8:緋弾の少女
山から姿を表した朝日が街を少しづつ照らし、街灯は朝日に登場に反してその灯火を失う。
そして日が昇るにつれて日射しの角度も高くなり、やがて部屋の窓枠から漏れた日光が顔に当たった眩しさで、意識が覚醒する。
大和 「んー、朝かぁ~。」
何時も通りの時間に起きて私はベッドで上半身を起こし、腕を上げて背筋を伸ばす。
次に壁に掛けてある時計で時間を確認する。
よしよしほぼ六時を指しているね。
一応設定していた携帯のアラームを解除してから布団を片付け、洗面台で顔を洗ってタオルで顔を拭いている時、一つの出来事を思い出した。
大和 「あ、今日から学校だっけ。」
昨日も含めて春休みの間、ほとんど任務を入れていたせいで完全に忘れていたよ。
まぁ大学にみたいな単位制だから、別に始業式に出る必要性はないんだけどね。
取り敢えず東京武偵高に行く前に色々準備が必要。
朝の食事が終え、愛銃であるFN5-7を分解整備する。
銃の整備はこうして毎朝欠かさず整備するのが、武偵にとっての日課。
もし危機的状態で弾が出ないとかなったら命に関わるからね。
銃の整備に一時間位掛けて完了した。
大体七時になったら防弾制服を着て、銃やその他のチェックを確認したら部屋を出る。
寮の出入口を通って、バス停を素通りして徒歩で武偵高に向かう。
少し早い時間だから車や歩行者はまだ多くない。
私は普段からバスや自転車を基本使わない。
どうしてかと言われると、歩いている瞬間が何となく落ち着く気がするからかな。
武偵高の途中にあるコンビニやモノレールの駅を横目に通り過ぎると、海に浮かぶようなビル群が遠くに見えてきた。
レインボーブリッジの南側にある、南北2km、東西500mの人工浮島に上に私の通う東京武偵高校がある。
今日から二年生、今年はどんな出来事があるのかな?
まぁ私としては平穏が一番なんだけどね。
私のそんな呟きによるものかわからない。
と言うか多分関係無いと思うけど、ある少女が私達の前に表れた。
────神崎・H・アリアの名を持つ少女が。
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始業式終了後に教室でHRをする為に皆が教室に戻る最中、他の生徒に紛れて入学式に参加してなかったキンジが入ってくる。
キンジは自分の席に座り、憂鬱な顔をしつつ頭を抱えていた。
そんなキンジを自分の席から何があったのか悩みながら眺める。
えっと・・・かなりテンションが低いけど、どうしたんだろう?
私はキンジがこうなる原因を幾つか思い浮かべると、類似した出来事を思い出し理解した。
あーこれはあれだね、凄い久しぶりにヒスったパターン。
予想だけど、入学式の途中に遠くから爆発音がしたから、恐らくキンジも巻き込まれてなっちゃったんかなーて思う。
多分違うと思うけどねぇ。
ゆとり先生 「皆さ~ん、席に着いてください。」
どうやらHRを開始するようで、私達2年A組の担任の高天原ゆとり先生が教室に入室する。
ゆとり先生は唯一ここでまともに話ができる先生で、明らかにここにいるような先生じゃないから、過去に何かありそうなんだよねぇと考えた事もある人物。
とは言え、別に調べるつもりはないよ。
全員が席に着席したのを確認して、ゆとり先生は嬉しそうに前置きをする。
ゆとり先生 「うふふ。じゃあ早速、去年の三学期に転入してきた子から自己紹介してもらっちゃいますよー。」
男子生徒達 「おー!!」「やったぜッ!!」
ゆとり先生の前置きに、一部の男子がとても嬉しそうにテンションを上げて叫んだ。
皆は知っていた様子だけど私には初耳だった。
転入生?ゆとり先生が言うには三学期から入ってきたんだよね?
その時期任務ばっかりで殆ど武偵高に顔を出してなかったから知らなかったよ。
一体どんな子かな?
廊下からゆとり先生に呼ばれた転入生が教卓へ上がる。
一目で気になった点は、身長147cmの理子と同じくらい背が低く、ピンク髪のツインテールをした子だった事かな。
転入生は教卓に上がって教室を一望した途端、突如キンジを指を指して予想もしない爆弾を投下した。
転入生 「先生、あたしはアイツの隣に座りたい。」
・・・・・んっ?あれ?
転入生の言葉が原因で、教室全体の時間が一瞬止まったように感じられた。
時間が数秒か経ち、爆弾の意味に気が付いたクラスの生徒は一斉にキンジに視線を集め、歓声が教室に広がる。
一方、転入生に対してキンジは絶句し椅子から転げ落ちる。
これはキンジにとって最悪と言わざる終えないよね。
えーとキンジ、ドンマイ。
キンジにとっての不幸に私は苦笑いでキンジを見る。
武藤 「よっ・・・良かったなキンジ!あんな転入生から指名を受けるなんて。先生!オレ、転入生さんと席変わっても良いですか!!」
キンジの右隣の席に座る武藤は、まるで自分自身に幸運が舞い降りたように倒れるキンジの手を握り締め、大きく振り回し満面の笑みで席を立つ。
きっと武藤にしてみれば、キンジと転入生に配慮しての何気ない行動だったんだろうね。
ただキンジにとっては頭を抱えるを通り越した最悪な行動だったんだけどなぁ。
ゆとり先生 「あらあら♪最近の女子高生は積極的ねぇー。武藤くん、席を代わってあげて。」
ゆとり先生は嬉しそうに転入生とキンジを交互に視線を動かし、武藤の提案にOKしてしまう。
わーわー!!パチパチ!!と、教室では拍手喝采が始まった。
既に手に終えない面倒な雰囲気の中、転入生はキンジの前に立った瞬間に更なる燃料を投下する事態を引き起こしたよ。
それもガソリン並みの奴を。
転入生 「キンジ。これ、さっきのベルト。」
新入生がキンジにベルトを放り投げた。
そのアクションを視界に捉えてしまったキンジの左隣の席に座る理子がガタン!と椅子から元気よく立ち上がって声を張り上げた。
理子 「理子分かった!分かっちゃったぁ!───これ、フラグが何本も立っているよ!」
どう考えても嫌な予感を漂わせる理子を止めてとキンジは、私へ助けてと視線を合わせる。
しかし私一人じゃあ止めるのは無理なのは明白。
ごめんねキンジ、流石にこの流れに逆らうのは厳しいよ。
んー、転入生も転入生でどうして追加で燃料を投入するのかなぁ。
私は手を軽く振って無理と合図を送る。
理子 「キーくん、ベルトしてない!そしてベルトをこのツインテールさんが持ってた!これ、謎でしょ謎でしょ謎だよね!?でも理子には完璧な推理できた!できちゃったの!」
理子は兎みたいにぴょんぴょん大きく跳び跳ねて、自身の推理を面白いそうに解説する。
理子 「キーくんは彼女の前でベルトを取るような何かしらの行為をした!そして彼女の部屋にベルトを忘れてきた!つまり二人は───熱い熱い、恋愛の真っ最中なんだよ!」
残念ながら理子の推理は間違っているんだけどぉ・・・
私はキンジがそんな事をしないと言うか出来ない性格なのは知っているよ。
でもそんな事情を何も知らないクラスの皆は、理子の推理に呼応して大盛り上がりに盛り上がってしまう。
あーこれは止められないですね、はい。
キンジ 「お、お前らなぁ───」
キンジが頭痛そうに何かを言おうとした瞬間に、クラスメイト数十名の歓声を一瞬で上書きする重い金属的な衝撃音が、教室内で二回鳴り響く。
大和 「────!? 」
───パパァン!!キィンッ!
突然の銃声には、クラス全体を一気に凍り付かせるには十分な効果があった。
そして文字通り誰も動こうとしない。
銃声の鳴った中心には、右手に白、左手に黒のコルト・ガバメントを握り締め、自身の髪以上に真っ赤に染まる新入生の姿が───
て言うか危ないよ!
転入生の撃った弾の片方が教室の壁で跳弾して、私に飛んで来た。
咄嗟に手持ちのナイフの側面で跳弾させたから良かったけど、私以外だったら大惨事になっているところだよ。
しかも頭部コース。
転入生へ言いたい事が一つ。
むやみやたらにトリガーを引く意味分かってやっているのかなぁとね。
転入生 「れ、恋愛なんて────くっだらない!」
カラン・・カラン・・・・
拳銃から排出された空薬莢が甲高い音を立てて転がり、教室の静けさを更に引き立たせる。
あのムードメーカーの理子ですら、ロボットのカクカク移動で綺麗に着席する。
転入生 「全員覚えておきなさい!そういうバカなことを言うヤツには───」
それが神崎・H・アリアが、クラス全員に発した最初のセリフだったよ。
アリア 「──風穴開けるわよ!」
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最悪な始まりだよ畜生。
朝っぱらから神崎とか言う奴がバンカーバスターを落としやがった。
絶対昼休みになると間違いなく二人を除いた全員から、大量の質問責めを食らう羽目に陥るだろうと読めた。
なので授業終了のチャイムが鳴った瞬間、速攻で理科棟の屋上に退避してやった。
たく、なんでこんな事になったんだろうな・・・はぁ・・・・
俺が今日何度目か分からない溜息をついていると、何人かの女子の声がふと聞こえてきた。
今朝の出来事があった事で反射的に俺は近くの物陰に隠れる。
三人の女子は屋上へ登って来た後、適当な場所に腰掛けて話し続ける様子か。
時間が掛かりそうだ、早く居なくなって欲しいんだがなぁ。
女子1 「さっき教務科から出てた周知メールにさ、二年生男子の自転車が爆破されたってやつあるじゃん。あれキンジじゃない?」
女子2 「あ、あたしもそれ思った。今朝の始業式に出てなかったもんね。」
女子3 「うわっ!今日のキンジってば不幸。チャリ爆破されて、しかもアリア?」
予想はしていたが、俺の話題が出て無意識にすげぇ嫌な顔をしてしまう。
しかし階段は女子達の方向、かといってここからワイヤーで地上まで降りる訳にも行かず。
悲しいがこのまま静かに身を潜めるしか俺には選択はない。
女子1 「さっきのキンジ、ちょっと可哀想だったね。」
女子2 「だったね。アリア、朝からキンジの事を探り回っていたし。」
女子3 「あ。そういえばアリアに聞かれたんだけど、キンジだけじゃなくて、大和さんの事も聞いていたんだけど。」
んっ?なんでこの会話で大和が出てくるんだ?
女子1 「えっ!それってもしかしてトライアングル?」
女子2 「うっわぁマジでキンジにラブなんだ。」
うーん、なんでこの会話で楽器が出てくるんだ?
理子とかなら問題ないんだろうけど、俺にはガールズトークは理解出来ん。
・・・いや、理解しない方がいいかも知れない。
違うな、俺にしてみればじゃなくて間違いないか。
しっかしなんで神崎が大和の情報を得ようとしてるんだ?
元パートナーだったからか?今度話で聞いてみるか。
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夕方になってようやくクラスのバカどもから解放され、自室のソファーに体を沈め。
はぁ、ようやく休める。
今日はチャリジャックは起こるわ、ヒスるわ、アリアに身元調べられるわ、クラスメイトに追い掛け回されるわ、今までで二番目位に散々な一日だったぞ。
ピンポーン。
んっ誰だ?今めちゃくちゃ疲れているんだが。
正直動くのが面倒で居留守でも使ってやろうかと思ったが、後々更に面倒な事なりそうだな。
自分の不幸を呪いながら身体に鞭を打ち、大人しく出る事にした。
キンジ 「誰だよ・・・」
嫌々顔の俺がドアを開けると、外ではレジ袋を持った大和が立っていた。
大和 「少しお邪魔するよ。」
キンジ 「何の用事だ?」
大和 「話は後、ここ男子寮だから見られると面倒な事になるよ。」
なら来んじゃねえよ。
まぁ今は神崎の事もあるし、確かにバレたらいろいろ面倒だから入れるけども。
大和を部屋に上げたら、キッチンへ一直線に移動した。
キンジ 「何してんだよ。」
大和 「キンジ、疲れてそうだったらご飯を作ってあげようと思って。どうせ今日もコンビニとかで済ませる気だったんでしょ?」
キンジ 「まぁそうだったが。」
大和 「これでもバレないように裏から屋上に登って、そこからラペリングして来たんだけどね。」
地味に面倒な工程で来てんじゃねぇよ。
大和はそう言いながら、レジ袋から椎茸やゴボウとかを取り出し表面の土を水道で洗い流したりして料理を作り始めた。
暇な俺は、大和の後ろから手際良く料理する様を覗き込む。
今一度考えてみれば、さっきは疲れから大和を帰そうとしたが、こうして飯を作ってくれるのは正直助かるんだよな。
それに俺が作るより旨いから料理出来る奴はすげえよ。
などと感想を抱いていると、今朝部屋にやって来た白雪が一緒に持ち込んだ朝飯及び重箱を部屋の隅に見つける。
朝は時間がなかったから忘れて行ったのか、今度白雪に返さないと。
きっとこの事をクラスの連中が知った暁には、どっちが旨いんだ!と目の敵にされるのが想像付く。
しかし残念ながら俺にはどっちが旨いかは決められない。
何せ二人の料理はそもそも方向性が異なる。
今朝食った白雪の料理が丁寧に作る高級料亭とするなら、大和は安心できる親の家庭料理って感じだ。
現状俺のこの錆びた心を癒してくれそうだ。
大和 「キンジは今日の出来事をどうするの?」
大和が野菜を切る片手間で言葉を投げ掛けて来る。
キンジ 「どうするって、何をだ?」
大和 「例えば、神崎さんの事。」
あぁーそう言えば俺の事を調べているって言ってたし、今後の為にも考えて置かねえーと。
待て、つーか昼間に女子達の会話で大和も調べられていたって言ってなかったか?
ある意味運良く本人が目の前にいるから丁度良い。
キンジ 「なぁ大和。お前も調べられていたらしいが、心当たりはあるか?」
大和 「いや無いよ。そもそも私は神崎さんとも今日初めて会会ったし。でも朝の時に、何度か観察される視線を感じたからあまり良い予想は出来ないね。」
大和は迷わずほぼ即答で答えた。
うーん?やっぱりあいつの行動パターンがイマイチわからん。
ふむ。あいつの事だから、朝みたいに突拍子の無い行動をするかも知れんのが頭痛いぜ。
ピンポーン。
本日三度目のチャイムが鳴る。
白雪、大和と来て今度は誰だよ一体?
キンジ 「今日はやけに訪問者が多い日だ。」
重い腰を持ち上げキッチンから玄関に向かう。
ピンピンピンポーン。
ちょっ連打するな!うるせぇ耳に響くっ!
チャイムの大音量が俺の鼓膜にダメージを与えている気がする。
ピポピポピポピポピピピピピピピンポーン!ピポピポピンポーン!
キンジ 「うるせぇな!誰だ鳴らしまくる奴はっ!!」
俺はドアを乱暴に開け、その迷惑者を一喝入れてやろうかと思っていた。
しかし一喝入れる前に、何故そこに居る心から迷惑な張本人がふんぞり返って言い放った。
アリア 「遅いッ!!アタシがチャイムを押したら五秒以内に出る事!」
両手を腰に当てて、赤紫色のツリ目を吊り上げ睨んでくる。
キンジ 「か、神崎!?」
神崎の登場で、チャイムに怒る前に戸惑いが先に出てしまった。
なんでこいつがここに来るんだよ!?訳が分からねぇ!!
アリア 「アリアでいいわよ。」
そう言うと、アリアは靴を玄関に脱ぎ散らかし勝手に部屋に突入する。
キンジ 「お、おい!」
俺の制止を全く気にも止めてねぇ!
マジで何なんだこいつはぁ!!
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
アリア 「あら?なんかいい匂いがするわね。あっ、アンタいたの。」
私が台所で筑前煮を作っていたら、キンジの部屋に新入生もとい神崎さんがお邪魔する。
・・・キンジに失礼だし今の私が言うのなんなんだろうけど、神崎さんはここに何の用事があるんだろう?と思ったよ。
あれ?そもそもさっき玄関で口論になってなかった?
大和 「神崎さんどうしたの?」
アリア 「だからアリアでいいわよ、二度も言わせないで貰える?でもラッキーだったわ、これで手間が省けた。」
キンジ 「おいおい、いきなり入って来てなんだよ!」
キンジが制止を聞かず乗り込み、そしてHR事件の張本人とだけあって珍しく怒りを持ちつつ叫ぶ。
アリア 「アンタ達、ここに二人で住んでるの?」
しかし残念ながら、アリアはキンジの叫びを軽く無視して勝手に話を進める。
キンジはもう何を言ってもしょうがないと実感し、諦めた様子で言葉を口にする。
キンジ 「はぁ・・・そもそもここは男子寮だからな。俺だけだ。」
アリア 「そう、なら良かったわ。それじゃあアンタ達──」
その時私の感が大きく囁く。
あっちょっと待って嫌な予感が───
アリア 「アタシの奴隷になりなさい!」
そう高らかに宣言した。
敵同士の同族:もし貴方の近くに広大な洞窟があるならば、近寄らない方がいい。人ではないものに食べられてしまうからな。