1:新しい世界
あれ?なんだろう・・・涼しい、風?・・・・あの世って涼しかったりするのかな?
何故か私の頬に風が当たる感覚を感じる。
その理由を少し困惑しつつ思考する。
でも私はあの時に死んだはず、よね?
なんで意識があって肌の感覚があるのかと、私にはある種の疑問が生まれる。
んー?どうなっているんだろう?
目は・・開くみたいだけど、目を開けたらどこにいるのかな?
私のやって来た事を考えると絶対に天国は無いし、かといって地獄は暑そうだし、もしかしたら三途の川だったりして。
しかしこのまま考えても意味がないのは明白なので、ゆっくりとまぶたを動かす。
視界には川や火山など無く、木製の天井が写った。
私は顔の前に手を移動させ、指を一本一本曲げてちゃんと動くのを確認する。
さっきまで苦痛を発していた怪我や傷は無い上、それに特にこれと言った妙な違和感も無かった。
床に手のひらを置き、体を支えてそっと身体を起こす。
周辺に視線を動かし状況を確認したら、どうも部屋の一角にいるみたい。
───少なくともあの世、ではなさそう。となるとここは?
そして目の前に鏡がある事に気付き、鏡の前に立って体の様子を確認する。
私の黒い瞳が自分の身体全体を見渡し、予想通り何処の肌も戦いの傷もなく、クルリと振り替えって背中も見てみる。
腰まで長い髪を手で動かしたり、服を軽く持ち上げたりしても何一つ形跡が存在しなかった。
体は万全な状態だよね?
正直私の頭の中では無数の疑問が埋め尽くされていた。
誘拐されたとかではないはず、人は居なかった以前の状況。
とにかく、行動しない事には何も始まらないかな。
そう思い立って後ろを振り向くと、カーテンで隠されたベランダを見つける。
カーテンの隙間から外の様子を見渡そうと、足を進めた瞬間、爪先に何がが当たった感覚がした。
あっ!しまった!!
状況の変化で足元のおろそかにしてしまい、足下を慌てて下に視線を合わせたそこには───愛銃であるFN5-7と愛刀の雨風改、小太刀の富雨が自分の寝ていた場所のすぐ隣に置いてあった。
一瞬罠じゃないのかと考え、慎重に警戒しながらしゃがみ、観察した後に雨風改を指先で軽くつつく。
そして触れても危険性なしと判断したら、雨風改を持って自分の前に掲げる。
この見た目、質感、重量、この手に馴染む感覚。うん間違いない、本物。
嬉しさとかより、私は大きな違和感を抱く。
でも本物ならここにあるはずがない。
雨風改はあの戦いの途中で折れて破棄した。
コピー?いや、雨風改は使う材料の問題でコピーはほぼ不可能。
一体何が起きているの?
取り敢えず使えそうな情報を記憶から探した時、頭にある言葉が浮かんだ。
「「我は、もはや自らを制御できぬ・・・せめてお主だけでも。」」そう、私が攻撃を受ける寸前に聞こえた謎の声。
この言葉の意味を少しでも理解しようと頭を働かせる。
せめて私だけでも・・・つまり、私だけでもどこかに移動させた?
お主は私、となると我は誰になるか?
あの状況で言葉を発する事が出来るのは、目の前にいた旧支配者だけで、それに声は耳を経由せず脳内に直接響いたように感じだった。
自らを制御出来ないとも言っているから多分確実。
しかし人間一人を気遣うなんて、旧支配者にしては恐ろしく優しいのか、それともただの気まぐれか。
それはさて置き、問題は旧支配者は私をどこに飛ばしたかだね?
ここはやっぱり外を見るのが一番早い。
ベランダ側のカーテンの裏へ行き、ほんの僅かな隙間から外を覗き見る。
外は巨大な高層ビル群が立ち並び、この景色には見覚えがあった。
この地形は東京だね。
にしても転移先が東京って結構遠くまで飛ばされた。
さてと早い所上に報告しないと───あれ、おかしい?
風景から把握した位置関係的に東京タワーとスカイツリーが視界に入るはずだったけど、何故か建設途中の姿が目に写る。
これって、もしかして時間が戻っている?
んーそれを言ったら、そもそもこの東京は私が居た東京なの?ってなるよね。
時間を巻き戻す方法は本で読んだ事がある。
確か・・・偉大なる種族であるイス人のみ、時間を自由に行き来できるという。
しかしそれは彼らのオーバーテクノロジーのお蔭で可能な訳であって、私達の技術力で全然足りない。
あっでも旧支配者並みの力を持っているなら、イス人関係無く成功する可能性もあるよね。
でも、旧支配者が魔術で時間を逆行させた場合、今頃ティンダロスの猟犬が襲いに来ているだろうし。
なら他に考えられるのは・・・次元を超越した?
その発想で行くなら、時間のズレもティンダロスの猟犬が来ないのも考えられるね。
次元を超越するなんて時間以上に不可能だと思われそうだけど、門の創造という魔術は、条件が合えばほぼ無限の距離でも移動が可能なものもあるから無いとも言えない。
それに旧支配者なら人の知らない魔術を知っていても全然おかしくない。
いや、でも────
大和 「と、はいストップ。このまま行ったら深みに入っちゃう。」
ひとまずこの思考を後回しにして、部屋の構造を把握して情報源を捜そう。
慎重にかつ素早く部屋を捜索してから数分後。
ふむふむ。部屋の大きさは1LDK、そしておまけに複数の本と若干のお金、それに封筒と身分証明書などの重要書類ね。
まず身分証明書に手をつけ、そこに書かれている年号などに視線を動かす。
年号は2007年。
肝心の身分はえーと何処だろう?私の知らない中学校の三年かぁ。
いろいろ突っ込み所満載だけど、今現在必要なのは可能な限りの多くの情報。
身分証明書を机に置いて、隣に立て掛けられている数冊の本の内、一冊を取り出し読んでいく。
一冊を読み終わり、次へ次へ読んでいく毎に時間逆行より次元の超越の可能性が高まるのを感じる。
本には法律、経済、民法、国の歴史などが書いていて、地形や法律はあまり変化は無いけど、最も大きな違いは武偵と超能力の存在だった。
武偵とは、武装探偵の略であり治安を守る為の機関。
と言えば聞こえはいいんだけど、実際は雇われの便利屋みたいだね。
ただし武偵は人を殺してはいけないと言うルールが日本では存在しているようで、ちょっと不便そう。
次に超能力について、超能力はスピードが早くなるものから炎を出すものまで様々であり、使える人が少なく個人固有のものらしく、かなり差がある感じみたい。
まぁその定義だと私も超能力あり、になるかな?
超能力と言うか能力かな?何故か強化されてるし。
私には元々ある能力があった。
それは私を中心として半径5m圏内の存在をすべて把握する事ができた。
うん?さっき足元に気が付かなかったって?・・・それはぁーあまり気にしないで欲しいなぁ。
それで説明を続けると、能力の効果は半径5mのはずだったのに今は半径12mと爆上がりしている。
なんでだろう?
理由はまぁ、旧支配者からの贈り物としておこう。
そして次に封筒を開けて、中に入った紙を広げてつい苦笑いしてしまう。
大和 「これって受験して来いって事かな?」
広げた紙には東京武偵高校受験票と書かれていて、受験日は明日。
早いよ、もう少し余裕を持たせて欲しいよ。
内心そうツッコミながらも、ある意味ありがみを持っていた。
大和 「誰が用意したか本当にわからないけど、武偵高校なら情報が集まりそうよね?んー、今回はありがたく使わせて頂こう。えーと、地図地図。」
本に挟まっていた地図を取り出し、東京武偵高校の位置を確認する。
大和 「バスで二十分位なら徒歩だと一時間位かな。それくらいならお金がもったいないから徒歩で行こう。後は外で日用品とか買って来なきゃ。」
まさかこんな事態なるなんて予想してなかったよ、うん。
でも、色んな意味でチャンスでもあると無理矢理思って行こう。
今後の方針が決まると私は外に出掛けて、情報と可能な限り安く物品を手にいれて明日の準備を行う事になった。
わたしが破棄すべきメモ:この世で最も慈悲深いのは、人類の脳裡に存在するものを繋げられていない事だけだろう。