強襲科の建物の屋上に居た私は、前日の作業で少し疲れたので、休憩として階段の入り口の屋根で寝転がり日光浴をしていた。
そして私の位置から見て左側の体育館から、時折アドシアードで行うバンドの練習音が聞こえてくる。
近くだと正直うるさく感じるけど、それなりに離れていると寧ろ心地よく耳に届く。
でも残念な事に練習が終わってしまったようで、今は音が途絶えてしまった。
だったら音楽プレイヤーで何か聞こうかなって、取り出そうとポケットに手を入れた時、誰かが屋上に上がってきた。
存在感知で誰が上がって来たか確認する。
この感じは・・・キンジかな?
キンジは屋上に上って、階段の屋根に私が居るのに気づかず同じように屋上のコンクリートの床に寝転がって昼寝を始める。
私は屋根の上からキンジに話し掛けようとした時、もう一人屋上に上がってくる人物がいた。
今度は階段からアリアが現れ、屋上に着いた途端空を蹴る動きをする。
アリアが蹴る動きをした際、白いスニーカー脱げて高く舞い上がり、それなりの運動エネルギーを持つスニーカーがピンポイントでキンジの顔面に直撃する。
スニーカーと言えど、数mの高さから落ちたら結構な衝撃が伝わる。
痛みで悶絶するキンジに休む暇を与えず、アリアは連続で何度も蹴飛ばす。
アリア 「サボってんじゃないわよ、このっ!」
ようやく蹴りが終わり、キンジがイライラしながら上半身を起こした瞬間、アリアは右足を高く上げて踵落としを繰り出す。
いきなりの攻撃を止めようとキンジが両手でキャッチしようとしたが、残念ながらゴスッと鈍い音が辺りに響く。
見事に踵落としを食らったキンジは、今度は頭を押さえてしゃがみ込む。
アリア 「まったく!白刃取りくらい出来るようになりなさいよ!」
キンジ 「──痛っつ・・・・いい加減にしろよな。俺は病み上がりなんだぞ。どっかの誰かさんがくそ冷たい東京湾に叩き込んだせいでな!」
キンジは嫌みたっぷりにアリアを非難をする。
というか、体調不良の原因は東京湾に落とされたからなの・・何があったら落とされるのかな?
一方キンジを落としたであろうアリアの方も若干やり過ぎた感はあったみたいで、あまり強く言い出さない。
アリア 「す、少しは悪かったわよ。だから・・その・・・」
キンジ 「まぁ、風邪は治ったからな。白雪の買ってきてくれた特濃葛根湯でもう大丈夫だ。」
アリア 「えっ!?」
それを聞いたアリアは目が驚愕で埋まった。
キンジ 「どうしたんだ?前にお前にも話しただろ、あれだけが唯一効くって。それを白雪が買ってきたんだ。」
アリア 「白雪が言っていたの?・・・買ってきた、って?」
キンジ 「あぁ、そうだが?」
キンジの答えにアリアは何も言わずに静かに黙る。
アリア 「でも・・・そう、最終的に治ったなら別にいいわ。そうよ、私は貴族だから!」
アリアが何か自身に一生懸命納得させようとしているのが見て取れる。
地雷というか、あまりよろしくない雰囲気に変化していく。
キンジ 「なんだ、何か言いたい事であるか?」
アリア 「何も無いわよ!このバカ!」
不自然なアリアに疑問を抱いたキンジが心配して聞いてみたけど、初っ端からアリアに罵倒を口にされる。
これでキンジの中でさっきの蹴りの怒りが復活したらしく、吐き捨てるように叫んだ。
キンジ 「おいなんだよ!いきなりキレやがって!」
アリア 「うるさいっ!!」
キンジとアリアはお互いに睨み合う。
あっちゃ・・・喧嘩になっちゃった。
これ、どうしよう。
多分二人の認識の相違が喧嘩の原因ぽいんだけどねぇ、如何せん相違の中身が分からない。
私が間に入ろうかな?二人から集中砲火されそうだけど、まっしょうがないよね。
喧嘩を止める為に動こうとしたら、やっぱり今までかなりの鬱憤が溜まっていたようで、キンジからも怒声が飛び出てくる。
キンジ 「いいかっ!!この際だからハッキリ言わせてもらうが、パートナーだから付き合ってやったけどなぁ!あんなもん無意味に決まっているだろ!!」
アリア 「それは絶対駄目よ!魔剣は鋼すら易々と切り裂く剣を持っているそうだわ。それが本当だったらどんな盾でも防げない!だからその技が輝くのが今な───」
キンジ 「だからその技が輝く敵はどこに居るんだよ!ここ最近全く危険な事なんてねぇんだよ!魔剣なんて居ないんだよ!」
キンジの言葉に更にヒートアップしてアリアは宣言する。
アリア 「居るっ!魔剣は絶対に居る!アタシの感がそう囁いているの!かなり近くまで来ている筈だわ!」
アリアは居ると感が囁いていると説得する。
人間は目に見えて、自身の目前で体験しなければ理解しない生き物。
アリアの魔剣がある証拠は自身の感は他人には見えない。
つまりキンジ側も見えないものに納得する訳がなかった。
キンジ 「だったら証拠を見せろ!他人を説得したいなら、証拠を出せ証拠を!実際に魔剣の存在する証拠が無いって言うなら、つまりそんな敵居ないって事だよなぁ!」
アリア 「証拠は無いけど、居るのが直感で分かるのよ!どうして・・・どうして誰も分かってくれないの!?」
キンジ 「あぁ分かるわけねぇ!存在しない敵がいる事なんて、信じれないに決まっているだろ!いいか、魔剣なんて居ねぇんだよ!」
アリア 「───この!大バカ!バカバカバカバカバカ────バカキンジッ!!」
ついに全身真っ赤で本気でキレたアリアが二丁のカバメントを抜いて、キンジに発砲する。
キンジの顔の横数cmの至近距離を多数の45ACP弾が放たれた。
突然の発砲を本能的に避けようとしたキンジは床に思いっきり転倒。
連射してマガジン内が空になったガバメントをアリアはリロードをしつつ、右足でキンジの顔面を思いっきり踏みつける。
そしてリロードの終わったガバメントを貯水タンクに向かって再び発砲し、階段へ走り去って消えてしまった。
こうしてアリアが居なくなり、屋上には嵐の後の静寂が流れる。
仰向けに倒れているキンジが脱力感満載そうな体を起こした時、上から覗き見ていた私と目が合う。
私はなんとも言えない雰囲気に包まれながら、屋根から飛び降りてキンジに近づく。
キンジ 「・・・・いつからだ?」
キンジが最初に話したのはその言葉だった。
大和 「キンジが来るより先に居たから。」
キンジ 「なら、最初からか───」
私達は何も言わず、時間だけが流れていく。
少し前まで心地良い風だったのが、今では冷たい冷風のように感じられる。
次に会話の先端を開いたのはまたキンジの方だった。
キンジ 「なぁ、大和は居ると思うか?」
キンジの居るの意味は、多分魔剣が本当に存在しているのかと言う質問だと思う。
大和 「居る・・・いや、居る可能性は限りなく高い。」
私から居る確率が存在すると言われ、キンジの目が一瞬だけ見開く。
キンジ 「何か知っているのか?間違っても感だと言うなよ。」
大和 「まさか。証拠は二日前の放課後、校内で白雪とすれ違った事。」
キンジ 「だからなんだ?白雪とすれ違うなんて別にどうって事───待て、二日前?」
キンジは何かに引っ掛かり、その引っ掛かりの原因を考えて気づいた。
キンジ 「確か二日前って言ったら、俺が護衛している時だよな。」
大和 「護衛の際、一度でも離れた?」
キンジ 「・・・いや、あの日の放課後は一回も離れてない筈だ。」
一度も離れてないとキンジから報告されて初めて、私が白雪とすれ違った当日に二人の白雪が存在すると証明された。
しかし白雪に成りすましていた人物が魔剣とは限らない。
何せ本物の魔剣という人物自体を知らないから。
もしかしたら魔剣とまた別の人物が偶然同時に乗り込んできたのかも知れない。
大和 「なら、多分決まり。キンジ、白雪をお願い。私は別の手段で行動するよ。」
そうキンジに伝えて、私は早くも行動を起こそうと屋上から下の階へ降りた。
キンジとアリアの喧嘩から少し時間が飛んで当日の夜、私が部屋で様々な対応策を座って考えている中、部屋のチャイムが鳴った。
大和 「こんな時間に誰だろう?」
ピンポーン、ピンポーン、ピポピピピンポーン!!
あれ?なんか既視感がある・・・と言うかこれ、アリアだよね?
玄関のドアを開けた先には予想通り、アリアが腕を組んだ仁王立ちで廊下に待機していた。
しかも泊まる用だと思うリュックサックを持って。
アリア 「いつまで待たせるのよ!まったくもぉ!」
アリアにとって開けるまでが遅かったらしく、不満げにズカスカと自分の部屋のように入っていく。
ここ、私の部屋なんだけどなぁ・・・・・
アリア 「相変わらず殺風景で物が無いわね。」
大和 「普段からあまり必要な物が多くないからね。」
アリア 「ふーん。」
アリアはそこらへんにリュックサックを放り投げて、私のベッドに飛び込む。
大和 「それでこんな時間に何の用事?」
アリア 「アタシ、暫くここに泊まるから。先に言っておくけど、出ていかないから。」
うん、荷物を持ってきている時点でそうだろうとね。
まぁリュックサックの中身は衣類とかかな。
大和 「別に良いけど、キンジや自分の部屋とかじゃあ駄目なの?」
アリア 「今はここに居たい気分なの!」
大和 「了解したよ。」
これ以上はアリアの機嫌を損ねたくないから、適当に残った家事に勤しむ。
するとアリアの方から私へ問いかけられた。
アリア 「ねぇ、アンタはどう思うの?」
アリアがベッドにうつ伏せで寝そべったまま、唐突にそう聞いてくる。
大和 「どう思うって、何が?」
アリア「魔剣が居るかって事よ。ほんと鈍いわね。」
当たり前のように無茶ぶりをしてくるアリア。
流石にその台詞で察しろって、ちょっと無茶だって。
でもまぁ、そうねぇ。
大和 「居る前提で動いているのが正しいかな。」
ほぼ確実に居る、でもほぼであって確実ではないのよね。
アリア 「そう・・・アタシの感だと絶対に居るわ。でも、どれだけ言っても誰も信じてくれない・・・アタシだってわかっている!説得しようにも、アタシだとちゃんと説明も出来ない!一体、どうしろっていうのよ!!」
後半になるにつれて、思いを吐き出すように声が強くなる。
一通りわだかまりを吐き出したアリアは、私に視線を向ける。
アリア 「アンタは───どっちなの?」
アリアの瞳の奥からは心の底から私の答えを求めてくるのがわかる。
これは間を取るのって難しそうだかなぁ。
私は数秒間顔を上に上げて考え、アリアに視線を戻す。
大和「私は中立。って言っても納得して貰えないよね?」
アリア 「当たり前よ。白黒ハッキリつけなさい。」
やっぱりこうなるよね。
うーん、強いて言うなら───
大和「なら、今は白かな。」
アリア「今?」
大和「敵味方、状況、戦力差は常に変化し続ける。味方がいつまでも味方である必要性はないし、敵が敵であり続ける事もない。ただそれだけ。」
アリア「・・・・・もしアンタにまで見捨てられたら、どうしたら良いのよ。」
アリアが小さくボソッと呟く。
どうにも自分自身が仲間を引っ張ろうにも、思った通りに着いてきてくれず明け暮れているっぽいね。
大和 「んー正直言って人を引っ張りたいなら、結局のところアリアの考える道を突き進むしかないんじゃない?」
アリア 「えっ?でも、私の道になんて・・・誰も付いてきてくれない。」
私の言葉にアリアは悲しそうな表情に変化する。
大和 「人は全員がそれぞれ、似ている人は居てもそれだけ。じゃあ逆に考えたら良いよ。アリアの思う道に付いて来ないなら、逆に付いていけばいいんじゃない?」
アリア 「えっ?」
アリアは初めてその考えを聞いた風にベッドから顔をガバッと上げる。
大和 「私もアリアの向かう先は知らないよ。でも今回はキンジもアリアも私も白雪を守りたいと言うゴールは一緒。つまり道中にどれだけ離れても、最終的にはまた一緒になれる。」
勿論道中で目的の変更や、本人の歩く道に大きな影響を与えるものが起きた場合は例外だけど。
大和 「例えばハイジャックの時だって、病院で皆が大きく離れたように見えたけど、武偵殺しを捕まえるという目的。そして機体を綺麗に不時着させる目的でまた一緒に集まったでしょ?」
アリア 「言われてみればそうだけど・・・・・」
アリアは一言だけ口にして再び枕に顔を伏せる。
大和 「じゃあ目的が違う人と一緒になりたかったら、相手か自分のどちらか、またはお互いに変わらないと行けない。ただ変わるのはあくまで自分の考えと天秤を掛けないとね。」
アリア 「・・・よくわからないわ。」
アリアは難しそうに悩む。
今まではずっと一人でソロだったらしいから、あまり協同で動いた事が少ない影響かも知れないね。
大和 「別に一気に理解する必要はないんだよ。少しづつ、少しづつ、ゆっくり考えればいいから。」
時間が経った位じゃ解決してくれない問題もあれば、解決してくれる問題もある。
今回はどっちに入るのかな?
アリア 「・・・そうね。今すぐ理解する必要はないのね。取り敢えずそんな事は後にして、アンタと話してたら何だかお腹空いてきちゃったわよ。何か作って。」
色々と吹っ切れた様子のアリアが、私に指を差して晩御飯を要求してくる。
でも残念な事に、明日買い物行こうとしていたから冷蔵庫の中身が、少なめの一人前しか残ってないんだよね。
今の時間からスーパー行くのも面倒だし、割高だけどコンビニで食材でも買って来よう。
大和 「はいはい。と言っても材料が無いからちょっと買ってくるよ。」
アリア 「早く食べたいから二分で帰って来なさい。いいわね?」
大和「まーた無茶ぶりを。まっ、可能な限り急ぐよ。」
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
アリアとキンジが喧嘩から何日経過しても、魔剣の動きは相変わらず変化無し。
私がキンジに魔剣の存在を仄めかして言った為、キンジのガードが固くなったのが原因の一つかも。
それに一方アリアの方も情報収集を頑張っているのか、いつも八時頃帰ってくるようになった。
今のところは問題なさそうだけど、油断は出来ない。
あの魔剣がガードが固くなった程度でターゲットを変えるなんてプライドが許さないだろうし、更に入念な準備をして仕掛けてくる。
場合にもよるものの、寮や下校中とかに襲撃すると他人に目撃される可能性があるから、今まで隠密を重視する傾向的に魔剣側も発見事は避けたいと考えると予想出来る。
とするなら人が少ない所で襲撃するより、逆に人が沢山居る状況で紛れて行動した方が注意は逸れやすい。
木を隠すなら森の中、人を隠すなら集団の中。
勿論その発想で行くなら出来るだけ集団は多い方がいい。
なら、近々そんな事を起こせる大きなタイミングは二つある。
今日行っている祭りと、武偵高のアドシアードの二つ。
しかし祭りの方はキンジがガッチリ守っているし、魔剣側が策士なら保険を掛けてから動く筈。
なら計画に保険を掛ける時間も追加で上乗せされると考慮する場合、実質タイミングは一つしかない。
そう考えている時、自分の携帯にメールの着信が鳴る。
メールの送信先は白雪からだったよ。
でもこれは白雪自身が送って来た訳ものでない。
私が前もって白雪の携帯に仕込んだウイルスによる物。
白雪の登録してない番号からの発信をコピーして、私の携帯に転送する、一種のコンピューターウイルス。
今は黙っているけどね、事件が終わったらちゃんと伝えて改善する気だから。
それで内容送られてきた内容だけど・・・・
───ビンゴッ。
魔剣が本格的についに動き始めた。
米軍水兵:俺は幾つもの深きものを見てきたが、6.5ydを越える巨体を持つものは初めてだ。