暴走神に敗れし者、この地に現れる   作:弓風

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26:留学生

 六月十二日、理子の大泥棒作戦前日。

 本来であれば明日に向けて色々な準備をする日、でも私は準備自体は既に終えていた。

 その代わりと言ってもなんだけど、ある人物と会う約束をしている。

 今から会う人物はとても興味深くて、パリ武偵高から来た情報科の二年生。

 情報科なだけあって、普通は知らない情報も知っているんだよね。

 ・・・いや、情報科でも知らない事も知っているのが正しくかな。

 そしてここは看板裏と言われる場所。

 体育館と巨大な看板に挟まれた空き地で、人通りが少ないから周りに聞かれたくない話をするには最適。

 

大和 「こんにちは、魔剣。」

??? 「私をその名で呼ぶなと言ったはずだ。宮川。」

 

 魔剣と呼んだ人物は不愉快そうに私を睨み付ける。

 見覚えのある銀髪をして東京武偵高の制服を着た人物は、白雪を誘拐しようとしたジャンヌ・ダルク三十世。

 ジャンヌは逮捕されたのち、司法取引によって自由にする要求の代わりに、警察側が監視目的で東京武偵高に編入させたらしいよ。

 

ジャンヌ「それで、私に話を聞きに来たという事は───イ・ウーについて知りたいのか?」

大和 「私が聞きたいのは理子の事だけ。そっちの内容は貴方が危ないから聞く気は無いよ。」

 

 イ・ウーは感じからして、恐らく表に出るべきものじゃない組織っぽい。

 もしジャンヌから組織の情報漏れた場合、ジャンヌ本人が暗殺させる可能性が高いからね。

 出来ればジャンヌが殺されて欲しくないと思っているし、話を聞いた私も暗殺の危険に晒される。

 

ジャンヌ 「我の身を案じているのはお前の性格なんだろう。しかし理子の事を話すとしてもこっち側の話を抜く事はできない。なに、当たり障りの無い程度なら問題はないさ。」

 

 ジャンヌは私に向き直って話し始める。

 

ジャンヌ 「まずイ・ウーについてだ。イ・ウーとは、最高の才能を持った者達が集い、技術をお互いに教え合いながら神の領域まで成長する。それがイ・ウーだ。」

 

 お互いに技術を教え合い、遥かに高いの領域まで成長する。

 組織や個人としての目的は普通、というか当たり前だね。

 ただそこにいる構成員の性格とか法とかを除けば、ね。

 

ジャンヌ 「それで理子の事だが、少なくも私は好きだな。彼女はイ・ウーの中で一番の努力家だ。意地でも力を求め、自分を有能な存在にするために、とにかく闇雲にな・・・・」

 

 ジャンヌが少し悲しそうに伝える。

 理子が力を求めていたのは、私は違和感として前からなんとなく認識してはいた。

 一緒の授業ではいつも私の所に来てたし、それに理子自身すら気が付かない瞳の奥底が明らかに違っていたりとか。

 

大和 「理子が力を求めていたのは、生きる為?」

ジャンヌ 「少し違う。───自由の為だ。」

大和 「それはどちらの自由・・・聞くまでもなかったね。」

ジャンヌ 「他者の圧力からの自由。理子が周りより小柄なのは、小さな頃にまともな食事を与えられてないから。衣服があれだけ好きなのは、ロクな服を着てないから。」

 

 最悪の一言。

 理子の言葉から親との関係は良かったと予想できる。

 なら少なくともリュパン家の両親が生きている時でそんな状態はならないと思うから、おそらく死去した後の出来事。

 確か八歳の時両親が亡くなったメイド喫茶で聞いた。

 いくらリュパン家の子供と言えど、その年齢で一人じゃあ生きていけない。

 ジャンヌの与えられてないの言い方から、多分誰かに引き取られた?

 まともな食事も衣類も無い状態へ・・・使用人?いや、奴隷か監禁のどっちか。

 

大和 「そうなった理由は?」

ジャンヌ 「リュパン家が両親の死によって没落した。使用人は離れ、持っていた財宝はおろか理子の宝も盗まれた。当時の理子は幼く、養子を取ると騙されてルーマニアに渡った所で監禁されたのだ。とても、長い間だ・・・」

 

 理子にやりきれない気持ちを抱えて、ジャンヌは小さく漏らすように話を続ける。

 理子、本当に頑張っていたんだね。

 今さらだけど、理子の頼み受けて良かったと思う。

 そんな過去があったら、私の手の届く範囲であれば助けない訳にはいかないよね。

 それに私、知り合いとか友人が生きたまま虐められるの───大っ嫌いなんだよね。

 私は内心を悟られないよう、いつもの様子でジャンヌに質問する。

 

大和 「それで監禁したのは、もしかしてブラドって言う人なの?」

ジャンヌ 「そうだ。無限罪のブラド───イ・ウーの二番手だ。」

大和 「じゃあ、可能だったらブラドについて聞いていい?」

ジャンヌ 「いいだろう。一応先言っておくが、これは遠山にも伝えた事だ。」

 

 おっとキンジも聞いているんだ。

 キンジも手を回すのが早くなって来たのはいい傾向だね。

 そしてこんな風にジャンヌは一言前置きをして、言い始める。

 

ジャンヌ 「まず、ブラドは人間ではない。」

大和 「人間じゃないなら、何・・・?」

ジャンヌ 「これは、日本語でなんて言えば分からないが。」

 

 ジャンヌは考える様子を見せて───

 

ジャンヌ 「オニ、が一番近いはずだ。」

 

 オニ、鬼?西洋に居る鬼と仮定するなら、オーガ?

 多分違う、それなら鬼じゃなくて怪物になるし。

 ジャンヌはどんなものか知っているけど、日本語に直せない感じかな。

 んー、ブラドの正体を正確に知る為に考えるルートを変えよう。

 そもそもブラドが理子を監禁した理由は?

 財宝なら理子は無視するだろうし、当時幼い理子が怪盗として高い技術を持っている訳無い。

 それ以外に幼い理子が持っている物、と言うより持っていたもの・・・あー、あるじゃん。

 幼い理子が産まれた時から身体に流れる価値ある物───血統。

 理子を監禁したのも、その先祖に繋がる血が欲しかったから?

 

大和 「もしかしてブラドって、血が好きなんじゃない?」

 

 正体により近づく為に私はジャンヌに対して質問する。

 するとジャンヌは私の言葉に軽く驚きを見せる。

 

ジャンヌ 「よく分かったな。そうだ、奴は血を好む。」

 

 次に進むべき先は何処の地方の鬼になるかよね。

 それは理子を監禁した場所がルーマニアだから、多分ルーマニアに関係する鬼の名に近くで、血を好む存在・・・・有名所で行くなら───

 

大和 「ジャンヌの言う鬼って、ひょっとして吸血鬼───Dracla(ドラキュラ)の事?」

ジャンヌ 「───ッ!!」

 

 ジャンヌは明らかに目を見開き、驚愕する。

 それから少しの間を開けて、我に帰り深呼吸をする。

 

ジャンヌ 「それでいい、奴はDracla(ドラキュラ)で合っている。そうか、日本語では吸血鬼と呼ぶのか。血を吸う鬼、なる程な。」

 

 漢字の当てはめに納得してジャンヌは何度か頷く。

 

大和 「ヴラドの倒し方は知っている?」

ジャンヌ 「イ・ウーで少しだけ聞いた事がある。ブラドを倒すには、全身で四ヵ所の目の紋様を同時に破壊する必要がある。一ヶ所は分からないが、残り三ヶ所の位置は判明している。」

 

 右肩、左肩、右の脇腹と、ジャンヌが自分の身体を指で三ヵ所指す。

 

ジャンヌ 「今指を差した場所が弱点の目の紋様だ。しっかり覚えておけ。だが、奴は強い。もし出会ったら───逃げろ。」

 

 ジャンヌは冗談が一切混じっていない、真剣な赴きで私を見つめる。

 

大和 「大丈夫、少なくともキンジ達は何とか逃がすから。」

ジャンヌ 「私としては貴様が憎いが、貴様が居なくなれば理子が悲しむ。全員生きて帰れ。」

 

 なんだかんだジャンヌは心配してくれるのね。

 

大和 「善処するよ。情報ありがとうジャンヌ。」

 

 私はそう言って、看板裏を立ち去る。

 そしてそのままある所に足を進める。

 

 

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大和 「平賀ー、今いる~?」

平賀 「あ、お客さんなのだー!」

 

 何時通り部屋の奥から平賀の声が聞こえて、工作機械の裏から平賀が走ってやって来る。

 床に物のある工場で走ったら転けるんじゃないのとふと思う。

 

平賀 「おぉー大和さんだったのかぁ~。今日の依頼はなんなのだ!」

大和 「すぐに作って欲しい物があるのだけど。」

平賀 「うーん。今は忙しいからすぐは無理なのだ。」

 

 平賀が難しそうに唸る。

 ここで出すのが、最近覚えた対平賀用裏技の一つ。

 普通の高校生なら効きづらいだろうけど、精神の幼い平賀充分効果ありなんだよね。

 

大和 「そう言えば、駅前に美味しいケーキ屋さん出来たらしいよ。今から作ってくれるなら、沢山買って来ようと考えているのだけど、どうかな?」

平賀 「ケーキ!!わかった!すぐに作るのだ!!それで作る物はなんだのだ?」

 

 意外と物で釣るって汎用性高くてね。

 作業値段を値引きしたり、今みたいに直ぐに依頼を承けてくれたりとか。

 私は安く済むし、平賀は沢山ケーキが食べられるからお互いにWinWinだね。

 

大和 「えーと、これとこれ。」

 

 私はポケットから一枚の紙を手渡す。

 

平賀 「おーう。これは面白そうなのだ!でも材料があまり無いから一杯作れないのだ。」

大和 「ほんの少しだけでいいから作って欲しいの。」

平賀 「よーし、ケーキの為に頑張るのだぁー!」




 恐れ知らずの無謀者:廃墟の井戸の上が石が置かれてる。あの下、何かありそうだな····よし、行くか!
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