暴走神に敗れし者、この地に現れる   作:弓風

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偉人の楽園
31:個人の正義


カナ 「キンジ。貴方も私と一緒に行きましょう。貴方のパートナー達を殺しに。」

 

 今、なんて・・・言った?

 パートナーを殺す。

 それはつまり、アリア───を殺す・・・?!

 

キンジ 「い、いきなり・・・何を、言っているんだ?兄さんっ!?」

 

 全身から冷や汗を滲み出させながら俺はそう叫んだ。

 

カナ 「兄さん?」

 

 突然アリアを殺すなんて言い出したカナは、俺の言葉を理解出来ないように首をかしげる。

 ・・・そっそうだった。カナの時の兄さんはある意味別人。

 兄さんと言っても分からないんだ。

 

キンジ 「カナ。そこに居てくれ、すぐに行く。」

 

 兄さんの呼び方を変えつつ俺は歩を進める。

 さっきの言葉は、きっと何かの間違いだろう。

 カナである兄さんは誰よりも正しく、力の無い人を助け、正しい行動で自らが危険になろうと関係なく戦った。

 俺はそんな兄さんに憧れと尊敬を抱いていた。

 だからアリアを殺すなんて・・・あり得ないと信じていた。

 不時着した機体の翼端付近まで登り、カナの居る風車の羽根まで大体2m程度の隙間。

 飛べない距離ではないが、ここは高さ10m以上はあるだろう。

 失敗して地面に落下すればどうなるかは容易に想像ができる。

 ここで俺は一旦足を止め、カナを見据える。

 

キンジ 「最後に出会ったのが半年前だ。折角今日会えたんだから素直に喜ばせてくれよ!!アリアを殺すなんて───言わないでくれ!!」

 

 俺はカナに訴え掛けるよう必死に思いを伝える。

 しかしカナは俺に言葉に反応した様子を見せず、こう返答する。

 

カナ 「キンジは熱くなると周りが見えなくなる。相手の言葉の意味を一つでも見逃すと、後が大変よ?」

 

 カナから注意やらアドバイスのような返答が帰ってきた。

 俺が聞きたいのはそんな事じゃあ───いや・・・そうだ、その通りだ。一旦落ち着こう。

 確かに俺にはカナに色々聞きたい事は山程ある、しかしまずはカナの言う通りにしよう。

 小さく二回程度深呼吸して気分を落ち着かせる。

 アドバイスみたいなのだって、あのカナが口にするんだ。何か意味があるはず。

 ここでカナの台詞を覚えている限り羅列する。

 確か、イ・ウーは遠かった、か?それでアリアが好きかどうか、そしてアリアを殺すって・・・んっ?何か引っ掛かる。

 思い出せ思い出せ!

 カナの言葉は、キンジ。貴方も私と一緒に行いましょう。貴方のパートナー達を殺しに───うん待てよ?パートナー達を殺し、に?

 達・・・達・・・おいまさかっ!?

 

キンジ 「冗談だろ!?パートナー達って、まさか!!」

 

 絶対当たって欲しくなかった俺の予想は、不幸にも的中してしまった。

 

カナ 「そう。パートナーという括りには、元パートナーも例外じゃない。」

 

 俺はカナの言葉に頭が真っ白に混乱する。

 何故、カナがそんなに人を殺そうとしているのか?

 なんで犯罪者であっても死なせたくないと思うカナがこんな行動に出るのか?

 どうしてわざわざ俺にその手伝わせようとするのか?

 それにカナなら一人で遂行可能な腕がある。

 全く持って俺には分からない───だが、カナの発言は嘘でない気がする。

 俺はもう一度下に視線を動かす。

 そして恐怖心を抑え、意を決して羽根に飛び移る。

 思ったより幅のある風車の羽根に飛び移るのはそう難しくはなかった。

 しかし人一人の重量が増えた為、羽根は僅かに動く。

 

キンジ 「うおっ!」

 

 僅かに動いた羽根に俺は即座にしゃがんで重心を下げ、バランスを崩さないようにする。

 

カナ 「出エジプト記32章27───汝ら各々、剱を帯びて門より門も営の中を彼処此処に行き巡り、その兄弟を殺し、愛しき者を殺し、隣人を殺すべし・・・キンジ。あの子達は、世に波乱を巻き起こす巨凶の因由。巨悪を討つのは、義に生きる遠山家の天命───」

 

 その台詞に俺は表情が完全に凍った。

 義、それはつまり正義。

 カナの口からそれが現れた瞬間、俺の心の何処かで残っていた穏便に済ませれる楽観視を───完全に失われた。

 何故なら正義を出したカナ、兄さんはその目的を全て絶対に完遂しているからだ。

 

カナ 「まずはアリアよ。一人だけなら脆い相手だわ。」

キンジ 「待て!だからちゃんと話を聞いてくれよ!!」

 

 初めてかも知れない、カナに対してこんなに声を荒げ続けたのは。

 正しく、強く、優しい・・・そんな姿に憧れ、尊敬し、同じようになれるよう努力した。

 俺にとって、カナ───兄さんは大切な人だ。

 だが、アリアや大和、理子、白雪、武藤に不知火達も、全員が大切な人なんだ。

 なのに何故!今は大切な人同士で殺し合おうとする!!

 俺は、一体どうすれば・・・?

 

カナ 「キンジ。行きましょう、私達の正義の為に。大丈夫、私達の仕事は今夜だけで終わるから。」

 

 カチャ───

 

 俺は一瞬、俺自身のした事を理解出来なかった───もしかしたら理解したくなかっただけかも知れない。

 カナに向けた右手には、セーフティを解除したベレッタを握り締めていた。

 ベレッタの狙う先は勿論カナ。

 なんで俺はこんなに行動に出たのか?

 正直俺にも意味が分からなかった・・・大切な人に銃口を向けるなど。

 しかし俺以上に驚いたのはカナだった。

 

カナ 「まさか私に銃を向けるなんて。キンジと私の力の差は歴然なのに、何故?」

 

 カナが俺に疑問を語り掛けて来るが、何度も言う通り俺にも理由は分からないし知らない。

 ただそう身体が動いた、それだけだ。

 

カナ 「駄目よキンジ。武器を見せてしまったら、自ら敗北へ突き進む要因になりうるわ。」

 

 パァン───!

 

 カナの手元から閃光が煌めくその刹那、俺の右耳の傍でヒュンッ!と一種の風切り音が発生した。

 俺は経験から音の正体を即座に把握する。

 頭から僅か数cm程の距離で銃弾が通り過ぎた音だった。

 そして発砲から遅れて身体が本能的に反応し、左側に大きくよろめきバランスを崩す。

 あまり広くない羽根の上でバランスを崩せば、足で支えれず羽根から落下する。

 だが本当にギリギリの所でベルト内蔵のワイヤーが羽根に引っ掛かり、事なきを得る。

 そしてカナを下から睨み付ける。

 さっきのは兄さんの持つ技の一つ、不可視の銃弾。

 昔に兄さんの知り合いから聞いた事がある。

 理論は知らないが、簡単に言えば銃が見えない銃撃だ。

 いつ抜き、いつ狙られ、いつ撃たれたのかが把握出来ない攻撃。

 カナが俺を見て。

 

 ───パァン!!

 

 再び手先から閃光が煌めく。

 しかし予想通り銃は見えない。

 そしてワイヤーに僅かな振動が掴む手に届き、俺は目を見開き驚愕した。

 編み込まれたワイヤーが一本づつだが、確実にほつれてちぎれ始めた。

 1mm以下のワイヤーを───掠めた、だと!?

 直接当てずに、わざと狙って掠めたなんて・・・・・

 クソッ!驚愕している暇はない。

 それにこのままだと、落下して死ぬのが目に見える。

 冷や汗を流しながら俺は地面に視線を下ろす。

 俺は死ぬのか?───いや、そんなのお断りだ!!

 手を動かし慎重に、慎重に、刺激や負荷を可能な限り与えずワイヤーを伝って昇る。

 

カナ 「今までのキンジではこんなのあり得なかった。イ・ウーは中でも外でも人を育てるのね。」

 

 イ・ウー。

 理子やジャンヌが所属していたらしい無法者が集まる組織名。

 カナからその単語が出るとは、つまりカナはイ・ウーに居たのか?

 真っ先に問い詰めたい所だが、この危機的状況から脱するのが先だ。

 

カナ 「その眼、キンジは不思議な子。何故この状況でもそんな感情を抱けるの?」

 

 カナが悩んだように俺を見下ろす。

 よし、あと少し!

 俺は後一回手を上げれば羽根に手が届くという最後って時に───

 

 ブツッ───

 

 今一番聞きたくなかったであろうワイヤーが完全に引きちぎれた音が鳴った。

 

 

 

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 そろそろ日の落ちる夕暮れ時、私は自室で特に考えもなくノートパソコンで適当な記事を閲覧していた。

 

大和 「ふーん。ロシアの奥深くで浮かぶ謎の創造物ねぇ。でも天候の影響でほぼ目撃情報はないんだ。ちょっと見てみたかったりするんだけど。」

 

 気になった物が見れないと知って少し残念に思いながら他のを漁ると、ある記事が目に留まった。

 

大和 「女子生徒が行方不明?」

 

 記事には東京都立日比谷高等学校の女子生徒が、およそ二日前から行方不明になっていると書いていた。

 誘拐にしても、強盗、立て籠り、殺害、放火、相変わらず何処の世界も犯罪が起こるのはあまり変わらないよねぇ。

 人は何処でも似ているものかぁ。

 んーと。さて、ちょうど時間的にご飯でも作ろうかな。

 私はノートパソコンを閉じて、台所の冷蔵庫を開ける。

 そして空っぽと呼べる冷蔵庫の中身でふと思い出す。

 

大和 「あっ、そう言えば食材は昼で使い切ったんだった。」

 

 どうしようかな。

 今の時間帯に買い物は人が多いんだけど。

 別に夜食べなくても問題ない、でも明日困るよね。

 仕方ない、買いに行こ───ッ!

 

 ヒュンッ!

 

 私は常備するナイフを抜き、その刃が素早く空を切る。

 そして空中からポトッと真っ二つにされたコガネムシが床に落ちる。

 いつも虫は捕まえて外に戻す私だけど、今回はしなかった。

 それはこのコガネムシから微量な魔力らしきものを感じたから。

 体積的にも精神的にも虫が魔力を持ってる事は稀。

 

大和 「魔力の集まる所ならあり得るけど?」

 

 これが偶然なのか狙ったものなのかはまだ判断できない。

 でも、何かしら良くない事が起きてるのは間違いない。

 しばらくは警戒度を上げておこうかな。

 そして少し辺りを警戒しつつ、大通り近くのスーパーで数日分の食品を買ったその帰り。

 私は狭い裏路地に繋がる建物の影で薄暗い小さな道から、何度も味わった雰囲気を感じ取った。

 この感じは・・・もしかして?

 ある懸念が浮かんだ私は、近くに設置されてたコインロッカーに荷物を置き、目立たないよう裏路地に足を踏み入れる。

 裏路地にはゴミは殆ど無く、何年も積み重なった埃で覆い尽くされ、人が足を踏み入れた形跡は見えない。

 一歩一歩足を踏み入れ奥に進むにつれて、日光が高い建物で際切られ、夜とまでは行かなくともかなり薄暗く視認性が悪くなる。

 裏路地に入って何十m近く進んだ所で、ある臭いを漂い始めた。

 鼻につく臭いに私は顔をしかめる。

 それは死骸の放つ独特の腐った腐敗臭だった。

 私は腐敗臭を嗅ぎ取った瞬間、無意識に気配を消し前進を続ける。

 次第に腐敗臭が強くなり、やがてグチャ・・・グチャっと肉質な物を潰す音が微かに聞こえてきた。

 そしてようやく路地の終わりが見え、ビル同士の間にできた広い空間が現れる。

 裏路地と空間の境目の角から頭だけを出して、広い空間を覗き見ると、そこには。

 

大和 「───やっぱり。」

 

 状況を一言で言うなら、二体の化け物が腐った肉片で遊んでいた。

 灰色がかった白色の大きな油っぽいヒキガエルに似ていて、その化け物には眼が無かった。

 代わりに奇妙な鼻づらの先に、ピンク色の短く動く触手が固まって生えている。

 ムーン=ビースト───私は心の中で化け物の名前を言った。

 他種族を好んで拷問する加虐嗜好の化け物。

 何処から取り出したのかが分からない槍で対象を串刺しにし、吸血鬼とまではいかなくても人の身体を容易に引き裂く筋力を持つ。

 それがムーン=ビースト。

 今の説明だとムーン=ビーストは吸血鬼に比べて劣る印象を受けるけど、吸血鬼よりも数が違う。

 酷い時には数十体単位が同時に集まる場合もある。

 今回は二体だけの感じかな?

 にしても、ドリームランドの月に住むのに何故ここへ?

 まぁどちらにせよ、早い内に対処しておこう。

 この世界に来てから始めてかな?するのは。

 正直何やらかすか分からないからしたくないし万が一があるけど、ムーン=ビーストの被害が大きくなる前に遂行した方がいいと判断する。

 私は目を瞑り、精神に刻み込むように念じた。

 宮川大和から宮川二等陸佐に命令する。

 面前の対象を排除せよ。

 副次命令、この事実を可能な限り消失させよ。

 その際、目撃者は兵民例外なく処理する事。

 命令は処理後、効力を失う。

 再度繰り返す。

 目の前の目標を“確実”に排除せよ。

 これは───命令である。

 

 ───宮川二等陸佐、命令を受託。

 行動を開始する。

 

 

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 メチャ・・グチャと肉が捻じ切られる異音が空間に漂い、何日も放置した肉の発する強烈な腐敗臭が鼻を刺激する。

 二体のムーン=ビースト達は、既に変色しウジの湧く腐敗する人だったものを引き裂いて投げたり、噛みつき遊んだ。

 しかし人間より遥かに強いムーン=ビーストは、白昼の表に決して移動しない。

 それはムーン=ビースト達は街中で堂々と人を襲うより、こうして隠れて遊ぶ方が一度に遊べる量は少なくとも、長い期間楽しめると理解していたからだ。

 そろそろこの肉片にも飽きて次の玩具を探そうとした時、コツコツと足音が聞こえる。

 ムーン=ビースト達は足音のする方を向き、人間だと分かって歓喜した。

 何せ彼らからすれば玩具が向こうからやってくるのだ。

 そして片方のムーン=ビーストが何処からともかく取り出した槍を手に持ち、人間に全力で投擲した───しかし。

 

ムーン=ビースト1 「グァ?」

 

 ムーン=ビーストは疑問的な鳴き声を発した。

 その理由は人間が砲弾に近い威力を持つ槍を正面から、しかも片手だけで掴み取り動きを止めたからだ。

 

宮川二等陸佐 「主任務内容、対象の排除。宮川二等陸佐───任務を開始。《GRASP OF CTHULHU (クトゥルフのわしづかみ)》」

 

 宮川二等陸佐が呪文を唱えた瞬間、ムーン=ビースト二体は何かに乗し掛かられたように地に伏せる。

 ムーン=ビースト側もこの魔術に力で対抗しようとするが、桁違いの出力に身体はおろか指先に至るまで動けない。

 続いて魔術を継続したまま、宮川二等陸佐は地に伏せたムーン=ビーストの片方の傍まで移動し、ヴラド戦で使用した魔術を施した銀ナイフを取り出し、ムーン=ビーストの頭部に突き立てる。

 

ムーンビースト2 「───ッ!?」

 

 そしてナイフを強く捻る。

 ナイフの刺さったムーン=ビーストは魔術の起こす圧力のせいで呻き声の一つも出せず、脳内をナイフでかき混ぜられ絶命した。

 次に宮川二等陸佐はナイフを丁寧かつ素早く抜き、残ったムーン=ビーストへ向き直る。

 その姿は武偵としての宮川大和ではない。

 かつて、死神の鎌として恐怖させた宮川二等陸佐がそこにいた。

 人間はムーン=ビーストに比べ遥かに下等であり、人類の叡知である銃火器は彼らには効果が薄い。

 しかし目の前の人間は、明らかにムーン=ビースト達より上級の空気を纏わせていた。

 残った方のムーン=ビーストが様子を大きく変化させる。

 恐らくムーン=ビースト界で始めてであろう。

 化け物が恐怖、恐れといった感情を抱いた事は───

 しかし悲しい事にそれを後生に伝える事は不可能。

 宮川二等陸佐は任務に関係しないムーン=ビーストの感情になど、意識の欠片すら向けない。

 そして体験したムーン=ビーストは、ここで死ぬのだから───

 全てが終わった時、宮川二等陸佐は床に落ちていた犠牲者のであろう一枚のカードを拾う。

 カードには、東京都立日比谷高等学校で通う生徒が載っていた。

 一通りを内容を記憶したら、手持ちのライターでカードを灰にし、そこらに転がる死体にに振り掛ける。

 

宮川二等陸佐 「《CONTACT RAT―THING(鼠怪物との接触)》」

 

 今度は壁の配水管や穴、マンホールから数十匹の鼠が現れ出す。

 現れた多数の鼠は大量の死肉を発見すると、死骸に集るアリのように貪り喰う。

 人間の腐敗した肉や化け物の死肉関係なく。

 しかしどうやら一匹の鼠が生きた人間である宮川二等陸佐に標的を合わせ見つめる。

 見つめるその鼠の顔はよくある鼠ではない、不気味な笑みを浮かべた人間の顔だった。

 その鼠以外の鼠も、ちゃんとよく見れば全部が人面鼠だ。

 一匹の人面鼠が生きた肉を捕食しようと飛び掛かり、正面から綺麗に真っ二つに切り裂かれた。

 しかし襲われた宮川二等陸佐は手はおろか微動だにしていない。

 そして新たに増えた食料に人面鼠達が集まり、人面鼠は我先に同族だったものすら喰らう。

 最終的に肉を喰らい尽くし、今度は骨を齧る。

 一匹が齧る骨の量はたかが知れているが、数が居れば急激に量が減っていき跡形もなく完全に無くなった。

 この広い空間に散らされた残骸は、肉片はおろか骨や床に撒き散らさせた血と体液すらも喪失していた。

 ここで宮川二等陸佐は次の段階に進めた。

 

宮川二等陸佐 「《DOMINATE(支配)》一列縦隊。」

 

 各自バラバラに行動している人面鼠が己の意思に反して一列に整列し待機する。

 人面鼠達が嫌だ嫌だと泣き叫ぶレベルに近い拒否を脳から流そうが、指令を上回る強力な命令で強制的に抑えてつけ意味をなさない。

 

宮川二等陸佐 「《CREATE GATE(門の創造)》」

 

 宮川二等陸佐はある魔術を発動する。

 しかし不思議と周りの見た目や様子に変化はない。

 でも宮川二等陸佐は気にも止めず、続けて人面鼠に指示する。

 

宮川二等陸佐 「そのまま前進せよ。」

 

 並んだ人面鼠がロボットように寸分狂わない動作で同時に前進を開始する。

 例え動きたくないと人面鼠達が拒否しても全く関係ない。

 そして摩訶不思議な事が起きた。

 先頭にいた人面鼠が突如消え去る。

 一匹目に続いて二匹目も姿を喪失させる。

 門の創造で作られた門は、何もしなければ直接視認は出来ないが門自体はそこに存在する。

 そして門の行き着く先は深い海中だろうか?

 高い天空だろか?

 この太陽系の何処からであろうか?

 はたまた遥か彼方の銀河であろうか?

 今それを知っているのは宮川二等陸佐だけだ。

 全ての人面鼠が消え門を閉じると、パッと見は綺麗になった。

 しかしまだ最後に臭いが残っている。

 だが宮川二等陸佐には現状臭いに対する直接的な対処法はないので、間接的に近づかせないように行動した。

 隠す予定のこの空間内で、目立たない端の箇所に石で円を描き、東西北南にたった今魔力を入れた石を配置し───

 

宮川二等陸佐 「《CIRCLE OF NAUSEA (吐き気の魔法陣)》」

 

 吐き気の魔法陣は一定範囲に、吐き気と不快感を発生させる魔術である。

 これでこの空間に近づこうものなら徐々に気分が悪くなり、通常であればUターンして帰るだろう。

 

宮川二等陸佐 「《CREATE BARRIER OFNAACH―TITH(ナーク=ティトの障壁の創造)》」

 

 宮川二等陸佐は裏路地に戻りナーク=ティトの障壁で空間を覆い、吐き気の魔法陣と合わせて物理的及び魔法的の二重の障壁を築く。

 その後は歩いて取れた床の埃の場所を目立たないように隠しつつ、大通りに帰った。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 うーん、まさか街中にムーン=ビーストがいるとは思ってもみなかった。

 荷物を持ち、普段通り帰宅しながら頭の中で思考する。

 この世界で真っ正面から殺めたのは始めてかぁ。

 勿論この事は公にはしない。

 私の身もあるけど、それよりもあれらを決して表に出してはいけないから。

 この全てを裏で処理しなきゃいけない。

 もし表に出てしまい世界に広がれば、数万人の一人位かな?精神的に耐えて生き残れる人の割合は。

 それに今回襲われた生徒さんは不幸だったとしか言えないね。

 親族の方々も、二度と生徒さんの姿を見られない。

 いや、完全に闇へ葬った私が言える立場じゃないよね。

 でも私が間違っているのは思わない、少なくとも現状に置いての私の正しいと対処法だと思う。

 これが最善の処理法であり、私の正義でもある。

 にしてもいろいろと損な役回り、でも私はその為にいるんだよね。

 はぁ~・・・・

 ひとまず寮の入り口に到着し、道中郵便受けの中にあった封筒を回収して階段を昇る。

 昇る途中特に考えず中身を取り出したら、訳が分からず困惑した。

 あれ、木の模様?えっ?この質感、やっぱり木だよね?なんで?

 封筒の中に何故か木材が入っている。

 って・・・あっなるほど。

 木材を封筒から取り出してようやく理解できた。

 本物の木材を極薄にして片面をコーティングした紙?珍しい種類もあるんだね。

 裏側を木材ではなく紙になっていて、そこには長々と文が書かれていた。

 それで中身は───

 最初に一番下に書いた人物の名前を見る。

 ───木材をコーティングした紙とかいう物を使うんだから、なんとなく嫌な予感はしていたけど、悪戯かな?

 しかし中身の文を読むに連れて私の表情は険しく変化する。

 これは、本当・・・?

 もし本当だとするなら、何故それを望む?

 実際嘘の可能性が高い気がするけど、内容的に一旦様子見が一番。

 そして様子見している今の内に、もしもに備えてある程度の保険を用意するべきかな。

 まずは───

 私はすぐに携帯からある人物に電話する。

 登録された連絡先を選択して、数コールして電話が繋がった。




犠牲になったトレジャーハンター:炎を纏った霊体に触れられた者は、焼死体として発見されるだろう。

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