教務部からアドシアードまで白雪の護衛を頼まれた次の日に速攻で、白雪がキンジの部屋に引っ越して来る事になったらしい。
白雪の護衛の為、キンジの部屋内に赤外線探知機など導入し、私とアリアはキンジの部屋の要塞化を進めていた。
よーし、ここで終わりかな。
天井に赤外線探知機を固定する最後のねじを回し、問題なく装置を取り付けた事を確認する。
そして足場にした椅子から床に降りて、壁掛け時計で時間を見る。
うーんと、時間的にそろそろ白雪が来る頃だけど。
その思った時、丁度良く玄関の扉がガチャっと開く。
白雪 「えっと・・・お邪魔、します。」
ドアを開いた先から、初めて飼われる小動物と似た感じにオドオドしつつ白雪が入って来る。
キンジ 「白雪。何でオドオドしてんだ?」
白雪の後方で、荷物を肩に掛けたキンジが白雪の挙動に疑問に持つ。
白雪 「あ、当たり前だよ。キンちゃんと一緒に住むなんて、初めてだもん。」
その白雪の台詞を聞いて、つい最近ここで日本刀を振り回してた出来事を思い浮かべるけど、気にしたら負けだね。
私は心の中でそう思いながら、取り付け作業時に使用した工具を片付けた後、玄関の二人に近づく。
大和 「荷物はそれで全部?」
キンジ 「いや、まだ下に一つ置きっばだ。」
大和 「じゃあ二人は上がってて、私が取ってくるよ。」
キンジ 「そうか?なら頼むぞ。」
私は靴を履き二人の横をすり抜けて、玄関から外に出る。
白雪 「私がお部屋汚しちゃったからお掃除しないといけないね。それに、粗大ゴミもちゃーんと処分しないと・・・・」
・・・・・おかしいなぁ?
普通の言葉な筈なのに、不安な単語として聞こえた気がする。
よし、これも気のせいとしておこう。
階段を降りて寮の入り口に到着すると、何故か入り口の真ん中で、武藤が立ちっぱなしで呆然としていた。
大和 「武藤?何かあったの?」
武藤 「───あっいや、気にするな!」
私は心配になり声をかけると、声に反応して武藤がハッと我に帰る。
大和 「悩みでもあるなら、相談位には乗れるよ?」
武藤 「いや、悪いが断らせて貰うぜ。これは俺の挑戦だ。他人の力ではなく、俺だけでやらないといけない事だ。うぉー!やってやらー!」
武藤はそう叫びながら乗ってきたであろう車に乗って颯爽と走り去っていった。
大和 「あれだけ元気なら、多分大丈夫かな。」
あそこで呆然して、急に元気になった理由が良く分からないけどね。
ひとまず私は白雪の荷物を持って部屋に戻る。
それから大体数時間後、私は白雪の掃除したキンジの部屋の変わり具合に驚く。
大和 「うっわぁ、凄い。」
さっきまで穴だらけ残骸だらけの廃墟に近い部屋だったのが、今は綺麗を通り越して新築の部屋かと思える程劇的な変化していた。
しかもこの掃除自体は三時間やそこらで終わらせる事にも驚愕するよ。
私の隣でタンスを運んでいるキンジも、同じ感想を抱いているだろうね。
部屋の掃除を終えた白雪が台所に向かうタイミングで、後方からアリアが迫る。
そしていきなり右足を上げて、私達に連続で蹴りを入れてきた。
でもまぁ私は気づいているから軽く前に動いて避ける。
大和「ほいっと。」
キンジ 「痛て!」
一方アリアに気づいていなかったキンジは、アリアの蹴りをもろに食らってよろめく。
いきなり蹴飛ばされたキンジは不満げに振り替える。
キンジ 「・・・いきなり何だよ。」
アリア 「大和、アンタ避けるんじゃないわよ。まぁそれより───」
キンジ 「おい。」
キンジの言葉を華麗に無視して、アリアはタンスに指を先し話を続ける。
アリア 「アンタ達、いい?持ってきた荷物やらタンスやらをちゃんと調べておきなさいよ。」
キンジ 「調べなくても大丈夫だろ。、女子寮からここまでに仕掛けれる訳ないと思うが?」
アリア 「その発想が駄目なのよ!とにかく私が作業を終えるまでに終わってなかったら、風穴空けるわよ。」
風穴宣言したアリアは工具箱を持ってベランダの方へ移動して行った。
キンジ 「はぁーしょうがないか。やるぞ。」
大和 「はいはい。」
とは言ったものの、存在感知で荷物自体に仕掛けれていないのは分かっている。
一応目でも確認しておこうかな。
そう思ってタンスの周りや中を覗き込む。
調べてから数分経っても、これと言った怪しい箇所とかは発見されない。
そしてキンジがタンスのとある引き出しを開ける。
───あっ。
引き出しの中に入ったものにキンジは首をかしげつつ、布を一枚取り出す。
何気なく布を広げ、何の布かを理解して少し硬直した後、高速で布を中に戻しタンスをバタンと強く閉める。
その後タンスに持たれ掛かり、頭を抱え全身から負のオーラを放ち始める。
一部始終を存在感知で把握しながら、私は内心苦笑いを浮かべる。
うん、キンジならそうなるよねって。
だってそのタンス、衣服や下着が入っているもんね。
ちょっとした事故でキンジが若干自己嫌悪に陥っている所に、運悪く白雪が近づいて行こうとする。
大和 「あっ白雪。ちょっといい?」
キンジがあんな状態なので、白雪がキンジに向かうのを阻止しようと白雪を呼ぶ。
気分を落ち着かせる為に、少しの時間だけでも一人にさせておいた方いいからね。
白雪 「うん?どうしたの?」
私の言葉に何の疑いもせず白雪は私の方へ方向を変えた。
ふぅー、白雪はいい意味でも悪い意味でも扱いやすくてありがたい。
大和 「えっとね。台所で何しているのかって思って。」
白雪 「さっきまであっちのお掃除してて、これからご飯を作ろうと思っていた所だよ。」
大和 「料理を作るなら私も手伝うよ?」
白雪 「えっ!いいよいいよ、大和にはいつも苦労ばっかりかけちゃっているし。」
両手を自分の体の前で振り、白雪は手伝って貰う事に遠慮する。
大和 「それくらい問題ないよ。それに二人の方が手間も省けるでしょう?」
白雪 「えぇ、でも・・・」
いまいち踏ん切りがつかなく白雪が迷って悩んでいる中、キンジはこっそりと玄関の方に移動していた。
玄関で靴を履き、振り替えらず一言言ってからドアを開けようとする。
キンジ 「あー・・・わりぃ、少し外に出てくる。」
白雪 「えっ?キンちゃん、どこに?」
キンジ 「外と言ったら外だ!」
さっきの出来事でキンジが若干焦っているのか、少しだけ声を荒げる。
白雪 「へ、変な事聞いてごめんなさい!」
そのせいで白雪が余計な事をしたと思い、即座に謝罪する。
大和 「行ってらっしゃい。」
いきなり外に出たくなった理由を知っている私は、いつも通り返事してキンジを見送った。
大和 「さて、一緒に料理作りましょうか。白雪。」
白雪 「えっ?あっうん。」
私もその流れに乗って先に台所に行き、白雪にそう言う。
一方、遠慮していた白雪は私の行動に観念したのか、一緒に台所に立つ。
大和 「ところで、白雪は何を作るつもりなの?」
白雪 「今日は中華料理を作ろうかなって思っているの。」
中華料理って言ったら、麻婆豆腐とか回鍋肉とかかな?
大和 「どの中華?」
白雪 「えっとね。エビチリと酢豚と餃子にカニチャーハン、あとアワビのオイスター和え。あっそうだ、ラーメンも作ろうと思っていたんだ。」
えーと白雪さん?
明らかに一食で出す料理の数としては多いと思うのだけど、全部食べれるの?
ま、まぁ張り切っているみたいだし、私の出来る限りの手伝おうかな。
私達は冷蔵庫から料理で使う食材を取り出し、いざ料理を作ろうとした時、私はある事を思い出して逆に申し訳ない気持ちで白雪に伝える。
大和 「ねぇ白雪、私の分は作らないでもらえるかな?」
白雪 「あれ?ご飯、食べないの?」
大和 「ごめんね。いろいろ事情があって。」
白雪 「うん、わかった。」
そして料理を作り始めようとした時、今度は作業を終えたアリアが玄関で靴を履きつつ言う。
アリア 「ちょっと買い物と脱走兵狩りに行ってくるわ。」
アリアの言う脱走兵狩りってキンジって意味だよね。
ガバメントで撃たれなければいいけど。
玄関からまた見送ろうと思ったら、ふとアリアに聞きたい事を思い出す。
大和 「あっ、そうだ。アリア、聞きたい事あるけどいい?」
アリア 「何?」
私は台所から玄関のアリアへ移動し、白雪に聞こえないようお互いの顔が当たる寸前まで近づける。
大和 「魔剣についての情報はない?」
その瞬間アリアの目が細くなり、私を軽く睨みつける。
アリア 「───魔剣の情報ねぇ。正直に言って分かっていないと同義よ。強いていうなら剣の使い手で策士って言う噂があるくらいかしら。」
大和 「策士?」
アリア 「もういいかしら。アタシは忙しいんだけど。」
大和 「んっわかった。ありがとう。」
アリア 「じゃあ行ってくるわ。」
そのままアリアは玄関のドアを開けて、どこかへ行ってしまった。
しかし策士・・・ねぇ。
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魔剣の事を考えながら白雪と一緒にご飯を作ったけど、一言言うならあれだね。
白雪の家事スキルって、凄いを通り越して恐ろしいね。
私の目の前に広がる数々の料理。
一つ一つ盛りつけも丁寧で、まるで高級店に出される料理みたい。
私もそれなりに出来るけど、白雪並みは殆どいないと思う。
部屋の修復もそうだし、この料理もそう。
逆に料理中に邪魔になってないか不安満載で調理すると思わなかったよ。
あと言う事は、調理途中に何か視線を感じてSVUで辺りを探索していたら、遠いマンションの上でレキを見つけた事かな。
状況とか色々な場合を考えて、多分アリアが雇ったぽい?
レキを雇ったんならアリアも一言言って欲しいなぁと。
他にも料理が完成する手前、白雪がキンジに電話して際に白雪から低く不気味な声を発した気がするんだけど・・・・・
───よし、これも思い過ごしだよね。
にしても今日は随分疲れているみたいで、色々変な風に聞こえてしまう。
キンジ 「帰ったぞー。」
ドアの開閉音と同時にキンジの声が玄関から届く。
白雪 「お帰りキンちゃん!・・・チッ。」
笑顔でキンジを迎えに行った白雪は、キンジの後方にアリアが視界に入った時だけ、一瞬舌打ちして顔が歪む。
でも直ぐに元に戻ってキンジ達をリビングに連れていく。
こうして食事が始まったまでは良かったんだよ。
ただまぁ、知っていたよ。やっぱり食事でも争いは起こるものだよねって。
私はテーブルの前で正座に座りながらお茶をすすり、そこから眺める食卓の風景はあまりよろしくなかった。
キンジや白雪は普通に料理を食べている中、アリアに至っては丼に白米に突き刺さった割り箸のみ。
当たり前だと思うけど、アリアはメニューに対して怒る。
しかし白雪が文句を言うならボディーガードを解任すると言い出すので、何とか理性で堪えて悔しそうに白米を掻き込む。
・・・・・後でももまんでも買って来てあげよう。
さて、今の内に出来る事をしようか。
私は机が置いてあるリビングを抜けて台所に向かい、そこに放置してある白雪の携帯を持って、ポケットから自分の携帯を取り出し互いのコードを繋ぐ。
自分の携帯を操作し、準備を終えたらバレないように白雪の携帯を元あった場所に置く。
大和 「これでよし。さてと私も栄養補給しないとね。」
次に自分の鞄を開き、中からビタミン剤やらの栄養剤を多数取り出し、コッブに入れた水で一気に飲む。
私が何故栄養剤を常備しているかって言われたら、入学当初の絶食とこの前の被弾で内臓を痛めたせいで、ほんの少量の食料しか食べれなくなっているから。
若干でも食べる量を誤ったら、胃が受けつけなくて戻してしまうんだよ。
とは言え栄養が取れないとそれこそ生きていけない訳で、こうして栄養剤で何とか補っている状態。
ちゃんと食べないといけないのはわかっているのだけどねぇ・・・
栄養剤を一通り飲んだら、コップを洗ってリビングに戻った。
反旗を翻す駆逐種族:暗くて全くわからないが、なにやら不気味で奇妙な鳴き声が耳が届く。───テケリ・リ!テケリ・リ!