暴走神に敗れし者、この地に現れる   作:弓風

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24:ドロボー計画

 深夜に理子の突入を受けた次の日の朝。

 普段通り目が覚めて起きようとしたら、お腹周りに何かが引っ掛かって動けなかった。

 あれっと思い視線を下ろすと、私のお腹に理子が手を回してしがみついていた。

 あ、そっか。

 そう言えばベッドに入った途端、理子が抱きついたんだよね。

 残念ながら、手を退かそうにも理子は嬉しそうに熟睡していて起こすのは忍びない。

 このまま起きるまで居てあげたいけど、それじゃあ武偵高に遅刻するから、起こさないようほんの少しだけ緩めて抜け出す。

 後は私の代わりにクッションを挟んで置いておいた。

 そしていつも通り顔を洗い、銃のメンテナンスが終わって朝ごはんを食べる。

 制服を着て、机の上に理子の分の朝ごはんをラップに包んで置いておき、準備が全部終わったか確認して学校に向かう。

 学校に行く途中に、深夜の出来事を思い浮かべる。

 しっかし泥棒かぁ。

 正直言って気乗りはしないね。

 武偵が犯罪を犯したら、通常の三倍の罪が掛かる制度があるせいで出来れば犯罪には手を染めたくないんだよね。

 たとえ盗み一回だとしても、かなり重い罪が課せられるのよねぇ。

 それにキンジから聞いた話だと、理子はあのリュパンの子孫らしいから、泥棒は専門分野なはず。

 理子一人じゃあ手に負えないという意味かな?

 どう見てもかなり面倒な頼みなのは間違いない。

 しかも私に手伝って欲しいって、一体何を盗む気なの?

 こうして見るとあれだね。

 キンジが巻き込まれ体質なのはほぼ間違いけど、私もそうなのかな?

 なんか私も人の事を言えなくなって来た気がする。

 ・・・・はぁ~。

 そして武偵高で何時もの通り授業が始まり、一時間目が終わった後の休憩時間、自分の席でのんびりしていると。

 

理子 「りっこりんの参上だよぉー!」

 

 突如理子が後ろのドアから教室に現れて、軽快な足取りで私の席まで走ってくる。

 

理子 「みーちゃん、たっだいまぁ!!」

 

 理子は机に両手を置き、顔を近づけてから言う。

 すると、私は理子の唇に食べカスが残っているの見つける。

 

大和 「おかえり。あと理子はちゃんと鏡を見たら?ほら、口の周りに食べカスが残っているよ。ちょっと拭くから動かないでね。」

 

 ポケットに入れていたハンカチで、理子の唇に若干付いてた食べカスを拭き取る。

 

理子 「えへへ、ありがとー!みーちゃん!」

 

 甘える表情した理子は嬉しそうに感謝をして、今度は教壇に移動しアイドルのようなポーズをとる。

 

理子 「みんなー!りこりんが居なくて寂しかったぁ?でも、りこりんは今日!みんなの元に帰って来たよぉー!」

 

 男女両方のクラスメイトが理子に近づいて「りこりん!りこりん!」と応援団みたいに声援を送ったり、楽しくお喋りをしたりしている。

 そして私は理子が机に手を置いた時に、さりげなく置いていった折り畳まれた小さな紙をそっと回収する。

 すると今度は左側からバキッと木の折れる音が聞こえたので、そっちにチラッと視線を移す。

 そこにはアリアが真っ二つに折れた鉛筆を持ち、怒りに震えていた。

 ・・・そういえば、アリアと理子って敵対していたっけ。

 いきなり目前に宿敵が登場すればこうもなるよね。

 って、この場合だと理子と泥棒したのをアリアにバレたらかなり面倒な事になりそう。

 でも大丈夫、だよね?

 

 

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 理子帰還から数日後、私は秋葉原の街を出歩いていた。

 通りは沢山の人で埋め尽くされ、建物はキャラクターのポスターが貼っていたり、ゲームの音楽が流れているそんな風景。

 普段はこの辺りには滅多に来ないけど、理子の置いた紙に今日の集合時間と住所が書かれていて、住所は秋葉原の一角にあるメイド喫茶、なんだけど・・・何処?

 こういう時にスマホのマップで調べられたらなぁ~、前の世界と比べるとまだ電子機器が発展途上だからまだ先かな。

 

大和 「えーと、住所はここで合ってるからこの建物だよね?」

 

 建物の外見は窓のあるクイックパーキングのようで、ぱっと見それっぽいお店はない。

 

大和 「間違えた?あ、ここから上がるのかな。」

 

 建物の端の方に小さな階段をあり、階段の壁にメイド喫茶と書かれたポスターが貼ってあった。

 私は階段を昇り、踊り場の所に扉と傍に看板が立て掛けられている。

 やっと見つけたと思いながら扉を開けた瞬間───

 

メイドさん達 「「「お嬢様、お帰りなさいませー!」」」

 

 おっと、入った途端に挨拶されるなんて思っても見なかった。

 居たのは分かっていたけど、これは想定外。

 それにメイド喫茶なんて初めて来たから、色々勝手が分からない。

 

大和 「理子って子と待ち合わせなんですが、聞いていたりしませんか?」

メイドさん達 「はい。理子様からお伺いしております!どうぞこちらへ!」

 

 予め理子が連絡していたらしく、挨拶されたメイドさんの一人に店の一番奥にある個室へ案内された。

 

メイドさん 「ここでお待ち下さい。お飲み物は如何しましょうか?」

大和 「今は大丈夫です。」

メイドさん 「御用がありましたら、何時でお申し付け下さい!」

 

 椅子に座り、個室から店内を見渡す。

 中は全体的にピンクと白。

 よく知らないけど、まさにメイド喫茶といった内装ぽい?

 それを数人のメイドさんが仕切っている感じ。

 うーん、どうにもこの内装は私の趣味には合わない。

 まぁこういう内装が好きな人も居るから、人の好みは本当に幅広いよね。

 

メイドさん達 「ご主人様、お嬢様、お帰りなさいませー!」

 

 またメイドさん達の挨拶が聞こえてくる。

 挨拶から今回は二人、ここって思いの外結構繁盛しているのかな?

 など考えていたら、何故か私の居る個室にメイドさんと入店した人達の足音が近づく。

 最初は間違って案内しちゃった?って思っていたら、予想外の人達が目線に入った。

 

 

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 俺とアリアは、理子の大泥棒大作戦の会議に参加する為、嫌々ながら秋葉原のメイド喫茶に来た訳だが。

 俺はな、アリアと理子を合わせた三人でやると思っていたんだ。

 しかしメイド喫茶に到着して間違いだと分かった。

 少女趣味で汚染された店内の個室に集まり、紅茶を飲んでいる俺の隣に、ももまんを頬張るアリア、その正面にくそデカイタワーパフェを食べる理子。

 そして今回の予想外だったのが、理子の横に座って呑気に抹茶ラテを飲んでる大和。

 なんで大和も参加してんだ?

 俺とアリアが理子の泥棒を手伝う理由は、俺達の欲しいものを理子が持っているからだ。

 アリアは裁判の証言、俺は兄さんの情報。

 大和はぁ、性格的に断りきれずにしょうがなくって所だろう。

 

アリア 「まさか条件があるとは言え、リュパン家と同じテーブルに着く羽目になるとは思っても見なかったわ。ホームズ家の汚点ね。」

 

 このテーブルによる会話は、アリアの嫌み満載の台詞からスタートした。

 

理子 「フッフーン~♪これが奇跡の再会だよぉ!思わずヘッドショットしたくなっちゃう!」

 

 理子は嬉しそうにニコニコしている、あくまで表向きはな。

 しかしその表情の奥にドス黒い何かが写る。

 アリアと理子はお互いに見たまま、視線を動かさない。

 変だな・・・実際に見えてないはずなのに、アリアと理子の間に激しい視線の花火が散っているぞ?

 

大和 「はいはい喧嘩しない。話が進まないから。」

 

 大和が間に入り、この無駄な争いを中断させる。

 いいぞ大和、俺だとこいつらを止められないからな。

 せめて白雪みたいに俺が言って片方が止まってくれれば何とかなるが、アリアと理子相手は逆立ちしても無理だ。

 理子との争いを止められた事をアリアは不愉快そうにして、ももまんにかぶりつく。

 

理子 「むぅ、みーちゃんがそう言うならしょうがないかぁ。みーちゃん怒らしたら怖そうだし。それで今回の侵入場所はここ!」

 

 理子は店に持ち込んだ大量にある紙袋の内一つから、ノートパソコンを取り出し俺達に見せつける。

 

理子 「横浜郊外に建っている紅鳴館ー!パッと見はただの洋館に見えるじゃん。でも中身は偽装された要塞としか見えないの!」

 

 パソコンに映し出されたのは、建物の見取り図だな・・・・ってなんだこれ!?

 画面に映し出された見取り図には、侵入経路や逃走経路はおろか、作業一つ一つにかかる時間や非常時の対策が無数に想定されていた。

 や、やべぇ・・情報量が多すぎて訳が分からん。

 情報はあるだけ良いが、逆に有りすぎて処理が追い付かねぇ。

 これは、考えようとしたら逆に頭がおかしくなるぞ。

 隣で画面を覗くアリアも、精一杯熱心に理解しようと努力はしていた。

 しかしあっという間に情報量に耐えきれずオーバーフローしたようで、頭から知恵熱を発して机に突っ伏し倒れる。

 アリア。お前はそもそもまともな計画に乗っ取って動いた事ないから、理解するのは無理だろ。

 言葉に出さず内心アリアにツッコミを入れていると、大和が理子に質問する。

 

大和 「ところで目標の場所は?」

理子 「この地下にある金庫の中にあるの。この金庫がスゴく堅くて、とても理子だけじゃあマジ厳しいクソゲー。」

 

 理子がお手上げのポーズを取り、深くため息をつく。

 

大和 「ちょっとパソコン貸して。」

 

 理子が大和の前にパソコンを机の上でスライドさせ、そのパソコンを大和が操作し始めた。

 大和の視線が画面の中を素早く何度も動きまくる。

 

大和 「ねぇ、この通路使ったルートってある?」

理子 「んー?それだったらB15かなぁ。」

大和 「これだったら、こっちの通風口使った方が発見されにくいよ。」

理子 「えっ!でもそこ通るなら、手前の通路の方が安全だよぉ?」

大和 「普通はそう。だから廊下のカメラの視界を避けて───」

 

 大和の言葉に理子が頷き、理子の話す内容に大和が納得したり優しく否定したりと、二人でどんどん作戦会議が進んでいく。

 つーかすげえな大和と理子、よくあんな量の情報を話ながら並行に処理出来るな。

 もはや俺には訳が分からない。

 するとオーバーフローして蚊帳の外だったアリアが、思い出したように顔を上げる。

 

アリア 「そういえば今回はブラド関係だったわよね?もしかしてブラドも居るのかしら。」

理子 「あー多分居ないと思う。もう何十年も帰って来てないの。管理者もイマイチわかってなくてねぇー。」

大和 「ねぇブラドって誰?」

 

 大和の何気ない言葉が、アリアの顔をしかめさせた。

 

アリア 「悪いけど殆ど言えないわ。」

大和 「それだけで大体把握。」

 

 大和はアリアの一言で表に出すべきじゃない人物だと察する。

 

キンジ 「それで、肝心の盗み出す代物は何だ?」

理子 「うんとね。理子の誕生日にお母様がくれた十字架。」

アリア 「一体アンタは何を考えているのっ!?」

 

 理子の取り返して欲しい物に対して、怒り浸透のアリアは理子の顔に近づいて叫ぶ。

 

アリア 「アンタはアタシのママに冤罪を着せているのに何言ってるのよ!!自分のママのプレゼントを取ってこいなんて、よくそんなふざけた事を抜かせるわ!!」

キンジ 「一旦落ち着け。お前の気持ちは理解出来るけどな、理子の言葉一つ一つに目くじら立ててたらどうしようもないぞ。」

 

 口を荒くするアリアを落ち着かせようとさせるが、アリアは止めるなと俺に怒声を浴びせる。

 かなえさんの事も、アリアの気持ちも十分分かるぞ。

 だが俺だって、大事な兄さんの情報を得れる唯一のチャンスなんだ。

 アリアのせいで情報が手に入らなくなったら、本当に困るんだぞ!

 

アリア 「アタシの気持ちが理解できるなら止めないでよ!理子と違ってアタシのママはほんの少ししか話せ───」

理子 「理子は羨ましいよ、アリア・・・・」

 

 悲しそうにポツンと聞こえた理子の声に、アリアはギリッと歯を食いしばって、二丁のカバメントを理子に向ける。

 一方理子はアリアの相手に何もせず、寂しそうに足元を見つめる。

 

理子 「だって、理子のお父様も、お母様も、ここはもういないから。理子が八歳の時に、この世を発ったんだよ。」

アリア 「・・・・・っ!」

 

 想定外の理子の発言に、アリアは何も言わずばつが悪そうな感じでガバメントを仕舞ってゆっくり着席した。

 

理子 「あの十字架は、五歳の誕生日に理子が貰った物。理子の命と同じ位大切な物。ブラドは、それを知って取り上げたんだ!」

 

 最初は悲しいそうにしていた理子が、後半になるにつれて感情を抑えられなくなったのか、憎悪の表情に変わっていく。

 そんな理子に、隣に座っている大和は手を理子の頭を優しく撫でる。

 

大和 「理子、その気持ち想像出来るよ。大切な十字架を取り上げられたのもね。だから取り返そうよ。その為に、私達が集まったんでしょう?」

 

 柔らかく、ゆっくり、丁寧に理子へ伝えていく。

 理子は大和の方を見て、ほんの小さく頷く。

 

理子 「そうだ・・・理子は元気な子────」

 

 小さく何かをブツブツと呟く理子。

 

理子 「よーし、早くお宝取り返すぞー!」

 

 気分やテンションが一気に切り替わり、いつもの理子に戻った。

 しかしさっきの理子が脳裏今の理子と重ねてしまい、どうしても強がっているみたいにしか俺には見えない。

 理子は再びノートパソコンを全員が覗ける位置に移動させ、計画を説明する。

 

理子 「いつも通りの侵入で行こうと思ったけど、金庫のトラップはしょっちゅう変わってるし、いくらアンチトラップシステムにみたいなみーちゃんが居ると言っても厳しいんだよね。だからある程度の期間、ずっと潜入する必要があるんだよ!」

 

 理子よ。大和をアンチトラップシステム扱いはひでぇぞ。

 確かに間違ってはないけどよぉ。

 理子はパソコンを操って、あるページを開き閲覧させてくる。

 そのページには大きくバイト募集と載っている。

 なんだ?普通のバイトの内よ・・・待て、その建物の名前に見覚えあるぞ。

 それに内容がこれって、おいまさか!

 俺は大変嫌な予感を携えながら、理子に目線を送る。

 すると理子は待ってましたとばかりに、バンザーイのポーズをして宣言した。

 

理子 「みんなには、紅鳴館のメイドと執事になってもらいまーす♪」




 人の成れの果て:私はその鼠に心底震えあがった。その鼠の頭部が、邪悪な人間そのものだったからだ。

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