カナさんとの戦いがあったその日の夜。
私は部屋の一角でソファーに寝転がりながら、この前ポストに放り込まれた手紙を再び一覧して悩んでいた。
これって、実際どうなんだろうね?本当ぽいけど罠って事もありそうだし。
手紙を片手に考えるその時、玄関の方から僅かな物音が聞こえた。
───誰か来る。
反射的に手紙を隠し手持ちのナイフを抜く。
侵入者を待ち伏せるの為に部屋の角で身を潜め、存在感知で侵入者を把握した。
って、なんだぁ。
入って来たのが誰か分かり、ナイフを片付けてその侵入者と顔を合わせる。
大和 「部屋に入るならせめてチャイム位鳴らして欲しいんだけど。」
アリア 「ふんっそんな事をいちいち気にしてられないわ。」
大和 「えぇ・・・まぁいいけど。」
部屋にズカズカと侵入して来たアリアは真っ先にソファーへ飛び込み、傍に置いていたクッションに顔を埋めた。
このアリアの一連の行動と雰囲気に私は首を傾げる。
んー?この雰囲気、なんか既視感があるのよねぇ。
暫し考えていると、思い当たった出来事に気が付いた。
あっ、ジャンヌ戦でキンジと喧嘩した時に似ているのかな?
とするなら、今度はキンジとアリアは何をやらかしたのかなって。
そう思いつつアリアに視線を合わせていたら、クッションに埋めている状態が虚しくなったのか携帯を取り出す。
アリアが弄り始めてすぐ、ボンッ!っと言う単語が聞こえそうな程驚きながら赤面し、咄嗟にクッションへ顔を埋める。
うーん?何故かアリアの頭から煙が吹き出してるように見える、不思議。
するとアリアがようやく私の存在を思い出したのか、狼狽しつつ睨みを利かせる。
アリア 「なななっ何見てるのよ!!アンタはさっさと食事の準備でもしなさい!!」
突如としてアリアから強烈な怒鳴り声をぶつけられる。
ただし口調や様子から怒っているのではなく、恥ずかしさでパニックになっている様に感じるね。
大和 「はいはい了解しましたよ。」
ここはちゃんとアリアの言う事を聞いて、台所に向かう。
流石に私の部屋で発砲されたら敵わない。修理も大変そうだしね。
でも、キンジにアリアと何があったか位は聞こうかな?
という訳で食事の準備と平行でキンジに電話する。
数コールして電話が繋がった。
キンジ 「・・・・大和か?何だ?」
携帯から少しトーンの落ちたキンジの声。
う、うーん。これは思ったより面倒そうな感じがする。
大和 「私の部屋にアリアが突入してきたんだけど、何があったの?」
キンジ 「それは、その・・・ちょっとした勘違いだ。」
大和 「ちょっとした勘違いねぇ。まぁ中身まで聞かないから安心して。ところで一つ聞きたかった事があるんだけど、カナさんって何者なの?」
キンジ 「あー・・・えっと、それはーだなぁ。」
予想通り歯切れの悪いキンジの言葉。
前もだけど、カナさんの話になると直ぐに言葉が詰まる。
そりゃあそうだよねって私は納得してはいるけど、言ってないからキンジは気づいてない。
ってあれ?カレー粉って何処に置いたっけ?あっここかぁ。
棚から見つけたカレー粉を机に置き、キンジとの会話を続ける。
大和 「だったら少し言葉を変えるよ。お兄さんはここに何をしに来たのか分かる?」
お兄さんと言う単語を出した途端、キンジから何一つ返答は帰って来なくなった。
恐らく向こう側で何故!って絶句してるのが簡単に想像出来るよ。
キンジ 「・・・なんでカナを、兄さんだと思うんだ?」
キンジ、その言い方だと正体言っているのと変わらないよ。
という考えを胸に仕舞ってあやふやな解答を返す。
大和 「私に不意打ちや奇襲は効かないよね。それは変装を同じ事。」
簡単に答えてキンジから向こうから返答を待つ。
まぁ実際のところ存在感知のお蔭分かったんだけどね。
というか普通に見れば大半の人は気付かないよね、あの変装のレベルは。
さて、キンジは一体どう返答するべきか頭をフル回転で動かしている頃かな。
結局キンジからの返答が帰ってきたのは一分位経った程だった。
キンジ 「本当悪い。何も言えないんだ、すまない・・・」
大変申し訳なさそうな声をしてキンジが謝る。
大和 「大丈夫大丈夫。誰でも答えたくない裏なんて一つや二つあるんだし。」
そうそう私だったら一つ二つどころか百でも全然足りない気が・・・絶対超えるね、うん。
キンジ 「あぁそうだ、大和。」
大和 「うん?何?」
キンジ 「何も答えられてない手前、こっちから頼みを言うのはどうかと思うんだが、近々カジノ警備の依頼があるんだ。参加してくれないか?」
・・・カジノの警備、今まで予定通りに進んで来たからそろそろと思ったけど、今のタイミング。
ここまで狂わず確実に事が進むなんて、内部に紛れているか?かなりの切れ者かな?
キンジ 「大和?」
大和 「あっうん分かったよ。」
キンジ 「はぁ~お前からOKが貰えて良かったぞ。何せアリアだと何をやらかすか分かったもんじゃなくてな。」
大和 「それ、アリアに聞かれたら多分撃たれるよ?」
という事でカジノ警備をする七月二十四日までに保険事を済ませたり、途中でアリアとキンジが仲直りしたり、白雪がキンジを取られたと半泣きで嘆いていたりと・・・色々な意味で物事があったかな。
あと不知火経由で聞いたんだけど、何か武藤がキンジの携帯をかっぱらってアリアに祭りに行こうとメールを送ったらしい。
これであの日携帯使用中に恥ずかしそうにした理由に納得したよ。
それで今日はカジノ警備の日なので、その名の通り私はカジノにやって来た。
依頼メンバーはキンジにアリア、白雪、レキ、そして私。
キンジは客の変装、アリアと白雪はバニーガール、レキはディーラーらしいね。
というかレキやキンジはともかくアリアは、紅鳴館でメイドしていたし多分大丈夫だよね?
それより正直白雪が不安だなぁ。
しかも露出の多いバニーガールを恥ずかしがりの白雪がするのは向いてないんじゃ?
まぁなるようになれだね
でもある意味私はバニーガールじゃなくて良かったよ。
私も露出高いのは遠慮したいし、武偵高のミニスカートですら結構恥ずかしいんだよ。
まぁそんな事は後にして、私は何の変装かと言われると。
私が変装したのはバーテンダー。
近くの大きな窓から沿海の見えるバーを警備しているよ。
バーは情報が集まり易く、人の動きもよく分かる丁度良い場所。
でもバーテンダーをする場合はお酒が作れないといけないという制限がある。
私はお酒が飲めないけど、前は友人にお酒をよく作らさせていたから幸いだったよ。
お酒の作れないバーテンダーなんて、いる意味がないし。
客1 「バーメイド。ホワイトレディを。」
大和 「はい。」
お客さんからオーダーを受けてまず最初にカクテルグラスに氷を入れてグラスを冷やし、シェイカーにメジャーカップで測ったジンとコアントローとレモンジュースを入れて軽くかき混ぜる。
ちなみにコアントローって言うのはオレンジを使ったお酒の事。
そしてシェイカーを振る前に予めグラスに入れた氷を捨て、次にシェイカーに氷を投入したら、横を向いて振る。
大体二十から三十回を目安に振り終えてグラスに注ぎ、お客さんの前に出す。
大和 「ホワイトレディになります。」
客1 「おう。」
こんな感じにお客さんに対して注文を受けお酒を出すのも依頼の一つ。
案外バーテンダーも悪くない。
すると今度は若い社長のような人物がカウンターに座り、私に視線を動かす。
その視線で察した私はその社長さんの前に移動したら、社長さんが先に口を開いた。
社長 「さっぱりしたノンアルコールで頼めるか?あまり酒は得意ではないんだ。」
大和 「了解致しました。」
あっさりしたノンアルコールならモスコミュールとか?
えーと、ジンジャーエールは二種あったっけ?
大和 「甘めと辛めの両方がごさいますが。」
社長 「甘めで頼む。」
大和 「はい。」
コップを用意しカットしたライムと氷を投入。
シロップをちょっとだけ入れ、ジンジャーエールを注ぎ一回だけかき混ぜる。
大和 「こちらモスコミュールになります。」
社長 「あぁありがとう・・・これ旨いな!」
大和 「ありがとうごさいます。」
社長さんはコップの半分辺りまで飲んだ後、軽い会話を投げて掛けてくる。
社長 「にしても流石カジノだけあって人が多いな。いつもこんな感じなのか?」
大和 「はい。毎日大勢の方に来て頂いています。」
社長 「それは良い事だ。じゃあ最近はどういう人が良く来るんだ?」
社長さんからの質問に、少し首を傾げてから答える。
大和 「最近は砂遊びが好きな方が多い印象ですね。」
社長 「砂遊びか?これはまた妙な奴がいるもんだ。他に面白い人物はいるのか?」
大和 「そうですねぇ。そういえば斧のコレクターの方もいらっしゃいましたよ。」
社長 「斧か・・・分かった。世の中には変な趣味を持つ人がいると知れて良かったよ。それじゃあ俺はそろそろまた稼ぎに行かして貰おう。」
社長さんはコップの残りを飲み切り、席から立ち上がる。
大和 「またのご利用をお待ちしております。」
お辞儀をして頭を上げた頃には、社長さんは離れて見えなくなる。
コップを片付けながらさっきの社長さんの事を思う。
うんうん、キンジの変装もなかなか様になっているね。
客2 「おーい、こっちにも同じものを!」
大和 「はい!」
他のお客さんへキンジに出した同じモスコミュールを作る。
取り敢えずこんな感じに仕事?警備をしていると、遠くのフロアからガラガラガッシャーンっと激しい物音が届く。
客達 「なんだなんだ?」
バーに居たほぼ全員が音の原因が気になり席を立った瞬間。
客3 「化け物だぁぁぁ!!」
一人のお客さんの叫びと同時に二階から裕福そうな人達が入り口へ全速力で逃げる。
するとその光景を見てしまった人達も疑心から動揺してパニックに陥る。
誰もが我先にと足を動かし、入り口の近くまでパニックが広がる。
────遂に動き出した。
そう判断した私は、隠し持っていたFN5-7と銀ナイフを回収してカウンターを出る。
そしてバーの中でただ一人動じず、逃げようともしないフードを被ったお客さんの元に行く。
大和 「お客様。この場所は危険な為、直ちに避難をお願い致します。」
客4 「・・・・・」
お客さんは何も言わず、立ち上がるとフードの下から半円型の斧を取り出し私へ横薙ぎに振る。
振った時にフードの隙間から見えたお客さんは、どう考えても人間じゃない。
漆黒の皮膚にイヌ科動物の頭、でも体は人間。
私はその特徴にそっくりなものを知っている。
古代エジプト文明のアヌビス神、だと。
最初から気付いてアヌビスを泳がしていた私は、アヌビスの攻撃を身を低くし回避し左手のナイフを高速で突き出してアヌビスの心臓の部分を突き刺す。
肉体と違う、砂に刺すような感覚。
刺されたアヌビスは硬直し、やがて体が崩れるように崩壊する。
やっぱり構成物は砂、というよりは砂鉄の方が正しいかな。
肩に掛かった砂鉄を払い、ナイフの先端に刺さったまま絶命する虫を観察する。
この虫は、以前私に忍び寄ろうとした虫と同じ。
これが制御装置の役割を担っていて、この砂鉄は手足って所だろうね。
虫を捨て、キンジ達と合流する為二階に昇る。
階段の途中で二階のフロアから大量の銃声が轟く。
駆け上がる速度を上げ、銃声のする特等フロアへ向かうと。
う、うわぁ・・・相変わらず派手にやっているねぇ・・・・
安心したと言うべきか分からないけど、天井に張り付くアヌビス数体を相手に、回転するシャンデリアで砲台と化したアリアが銃弾の雨で連続的に仕留め、アヌビスは床に落下、砂鉄に変わる光景が広がっていた。
これはアリアに任せて良いと判断して奇妙な光景を尻目に、壁に寄り掛かって気絶していた白雪の方に急ぐ。
大和 「レキ。白雪は大丈夫?」
白雪を背にして守るように立つレキに白雪の容態を聞く。
レキ 「軽度の脳震盪を起こして気絶しています。命に別状はありません。」
直接白雪の気絶場面を見た訳じゃないけど、レキがそう言っているなら多分間違ってないよね?
とするなら───
懐から赤と緑の札をポケットから取り出す。
脳震盪状態で覚醒させるの危険、ここは緑一択。
白雪の鎖骨部分に選んだ札を張ると、札は徐々に色を失い白くなる。
レキ 「何をしているのですか?」
大和 「治癒って言っても信じてくれないよね。取り敢えずこれで起きた時に違和感はないはず。」
そして真っ白になった札を剥がしアリアの方を向こうとした瞬間。
??? 「キャァアアッ!!」
一階の方から女性の悲鳴が響き届く。
声は私の来た階段からは別の方向、あの悲鳴から察してあまり時間はない。
それに今直ぐ動けるのは私だけ。
大和 「レキ、白雪は任せたよ。」
レキ 「大和さんこそ気を付けて下さい。貴方に良くない風を感じます。」
レキの警告を頭の片隅に入れつつ急いでフロアから飛び出る。
下に降りるなら階段より飛び降りた方が早い。
手摺を越え、下の階の床に五点着地で衝撃を分散しつつ着地。
そして降りた先には、今まさにアヌビスに斧を振り下ろされそうになる女性の姿が視界に入った。
私は即座にFN5-7をアヌビスの背中に一発の銃弾を撃ち、アヌビスが完全に振り返る前に全力で駆け抜け、左手で斧の柄を握り、FN5-7を納めて代わりにナイフを取り出した右手でさっきと同じく心臓を突く。
心臓を突かれたアヌビスが砂鉄に変化したら、左手の斧をそこらに捨てて女性に手を差し出す。
大和 「お怪我はありませんか?」
女性 「あっありがとう。ヒッ!」
女性の見る先、フロアの奥から追加で現れたアヌビスに女性は小さな悲鳴を漏らす。
あのアヌビスは奥からは来たけど、カジノの入り口側には・・・アヌビスはもう居ない様子。
入り口まで女性一人で逃げれると考えた私は、畏怖の表情をする女性に対し念のために青の札を持たせる。
大和 「これを持って入り口へ早く逃げて下さい。信じにくいでしょうが、それは貴方をあれから護る御守りです。これで貴方は安全に出れるはずです。」
女性 「えっ?で、でもそれじゃあ・・・!」
大和 「私は武偵です。民間人を護るのが仕事です。急いで!」
女性 「あっはい!」
女性は大慌てで入り口へ全力で走る。
青の御札を握り締める限り、アヌビスはあの女性には近寄れない。
大和 「さてと。」
正面にはアヌビスは二体、FN5-7の弾だと効果は薄い。
だからまずは懐に潜り込む。
私はアヌビスに向け突撃し、それぞれのアヌビスが斧を振りかぶり迎撃しようとする。
斧はその大質量と遠心力で強力な武器だけど、咄嗟の行動や至近距離での小回りは利かない。
アヌビスの斧が振り下ろされようとした時には既に懐に潜り込み、右側のアヌビスの腕をナイフで切り落とし空中でナイフ左手に持ち替え、空いた右手で斧の柄を掴み身体を力の限り右に回転を掛ける。
すると身体の動きに合わせて斧も大きく右回転。
斧は隣に居たアヌビスの胸辺りを直撃する───が、大量の運動エネルギーを持つ斧は止まらずアヌビスの体を上下に切り分け、次に腕を斬られた方のアヌビスの背中に刃がめり込む。
こうして二体のアヌビスは砂鉄の山へと変わる。
しかし───
大和 「まだまだ居るの?」
スロットマシンの影にアヌビスが隠れているの発見、それも複数体。
あのアヌビスは生き物ではなく、魔術的なロボット。
つまり、武偵法九条の「武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない」に反しない。
既に手を付けている手前だけどね。
それに私は護るのも無力化も得意───だけど、それ以上に殺しに特化したのが私。
逃げられると民間人に被害が出るかも知れない。
もしかしたらキンジ達の所に行くかも知れない。
だからさぁ───大人しく殺させて?
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
大和がアヌビスと戦闘中、それを二階の吹き抜けから戦闘を観察する者がいた。
??? 「あの戦い方。」
五体のアヌビスを相手に、大和は完全に優位に戦っていたと言えるだろう。
一対多の戦いで誘導及び妨害で孤立させ、一体のアヌビスに対し死角からの奇襲を行った。
??? 「日本の武偵は武偵法九条の縛りで心臓などの弱点攻撃に躊躇する場合が多い。躊躇しなくても無力化ではない行動では高いパフォーマンスを維持できない。」
アヌビスからの攻撃を他のアヌビスで盾のように使い、同士討ちを恐れ攻撃出来ないアヌビスに、心臓一点のみを正確に素早く攻撃。
攻撃して後はすぐに距離を取り、一体一体確実に仕留め、決して深追いをせず一撃離脱に徹する。
??? 「いや、違うわね。寧ろあの子は無力化より動きが手馴れている。武偵の動きじゃないわね、まるで軍人の動き。やはり危険だわ。」
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
アヌビスの背中からナイフを突き刺し、五体目のアヌビスは崩れる。
これで最後───にしても。
戦闘後のカジノの惨状を確認する。
あーあ。豪華な絨毯やスロットが傷だらけ砂鉄だらけ。
この事件が終わればカジノ内を片付けるんだろうけどねぇ、特に砂鉄は掃除大変だよ。
特に砂鉄の舞った絨毯は掃除より捨てた方が早いと思う。
などとカジノの悲惨な現状を思っていたら。
コツッコツッコツと、足音が入り口側から鳴る。
戦闘の観察は終わったから次の段階へと言う事なのかな?
大和 「会ったのはこれで三度目。面と向かってなら二回目ですね。出来れば私は戦いたくないんです。」
??? 「あらあら?一体どの口が抜かしているのかしら。」
大和 「私は平穏に暮らせたらそれでいいんですが。」
足音の発する人物へ振り向き、視線を合わせる。
大和 「お久しぶりです。カナさん。」
人への心を理解した大いなる∶彼は俺に変な銃を渡した。彼は「私はこの世界に居過ぎた。見捨てる事が出来なくなってしまった。」と。