「ぐっ…!」
爆風とともに、瓦礫に吹きとばらされた政文は、それでもなお生きていた。
突如として飛んできた剣らしき何か。その存在を察知し、当たらない紙一重に避けるーーー
それが仇となった。
躱した瞬間、爆発。
確かな熱量と衝撃を伴うそれは、咄嗟に飛び出した上から政文に確かなダメージを与えていた。
眼前には巨軀の巌、遥か遠くからは正確な狙撃。
いや、それよりもーーー
(…なるほど、爆発するのか。あれ)
幸いにして、手は動く。脚も付いている。額を切ったか、やけに額の左上が熱いが、視界に影響はない。右手には、確かな
「…行くぞ!」
整息。調息。
狙うは巌がごとき大男、その首級。
厄介な狙撃手も居るが、しかし。
理不尽な程の戦力差のある戦場ではなく。
不条理な程の悪条件な環境でもない。
それに、これ程の実力者との手合わせとなれば。
これこそが。そう、これこそが。
求めたもの。我が闘争。
駆ける。翔ける。
己が目指すは武の頂き、そこへ到らんがために。
「オオオオオォォォッ!」
「■■■■■■ーーー!!!」
咆哮。
常人であれば、思わず脚がすくむであろう威圧。
されどここに常人は居らず。
堕ちた英雄、狂気に浸された大英雄、その残滓。
そして、武の頂きを目指すに狂う、闘争者のみ。
遠くからの
意に介すことなどなく。また、気にする気もなく。
生きているだけで充分。戦があればそれにかち合うのみ。
厄介なことは間違いなく、しかしてそれも織り込み済みに駆ける。
ここは
風圧が荒れ狂う。
両者の戦いは、熾烈さを増してゆく。
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「………チッ」
闇の
(…あれほどまでに至近戦をされると、爆発させるだけで間違いなく両者を撃てる。それがあの着物の男だけなら問題ないが、残滓とはいえ、かの大英雄が万が一にでもこちらへ来ることになれば厄介だ)
チラ、と視界をやると、リネンのローブを被ったランサー…いや、キャスターが、ルーン魔術にてスケルトンを蹴散らし、時に牽制しながら火柱を立てて危うげなく戦っていた。
それも、
(…本命はあちらの光の御子だろうとは思うが。陽動である可能性を捨てきれない以上、どちらにも意識をせざるを得ない…)
「...フン」
それでも。
それを含めてなんとかするのがーーーーー
(私の仕事だからな...!)
故に焦らず、そして驕らず。
注意深く両者を見やる。
そう、今は動けない彼女に代わって。
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およそいったいどれほど剣を交わしただろう。
政文は、朦朧とした頭で、それでもなお大英雄と対峙していた。
ひりつくような、というのも生ぬるいほどの、異様とも言えるほどの緊迫感のなかにあってなお。
正気を失わず、一度たりとも剣先が鈍ることもなく。
執念。
政文を支えていたものは、およそそう呼ばれる類のもので。
そしてそれは、眼前の大英雄には薄くしか残っていないものであった。
とはいえ、技量の差は歴然。
和服の袖や裾は破れ、擦り切れ、全身で傷の無い箇所はない。
あちこち焼け焦げ、何箇所かからはとめどなく血も流れている。
(…まずいな)
このままでは、遠からず死ぬ。
朦朧とした意識は多くの出血によるものだろう。ふらつくのは全身におった怪我のせいだと予想できる。ともすると、無事でない骨の一本もあるかも知れない。
政文は、別に命懸けで目の前の敵を倒したい訳ではない。強くなるために、命を懸けて闘っているだけだ。
(どうする)
考えている間も止まぬ剣戟。勢い良く迫りくるそれは、まさに暴力の嵐。
決して落ちず、刀で合わせ、それでもなお防ぎきれぬ、爆発的な奔流。
(どうする…っ!)
政文が眉間に皺をより深く刻んだその瞬間。
地面が、爆ぜた。