島に、幾つもの光が直線的に灯され、俺達にとって立派な滑走路が生まれた。
すると滑走路が生まれると同時に、海上から一本の強い光の線が空中に伸びる。
キンジ 「あれは───サーチライトか?」
空を照らしていたサーチライトがANA600便を捕捉し、コックピットを照らさない精密な照準でANA600便を照らし上げる。
アリア 「あら?キンジ。動く光が近づいてくるわ。」
キンジ 「何っ?」
アリアの言葉で視線を周辺に動かすと、確かにボール位の丸い光がこっちにやってくるのがわかる。
ちょっと待て、俺達はジェット機に乗っているんだぞ。
ジェット機と同じ高度まで来れる光って一体どんな原理だ?
武藤 「「キンジ聞こえるか!」」
大雨が地面を叩きつける音と共に、嬉しそうな声をする武藤との通信が俺達に届く。
武藤 「「コックピットから見てみろ!滑走路を造ってやったぜ!どうだスゲーだろ!!」」
キンジ 「武藤、感謝する。」
武藤 「「俺としてみれば、滑走路を造ったより大和がSSRを使える事に驚きだけどな!」」
キンジ 「それは俺にも初耳だが。」
武藤 「「キンジ、お前の目の前にに丸い光が見えるだろう。その光を大和が操っている。着陸寸前まであれに付いていけ。お前のために俺達はこんなにも苦労が掛かったんだからよ、絶対に成功させて来なきゃぶん殴るぞ!!」」
俺は自然と頬が緩む。
キンジ 「殴られるのは勘弁願いたいな。聞いたかいアリア、あの光に付いていくぞ。」
アリア 「大丈夫、分かっているわよ。」
機体は飛ぶ光を追って行動する。
光が高度を下げれば俺達も下げ、光の距離が縮まれば減速する。
光の誘導のお蔭で、滑走路に対して真っ正面かつ適正速度に高度と、現条件最高のアプローチを行う事が出来た。
フラップを着陸用に展開し、降着装置を下ろして着陸体制に入る。
誘導という役目を終えた光はフッと消えて喪失する。
ここにくるまでに燃料を消費して、残りが完全に無くなる手前だったが───ここまで来れば!
キンジ 「着陸行くぞ!」
アリア 「いいわよ!」
ANA600便は空き地島に強行着陸を決行する。
降着装置のタイヤが地面と接触する刹那、吐きそうになる振動の中、アリアがスラストレバーを操作して唯一残った最後のエンジンが逆噴射を行う。
と、同時に車輪のブレーキを効かせ始めた。
するといきなり、パリンパリンッと何枚ものガラスを砕く音が機外から鳴り響く。
何処かの破損を懸念したが、毎回割れる音が聞こえる毎に何故か速度が低下していく。
正直理由は知らないが、これは神風が吹いている!
しかし現状のペースでは、雨に濡れた2000m弱の滑走路では決して止まれないだろう。
たがここでANA600便を止める術である、一つの建造物がどんどん目前へと迫ってくる。
そう、風力発電用の巨体な風車がなぁ!!
ぶつかる寸前で俺は車輪を操作して位置を調整し、位置を調整したANA600便は右翼を風車の柱に直撃させる。
巨大な打撃音と同時にANA600便は右回転にスピンをして、俺達は遠心力でコックピットの壁に直撃する。
ANA600便は何回か回転した後、完全に停止した。
俺は衝撃で朦朧とする意識の中、視界に入ったのはANA600便の目と鼻の先にある空き地島の海だ。
どうやら、ほんのギリギリで成功したようだ。
俺は成功したことに安心した途端、意識を喪失した。
好奇心が殺す遺言:私はかつてカルト宗教のいた場所に向かっていが、結論から言えば止めておけばよかった。私の正面で木が二本足で歩いている。