15:星伽の申し子
さて、私はキンジの退院祝いにまた何か作ろうかなって思い、昼頃にレジ袋を持って男子寮へ移動していた時だった。
大和 「んっ?」
男子寮の入り口でスッと立ち止まって考える。
私の勘が察するんだよね。
このまま正面からキンジの部屋へ行っては駄目と。
こんな時の勘は以外とバカにならない。
それによって、命を救われた事が何十回もある。
ただし決して鵜呑みにはせず、あくまで警戒や参考程度と思った方が身の為。
私は入り口からでなく裏手に廻ってから上を向き、巻雲の浮かぶ空と一緒にキンジの部屋のベランダを視界に入れる。
でもこれと言った変化はない。
でもまぁ一応こっちから行こうかな。
大和 「えーと、あの辺りかな。」
キンジの居る部屋のベランダに照準を合わせて、腰に着けたアンカーショットを打ち出す。
アンカーは狙い通りベランダの手摺に引っ掛かり、ワイヤーがピンと張る。
そして壁に足裏をつけて、巻き取りと平行して軽くジャンプしつつ高度を上げていく。
外から覗けば、垂直の壁をスキップで昇る風に見えているのかな。
巻き取りも終え掛けてベランダに着き、手摺を握って体を支えた瞬間、部屋に繋がる正面の掃き出し窓が開いて───
大和 「あれ?」
キンジ 「おっ?」
部屋を出てきたキンジと私、お互い真っ正面から目が合う。
大和 「どうかしたの?」
私の問いにキンジは何も言わず後ろを指差す。
キンジの指が差された方向の室内に視線を移すと、即座に状況を把握した。
大和 「あーらら・・・・・」
キンジの部屋の中は、二丁拳銃のアリアと何故か完全武装の白雪が戦闘していた。
雰囲気はピリピリしているし、これって明らかに喧嘩しているよね。
キンジがベランダに出たのは巻き込まれたくないからかぁ。
そりゃあ私も同じ境遇なら逃げるに決まっているよ。
大和 「それで、どこに逃げる気なの?」
キンジ 「そこの物置にでも隠れようとな。」
ベランダには、縦に長い一人二人入りそうな金属製の物置が置いてある。
普通の物置だと弾が通るけど、これはおそらく防弾性。
しかし防弾製と言っても安全とは言い切れない。
例えば同じ箇所に複数回数着弾すれば貫通される可能性も存在する。
結局の所、一番良いのは逃げて離れる事。
大和 「私が屋上まで送った方がいい?」
キンジ 「どうやってだ?」
大和 「これっ。」
手摺に引っ掛かったままのアンカーを右手で軽く叩く。
しかしアンカーショットを使うと気付いて、キンジの表情が青くなる。
でもキンジは一端後方の状況を確認したら、諦めて私の提案に乗る。
キンジ 「・・・前の四対四みたいな真似は勘弁してくれよ。」
大和 「あんな真似は私もこりごりだから大丈夫だよ。じゃあこれ持って。」
キンジに左に持ったままレジ袋を渡して、落ちないようアンカーを一本づつ発射。
左右二本とも問題なく屋上に到達する。
途中で落とさない為、キンジに抱き付くように指示すると予想通り嫌がり一歩下がる。
キンジ 「ほ、他に方法は無いのか?」
大和 「短時間だから我慢するしか。」
キンジはヒスらないよう物凄く慎重に抱き付き、全体重を私に掛ける。
さっきにみたいに垂直に登れないから、壁を思いっきり蹴り、最速でモーターが回転させて歪な円を描きつつ屋上に到着する。
そして屋上にキンジに置いて、一人でラペリングしつつ部屋を覗き込む。
どうやらたった今、本格的な喧嘩が開始されたらしい。
車とかの環境音が聞こえなくなるくらいの発砲音やら斬撃音やらが鳴り部屋を中心に辺りを響き渡る。
うん、これはしばらく待つしかないっぽいね。
屋上で適当に日光浴をしてのんびり待っておこう。
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屋上で途方に暮れている俺は、下で起きている戦争の首謀者達が諦めるまで屋上に居る事にした。
まさか白雪がカチコミに来やがるとは思わなかったぞ。
しかもよりによって巫女服の完全武装ときた。
完全武装の巫女なんてゲームの中だけと思われそうだが、マジで存在するから困る。
それが白雪の実家である星伽神社であり、そして星伽の巫女は武装巫女でもある。
どこの神社でも御神体をお守りするのは当たり前な話だ。
しかしどういう経緯でこうなったか知らんが、白雪のとこは武装して物理的に守っている。
それに武装と言っても、多少心得がある程度じゃない───純粋に強い。
少なくともアリアとやれる程だ。
どうしてそんなに強いかと言われてもよくわからないが、鬼道術という超能力らしい。
超能力・・・超能力ねぇ・・・・・
正直胡散臭すぎて、そこらのバラエティの方がよっぽど信用できるだろう。
でも、実際に超能力者は存在していて、超能力を使う武偵は超偵と呼ばれる。
本当に馬鹿馬鹿しい。
たがそんな俺でも、絶対に超能力の存在を認めなくてはいけないのが更に頭が痛い。
その原因は、俺の隣に呑気に寝転がって日光浴をしているこいつだ。
ANA600便のハイジャックで着陸をする際に、浮遊する謎の光が滑走路までの完璧な誘導をしてくれた。
武藤が言うには、あの光は大和が操っていたそうだ。
もし誘導をしてもらってなければ、着陸に失敗して俺はここに居なかったかもしれない。
一応科学的に考えようとしても、時速300~400km/hの航空機に追従できる光など有るわけない。
つまり俺は否応なしに認めなくてはいけない訳だ。
はぁ・・・最悪だ。
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屋上で寝転がってのんびり日光浴を堪能していると、耳煩い騒音がふと止んだ。
私は携帯の時計を取り出し時間を確認する。
携帯が示すに上がってからおよそ三十分弱も経っていた。
流石にちょっと喧嘩し過ぎじゃない?
と、時間を知ってから最初に思ったのはこの一言だったよ。
そろそろ下に降りようかな。
体を起こし、横で携帯を弄るキンジに声を掛ける。
大和 「キンジ、終わったみたいだよ。」
キンジ 「やっとか。それじゃあ部屋に戻るか。」
キンジは携帯をポケットにしまい、私の手渡した袋を握りって階段に向かう。
私もキンジに習って後ろに付いていく。
階段を下って廊下を通過し、キンジが部屋のドアをゆっくりと開く。
玄関からキンジの部屋の中を二人で覗く。
すると半分予想通り、部屋の中は随分と悲惨な事になっていた。
部屋の壁や天井は穴だらけ、凹みだらけ、斬撃の跡だらけと、それに加えて足場にされたであろう家具は粉々になっていた。
どうやったら家具がそんなに粉々になるのかと疑問が浮かぶ。でも考えるのはひとまず後回し。
で、部屋が破壊した原因である当人達は、玄関の私達に気づいた様子を一切見せずにお互いに睨み合っている。
しかし二人とも相当疲れている感じで、刀を杖代わりに使っている姿はこっちからしてみれば滑稽と言うべきかな。
それだけ疲労しているのに、まーだ戦うつもりなの?
流石にこれ以上は周りの迷惑だし、そいっ。
私は左右ののアンカーショットを射出し、放たれたアンカーは杖代わりの刀に向け飛翔する。
アンカーは狙い通り刀に命中。
不意打ちだったのもあり、着弾の衝撃で支えの刀が弾き飛ばされ、二人は顔を床に正面から激突する。
アリア 「ムギュッ!?」
白雪 「ひゃっ!?」
二人は刀を弾いたアンカーを視界に収めてようやく、私達の存在に気が付く。
白雪 「あっあ・・・キンちゃん様っ!!」
白雪はそう叫び、キンジに対し手本のような土下座をする。
白雪 「申し訳ありません、キンちゃん様!!ご迷惑をお掛けして、謝罪の意としてアリアを殺し私も死にますー!!」
あれぇ?・・・白雪は間違ってもこんな事を言う子じゃないはずなんだけどなぁ?
いきなり白雪から殺すやら死ぬやらと不穏な単語な登場してキンジが慌てる。
私だって疑問に思うよ。
キンジ 「待て待て待て、話が飛躍し過ぎだ!一旦落ち着け。」
白雪 「アリアはキンちゃんの事、遊びだって思っているよぉ!!」
白雪は立ち上がってキンジの服の首元を強く握り締め、訴えるように揺った。
キンジ 「持つな持つな!ぐふぅ、苦しい!」
首元が締まっているせいで苦しそうなキンジが手を外せと言う。
しかし残念ながら別の思考をする白雪にその声は聞こえなかった様子。
白雪 「私が悪いの、私に勇気がないから、キンちゃんも・・・・」
アリア 「たく、それ以上勇敢になられても私が困るわよ。」
今まで会話内で蚊帳の外だったアリアが、嫌みを含んで言葉を発した瞬間───
白雪 「キンちゃんと一緒になったらといい気になるな、この奸婦!!」
白雪がアリアの方をギロリと見つめ、巫女服の袖に仕込んでいた鎖鎌を思い切り投げつける。
アリア 「本当に何なのよッ!?」
鎖鎌はアリアが咄嗟に防御に使った黒いガバメントと一緒に左手に巻きつく。
うーん、このままヒートアップされるのも困るし、少しは落ち着いてくれないかな?
白雪がアリアに巻き付いた鎖鎌を引っ張ろうとする前に、私は一歩踏み出し鎖へ雨風改を素早く抜刀。
居合い斬りで鎖を断ち切り、雨風改を鞘へ戻す。
鞘に戻し終えた後、鎖の斬られた部分から重力に従って床に落ちる。
大和 「まぁまぁ、一旦落ち着いてから話さない?」
白雪 「えっ?う、うん。」
何故か白雪が戸惑い気味なのはわからないけど、これでゆっくり話せそう。
大和 「とりあえず落ち着こう、ね。まず白雪はなんでアリアを殺そうとしたの?」
白雪 「キ、キンちゃんが変な女にたぶらかされて、同棲してるって聞いたから。」
キンジ 「なんだそりゃ?」
白雪の言い分にキンジも良く理解できないみたいで、腕を組んで考える。
すると、またアリアが無意識に火種を投下してしまう。
アリア 「別にたぶらかせていないわ。アイツらはただの奴隷よ!ド、レ、イ!」
こんな時は出来ればアリアは少し口を閉じてて欲しいなぁと時々思う。
なんで毎回燃料を撒き散らして火災を広げようとするんだろう。
それにバスジャックの後に奴隷取り消しを受けた覚えがあるんだけど、そこのところどうなっているのかな?
白雪 「奴隷っ?!キンちゃんにそんな遊びをさせるなんてぇ。やっぱり殺した方が良いよね!!」
ほらやっぱり、白雪が息を引き返して弾け飛んだ刀を握り構え始めたよ。
キンジ 「待て白雪。来い。」
白雪 「はい!」
でも幸い白雪はキンジの一言で動きを止め、すぐに刀を置いてキンジの方向に正座する。
なんか、動き方がご主人様大好きな犬と似ている気がする。
キンジ 「いいか?俺とアリアは武偵同士だ。あくまで少しの間だけパーティーを組んでいる、それだけだ。」
白雪 「・・・・本当?」
白雪は不安そうに言葉を口にした。
キンジ側も白雪の不安を取り除こうと、少し声を大きく変化させた。
キンジ 「本当だ。その証拠に大和とは今まで何も無かっただろう?」
大和 「うん?まぁ確かにそうだね。」
キンジの何も無かったの線引きが分からないけど、私もそう思い返事する。
しかし白雪の不安感は抜けてないようで、確認する口調で話続ける。
白雪 「・・・そうだけど。つまりキンちゃんとアリアは、そういう事はしないの?」
キンジ 「白雪の言うそういう事って、例えばなんだ?」
白雪 「あのっ、えっと。その・・・キスとか──」
白雪がその単語を口に出した途端、キンジとアリアが目線を合わせて、氷のように固まった。
あっこれ、やっちゃった奴だ。
この反応で私は即座に状況を理解した。
しかも悪い事にまったくバレないよう取り繕ってすらいない。
つまり、隠し事に凄く鈍感な子でもわかる。
例を上げるなら───白雪とか。
白雪 「あっうん・・・そうだよね。害虫は退治しないと、お花とかも、枯れちゃうもんね・・・・・」
白雪の目からハイライトが消えて、殺気を体中から放出する。
えっと、ここの戦いを終わらせようとしたら・・・・・あーこれは、本格的に武力介入しか選択肢が無くなった感じ?
出来れば避けたい武力介入を考えていると、アリアが狼狽しつつ言い始めた。
アリア 「で、でも、だ、大丈夫だったから!安心してよ!!」
んっ?
アリア 「子 供 は 出 来 て 無 か っ た か ら !!」
・・・・・・・?
殺し合い寸前の雰囲気から一変、部屋中に何とも言いづらい空気が流れる。
アリアの予想外の単語を聞いて、刀を持つ白雪がポカンと口を開いたまま硬直する。
やがて我に返った白雪は顔を俯かせて、何も言わずに外へ出ていく。
一方白雪が出て行った事に気づいていないキンジは、アリアにさっきの台詞の意味を問う。
キンジ 「ちょっ、なんで子供なんだよ!」
アリア 「あれから一人で凄く悩んだのよ!このバカキンジ!!」
キンジ 「なんで悩む必要があるんだよ!」
アリア 「だって、小さい頃、キスしたら子供が出来るって、言ってたもん!」
アリアの知識が日本で言う、コウノトリが連れてくるみたいなレベルだよね。
取り敢えず言えるものは一つ。
ホームズ家の方々、聞こえてますかー?
武道教える前に普通の常識から教えた方がいいですよーってね。
キンジ 「キスで子供なんて出来る訳ないだろうが!」
アリア 「じっじゃあ、どうやって出来るのよ!」
キンジ 「んなもん教えられる訳ねぇだろう!」
キンジがアリアの常識を否定するから、その理由を答えろと叫ばれる。
しかしキンジが異性相手、そしてヒスる最大の要因を話せる訳もない。
アリア 「もういいっ!キンジなんかには聞かないわ!大和、アンタが教えなさい!」
大和 「わかったわかった。なら今から私の部屋に来て。」
アリア 「良いわよ。」
アリアはプンスカ怒りながらさっさと玄関に向かう。
私も付いていく前に、さっきの口論で疲れた表情のキンジへ軽く口角を上げて伝える。
大和 「キンジ、後は任せて。少しはゆっくりできる時間を稼ぐから。」
キンジ 「俺ばっかり休ませて貰って悪いが、あれは手に負えん。頼む。」
こうして自分の部屋に帰る間にアリアの後ろ姿を見て思う。
さてと、どう教えよう。
普通に教えるのも良いけどし、ここ最近迷惑ばっかり受けてきたし、ちょっとだけ懲らしめて良いよね?
考えれば考えるほど自然と顔がニヤける。
随分久しぶりにこんな悪どい顔をしたものだよ。
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大和 「そこの赤い椅子に座ってね。」
アリア 「ふぅん。あんまり物が置いていないのね。あら、結構良い座り心地じゃない。」
アリアはそんな事を呟きながら、ドカっと赤色をしたリラックスチェアに座る。
はいビンゴっと。
アリアが椅子に座ったのを確認したら、隠していた小さなリモコンのボタンを押す。
アリア 「えっ何よ!?」
すると、アリアの手首足首に手錠のような物が椅子の隙間から現れ、瞬時に行動が制限される。
アリア 「ちょっと!なんなのよ!」
自身をこんな侮辱な目に合わせるなと言いたげな鋭い視線を華麗にスルーしつつ答える。
大和 「ただの手枷と足枷。ここで暴れられたら堪ったものじゃないだよ。」
問題なく座って貰えると予想はしていたよ。
性格的に絡め手はアリアに対して弱そうだからね。
それにパニックになった時に、間違って発砲されたら私が困るもん。
私はアリアの前に組み立て式の机を作り、ノートパソコンを置いてネットで良さげな内容のを検索する。
自分の言葉で説明するよりも、こういう動画の方が色々と分かりやすい。
ネットで教育の動画を見つけたら、アリアにしっかり視界に収めるよう位置を調整して再生する。
よくある一般的な内容を特に思うところは無かった。
しかし横に居るアリアは違ったらしい。
冗談抜きでびっくりする位顔を真っ赤に染めて悶える。
中身は小中学生が観るような教材ぽいけど、本当に耐性ないんだねぇ。
アリア 「ふぇぇ・・・・・」
たった三十分の動画なのに随分ぐったりしている。
・・・・・ちょっと悪戯しちゃおうかな?
動画の再生が終わったパソコンで、ある事を調べる。
アリア 「ふぅー、えっ?ちょっと何する気よ!」
アリアがパソコンの画面に写し出されたもので慌てる。
私が調べているのは適当なR18のサイトだ。
それで取り敢えず長い動画動画、おっ?これでいいや。
アリアにちゃんと見えるように配置して再生し始めるする。
さてと───
アリア 「えっ!ちょ、何処にいく気!」
私が玄関に移動しようとしたら、アリアが咄嗟に声を張り上げる。
大和 「少し外回りしてくるよ。動画楽しんでね。」
アリア 「嫌よ!これ外しなさい!」
大和 「あーそうそう。その動画、三時間はあるっぽいから宜しく~。」
アリア 「いーやーッ!!」
ドアを閉める時に何か聞こえた気がするけど、気のせいだよね?
さーて、何処に行こうかな♪
脳を失った生け贄:他の者は見た事があるか?光沢のある十本の足、左右がくっつきあってるヒゲをした蠅を。それも、鳩みたいな大きさのを······