暴走神に敗れし者、この地に現れる   作:弓風

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 遂に令和の時代が来ましたね。
 実際に時代の境目を見れて大変喜ばしい事です。
 勿論この小説も令和になってからも、不定期ですが出し続けるつもりです。
 相変わらず安定しませんが、ご了承下さい。


28:表と裏

 理子の大泥棒大作戦実行開始時間に時計の針が近付く。

 私達は昨日のブリーフィング通り作戦を行う。

 アリアが小夜鳴先生を誘い出し、私がサーモグラフィーの無力化、キンジが潜入を担当する。 

 もう間もなくキンジが潜入を開始するので、私は急いで準備を開始した。

 えーと・・・部屋の角から243cm、そこから直角に86cm、ここね。

 理子の指示に従ってサーモグラフィーの座標位置の真上に移動したら、次の合図が来るまで待機する。

 

キンジ 「「理子、ちゃんと聞こえるか?これからモグラが畑に入る。」」

理子 「よーく聞こえているよ~。しかしほんとキーくんって、いい声だよねぇ~♪」

 

 無線機から流れるキンジと理子の声。

 モグラが畑に入るとは、私達の暗号の一つ。

 これから金庫に潜入するという意味になる。

 潜入方法は、遊戯室のビリヤード台の置いている床に開けたトンネルから潜入を試みる計画だね。

 

キンジ 「「もうすぐモグラがコウモリになるぞ。」」

理子 「「よしよし。みーちゃん、コウモリの為に太陽にカーテンを掛けてあげて。」」

大和 「了解。」

 

 理子の言った意味は、コウモリ(キンジ)の為に太陽(サーモグラフィー)にカーテン(能力)を掛ける(発動)。

 理子からの合図を受けて、私の仕事が始まった。

 ここから真下に15m。

 さーてと、やりますか。

 

大和 「《VOID LIGHT(光の空隙)》」

 

 発動した途端、狼襲撃の時と同じ私の中で何が抜かれる違和感が生まれた。 

 しかし前回と違って、深く底の精神が削られる感覚は無く、一瞬だった何かが抜かれる感覚は小さく少しずつ継続している。

 

キンジ 「「こちらキンジ。モグラはコウモリへ変化した。」」

 

 キンジが金庫の侵入に成功したから、この時点で私の仕事は成功しているかな。

 多分今頃、キンジからサーモグラフィーを確認すれば、そこだけ切り取ったように真っ暗だろうね。

 

理子 「「キーくん、レール作戦開始だよ。うんと・・・Z1、次にA10を繋げて、B11、F23、A7、B15を二本、C19、C5、A13、E12、C7───」」

 

 私はカーテンを落とさないよう継続させている間、キンジの無線機と一緒に付けられたカメラに写った情報を頼りに、理子がキンジに指示を出していくのが聞こえる。

 

理子 「「A16、A19、D6、C7、A16、A13、D5。これで・・大丈夫。」」

キンジ 「フックを下ろすぞ。」

 

 針金が十字架に届いたようで、十字架を吊るすフックを送り出しているみたい。

 しかし問題はここから。

 今回用に用意した細い針金では、小さく軽い十字架でも大きくたわむ。

 そのせいで時折キンジの呻きが無線機に流れる。

 そして更に状況に追い討ちをかける事態が発生した。

 薔薇園で時間を稼ぐはずのアリアが、天気が悪く雨が降ってきたせいで、小夜鳴先生が地下室に戻ろうとしていると連絡が届く。

 それに私も発動させてから数分の時間が経っているから、正直言って・・・かなり厳しい。

 マラソンで、速度を緩めず限界まで全速疾走している感じだよ。

 早めに終わってもらわないと・・・・・倒れちゃうかも。

 

大和 「理子。そろそろ厳しい、かな・・・」

理子 「後ちょっとでキーくんは終わるから!もう少しだけお願い!」

大和 「何とか、耐えてみる・・・よ。」

 

 と言ったものの───本格的にヤバい。

 段々だるく疲労が表面に現れ始めた上、息が荒くなり、身体が不規則に振られる。

 視界が端から徐々に暗く・・・意識が・・・駄目!まだ、まだ、しっかりしないと・・・・

 

キンジ 「───よし終わった。ミッションコンプリートだ!」

 

 僅かに残った薄い意識の中、キンジの作戦終了の言葉を運良く認識して、即座にカーテンを停止する。

 そして次の瞬間、私は床に大の字で倒れ込む。

 

大和 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ───」

 

 あっ危なかったぁ・・・・あとちょっとで全部持っていかれるところだったよ。

 私は荒く息をしながら、自分の身体の状態や感覚などを把握する。

 身体は凄く熱いし、常に電気が流れて痺れるような感覚で満たされている気がする。

 でも本当に運が良かった、朦朧した意識でキンジの報告がちゃんと聞こえて。

 もし聞こえてなければ、私は間違いなく倒れて病院行きだっただろうし。

 ふぅ・・ふぅ・・ふぅー・・・呼吸もだいぶ楽になってきたから、そろそろ合流しなきゃ。

 その後、私は疲労という疲労が全て組み合わさった体に鞭を打ち、キンジ達と合流してから制服に着替え、タクシーに乗って紅鳴館を後にした。

 なお紅鳴館を後にする際に私が恐ろしく消耗していたので、キンジとアリアだけでなく、小夜鳴先生からも心配されたりしてしまった。

 小夜鳴先生には金庫の事がバレてないかは祈るのみ。

 やっぱりこうなって何度も思うけど、雨風改の補助が無いも人間の限界点がもの凄く低いのが良く理解出来るよ。

 そして次に向かったのは、横浜駅に近い横浜ランドマークタワーって名前のビル。

 何故なら理子との取引場所はその屋上に予定されているから。

 そしてタクシーの窓から見える、周りより明らかに高い構造物。

 私達はタクシーを降りて、中に入っていく。

 七十階建て、高さ296.33mの横浜ランドマークタワー。

 2009年当時、日本一の高さを誇る高層ビルのヘリポートや空調設備の備わっている屋上の中央付近に、理子は居た。

 私達は理子の元へ近づいていく。

 

理子 「あっ、キーくぅーん!!」

 

 すると理子が私達に気づき、走ってキンジに思いっきり抱きつく。

 一方キンジは抱き付かれて嫌な顔をしながら理子に言う。

 

キンジ 「おい理子。十字架やるからさっさと離れろ。」

 

 キンジがポケットから十字架を取り出した途端、理子の目が見開き、瞳をキラキラさせて十字架を受け取る。

 理子は歓喜に満ちた表情で、首につけてたチェーンに十字架を繋ぎ合わせる。

 本当に嬉しいみたいで、ジャンプしたり駆け出したりしてるよ。

 理子のはしゃぎ具合に思わず私の頬が弛む。

 

アリア 「なんか元気なアンタを見てたら腹が立つわ。それに理子、ちゃんと取引は守りなさいよ。」

 

 一方正反対にかなりイライラした様子のアリアが理子に伝えると、理子はニヤッと笑う。

 

理子 「もぉーアリアったら~、感は良いのに鈍感だよねぇ。あっキーくぅーん、ほれほれ。」

 

 理子がキンジに対して手招きした。

 すると面倒な予感がしたようで、キンジは嫌々顔のまま理子に歩みを進め、一応手の届く位置の移動する。

 

理子 「このリボンを外したら、プレゼントのお届けだよぉー。」

 

 理子は自分の髪に付けていた大きな赤リボンを指差し

、キンジが少しうんざりしつつ適当にリボンを外した瞬間。

 

 ───ちゅっ!

 

 キンジの頬に理子の唇が当たり、キスをした。

 

理子 「フフッ!」

 

 キスをされた事に一瞬呆けていたキンジが、その事実を認識した途端、顔全体を真っ赤に染める。

 うっわぁ大胆。

 などと思った時、近くでプシューと言う音が聞こえた気がしてその方向に振り向く。

 

アリア 「・・・・・!?」

 

 キスを受けたキンジと以上に顔を赤くしたまま、頭から湯気を吹き出して石化していた。

 あーあ、間近で初めて見た直接キスの衝撃に耐えきれなかったみたい。

 そして再び正面に視線を移したら、キンジから理子が離れて私達を中心に大回りで半周して、下へ続く階段前に陣取る。

 

理子 「ねぇねぇキーくん、理子は悪い子なんだよぉ。理子はこの十字架さえ手に入れば、それ以外どうでもいいんだぁ!」

 

 理子はスカートの中から二丁のワルサーP99を取り出し、私達へ構えた。

 

キンジ 「理子は本当に悪い子だ。でも・・・俺は理子の嘘全部を許すよ。ただし、俺のご主人様が許してくれるかは分からないけどね。」

 

 理子のキスでヒスったであろうキンジが、一回だけ指を鳴らして、アリアの石化が解ける。

 しかしアリアは石化が解けてもまだ数秒間動きがきごちなかった。

 でも銃を抜く理子に気づき、即座に普段のアリアに戻って同じくガバメントを引っ張り出す。

 

アリア 「ふんっ!どうせ戦いになると思って、防弾制服を着てきてよかったわ!キンジ、やるわよ。」

キンジ 「───仰せのままに。」

 

 アリアの言葉と同時にキンジもベレッタを抜く。

 キンジの銃を抜く動作を終えた時、理子が私に対して口を開いた。

 

理子 「ちょーと、みーちゃんにお願いがあるんだぁ。理子もこの二人程度ならいいんだけど、流石にみーちゃんを相手にしたくないんだよ。だから、みーちゃんは参加しないで見学してくれないかなぁ?」

大和 「んー?別に私は構わないよ。まぁアリア次第だけどね。」

 

 私はそう述べつつアリアを横目で確認した。

 視界の端に写るアリアも視線を合わせてで私にOKと小さく頷く。

 

アリア 「元々アタシ達だけでやる予定だったから好きにしなさい。それに理子のあの言い方、まるでアタシ達なら勝てるように聞こえてムカつくのよねぇ!」

 

 色々と頭に来ているアリアからの了解も得たし、私は三人から少し距離を置いて戦いの行く末を見守る事にしようかな。

 

アリア 「そうだわ。」

 

 私が三人から距離を取り、いざ戦いが始まる前にアリアが何かを思い出した様子で、理子を見据えて発した。

 

アリア 「一つ聞きたい事があるから教えなさい。その十字架を取り返した理由は、きっとアンタの事だから形見以外にあるんじゃないの?」

理子 「・・・・ねぇアリア。お前は繁殖用牝犬(プルートビッチ)って、知っているか?」

 

 アリアの発言に理子の笑顔が消え伏せ、別人のような声でアリアに向け話す。

 そして私は理子の言った単語に顔を少ししかめた。

 

アリア 「繁殖用・・牝犬・・・・?」

 

 アリアは始めて聞く単語に少し困惑している。

 繁殖用牝犬・・・ね。

 人気の品種や珍しい血統のペットは高くよく売れる。

 だから数を集めて儲ける為に異常な回数の出産を行わせ、体をボロボロになるまで使い古し、最終的には捨てられ野垂れ死ぬ。それが繁殖用牝犬。

 更に効率だけを求め、経費を削減する理由から、場所によっては三日に一度だけ泥水や腐った残飯を与え、病気になっても放置する。

 偶然かは知らないけど、前もってジャンヌから聞いた昔の理子の状態と似たような環境。

 

理子 「理子もね、その人間版を体験した事があるんだよ。」

アリア 「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

 

 アリアが若干混乱しながら一旦待てと言った瞬間、それを合図に理子は突然激情に刈られ始めた。

 

理子 「ふざっけんなッ!!わたしは理子、そう理子だ!でも周りは四世、四世ばっかり言う!わたしには理子って名前があるのに!なんなら五世を産んだら後は用済み?そんなのこっちから願い下げだ!」

 

 理子はその身体の中に存在する感情に強く流される。

 この状況は、失礼ながら私から言わせてもらえば危険な状況。

 戦いや闘いならともかく、今から始まるのは戦闘。

 戦闘において感情を大きく揺らがせてはいけない。

 挑発に乗ってはならない、自ら大きく揺らがすなんて論外。

 理子には申し訳ないけど、これはキンジ達の勝ちになりそう。

 しかし、それでも本当に最終的にどっちが勝つのは分からない。

 戦闘とは常に有利が勝ち、不利が負けるとは限らないからだ。

 

 ピカッ!・・・ゴロゴロ!!

 

 海の遠くの位置で一本の雷が落ちる。

 雷鳴らす轟音に、アリアがビクッと小さく震えた。

 

理子 「この十字架は、理子の大好きなお母様から頂いた一族の秘宝なんだよ。お母様が言ってた───これは、リュパン家の全財産を引き換えにしても釣り合う宝物なのよって。だから何処でもずっと口の中で隠してた。そして───」

 

 そこまで言って理子に異変が起きる。

 突然理子のツーサイドアップのテールが蛇みたいに動き始めた。

 理子の姿はまるで人を石にするメドゥーサ。

 その光景に、キンジが恐れて一歩後退する。

 

理子 「ある日、理子は気づいた。この十字架・・・いや、この十字架を構成する金属は、この力をくれた。それで、理子は檻から逃げ出す事が出来た。」

 

 理子のテールがそれぞれナイフのハンドルに絡みつく。

 

理子 「オルメス。お前を超えて、わたしは自由になるんだ。オルメス、遠山キンジ───わたしの自由の踏み台になれっ!!」

 

 理子が二人に宣戦布告を宣言した時───

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 ───パァン!

 

 俺達の居る屋上で一発の銃声が鳴り響いた。

 その銃声の正体に、俺は撃った理由が理解出来ず呆気を取られた。

 俺だけじゃない、アリアも理子も同じく驚愕して反射的にそっちに顔を動かす。

 その銃声は何度も耳にし、体感的に理解していた物だった。

 銃声の正体は、Five-seveNの5.7mm×28弾。

 俺達の左奥で観戦していたはずの大和の銃だ。

 銃音が鳴って左を向いた俺の視界に入ってきたのは───銃口から硝煙の漏れ出たFive-seveNを構える大和の姿。

 そして大和の視線とFive-seveNの銃口の先には理子。

 俺は即座に疑問に思った。

 何故大和が理子に発砲したんだ?少なくともこんな卑怯な手を使うような奴じゃ・・・んっ?

 だがその時、俺は妙な違和感を感じた。

 理子のお蔭でヒスってなければ、気付いてなかっただろう内容だ。

 もし理子が撃たれたなら、理子に何かしらのリアクションがあるよな?

 だが理子は呆然と立ち竦んでいる。

 なら何処を狙って?大和の視線の先は理子じゃない・・・更に、後方?

 

 ガラガラガシャン───

 

 理子の後ろ側から、小さな部品が複数落下する音がした。

 今度俺とアリアは理子の後方を見渡す。

 理子も疑問に感じて振り返り確認する。

 その瞬間、ある人物の姿に理子の顔が瞬時に強張らせる。

 

理子 「なっ?!なんで、お前が!!」

 

 バチッッッッ!!

 

 その人物の手の辺りから、電気がショートする音と放電の光が放たれた。

 すると理子はその場で力なく膝をつき、仰向けに倒れる。

 

アリア 「小夜鳴先生ッ!?」

 

 アリアにその名を呼ばれると、左手にしていた大型スタンガンをそこら辺に放り捨てた。

 小夜鳴は次に胸元から歪な形の拳銃を出し、理子の頭部に狙い合わせる。

 

小夜鳴 「皆さん。ちょっと間だけ動かないで下さいね。」

 

 小夜鳴は俺達を見渡す。

 相変わらずこんな状況でも、小夜鳴は薄く微笑を浮かべてやがる。

 しかしひとまず状況を確認するべきだ。

 俺は目線を動かさず小夜鳴の周囲を確認する。

 そして小夜鳴の足元に、銃弾を食らって砕けバラバラになったもう一つのスタンガンを落ちている事に気付く。

 それで合点が行った。

 そうか!さっき大和が発砲したのは、襲う寸前の小夜鳴の持つスタンガンを破壊する為か!

 俺達は戦いに集中していたから視野が狭くなり、小夜鳴の接近を許した。

 一方大和は離れて全体を見渡していた為、比較的早く発見出来た訳か。

 しかし残念な事に小夜鳴はスタンガンを二つ持っていた上、位置的に左手は理子に隠れて撃てなかった。

 だとすると、小夜鳴は前もって片方のスタンガンを破壊されるだろうと考えて予備を用意していた事になる。

 更に奴が手に握り締める銃、ルーマニア製のクジール・モデル74。

 武偵でも滅多にお目にかからない珍妙な拳銃だ。

 ただの一介の管理人では決してあり得ない武器、スタンガンの予備、一体どういうつもりだ?

 俺が目つきを鋭くした時、小夜鳴の背後の階段から二頭の銀狼が現れる。

 

小夜鳴 「ほんの僅かでも近づかない方が身の為ですよ?もし近づこうものなら、襲われちゃいますから。」

 

 小夜鳴の警告を聞いて実際に爪先を動かそうとした時、銀狼が喉を大きく鳴らす。

 ジャンヌから聞いた通りなら、あの銀狼はブラドの下僕だったはずだが。

 

キンジ 「まぁ随分と飼い慣らせているな。つまりこれは、保健室の襲撃も一つの茶番だったんだろ?」

小夜鳴 「えぇ、紅鳴館の学芸会よりも良い芝居だと思いますよ。」

 

 などと答える小夜鳴の足元で、使ったスタンガンや理子のワルサー、ナイフと言った武器を銀狼がビルの縁から捨てる。

 

小夜鳴 「その様子なら大丈夫だと思いますが、出来れば動かないで下さい。この銃、三十年前に造られた引き金が緩い粗悪品ですので、間違ってリュパン四世を殺すのは大変勿体無いですから。」

アリア 「なんでアンタが理子の名前を知っているのよ!まさか、アンタがブラドだって言うの!?」

小夜鳴 「・・彼は間もなく現れます。銀狼達もそれを感じ取っていますよ。」

 

 アリアは自身が立てた新説を間を置かず小夜鳴に否定されて、少し赤くなる。

 しかしこれからどうする?

 相手に理子を人質に取られ、銀狼が二頭。

 しかもジャンヌ以上の強さを誇るブラドまで登場する。

 それに対し俺達はかなり不利だ。

 理子を人質に取られている間は、ヒステリアモードの俺は何も出来ない。

 アリアが動こうにも貴重な証人である理子を殺されるのは、避けたいはずだからな。

 大和ならもしかしたら可能性があるかも知れないが、メインの刀は無いし、頼みの綱のSSRも紅鳴館でかなり消耗している。

 クソッ!駄目だな、誰も動けない。

 

小夜鳴 「遠山君。彼が来るまでに一つ、お勉強をしましょう。」

 

 はっ?こんな時に何を言いやがるんだ?

 

キンジ 「お勉強って・・・こんな状態で何を学ぶって言うんだよ?」

小夜鳴 「この前追試になったテストの内容ですよ。」

 

 この前の、遺伝子の伝わりに関しての内容だったか。

 だが、今それを出す理由が分からない。

 理由が分からず眉を寄せた俺に、小夜鳴は一方的に話し始めた。

 

小夜鳴 「遺伝子とは、気まぐれで不可思議なものです。両親の良い点が遺伝すれば有能な子に、逆に悪い点が遺伝子すれば無能な子に。その点では、リュパン四世は失敗例の貴重なサンプルと言えるでしょう。」

 

 そこまで言って、小夜鳴は理子の頭を蹴る。

 まるでそこらの石ころと同じように。

 

小夜鳴 「およそ十年前程に、ブラドからの依頼で、一度だけリュパン四世のDNAを調べた事がありまして。」

理子 「お、お前だったのか・・・ブラドに変な事を、話したのはっ!」

 

 スタンガンの痺れに抗いながら、理子は小夜鳴を睨み付ける。

 

小夜鳴 「えぇ、そうですよ。そしてその結果はとても面白いものでしたね。」

理子 「い・・言、う・・・な!聞き、たく・・な───」

小夜鳴 「凄いですよね。リュパン四世には優秀な遺伝子が何一つ遺伝していなかったのですよ。遺伝学的に言えば、この四世は完全な無能だったんですよ。」

 

 小夜鳴から言われた言葉に理子は嗚咽を漏らし、きつく閉じた目から涙を流す。

 その行動からは、事実に目を背けたい意思が見てとれた。

 もし体が自由に動いていれば、耳を手で塞いで全身を丸めていただろうと。

 

小夜鳴 「四世の無能さは、自身が一番理解しているでしょう。初代のような単独で盗みは出来ない無能な四世。先代のように精鋭を率いて盗みも出来ない無力な四世。おやおや?全部当てはまっていますね、四世。」

 

 理子は何も言わない、ただ喉の奥から虚しい声が漏れ出るだけだ。

 そこまで言って、小夜鳴がそんな理子の頭を踏みつける。

 

理子 「うぅ・・・」

小夜鳴 「四世さん、いいですか?人間は遺伝子で決まります。優秀な遺伝子を持たざる者に未来はありません。世の中は優秀な者しか生きていられません。無能な者は、そこらで野垂れ死ぬだけですよ。四世さん?」

 

 小夜鳴はその場で屈み、動けない理子の胸元から十字架を奪おうとしたその時。

 

大和 「確かに・・・貴方の言う事は概ね正しいよね。」

 

 今まで黙って話を聞いていた大和が唐突に声を上げる。

 小夜鳴は大和の台詞を興味深そうにし、スッと立ち上って大和の方に首を動かす。

 

小夜鳴 「ふむ?私の話を理解して賛同するなんて、人間にしてかなり希少ですね。」

アリア 「大和ッ!アンタ、ソイツの言い分に納得するわけ!?」

 

 理子を罵倒しながら遺伝子について言いやがる小夜鳴相手に賛同した事に、あり得ないとばかりにアリアが怒りの怒声を発する。

 しかし大和はアリアに対して一切感情的にならず、冷静に言い返した。

 

大和 「私は自分の才能のお蔭で今まで生きて来れた。じゃあ聞くよ?もし二人が持つ才能が無い場合だと、今ここまで来れたのかな?例えばアリアの感のようなものがね。」

アリア 「そ、それはっ!その・・・」

 

 さっきまであり得ないとばかりに叫んでいたアリアが急激にトーンが下がり、言い澱む。

 俺も大和に対しては何も言えない。

 実際に言っている事は正しいと理解しているからだ。

 もし俺にヒステリアモードが無ければ、前に闘ったジャンヌに殺されていただろう。

 それ以前に理子にも負けて殺されていた。

 アリアだってそうだ。

 自慢の感が無ければ、イ・ウーの情報の端すら見えてない状態だっただろう。

 

大和 「ただし、優秀で強い者しか生きられないのはちょっと違うかな?」

 

 ここで大和は小夜鳴の発言を一部否定する。

 

小夜鳴 「ほう・・・なら、どう説明して頂けますか?」

大和 「計算出来ない要素で溢れ変えるこの世界で、強い者が絶対勝つなんて、たった一つの存在を除いてあり得ないし、今私が生きている事がその証拠だよ。それにあと一つ言っておくけど───」

 

 まるで本当にその事を知っているかのように振る舞う。

 大和の動きや口調に変化はない。

 考えにくいが、これは・・・本当の事を言っているのか? 

 

大和 「───だからと言って、私の仲間を虐める理由にはならないよ。だよね、ブラド?」

 

 大和は普段通りの笑顔で答えたが、その言葉を口にした瞬間、背中に冷たく極太い針が刺さったような恐怖に一瞬襲われる。

 

 ───ゾクッ!

 

 こ、この感覚は!前に一度味わったもの!!

 強さこそほんの僅かだが、これは兄さんの葬式でマスコミに浴びせたものと同じだ。

 普段は決して怒らない大和が、僅かだが怒りを持っているのか?

 

アリア 「えっ!?でも、アイツは違うって。」

 

 さっき自身の予想を否定されたアリアが分からないと言う一方、小夜鳴は何かに感心して大きな拍手を送る。

 

小夜鳴 「Fii Bucuros(素晴らしい)!流石宮川さんですね。それで、四世を虐める理由でしたか。それは深い絶望が必要だからです。それに遠山君、君ももう分かりますよ。」

 

 俺は良くない不安に駆られ、怪しみながら小夜鳴に注目する。

 そして───分かってしまった。

 あの独特で、明確に、スイッチが変わるその気配に───

 

キンジ 「な、なんでお前が・・・!」

 

 俺には分かるぞ、その感覚が!

 そして遠山家全員が持っているその現象に。

 それは───ヒステリアモード!?

 何も言えない、何も言葉が出ない。

 想定外もいい所だ。

 こんなの、誰が予想できたんだと匙を投げたくなる。

 

小夜鳴 「その通りですよ。ヒステリア・サヴァン・シンドローム。」

 

 やっぱりな。

 小夜鳴の回答に俺は納得と大きな疑問を抱く。

 しかし奴め、一体どうやってそれを得やがったんだ?

 現代まで遺伝が残っているのは遠山家しかないはず。

 

小夜鳴 「これから暫く私とお別れです。その前に記念として一つ教えて上げましょう。」

 

 すると小夜鳴は、物語のネタバレをして面白そうにするみたいに発言する。

 

小夜鳴 「イ・ウーは能力をお互いに習得する場所でした。しかし今のイ・ウーは、私とブラドが大革命を起こしました。この力のような能力を写す力をもたらしたのです。」

 

 能力を、写す?どういう意味だ?

 

アリア 「そう言えば前に聞いたわ。イ・ウーの中には能力をコピーしてる奴が居るって。どんな最新技術を使ったのかしらね?」

小夜鳴 「いえいえ、方法は古く単純明確ですよ。ブラドは六百年から吸血で能力を得ていましたから。」

 

 ───吸、血・・・だと?

 

アリア 「吸血、ルーマニア、ブラド。あぁそういう事だったのね。キンジ、正体が読めたわ。」

 

 アリアの発する声に冷静感が戻り、そう言う。

 正体?小夜鳴の正体か?

 俺が横目でアリアに問う。

 

アリア 「ドラキュラ伯爵よ。」

 

 これまたあり得ない単語が登場しやがったな。

 ドラキュラ、それは架空のモンスターの名前だ。

 いや、イ・ウーにはリュパンやジャンヌ·ダルクが居たんだ、ドラキュラも考え方次第では不思議ではないのか?

 俺の常識と言う常識を砕かれる中、小夜鳴が拍手を贈る。

 

小夜鳴 「───正解ですよ。いやぁ皆さん運が良いですね。ブラド公と会えるなんて、大変光栄でしょう?」

キンジ 「大変信じがたい話だが、俺から一つ聞かせてもらおう。その能力をコピーしたのなら、どうして今も理子を苦しませれるんだ?」

 

 ヒステリアモードは、女性を守ろうとする性格に変化する。

 自衛や間違いを正す理由があって力を振る舞う事はあっても、小夜鳴のやる侮辱や暴力を与えるなど絶対に出来ない。

 

小夜鳴 「遠山君は良い質問をしますね。それについて細かく説明してあげたい所なんですが、もうあまり時間が残されていません。ですので申し訳ないですが、簡単に説明させて頂きます。」

 

 謝罪と前置きを置いてから、小夜鳴が語り始めた。

 

小夜鳴 「彼は昔から人間の血を摂取しており、ある時人間の知能を得ます。しかしその反面、常に知識を保つ為に人間の血を吸い続けなくてはいけませんでした。その結果、彼は私という殻に覆われる事になりました。」

 

 私という殻、つまり小夜鳴は裏を隠す表に過ぎないという事か?

 俺の中に嫌に予感がどんどん大きくなる。

 

小夜鳴 「私に覆われた彼は、唯一私が強く興奮を得た時だけ殻を破って外に出れました。しかし何百年も経ち、私は色々な刺激に慣れてしまい、興奮を全く得れませんでした。しかし偶然イ・ウーで最高に適合する一つの能力を知ったのです。それがヒステリア・サヴァン・シンドローム。そして発動時に放出される大量の神経伝達物質は、ブラドを喚ぶには十分な効力を得ました。」 

 

 小夜鳴の雰囲気が一気に変化する。

 これは───ヒステリアモードの、更に上!?

 

小夜鳴 「さぁ、彼の登場だ!」




先人の負の遺産 あぁ····私がなんでこんな羽目に。体が醜くく変化していく。
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