それでもなお、闘争を求め   作:逸般ピーポー

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じわです


飛来

「ぐっ…!」

 

爆風とともに、瓦礫に吹きとばらされた政文は、それでもなお生きていた。

突如として飛んできた剣らしき何か。その存在を察知し、当たらない紙一重に避けるーーー

それが仇となった。

 

躱した瞬間、爆発。

確かな熱量と衝撃を伴うそれは、咄嗟に飛び出した上から政文に確かなダメージを与えていた。

 

眼前には巨軀の巌、遥か遠くからは正確な狙撃。

いや、それよりもーーー

 

(…なるほど、爆発するのか。あれ)

 

幸いにして、手は動く。脚も付いている。額を切ったか、やけに額の左上が熱いが、視界に影響はない。右手には、確かな(相棒)の感触。充分だ。

 

「…行くぞ!」

 

整息。調息。

狙うは巌がごとき大男、その首級。

厄介な狙撃手も居るが、しかし。

 

その程度(・・・・)

理不尽な程の戦力差のある戦場ではなく。

不条理な程の悪条件な環境でもない。

それに、これ程の実力者との手合わせとなれば。

 

これこそが。そう、これこそが。

求めたもの。我が闘争。

 

駆ける。翔ける。

己が目指すは武の頂き、そこへ到らんがために。

 

 

「オオオオオォォォッ!」

「■■■■■■ーーー!!!」

 

咆哮。

常人であれば、思わず脚がすくむであろう威圧。

されどここに常人は居らず。

堕ちた英雄、狂気に浸された大英雄、その残滓。

そして、武の頂きを目指すに狂う、闘争者のみ。

 

遠くからの狙撃手(臆病者)など知らぬ。

意に介すことなどなく。また、気にする気もなく。

生きているだけで充分。戦があればそれにかち合うのみ。

厄介なことは間違いなく、しかしてそれも織り込み済みに駆ける。

ここは戦場(いくさば)。命ぶつかる場所故に。

 

風圧が荒れ狂う。

両者の戦いは、熾烈さを増してゆく。

 

 

***************************************

 

 

「………チッ」

闇の(もや)に包まれた紅い弓兵は舌打ちと共に内心毒づいた。

 

(…あれほどまでに至近戦をされると、爆発させるだけで間違いなく両者を撃てる。それがあの着物の男だけなら問題ないが、残滓とはいえ、かの大英雄が万が一にでもこちらへ来ることになれば厄介だ)

 

チラ、と視界をやると、リネンのローブを被ったランサー…いや、キャスターが、ルーン魔術にてスケルトンを蹴散らし、時に牽制しながら火柱を立てて危うげなく戦っていた。

それも、こちらを見ながら(・・・・・・・・)

 

(…本命はあちらの光の御子だろうとは思うが。陽動である可能性を捨てきれない以上、どちらにも意識をせざるを得ない…)

 

「...フン」

 

それでも。

それを含めてなんとかするのがーーーーー

 

(私の仕事だからな...!)

 

故に焦らず、そして驕らず。

注意深く両者を見やる。

そう、今は動けない彼女に代わって。

 

 

*************************************

 

およそいったいどれほど剣を交わしただろう。

政文は、朦朧とした頭で、それでもなお大英雄と対峙していた。

 

ひりつくような、というのも生ぬるいほどの、異様とも言えるほどの緊迫感のなかにあってなお。

正気を失わず、一度たりとも剣先が鈍ることもなく。

 

執念。

 

政文を支えていたものは、およそそう呼ばれる類のもので。

そしてそれは、眼前の大英雄には薄くしか残っていないものであった。

 

とはいえ、技量の差は歴然。

和服の袖や裾は破れ、擦り切れ、全身で傷の無い箇所はない。

あちこち焼け焦げ、何箇所かからはとめどなく血も流れている。

 

(…まずいな)

 

このままでは、遠からず死ぬ。

朦朧とした意識は多くの出血によるものだろう。ふらつくのは全身におった怪我のせいだと予想できる。ともすると、無事でない骨の一本もあるかも知れない。

 

政文は、別に命懸けで目の前の敵を倒したい訳ではない。強くなるために、命を懸けて闘っているだけだ。

 

(どうする)

 

考えている間も止まぬ剣戟。勢い良く迫りくるそれは、まさに暴力の嵐。

決して落ちず、刀で合わせ、それでもなお防ぎきれぬ、爆発的な奔流。

 

(どうする…っ!)

 

政文が眉間に皺をより深く刻んだその瞬間。

地面が、爆ぜた。


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