巌のような身体。鋼のごとき肉体。身につけているのは腰ミノと巨大な石剣。いや、斧とも剣とも表現し難いそれは、しかして彼の暴力的なまでの圧倒的武力を象徴しているかのようだった。
ヘラクレス。
正規の聖杯戦争であれば、勝利が約束されうる
そんな彼は、手足の先が黒く、首を絞めるようにまとわりつく黒い
そこにジャリ…と瓦礫を踏みしめながら近付く一つの影。
手には一振りの日本刀。
その眼光は鋭く、無銘の業物たる愛刀にも劣らない鋭さと鈍い輝き。
政文は、一つ軽く息を吐き。そして。
「参る」
ドンッ!
音がする。瞬間、彼我の距離を半分に、刀を構えた政文が迫る。敵はいつの間にか、斧剣を構え、いつでも迎撃せんとする体勢となっている。
ーーーーー構うものか。
距離が詰まる。三足長。まだ遠い。
しかし敵にとってはそうではなかった。そこから僅かに踏み込んだ、瞬間、来た。
一息に荒れ狂うように乱れ切り刻む剣戟の嵐。
間髪入れずに一太刀合わせーーーーー後ろへ翔ぶ。
ザリッ、と大地を踏みしめながら睨むと、敵は悠然と、ともすると泰然と、斧剣を地面に片手で突き立てて立っている。まるで構えていないようで、その実即座に戦闘に移ることが出来るーーーーー。
実に厄介極まりない。が。
「ーーーーーふ」
そんなことは知らぬと言わんばかりに、政文は口の端を吊り上げた。そうでなくては。
ここに来るまでに斬ったものども。人骨のスケルトン、影のような人型、人以外の骨から出来た兵士。どれもこれも、彼の闘争本能を満たすものは居なかった。だが。
「ようやくだ」
見つけた。自身の命に釣り合う結び手。斬り合うにふさわしい技量の持ち主。自我があるようでないような、いまいちよくわからない感触ではあるがーーーーー、
「充分だ」
ドンッ!と。
再び政文は地を駆ける。先ほどよりも速く。低く。鋭く。
再びの迎撃。
もう一度合わせて飛び退こうとしてーーーーー、
「チッ!」
追い付かれる。先ほどよりも速くなったことを警戒したか。必滅の意志が狂気に染まった瞳の中に見え隠れする。左手がこちらを捕まえんとして構えられたまま、こちらへと迫り来るその圧力や。しかし。
「フッ、クク…」
見える。僅かに傾いだ縦一閃。斬りの目。斬れる間合い。自らの距離。一刀一足。ここだ。
シン、と静かに、されどその巌がごとき肉体を確実に斬る、その一閃。
振り切ったと同時に悟る。
(浅い…!)
再びの仕切り直し。
だがここで政文は気付いた。
目の前の相手の技量は自らよりも高く。
ともすれば、死ぬかもしれないということに。
「フフフ…!」
狂気的な笑みがこぼれる。
確かに己は死ぬかもしれない。だが、斬り結んで分かった。
「良い…!良いぞ…!!」
一閃。
捌き切れないーーーーーそう感じた時には、斬りの目をただ斬る。
そして、やがて一合、二合と、捌ける剣戟の数が、ほんの僅かに、されど確実に。少しずつ、少しずつ増えてゆく。
永遠にも思えるほどに斬り結び、ついに五合まで応じられるようになった瞬間。
死角から飛来する何か。意識の間隙を衝く、見事なまでの不意討ち。
だが。
不意討ち、奇襲上等。かつて転がり込んだ江戸の街では、新撰組がその戦法を多用した。
「ーーーーーフン」
敵の脇をすり抜けるように跳び抜ける。その巨体が己に反応すれば飛来する攻撃をその身に受ける軌跡。
だが、政文は測り間違えた。
飛来した何かは、巨体を巻き込むようにして突如爆発した。