メイドさん、かぁ・・・思いもよらなかったなぁ。
先日言われた理子からの頼みも一夜で終わらすタイプかと思っていたから、私自身がメイドになるとは予想もしてなかった。
今回は紅鳴館のメイドとして情報収集の為に行くので、別の意味で潜入捜査と言っても間違ってない。
ただ、今回は潜入捜査の泥棒版。
普通の潜入より遥かに面倒な気がする。
唯一幸いなのは、アリアも参加するからバレても問題なしってところ位。
でもよく考えてみれば、あのアリアが実際に潜入できるかと言われれば・・・無理そう。
どう考えてもアリアに潜入は厳しいものあるよね。
特に性格があれだから、演技なんかさせたらオーバーヒートするんじゃないのかな?
まぁこんな想像は後回しにして、ドアの開け部屋に入る。
ここが何の部屋かと言うと、救護科棟の第七保健室。
昨日メールがあって、再検査で採血するとか。
どこか悪かったのかな?って、あれ?
中は再検査になった女子生徒が集まっていたけど、なんで皆服を脱いで下着姿なんだろう?
確かメールは採血だけだから、服を脱がなくてもいいって書いてあった気が───
理子 「おーう、これはみーちゃん様ではあーりませんかぁー!」
部屋に入ってすぐ、黄色の下着姿の理子が変な台詞と一緒に走って駆けよる。
大和 「あっ理子。なんで皆服を脱いでるの?」
理子 「だって、いっつも検査の時は脱がなくちゃいけないでしょ!」
大和 「でも採血だけだし、メールに書いてあったよね?」
理子 「そうだっけ?別に気にしなくてもいいんじゃないのぉー?ほら早く、みーちゃんも脱いで!」
大和 「あ!こらっ───」
はい、ちょっと待ったー!
理子、勝手に脱がさない───って、なんでそんなに手慣れているの!
下緒もあっという間に外すじゃん!
理由が不明ながら理子が物凄く手慣れた手つきでどんどん制服や装備を脱がされ、即効で下着姿にされる。
そんな姿の私を、理子が観察して悪い顔をする。
理子 「ほっほーう。白でシンプルだけど紐パンとは・・・みーちゃんって結構大胆!理子、この結び引っ張ってみたいなぁ~♪」
私の下着を結ぶ紐を理子が掴もうとするけど、急いで理子の手を軽く弾く。
大和 「それは流石に駄目だって。」
理子 「そっかぁ。んじゃ、こっちにしちゃおう!」
紐から手を離して、今度は私の胸を理子が両手で素早く掴む。
理子 「ほほう。これは結構良い物をお持ちで。」
理子はそう言いながら、私の胸を揉み始める。
あっ、ちょっとそんなに触らないで!
大和 「ねぇ理子。胸触るの止めてくれない?」
理子 「えー!触り心地抜群だからヤダー!」
変わらず理子は胸を撫で上げる。
・・・・理子、もう止めて・・・それ以上は───
大和 「そこを何とか・・・んっ・・・・・」
理子 「おや?おやおや~?みーちゃんひょっとして───」
理子が何かを言おうとした瞬間。
アリア 「───アンタ達、そんな馴れ合いは止めなさいよ!!」
保健室に入って来たアリアが叫び、私と理子の胸を恨めしそうに見ながらこっちに来る。
理子 「もぉー、せっかくのお楽しみ中だったのにぃ!あっ!」
そして理子は何かを思い付いた顔をして、アリアの方に移動する。
はぁー、よかった~。
私はアリアのお陰で理子から解放された事に心から安堵する。
今のうちに脱がされた制服と装備を回収しロッカーに納め、隣の大きなロッカーに寄りかかって一息つく。
さてと、こっちもしておかないと。
周りに聞こえない大きさで、瞬き信号のリズムに沿ってロッカーを爪で軽く叩く。
ホドホド・ニ・ネ、っと。
───しかしうーん、あれだねぇ。
私はこの保健室に集まった周りの生徒を見渡す。
キンジの戦妹の風魔、平賀源内の子孫の平賀、ホームズ家のアリア、リュパン家の理子、凄腕狙撃者のレキ、その他に名の知れた子達。
何故か評価の高い人物だけがピンポイントで再検査なんて、ちょっと出来過ぎているよね?
周りは気付いてなくても、私の感じ取った違和感が妙に引っ掛かる。
採血する前に任務が入ったとして逃げるのも考えておこうかな。
そして部屋のドアが開かれ、ドア付近に居た周りの子達から嬉しい悲鳴が上がる。
ドアから白衣を着た小夜鳴先生が入ってくる。
小夜鳴先生 「・・・すいませんが、メールに書いていましたよね?再検査は採血だけで服は脱がなくてもいいって。はいっ、皆さんすぐに服を着ましょう!」
軽く慌てたように喋った後、奥の方の丸椅子に座って窓の外に視線を向ける。
小夜鳴先生の話を聞いて皆が服を取りに動き始めたので、私も制服を取りに行く。
しかしレキ一人だけが動かない。
何かあるのかな?まぁいっか。
そして移動中に、一瞬だけチラッと小夜鳴先生に視線を合わせる。
私はどうも小夜鳴先生が苦手。
見た目は良く、優しく礼儀正しい上に誰でも敬語で話す等、どこも非の打ち所が無い人物。
だから私は苦手。
こういう人は根っこから優しいのかも知れないけど、実は表裏を隠すのがとても上手い人の場合が多い。
小夜鳴先生や同じく優しいゆとり先生も、ただで武偵高に来る訳ないし。
その点、蘭豹先生などは分かりやすいから楽。
・・・・・何か思いっきりブーメランが突き刺さった気がする。
まっ、まぁ実際に何か隠していると思って動いた方がいいよね。
小夜鳴先生 「──Fii Bucuros. Scoala buna. Nu este interesant de sange.」
んっ?小夜鳴先生が小さく何かを呟いた。
日本語じゃない。英語、独逸語?いや違うね、何の言語だろう?
と気になっていると、存在感知に予想外のものが引っ掛かる。
えっ!?これって!!
私は咄嗟の行動として、先程軽く叩いた大きなロッカーを開けようとした時、今まで動かなかったレキが私のやろうとしている事とまったく同じ動きする。
レキと一緒に大きなロッカーを思いっきり開けたら、中にはキンジと武藤が入っていた。
突然キンジと武藤はいきなりロッカーを開け放たれた事に動揺して取り乱すけど、今はそんな事を気にしている暇は無い。
レキが武藤を、私がキンジを、それぞれ目の前にいる方をロッカーから力一杯引っ張り出す。
そしてキンジと武藤の姿に周りの子が叫び出す寸前、窓ガラスの割れる音と同時に巨大な物体が現れた。
現れた巨大な物体は、キンジ達の隠れていたロッカーを簡単ひしゃげさせ壁へ吹き飛ばす。
キンジ 「武藤っ!」
そこで運悪く、レキの体格では大きな武藤を素早く引っ張り出す事が出来きなかったようで、ロッカーごと一緒に吹き飛んで、倒れたロッカーで片足が下敷きになる。
武藤は痛みに耐えつつ、ホルスターからコルトパイソンを引き抜き構える。
しかし武藤はトリガーを引かず、代わりに戸惑いの声を出す。
武藤 「おい、嘘だろ・・・?!」
武藤だけでなく、ここにいる全員が同じく戸惑う。
侵入してきた巨大な物体は、100kgに達するであろえ銀色の狼。
強襲科の授業の写真に載っていた───コーカサスハクギンオオカミという種。
キンジ 「───全員逃げろ!」
キンジが叫ぶと同時に、武藤の方は天井に向けたコルトパイソンのトリガーを引く。
───ドォンッ!!
しかし狼は大口径の357マグナム弾の爆音に全くと言っていいほど怯まず、私達に向かって跳躍してくる。
私が前に立ち、何とか受け流そうとした時、キンジが狼に飛びつく。
そのまま狼の毛皮を思いっきり掴み、近くの薬品棚に受け流す。
すると思いっきり薬品棚に突っ込んだ狼は薬品を被り、体勢を整えた狼が顔を振って薬品を撒き散らす。
そして次の攻撃に備えようとキンジが狼の前に立つ。
でも狼がキンジを無視して再びこちらを向き、吼え声を上げて小夜鳴先生に突撃する。
このままだと小夜鳴先生が───!
私は床を全力で蹴り、小夜鳴先生と狼の間に入って狼へ右手を合わせて唱える。
大和 「《アザトース、DEFLECT HARM(被害をそらす)!》」
───くっ・・・・!
呪文を唱えた瞬間、私の精神内にある遥か深くの一部が削られ、それと一緒に精神とはまた別の何かが抜かれる感覚を覚える。
一方狼は私達に直撃する機動を逸れて、突入してきた窓から外に逃げていく。
アリア 「キンジ、急いで追いかけなさい!他の市民に被害が出るわ!」
キンジはアリアの言葉に頷き、割れた窓に走る。
武藤 「こいつを使え!キンジっ!」
ロッカーのせいで動けない武藤が、キンジにキーを投擲。
キンジはキーを受け取り、外に置いてあったバイクのエンジンをかけたら、下着姿のままのレキがドラグノフを背負ってバイクに二人乗りして行ってしまった。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
その後最終的にどうなったかと言うかと、狙撃でレキが狼を捕らえ、飼い犬・・・じゃなくて飼い狼にしたというらしい。
しかも聞いたキンジの話によると、バイクの上に立ち上がった状態で、動き回る狼の脊椎と胸椎の中間を銃弾で掠めて動きを止めるといかいう神業以上の事を成し遂げた。
その業は絶対にレキ以外に出来る未来が見えない。
他にも狼が逃げ去った後に冷静になったアリア達が、覗きをしていた武藤を恐ろしいレベルでボコボコにしていた。
十分か十五分ほど殴れたり、蹴られたり、罵倒され続けた武藤は予想通り気絶した。
しかしアリア達全員がスッキリした表情で武藤を無視して出ていってしまったので、仕方なく私が武藤を背負って別の保健室に運んだよ。
あと、キンジも覗きでアリアと一悶着あったみたい。
次の日に全身打撲状態で教室に現れたよ。
しかも運の悪い事に、当日は放課後の予定で理子の部屋に呼ばれていたから、打撲傷を癒す暇もなく集合させられていたよ。
そして理子の部屋で執事とメイドの練習をするとの事で集まったものの、理子の用意したメイド服が地味に問題でねぇ。
うわぁ・・・この前のメイド喫茶みたいに凄いフリフリを多様したデザイン、あまり着たくないなぁ。
こんな事言っても仕方ないから着るけど・・・・・
嫌々ながらメイド服を着て、動き易いように髪をポニーテールに纏める。
髪型を弄ってるその隣で、やっぱりこうなると考えていた問題が当たり前のように登場する。
アリア 「いーやぁー!こんなの着たくない!」
理子 「へへっ、早く着ないといろんな所触っちゃうよー!」
アリア 「こっち来ないでこの変態!来ないでぇー!」
理子 「アリアちゃーん、罵倒は理子にとってご褒美なんだよぉ!つまりアリアには理子にたっぷり触られるか、ちゃんと着るかの二択しかないのでーす!」
まぁ、こうなるよね。
あのアリアが簡単にメイドへ変装できる訳ないもんね。
しかもアリアが嫌がってるのは、私の着ているメイド服じゃなくて、ハートの形をした服の上に着るエプロン。
うん、このメイド服よりましだと思うよ。
ただアリアはエプロンでも拒否した結果、理子が無理やり着せる羽目になって今に至る。
理子 「ふぅーやっと終わったぜぇ!そうだ。みーちゃんの方───わぁー!みーちゃん可愛い!!」
ようやくアリアにエプロンを着せれて、一仕事終えた感じの理子が私に視線を移して目をキラキラと輝やかせる。
褒められるのは満更でもないけど、結構恥ずかしいよこれ。
大和 「私にこんなフリフリ系は似合わないよ。」
理子 「そんな事ないよ!絶対似合っているって!ほら、キーくんも見て見て!」
キンジ 「分かったら、少しは静かにしろ。」
ずっと後ろを向かされていたキンジが反転して私を見つめる。
するとキンジは、なんて言えばいいのか困った様子で答える。
キンジ 「あー、その・・可愛くて、似合っていると思うぞ。」
大和 「あっうん。ありがとうキンジ。」
褒められて少し嬉しくなった私が笑顔でお礼したら、逆にキンジが恥ずかしそうにする。
理子 「キーくん、ちゃんとアリアも忘れないでね!アリア、出て出て!!」
いつの間にかクローゼットに隠れていたアリアを理子が無理矢理引っ張り出す。
アリア 「いーやーだぁ!!」
悲鳴を上げながら理子に引っ張り出され、クローゼットから出てきたアリアは元の体格とロリータ系のエプロンが合わさって、普通に似合っているね。
理子 「よし!じゃあアリアから、ご主人様からのご用件をお伺いしてみよう!」
アリア 「・・・えっ?」
理子の発言に対しアリアは訳がわからないと言った感じで突っ立って呆然とする。
理子 「簡単だよぉ!ご主人様、ご用件は何ですか?って聞くだけ!キーくんがご主人様役!」
キンジ 「はっ!?」
理子からの役割にキンジが仰天する。
て言うかアリア、大丈夫?
全身から大量の汗を流して、動きが錆びきった機械みたいになっているよ。
理子 「理子に続けてやってみようか!ご主人様、ご用件は何ですか?」
アリア 「ご───ゲッホゲッホ!ゴホッ!」
予想以上に酷い。
これって苦手のレベルの話じゃないよ。
アリア 「むっ無理よ!まだ色々準備がっ!」
理子 「むぅー。だったら先にみーちゃんからやって。」
大和 「私?」
私はキンジの方を振り向き、背筋を正して笑顔で申し上げる。
大和 「ご主人様。私に何かご用件でしょうか?」
理子 「いい感じだよみーちゃん!はい、キーくんは何か注文してみて!」
キンジ 「お、おう。そうだな、コーヒーを頼めるか?」
大和 「ご用件を承りました。直ぐに用意させて頂きます。」
さてと、ご主人様に申し上げられた通り、キッチンに移動してコーヒーを淹れる。
その間、作業する私の後ろからカオスな会話が聞こえてくる。
理子 「みーちゃんも出来たし、アリアも行けるって!頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって!やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!」
炎の妖精と化した理子の応援で、アリアが嫌々口を動かす。
アリア 「ご、ごしゅじん・・さま・・・・・」
まだお湯を沸かしてもないのに、湯気が吹き出す音が感じられるんだよねぇ。
アリア 「ごよ・・・ご、けん、は・・・!」
理子 「よし来たキーくん!」
キンジ 「えっとだなぁ。じゃあ洗濯を頼む。」
アリア 「わ、わかりま───」
理子 「アリアに一つ注意しておくよ。間違ってもその胸の洗濯板で洗濯したら駄目だよー?」
パパガシャンパパァン───!!
メイドは申し承った事をこなすのがちゃんとしたメイドだよね。
・・・だから後方でアリアがガバメントを発砲した銃声と、キンジがスッ転んだ音が組み合わせが部屋中に響いたのも聞こえなかったようん。
無知な一般人:奇妙な生物だな。毛むくじゃらの六本足なんて始めて見たぞ。