暴走神に敗れし者、この地に現れる   作:弓風

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 えーと、前の投稿が───二ヶ月前!?
 と焦って作ったのがこちらになります。(*´・ω・`)
 流石にのんびりし過ぎたと反省しております。
 相変わらず不定期で安定しませんが、宜しくお願いします。


29:理子の決めた道

 小夜鳴先生が恍惚な表情と声を発した直後、体が明らかに変化した。

 

アリア 「何、これ・・・変身!?」

 

 先生の近くにいるアリアは目の前で起きている出来事に唖然しつつ恐れる。

 小夜鳴先生───いや、小夜鳴先生だった人物名が私達の目と鼻の先で別の存在に変わろうとしている。

 キッチリしたスーツは内部から引き裂かれ、肌色は赤褐色の変色し、模様を纏う闘牛のような筋肉質の体になったそれに小夜鳴先生の面影はない。

 私は変化したそれに、周りに聞こえない位の小さなため息をつく。

 これだから吸血鬼は面倒なんだよねぇ・・・・

 私の持つ存在感知は、変装や暗器等は容易に発見出来る反面、変身されると私には分からない。

 変装とか隠すとかはあくまでも本質を化かすもの、でも変化は本質自体が変わるので私には感知出来ない。

 でも吸血鬼は一度発見出来れば、一部例外があるとはいえ比較的安全。

 とは言えこの世界の吸血鬼を詳しく知らないから、油断なく注意して相手しないと。

 

??? 「Ce mai faci・・・おっと、ここは日本だったか。初めまして、か。」

 

 小夜鳴先生だった頑強な吸血鬼は、薄気味悪い笑みを浮かべて挨拶した。

 ただ声を上げるだけで低く鈍い音で体を揺らされる感覚を感じる。

 んー、声から察するとパワー型の吸血鬼かな。

 

ヴラド 「小夜鳴からは聞いているぞ。そうだ、俺がヴラドだ。」

 

 目の前で変質した吸血鬼は、自身がブラドだって堂々と宣言した。

 すると変身で唖然していたアリアが、ヴラドの名を聞くと真剣味を帯びた顔に切り替わる。

 

アリア 「これは有り難いわね。アンタは一番見つけるのが面倒そうな奴だったから、自ら出てきて手間が省けたわ!」

ヴラド 「あぁ?なんだ、喧しいぞガキが。」

 

 吐き捨てたヴラドの言葉にアリアが表情を歪め苛立つ。

 

ヴラド 「あと、遠山っ言ったか?小夜鳴から答えてやれって煩いんだ。さっきの質問、特別に俺様が答えを言ってやろう。俺は吸血鬼だ、人間には何の感情も抱かねぇんだ。・・・まぁ、遊べば悲鳴を上がって楽しいがなぁ、ガハハハハッ!」

 

 一通り笑い声を出したヴラドが足元の転がる理子に視線を動かす。

 そして理子はヴラドから視線を反らしたくても恐怖で反らせない、蛇に睨まれた蛙の状態。

 

ヴラド 「おい四世、帰るぞ!だがまぁ、これだけ優秀な遺伝子共を逃すのも惜しいか、全員捕まえて俺の糧にさせてやろう!」

 

 悪どいの一言しか言えないような笑みを浮かべたヴラドが、私達を選別するかのように見回す。

 ヴラドの発言で少し憤ったアリアやキンジが睨みを効かせている中、全員に聞こえるよう少し大きな声を発した。

 

大和 「正直に言うとね、理子が何処に誰にどうなっても私は構わない。それが理子の選んだ道ならば、私はそれに見合った行動をするだけ。」

キンジ 「お、おい大和っ!!」

 

 横から聞こえるキンジの叫び声を気にせず、一歩前に出て理子に語り掛けるように伝える。

 

大和 「私は基本的に命令や強制しない。そして他人、個人の考えを可能な限り尊重する。だから・・・理子、貴方はどちらを選ぶ?」

 

 当然どちらを選ぶとは、ヴラドの元へ行くか、こちらに来るかの意味。

 今回はただ助けるだけじゃ駄目。

 普段だったら直ぐに助けに行けばいいんだけど、今はアリアも居るから念の為にこんな遠回しになる。

 大の宿敵である理子にアリアが簡単に助けれ動くとは限らない。

 だから少しでも行動してくれる確率を高める。

 しかしこれは理子に負荷を掛けてしまう行為、出来るだけ早く終わらせたい。

 そして理子は言葉の意味を理解し、怯えながら小さく洩らす。

 

理子 「い、嫌・・・・!」

 

 精一杯理子が言い表した拒絶をヴラドな首を傾げながら喋る。

 

ヴラド 「何言ってんだ?四世、お前に選ぶ権利があると思ってんのか?」

 

 ヴラドは鋭い鉤爪の付いた腕で理子の頭を掴み、吊り上げるように持ち上げた。

 

理子 「うぅ・・・」

 

 理子は力無くされるがままに持ち上げられ、うめき声を漏らす。 

 私は目の前の状況を知って理解しても、そのまま話し続けた。

 

大和 「人は言葉で伝え合わないと理解し合えない。もし理子が嫌なら私達に求めればいい。なんて言うんだっけ?」

 

 恐怖と、トラウマと、劣等感に侵される理子にその言葉が言えるかは私には正直分からなかった。

 こんな無駄な事せずにさっさと行動に起こした方が良いと思うだろうけど、ほぼ無意識的に最悪の事態を想定して保険を掛けてしまう。

 でも、可能性を無視するのは今の私で不可能だった。

 時間を使えるのはここで最後、結果次第では即座に強行救出を開始するつもりだった。

 最終的に言えば、理子は勇気を振り絞って───言ってくれた。

 

理子 「たす、け・・て・・・!」

 

 理子が助けを求めた次の瞬間───

 

アリア 「言うのが遅いわ!!」

 

 中々助けを求めない理子に向けてアリアはキレて怒号を放った。

 そしてアリアの一連の行動に私は失礼ながら一安心する。

 

アリア 「まずは理子を救出するわ!側面はキンジ、大和はアタシに付いて来なさい!」

 

 簡単に指示を出してアリアは飛び出し、私もアリアに遅れないようヴラドに向かって駆け出す。

 一方ヴラドへ高速で接近する私達を、ヴラドの下僕である銀狼が主を守る為襲い掛かってくる。

 しかし私もアリアも銀狼には目もくれない。

 だって、銀狼からは襲われないって知っているから───と言っても、存在感知を使ってやっぱり警戒しちゃうのが私だよねぇ・・・・・

 

キンジ 「───悪いな。」

 

 ガンガンッ!

 

 後方から二発の発砲音が鳴り、二匹の銀狼が即座に体制を崩して転がり動かなくなる。

 血は、出てない・・・でも身震いするだけで動けない様子、麻痺?

 銀狼の背中辺りに弾が掠ったから、話で聞いたレキの技を真似て動きを止めたのかな?ヒスってるとは言えキンジも良くできたよねそんな事。

 二匹の銀狼を止めたキンジは私達の後を追い、三人全員がヴラドに急接近する。

 

アリア 「理子はアタシの獲物の一つよ!横取りなんて許さないんだから!」

 

 うーんアリア、他の言い方なかったのかな?

 そんな思いが浮かぶ私を尻目に、ガガガガガガンッ!と二丁のガバメントの45ACP弾が放たれ、ヴラドの肩や腕等に次々着弾する。

 

アリア 「───えっ?!」

 

 しかしその後に驚いたのはヴラドではない、アリアやキンジだった。

 ヴラドの体に十数発の45ACP弾によって生まれた銃創から赤い煙を上げたかと思った頃には、傷口が完全に塞がり消えてしまう。

 そりゃあ吸血鬼ならあるよね、強力な回復力。

 キンジとアリアは予想外の出来事に一瞬固まってしまい、ヴラドも余裕と見せかけた油断の笑いを出す。

 私がヴラドのその隙を突き、一気に動く。

 今の状況ではまだ切り札は使えない、とすると───

 私は理子を掴む左手に近づき、愛銃のFN5-7を連続発砲する。

 狙うは腕の筋肉の更に奥の、正中神経と呼ばれる腕の動きを担っている神経。

 通常の攻撃だと間違いなく筋肉に阻まれ届かないだろうけど、ね!

 ───放たれた5.7mm弾の一発目が命中。

 次の二発目が一発目の弾頭の後ろを叩き、前に押し出す。

 更に三発目が再び後方から叩き上げ、まるで釘を打ち付けるかのように内部に侵入し、狙った神経を破壊してヴラドの握力がほんの一時的だけかなり弱まる。

 

ヴラド 「なんだ?」

 

 ヴラドが力が入らない事に疑問を抱いているこのタイミングは、絶好の理子救出チャンス。

 だけど私は位置関係的に理子の救出は厳しい。

 

大和 「キンジ!」

キンジ 「───ッ!大丈夫だ、任せろ!」

 

 唯一手が空いて行動可能なキンジが理子の傍に近寄り───

 

キンジ 「女性はこうやって抱くべきだぞ、ヴラド。」

 

 キンジはヴラドから理子を奪い去って、お姫様抱っこをして離脱する。

 アリアと私もキンジに習ってヴラドから距離を取りつつ連射で足止めを行う。

 この位離れれば問題ないね。

 えーとさっきの発砲数が十九発だから・・・

 私はFN5-7のマガジンキャッチボタンを押し、中のマガジンが排出され床に落ちた後、予備マガジンを挿入する。

 

アリア 「理子。アンタの話、全然分からなかったわ。それに───」

 

 アリアが睨み付けるとは違う、ハッキリとした視線で理子に発言した。

 

アリア 「このアタシを利用するなんてムカつく!でもアンタもアンタでアタシを利用したなら堂々としなさいよ!そんな弱そうな感じになって、まるでアンタに利用されたアタシがバカみたいじゃない!」

  

 アリア、利用された時点でバカと言うんじゃない?と思ったけど、これは心の中に閉まっておこうかな。撃たれたら困るし。

 こうして理子に一通り思いを伝えたアリアは、今度はヴラドに向き直り言い放った。

 

アリア 「それにブラド!アンタ、アタシの事を侮辱したわね!ルーマニアの貴族だったんなら知っているんでしょ、貴族が侮辱されるとどうなるかって!」

ヴラド 「だったらどうする気だ?この吸血鬼である俺を。」

アリア 「簡単よ。アンタをママの冤罪を晴らす為に逮捕するわ!」

 

 アリアの答えにヴラドは面白い可笑しそうに嘲笑う。

 

ヴラド 「俺を逮捕か?ホームズ家のバカのせいで笑いが止まらねぇな!」

アリア 「あぁっ!またアタシを侮辱したわねぇ!泣いても謝っても命乞いしても、絶対許してあげない!」

 

 今度はブラドの言葉にアリアが再び突っ掛かる。

 て言うかアリア、命乞いは許してあげないと殺しちゃう意味になっちゃうんじゃ?

 どうにも変なツッコミばっかり思い浮かぶ。なんでだろう?

 まっそんな事はどうでもいっか、私も理子から注意を反らす為にゆっくりと一歩づつ前に進む。

 

大和 「自然で純粋な吸血鬼、それも───たった八百年。」

 

 言葉を言い始めた私にヴラドの注意がアリアから移る。

 

大和 「八百年程度・・・人間だって、死にながら生きたら余裕で超えちゃうね。」

 

 私はヴラドの眼を見据えながらそう言い放った。

 すると生意気な事を言ったように聞こえたらしく、ヴラドが不機嫌気味に発する。

 

ヴラド 「ふん、百年すらまともに生きれねぇガキ共が、ほざき散らすな!」

 

 確かに人間は百年生きれるか分からない。

 でも、それはあくまで地球基準なんだよね。

 

大和 「ヴラド。貴方は知らないだろうけど、時空間の流れは常に一定じゃないんだよ。でも貴方では理解出来ないし、知らないよね。」

 

 私の言葉にヴラドは心底不愉快そうに喚く。

 

ヴラド 「おいそこの女。さっきから何でも見透かしているみてえな感じしやがって!不愉快だ。」

 

 ヴラドの眼孔が、横にいるアリアや後方の理子がブルッと体を震わせる。

 なお私にはマグマが煮たたるみたいな憤怒と威圧感が直接降りかかるけど、特に動じる必要はない。

 喚き散らして威嚇している時点で、所詮ヴラドは吸血鬼の中でも恐らくその精々程度。

 私の知っている最強の吸血鬼は、戦いに囚われた礼儀正しい英国紳士だった。

 それに比べれば遥かに天と地の差。

 

ヴラド 「そろそろ話は終わりだ。どうも俺はお前らをさっさとぶっ殺してやりたくてなぁ!」

アリア 「何言ってんの、アタシが逮捕するに決まってるわ!大和、行くわよ!」

大和 「そうね、殺りましょうか。」

 

 私とアリアは左右に別れ、同時で駆け出す。

 アリアが二丁のガバメントを連射で圧倒するのに対して、私はヴラドの関節部分を一発一発正確に合わせる。

 私達の弾がヴラドの皮膚を貫通する。

 しかし全て傷が治って弾まで排出された。

 アリアの弾はともかく、私の弾まで効かないのは少し意外に感じた。

 今の私が使う弾は通常の鉛弾ではない、対人外用の法儀礼済み銀弾───だけど、その銀弾の手応えがない。

 これは、銀に耐性がある感じかな?

 更にアリアの放つ弾が次々命中している中、ヴラドは特に気にせず周囲を見渡し何かを探す。

 

ヴラド 「おぉ?こいつは使えそうだ。」

 

 ヴラドは近くの携帯電話用の基地局に移動し、アンテナを掴み回していく。

 メキメキと金属の捻れる音が根元から響き渡る時に、再びアリアと私はキンジの前方辺りまで後退する。

 やがてアンテナがヴラドの握力に負け、根元から破断し折れる。

 そしてヴラドはアンテナを槍を持つように床に叩き付け、何かの予備動作をし始めた。

 

ヴラド 「ふむ。まずは一番楽そうな遠山、お前からだ。ワラキアの魔笛に酔え───」

 

 ブラドがそう言って肺に残った息を吐き出し、強烈に大きく空気を吸い込む。

 その量は気流の流れが変わる程。

 ヴラドは巨大な風船のように大きくなりながら空気を更に吸い込む。

 ワラキア?ルーマニアの地方だっけ?それよりヴラドの技名の魔笛と空気・・音の攻撃────ッ!

 

 ビャアアアアアウヴァイイイイイイイ───ッ!!

 

 ヴラドの吐き出した量の咆哮は、タワーの全体を振動させ、上空の雲の一部を吹き飛ばす規模の音量で放出された。

 数百gの炸薬が起爆したような衝撃は、長距離の駅や街でも聞こえたと思った程。

 

アリア 「ド、ドラキュラが吼えるなんて始めて聞いたわよっ!!」

 

 衝撃で尻餅をついたアリアがあり得ないと叫ぶ中、キンジが目を見開いて驚愕していた。

 あのキンジならそろそろ我に帰───違う、雰囲気が元に戻っている!

 キンジのヒステリアモードが、外的要因で強制切断されるっ普通は思わない!

 

アリア 「キンジ殺傷圏内よっ!のんびりしてんじゃないわよ!!」

 

 キンジに急速に接近したブラドがアンテナを大きく振るう。

 私は急いでアンテナを握る腕に銃弾を放つが、ヴラドはそのまま腕を直進させ、キンジに向けアンテナが振るわれる。

 しかし幸いにもアンテナはキンジに直撃せず、掠りっただけで済んだ。

 でもアンテナを振り回す吸血鬼の筋力を前に、人間の体重など紙同然。

 キンジは大きく回転しながら撥ね飛ばされ、ビルの縁から空中へと放り出された。

 ───キンジが!!

 視界からキンジを見失った途端、理子がキンジを追うように飛び降りた。

 その事に一瞬焦ったけど、直ぐに思考を変えた。

 理子のあの様子、明らか自分の意思で狙って動いていた。

 何か考えがあってきっと飛び降りた。

 なら後は二人の無事を祈って、私は私のする事をするだけ。

 

大和 「アリア!恐らくキンジは理子が何とかしてくれる。だから私達もやる事をするよ!」

 

 最初アリアはキンジが心配でオロオロした様子を見せていたけど、意を決したのかヴラドを視界に入れて叫んだ。

 

アリア 「理子!キンジを死なせたら許さないんだから!!」

 

 既に聞こえない位置にいる理子に対しアリアがそう言葉にした。

 そして私は正面を向き、ヴラドから一定の距離を保ちつつFN5-7を乱射する。

 一方弾の切れたガバメントを納めて、背中から寸詰まりの日本刀を二本抜いたアリアが突撃を開始。

 アンテナでヴラドがアリアに攻撃するけど、アリアは自慢の機動力で回避しお返しとして日本刀でヴラドを斬る。

 何度も何度もヴラドに多数の切り傷を作り続けるが、再生能力の前に無力だった。

 しかしアリアは怯まず攻め続ける。

 

アリア 「その再生能力は厄介ね。でも、再生する前に斬ればいい!」

 

 自信満々に発言するアリア。

 ある意味圧倒的脳筋を晒したアリアが刃を振り下ろし、縦横の斬撃を与えつつヴラドの攻撃を回避する。

 しかしその瞬間───

 

アリア 「───あっ!!」

 

 ヴラドが最初にアンテナを叩き付けた時に出来た凹みに足を取られ、バランスを崩す。

 その瞬間、ヴラドのアンテナがアリアの目前に高速で移動する。

 攻撃にアリアは反射的に日本刀で交差させて防御した。

 しかし防いだ日本刀を砕きながらアリアは衝撃で弾け飛ぶ。

 あのコースなら───大丈夫、ここからは落下はしない。

 空中を弾け飛ぶアリアは、床を滑りながらヘリポートの端で綺麗に着地する。

 良かったぁ・・・いや、それよりアリアに追撃するヴラドを止めるのが優先。

 アリアを仕留めようと、歩を進めるヴラドの右手首に弾を叩き込む。

 弾が命中した攻撃を無視していたヴラドは、止まらずアリアに向かって移動する。

 でもふと途中でその速度を緩め、撃たれた右手首をヴラドが確認する様子を見せた。

 本来であれば即座に治る筈の傷口は、数秒経過しても完治する形跡がなく血が流れ続ける。

 

ブラド 「・・・・こいつはただの銀じゃねえなぁ?」

 

 ヴラドが治らない傷に疑問を抱きつつ、私にその眼光を合わせた。

 

大和 「BLESS BLADE (刀身を清める)を応用して施した純銀弾のお味は如何?吸血鬼さん?」

 

 例え相手がどれだけの再生能力を持っても、桁違いの耐性を持っていたとしても関係ない。

 人ならざる者に“絶対”に効くと保証される魔術を施した銃弾。 

 と言ってもねぇ・・・作るコストが高過ぎて、最後の二発分しかないのが問題。

 

ヴラド 「小賢しい真似をしやがって!」

 

 身を傷つけられて怒りを覚えたヴラドがアンテナを大きく振りかぶり、私に対して縦に強烈な攻撃を振り下ろしてくる。

 だけど予備動作丸見え、威力だけに特化した動きの鈍い攻撃は余裕で回避出来る。

 上から大質量のアンテナが当たる前に、サイドステップで範囲から逃れた。

 そして私が回避した攻撃は、ヘリポートの床のコンクリートに直撃し、表面が砕け破片を辺りに撒き散らす。

 衝撃で弾け飛んだ破片の中に、偶然私の頭部に飛んで来た物があったので、銃に装填しているマガジンの底で軽く叩いて進路を変える。

 再び距離を確保し態勢を整え、ヴラドの動きを何一つ見逃さないよう意識を集中する。

 そして思考の中で次に来るであろうヴラドの行動を予測し、対応するシミュレーションを同時に何十、何百と並列で処理していく。

 そんな時、私の心では謎の高揚感が表れ始めていた。

 

 ・・・トクンッ・・・トクンッ───

 

 急に変化した鼓動を感じ取り、私の心の中が驚き二割、呆れ八割の状態になる。

 あっ・・・むぅ、流石の私だって理子が虐められて少しは怒っているのに、いつもそんなの関係ないとばかりに容赦なく出てくるんだよね。

 まぁ確かに最近は一対一でこんなに戦う事なんてなかったから、ある意味しょうがないかぁ。

 さてと、これが来ちゃったなら今の内に理子とキンジの手助けをしないと。

 しかしと言っても直接的に助けれないので、最低限生存性が上がるよう呪文を発動した。

 

大和 「《BRING HABOOB/Sandstorm small(小さい砂嵐を起こす)》」

 

 横浜ランドマークタワーを中心に直径100m、風速10m/sの上昇気流が巻き起こる。

 強風で周囲に設置されてる鉄製の柵がガシャガシャと音を立てて揺れ始めた。

 普段の私なら一時間は掛かるこの呪文、今の私にとってすれば一瞬。

 ただ、後で間違いなく代償を払う羽目になるけど。

 

ヴラド 「妙だな?急に風が強くなったぞ。おいお前、何かしやがったか?」

 

 急に巻き起こった突風にヴラドが怪訝な顔をする。

 

大和 「たった一人の人間がこんな風を起こせるとでも?」

ヴラド 「・・・それもそうだな。」

 

 ヴラドの知っている人間であろうはこんな強風を起こせない。

 だからヴラドは私の言い分に納得した後、アンテナを大きく横に振るい攻撃してくる。

 攻撃に対して私は敢えて前進し、スライディングで攻撃を回避して腕の関節に向け発砲。

 ヴラドの肘関節にど真ん中に着弾する。

 しかしその瞬間、FN5-7からカチッ!と鳴った。

 そして間合いを取り、ヴラドを状態を確認する。

 さっきと同じく肘に被弾した傷が殆ど治らず、動かしにくそうに肘を動かしながらヴラドが漏らす。

 

ブラド 「面倒な事しやがって。そこの女、どうするんだ?頼みの綱の玩具は使えなくなったぞ?」

 

 ヴラドがニヤつきながら、私のFN5-7が弾切れになった事を指摘してきた。

 私はホールドオープンになったFN5-7を見た。

 

大和 「確かに今はこの銃は使えないね。」

 

 使えなくなったFN5-7を、最初に投棄したマガジンの近くに放り投げる。

 そして代わりに取り出したのは一本のサバイバルナイフ。

 

ヴラド 「ゲァババババッ!そんな物で俺が倒せるとでも!」

 

 サバイバルナイフ一本だけで戦おうとする私を、ヴラドは面白そうに爆笑する。

 

大和 「これね、BLESS BLADE(刀身を清める)を施した純銀製サバイバルナイフ。きっと、貴方も喜ぶ美味しい味だよ。」

 

 ナイフの説明を聞いたヴラドから笑みが消え、代わりに今度は私が愉快にほくそ笑む。

 

ヴラド 「何を笑ってやがる?お前、いつもの人間とは違うな。よし、気分が変わった───ここで八つ裂きにして、人間共に絶望を見せてやる!」

 

 残念ながらヴラドの恐喝も私の中で起きたもののお蔭で、楽しく喋っているのと同義の感覚になっているよ。

 それに何で私が笑っているかって?

 これからの事が楽しみで楽しみで堪らないからだよ。

 フフッ、何とも素敵で楽しそうな宣戦布告。

 これで決闘が・・・あの楽しい決闘が出来るんだよ。

 貴方を簡単には勝たせたり敗けさせたりはしない。

 この決闘の味を末長く味わう為に───じっくり、じっくり煮るように痛めて傷めて痛めつけて、痛めて傷めて痛めつけられ、是非とも私の願いを叶えられて、獅子奮迅の活躍を望むよ。 

 決闘の場に置いて人間や吸血鬼は皆平等。

 貴方は私にどんな痛み、恐怖、狂気、苦痛、絶望、そして喜びを教えてくれるの?

 なら私は───

 貴方に永遠に迎えに来ない死の終焉を教えてあげる。

 貴方に狂気の狂喜を思い出させてあげる。

 貴方に本当の暴力を教えてあげる。

 貴方に私の一部を教えてあげる。

 貴方との一期一会の決闘。

 この世界の新進気鋭の吸血鬼さん、決闘の入り口へようこそ───

 

大和 「それでは吸血鬼さん、楽しい決闘を始めましょう。誓いは永遠───いざ、尋常に!」

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

理子 「私の名前は・・・誰?」

キンジ 「理子だ。」

理子 「もう一度。」

キンジ 「理子。」

理子 「呼んで!」

キンジ 「理子!」

 

 その時、俺を落下から救ってくれた理子のグライダーが強力な上昇気流に巻き込まれる。

 ぐおっ!なんだこれ!

 しかし俺とは対照に理子の表情は笑う。

 

理子 「これは使える!」

 

 そう言った理子は荒れる海のような突風の中、グライダーを器用に操りほぼ垂直に急上昇する。

 強力な上昇気流の甲斐もあってか、恐ろしい速度で屋上に到達。

 しかし流石理子と言うべきか、屋上に上がりきる寸前でグライダーを解除し、慣性の法則でかすり傷一つない完璧な着地が出来た。

 そして屋上の様子を素早く観察して、予想外の事実に一瞬呆けまった。

 ヴラドとナイフ片手の大和が、一対一で正面から戦いあってる事に───

 横にいる理子もその戦いを前に唖然としている。

 そして戦いを眺める俺の視界の端に、悔しそうに立たずむアリアが見えた。

 

キンジ 「理子、行くぞ。」

 

 俺は呆然としていた理子を呼び、ヴラドにバレないようアリアに合流する。

 

キンジ 「アリア!」

アリア 「えっキンジに理子っ!?アンタ達、やっぱり生きてたのね!!」

 

 アリアは俺達がいる事に内心嬉しそうに歓喜する。

 お互いに無事を喜びたい所だが、まだ戦いは終わってない。

 

キンジ 「理子が落ちる俺をグライダーで助けてくれたんだ。それより状況を教えてほしい。」

 

 俺の言葉にアリアの顔つきが変化し、アリアが扱う日本刀を取り出す。

 

アリア 「見ての通りヴラドと大和が戦っているわ。アタシはもう武器がないから何も出来なくて正直歯痒い。それと大和の持つサバイバルナイフ、あれはそこらの得物じゃないわよ。傷が浅いけど、明らかにヴラドを追い詰めてる。」

 

 根元から砕けた日本刀を見せつけながら、アリアがそう説明する。

 俺は戦闘中のヴラドの体へ視線を集中させる。

 ・・・本当だ、ナイフに切られた箇所の再生が異常に遅い、というよりは再生していない?

 大和のナイフで付けられた切り傷に再生の兆しは見えなく、斬った後のまま。

 ヴラドの持つ桁違いな再生能力を前に効くナイフとか、何の原理だ?

 

アリア 「でも、追い詰めるだけで決定的じゃないの。逆にヴラドの攻撃は当たってないけど、当たったら確実に死ぬわ。ヴラドの体力が尽きるか、大和が攻撃を受けるかの戦いよ。」

 

 いくら防御特化の大和とは言え、吸血鬼相手ではいずれ限界が来る。

 ここで俺はジャンヌから入手したブラドの弱点をアリアに伝えた。

 

キンジ 「ヴラドには四つの弱点が存在する。あの目玉模様の中心がだ。」

アリア 「えっ?そんな情報どこから!・・・詮索は後回しね。弱点が四つ。キンジ、どう見ても三つしか見えないわ。」

キンジ 「そこなんだ。あと一つが───」

理子 「わたし知ってる。」

 

 理子の言葉を聞いて、俺とアリアが咄嗟に理子へ振り向く。

 

理子 「アイツの弱点を知っている、最後の一つを。場所は意識して貰いたくないから教えれない。」

キンジ 「なら次は弱点を同時に撃ち抜く方法だ。間違いなく弱点を同時以外で攻撃した場合、確実に再生が間に合ってしまうだろう。という事で同時攻撃の手数が欲しいが、大和はあんな状況だ。三人だけでタイミングを合わせなくてはいけない。」

アリア 「いいえ、四人よキンジ。大和の視線の先を良く確認しなさい。」

 

 大和の視線の先?

 俺はヴラドと戦闘で動き回る大和の瞳を目を凝らして覗き見る。

 すると普段は黒真珠のような大和の瞳に変化を発見した。

 左の瞳だけがルビーのように赤く変化している?いや、これは不思議だがアリアの言いたい事じゃないだろう。

 ・・・・・?今俺達を見たか?・・・・また見たぞ。

 大和が一騎打ちの状態の中、わざわざ時々俺達に視線を合わせる。

 

キンジ 「これは恐らく、一定間隔で大和がこちらに視線を移して俺達の行動を確認している、のか?」

アリア 「そうよ。アタシ達がどう行動してどう対応するか、常に意識しているの。ヴラドと真っ正面から戦ってるのに、良くそんな余裕あるわね。」

 

 アリアが驚愕半分、呆れ半分の表情をとる。 

 そこに理子がまた一つ朗報を口にする。

 

理子 「みーちゃんは四つ弱点の事を知っている。この前ジャンヌからそう言われた。」

 

 よし、これで着実と勝利のピースが揃っていくぞ。

 しかしよりにもよって最後のピースが一番デカイと来た。

 

アリア 「で、一番の問題以外は終わったわね。」

キンジ 「あぁその通りだ。今の俺達には四つの弱点を同時破壊出来る武器がない。アリア、残弾は?」

アリア 「この通りよ。」

 

 アリアがホールドオープンした二丁のガバメントを取り出す。

 

理子 「一応わたしは一発だけど銃を持っている。それを使えばわたしは何とかなる。」

キンジ 「今ある武器は、俺のベレッタと理子の銃。後は今大和が持っているナイフか。」

 

 例えナイフでも、斬るのではなく深く突き刺せれば十分弱点には届くだろう。

 しかし───

 

理子 「あと一つ足りないよ。」

 

 理子の言う通り、あと一つ足りない。

 四ヶ所の攻撃をするのに武器が合計で三個しかない。

 流石に古いアニメの表現の手を突き刺したりとは出来ねぇだろうし。

 しかも現状可能性のある大和のFive-seveNは、今ナイフ一本で戦っている事を考えると弾切れの可能性か高い。

 一応ベレッタの弾は残っているから、これでアリアのガバメントか大和のFive-seveNが使えればいいんだが、俺のベレッタは9mm弾、アリアのガバメントは45ACP弾、大和は5.7mm弾、呆れる位互換性が皆無。

 俺は何か武器になりそうな物が落ちてないかと辺りを一覧する。

 すると床に銃とマガジンが落ちているのに気が付いた。

 ───あれは、大和のFive-seveNか。

 だが残念な事に、アリアと同じく予備マガジンが刺さった状態でホールドオープンしている。

 そして傍には最初に投棄したマガジンが捨てられていた。

 うーむ。やっぱり弾切れか───待てよ?

 俺は再び妙な違和感が引っ掛かりを覚え、それを全力で思考する。

 大和が最初に発砲した数は・・・記憶に間違いなければ確か十九発、Five-seveNのマガジン弾数は二十発だよな?

 ───いけるぞ!!

 俺が思いついた起死回生のアイデアを二人に伝える。

 

キンジ 「アリア、理子、何とかなりそうだ。あそこに落ちてるFive-seveNを見てくれ。」

アリア 「あの銃は弾切れよ?」

 

 ホールドオープンしたFive-seveNを指差す俺に、困惑気味のアリアが弾切れの事実を言う。

 

キンジ 「そうだ、確かに弾切れだ。しかし俺の記憶が正しければ、大和は最初に十九発発砲している。」

理子 「キーくん。それだとやっぱり弾がないよ。」

 

 ここでの理子の指摘は正しい。

 自動拳銃は構造上、最初の一発はマガジンから薬室内に入り込み、実質マガジン内は一発減った状態から開始される───普通ならな。

 つくづく大和が俺の元パートナーで良かったよ、じゃないと絶対気付いてなかった。

 

キンジ 「大和はな、ある癖のようなものがあるんだ。」

アリア 「癖?」

キンジ 「アイツが銃を扱う時、最初は絶対に薬室内に弾を装填してからマガジンを挿入するんだ。」

アリア 「あっ!」

 

 俺の意図に気が付いたアリアが驚愕して、ラッキーとばかりに嬉しそうにする。

 

キンジ 「薬室に一発、マガジンに二十発で計二一発。十九発を使ったら残り二発。一発は薬室にあるとして、残り一発は───ビンゴだ。」

 

 捨てられたマガジンのマガジンクリックから顔を出す、一発だけ残った銀製の弾頭をした5.7mm弾がなぁ!

 それもご丁寧に同時に取りやすく捨てられた銃本体の位置。

 大和め、狙ってやったんだろうなぁ。

 それくらい予想していてもおかしくない奴だ。

 

キンジ 「アリア、撃てるか?」

アリア 「あら、アタシを誰だと思っているのかしら?」

 

 勝手の異なる銃とは言え、射撃の天才であるアリアには障害にならないだろうな。

 それを見て安心した俺は、大和が視線を移した瞬間を狙って瞬き信号を送る。

 内容は「アワセテ、ワキバラ、ナイフ、サセ。」

 送ってから十秒後くらいに了解と返信が帰ってくる。

 

キンジ 「行くぞ、3・・・2・・・1・・・0!!」

 

 俺の掛け声と同時に全員がそれぞれ行動を起こした。

 俺は左肩を狙う為、左の方に走り出す。

 理子はヴラドに対して正面から突撃する。

 アリアはFive-seveNの元へ駆け出し、銃を拾った後即座にマガジンを交換、ヴラドの右肩に照準を合わせる。

 大和は俺達が配置につくまでヴラドの注意を引き、配置に着いたと判断したら、ヴラドを狙い易い正面に誘導する。

 ───四点同時攻撃、やるぞ!

 

キンジ 「撃てっ!!」

 

 最初に合図に反応したのは大和だ。

 至近距離からナイフをブラドの右脇腹一直線に投擲。

 素早く投げられたナイフが深々と右脇腹に突き刺さる。

 次に俺のベレッタから銃弾が放たれる。

 そしてアリアがトリガーを引いた瞬間。

 

 ───ピカッ!!

 

アリア 「───ひゃっ!!」

 

 運悪く偶然放たれた雷光によって雷が苦手なアリアが反射的に目を閉じてしまい、緊張で筋肉が収縮し照準が逸れた弾が発砲されてしまった。

 クソッ!ここで雷とは最悪だぞ!!

 ───まて、今ならまだ修正が効くかも知れない。

 ヒステリアモードの俺が銃弾に意識を集中すると、俺自身もびっくりした。

 見える・・・弾が見えるぞ!

 それにあのコースなら、修正可能だ。

 だが大和の使う弾は足の早い高速弾、これは間に合うか?───いや、間に合わせる!!

 決死の覚悟で発射した俺の9mm弾が空中を飛翔し───

 

 キンッ!

 

 空中で9mmと5.7mmが掠りながら交差し、5.7mm弾が進路を変えてヴラドの右肩へと向かう。

 しかしそこでブラドが射線から逃げようと、肩を捻る動き出す。

 マズイ!このままだと弱点に当たらない!

 たが一度針路を変えてしまった弾に対して、もう俺には何も出来ない。

 

大和 「《GRASP OF CTHULHU (クトゥルフのわしづかみ)》!」

 

 ここで大和が何かを言った途端、ヴラドの体の動きが謎の力に押されたように完全に停止する。

 これで右肩、左肩に弾が直撃、右脇腹にはナイフが突き刺さる。

 これで俺達の仕事は終わりだ、そして後の一ヶ所は───任せたぞ!

 三ヶ所を撃たれたブラドは急に正面を視線を合わせ、何かの言葉を言おうとした。

 ヴラドの目と鼻の先には、胸の谷間からデリンジャーを取り出しヴラドを狙う理子の姿が───

 

ヴラド 「四せ───!」

 

 ───パァン!

 

 小口径特有の軽い発射音と同時に理子のデリンジャーが火を吹く。

 そして命中した、ヴラドの最後の弱点に。

 目玉模様は口を開けたその先、長く分厚い舌のど真ん中。

 ヴラドは謎の力に対して踏ん張れていた力を失い、押し潰されるように仰向けに倒れる。

 更に運の悪い事に、ヴラドの上から交差するように数tはありそうなアンテナが支えを失い乗し掛かる。

 この倒れたアンテナをヴラドが退けようとするが、まるで力が入っていない。

 そしてブラドが何百年掛けて集めであろう血液が全身から流れ出す。

 ブラドの哀れな姿に俺は妙な感情を抱く。

 なんと言うか、吸血鬼でもこうなってしまえば呆気ないものだな。

 

キンジ 「アリア。これどうするんだ?」

アリア 「気にしないでいいわ。それにしぶとい吸血鬼よ、簡単には死なないでしょ。」

キンジ 「それもそうか。んっ───?」

 

 仁王立ちするアリアに苦笑している時、大和がブラドに近づく。

 もう戦いが終わった今、ヴラドにする事はない。

 アリアや理子も気づいたらしく、大和の行動を気に掛ける。

 大和はヴラドの目の前に着き、ナイフの刺さった右脇腹のすぐ傍に脚を掛け、ナイフの柄を握り締めて思いっきり引き抜く。

 

ヴラド 「グオッ!?」

 

 ヴラドは引き抜かれた痛みで苦しそうに声を上げる。

 おい待て、本気で何をするつもりだ?

 怪しい行動をする大和に、俺は怪訝な表情で動きを監視する。

 血に濡れたナイフを握り締めた大和が、今度はヴラドの頭付近に行き、なんとヴラドの首の横にナイフを添える。

 まさか、ヴラドを殺す気か!!

 普段のアイツなら絶対しないと断言出来るが、今回は理子の事で大和が珍しく怒っていた。

 殺害は武偵法に違反する、それは吸血鬼だって例外じゃない。

 それに何より奴が死んでしまったら、かなえさんの無実を晴らせない!

 ───大和、駄目だ殺すなっ!!

 と俺がそう咄嗟に叫ぼうとした時。

 大和がクスッと笑い、血濡れたナイフを拭かずに納めた。

 

大和 「ヴラド、貴方は運が良いよ。向こうだったら殺していた所だけど、今は殺しちゃいけない身だからね。でもお仕置きはしておかないとね。《IMPLANT FEAR(恐怖の注入)》」

 

 大和が何かの単語を言った途端、ヴラドかビクビクと震えて泡を吹き気絶した・・・・・気絶だよな?

 

大和 「大丈夫、殺してないよ。軽く気絶しただけ。」

 

 俺達の心を察したのか、何時もの優しい姿に戻った大和はそう話しながら歩を進める。

 その一方では、ようやく麻痺が治った銀狼達が必死にヴラドの為に日陰を作ろうとしていた。

 数秒程銀狼の行動を観察して、やっと納得した。

 ヴラドから集めた血が流れた結果、日光の耐性が消えたのか。

 それより───

 

キンジ 「急にヴラドの首にナイフなんて突き付けて本当に焦ったぞ。それでブラドに何をしたんだ?」

大和 「肉体的には何も出来ないから、精神面をちょーと突いただけ。」

 

 ちょーと突いただけって、あの吸血鬼のヴラドが気絶する程のは絶対そうは言わないぞ。

 気絶したブラドを眺めて、大和に視線を移したアリアが疑問を問う。

 

アリア 「アンタのSSR何なの?全くもって関連性が分からないわ。今度何が出来るか教えなさいよ。」

大和 「それは勘弁してほしいなぁ。あまり表に出したくないんだよ。」

 

 アリアの言葉に困った様子で大和が答える。

 二人の会話を聞きながらふと思う。

 色々ハプニングはあったが、結果的にはヴラド相手に勝ったんだよな。

 俺は横に顔を向け、理子に言った。

 

キンジ 「ほら、理子。俺達は───いや、理子は勝ったんだ、あのブラドに。」

 

 理子は再度本格的にヴラドを倒したと認識したのか、口を開いて唖然とする。

 

アリア 「んーその反応?リュパン一世とブラドって、実際に戦っていたの?」

キンジ 「らしいぞ。」

アリア 「なら私達が居たとは言っても、アンタは今日。あのリュパン一世を越えたわね。」

理子 「えっ?」

 

 理子がアリアからそんな言葉を投げかけられるとは思わず、アリアを前に固まる。

 理子の様子に全員が表情を緩めた時、前触れ無く右手で頭を抱えて大和がフラッとよろめく。

 

キンジ 「大和、大丈夫か?」

大和 「あー、ごめんね。後はよろ・・し、く・・・・・」

 

 申し訳なさそうに謝って、大和は力無く床に倒れる。

 

アリア 「って、ちょちょっと!どうしたのよ!」

 

 突然大和が倒れた事に動揺するアリア。

 このパターンは、あれか。

 倒れた理由を察した俺は、大和の呼吸と心拍を調べる。

 ・・・予想通りどっちも異常ないな。

 

キンジ 「アリア安心しろ、これはSSRの使い過ぎだ。」

アリア 「えっ?SSRの使い過ぎ?」

キンジ 「あぁそうだ。紅鳴館とさっきの戦闘両方フル使ってたんだ、体力が尽きてもおかしくない。一応心拍と呼吸は安定しているから休めば問題ないだろう。」

 

 説明を聞いたアリアは呆れつつ怒った顔に変化した。

 

アリア 「全く、人騒がせばっかりするんだから。ってあら?理子はどこ行ったの!?」

キンジ 「何?」

 

 俺達は慌てて周囲を見渡し、ビルの縁の近くでこちらで腕組みをする理子を発見した。

 

理子 「やっと気付いたか。そんなんだからいつも出し抜かれるんだ、オルメス。」

アリア 「理子、アンタ逃げる気?」

 

 アリアは既につり目気味の目を更につり上げる。

 

理子 「そう、だったらどうする?」

アリア 「ふん!得意技を全部無くしたアンタが、アタシから逃げれるとでも思っているのかしら?」

 

 理子とアリアの間で激しい花火が昇る。

 その状態が続いて不毛に感じたのか、理子が途中で目を閉じて、ゆっくり開く。

 

理子 「神崎・ホームズ・アリア。遠山キンジ。今までお前達を下と見ていたが、その認識を改めよう。ちゃんと約束を守ろうではないか、永遠のライバルよ。」

アリア 「へぇ、約束守ってくれるんだぁ。ならアタシに逮捕されてくれない?でも、アンタの事だから抵抗するでしょうね。それでもねぇ!ママの為にアンタを殴ってでも裁判に引きずり出してやるんだから!」

 

 理子と面を向かって叫び、格闘の構えを取ったアリアがそっと俺に目配せする。

 逃げ道を塞げって事かアリア。

 一瞬だけ大和に視線を移した俺は、すぐにその考えを止める。

 いや、流石に理子も大和を盾する外道な真似はしないだろう。

 俺がそう判断したら、唯一の脱出通路の階段の前に立ち、何時でもバタフライナイフを抜けるよう備えるが───んっ?理子の髪が一部動いている・・・何かしているのか?

 

理子 「Au Fevoir. Mes Fivaux(さようなら、私のライバル)。いずれは正々堂々決着をつけよう。」

 

 そう言った理子はクルッと後ろに反転して駆け出し、ビルの縁からジャンプ───姿を見失う。

 

アリア 「───理子ッ!?」

 

 アリアと俺が全速力で理子が飛び降りた縁から外を広く見渡す。

 するとそこには、俺達が屋上に戻る時に納めたグライダーでゆっくり降下する理子の姿が。

 俺達が理子の姿を確認した頃には、もうかなり遠くまで離れていた。

 そしてグライダーはどんどん降下し、港の倉庫に消えていった。

 

キンジ 「これは、二度も同じ手を食らってしまったな。」

 

 しまったな、あの子の一番の得意技に気づかなかったよ。

 俺は肩をすくめて思った。

 一番の得意技は───逃げ足、だったんだとね。




敗戦の種族:要塞が陥落し、身を潜めていた者は、時間を掛けて一族の復活の為に動く。
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