Side ???
――――超人社会、それは中国にて発光する赤子が発見されたことから端を発した。まるでその事件が引き金かのように次々と謎の超能力を生まれ持つ人間が急増し、今では人口の八割はこの超能力――――『個性』を有しているという。それ故に超人社会と揶揄された。
しかし急激な社会変動には人の醜さや負の感情による悲劇がつきものである。かのチャウシェスクの落とし児たちの様に、何時でも世の中は弱者に犠牲を強いる。
いやまて、個性はヒーローや特定の免許を持たない限り公では使えない、それに一部のヒーローは個性ではなく徒手空拳を用いて頑張っているじゃないか。それなら個性持ちと無個性に大きなハンデは無い、と?そう考えるなら甘いと言わざるを得ない。『個性』が与える影響がそんな微小なものであるなら世の中『個性至上主義』などと揶揄されはしない。
ここで一つ例を出そう。個性『エンジン』、文字通り脹脛にエンジンの様なものが付いており、一瞬で時速60キロまで加速して高速移動が出来るという個性だ。だがここで一つ疑問が出来る、普通の人間の体は一瞬でその速度に加速して動くことを想定していない。なのにその個性の持ち主はその速さの中で尚意のままに動くことが出来る。少なくとも加速で重心が乱れたりはしない。つまり、体幹やGへの耐久が常人よりはるかに優れているのだが、個性にはそれについては触れられていない。
つまり、『個性』はあくまで個性因子という個性を発生させる謎因子が突然変異したものであって、個性因子にはそれだけでなく個性に応じた成長を促す効果があると思われるのだ。他にも挙げられる例は、『爆破』の個性には皮膚が焼けただれたり指が吹き飛ばない所を見るに、耐熱、耐ショック能力が人より優れていて、特に腕に関しては人より遥かに頑丈なつくりをしているだろう点、個性『スティール』は肉体を鋼鉄のように変化させるが、とてつもなく比重の重い『鉄』を纏いながら自由に動けるということは、その人の骨や筋肉は常人より遥かに強靭である証拠なのだ。
ここで改めて振り返ろう。そんな『個性』に合わせた進化ともいえる成長を得た人間と個性因子を持たない人間が、例え『個性』を封印したとしても互角にやり合えるだろうか?答えは否である。
たとえば肉体労働の仕事は、増強系若しくは先程の『スティール』のような変化系の個性の持ち主には地力の差で敵うはずが無く、事務関係の仕事ではナニカを発生させる類の個性や座標指定を行う個性持ちによく見られる発達した演算処理能力に大きく水をあけられてしまう。
そうなれば雇う側の企業や団体はどうするか?当然内定や雇用に個性を重んじるようになる。態々使えもしない個性を履歴書に書かせるのはそのためであり、当然、『無個性』はよほどの技能や特徴が無ければ競争に勝てなくなる。そうしてできたのが『無個性』を差別、なんて生易しいモノじゃない、迫害と言っていい風潮だ。
……なぜこんな超人社会の基本について述べたかというと、それが俺―――守屋 焔紫(もりや ほむら)と、親父が拾ってきた目の前にいるズタボロの少年、最近マスコミに口汚く騒がれていた人物である緑谷 出久(みどりや いずく)に大きく関わっているからである。
Side out
――――数週間前。
オールマイトは気が逸っていた。ようやく出会えたかもしれない自身の後継者に早く顔をみせたい、と。そして言ってやらなければならない、君はヒーローになれると。あの戦場もかくやという現場に誰よりも真っ先に飛び出せたキミがヒーローになれないはずが無い、と。
しかし悲しいかな、ヒーローとは人気商売であり特にその看板であるオールマイトが取材やカメラをないがしろにすることは出来ず、極短くと条件は付けられたが取材に応じていた。そんな時―――。
「――――ところで、先程オールマイト氏のヒーロー活動を妨害したとして、公務執行妨害で逮捕された緑谷 出久について、何かコメントを」
――――その一言に動揺が隠せなかった。あれのどこが妨害なのか、と。誰もが及び腰となったあの状況で唯一前に出られた、誰よりも勇敢な少年じゃないか。現に自分は消耗が原因ですぐに動けなかっただけで、寧ろ彼の行動に背中を押して貰った位だ。
オールマイトはそのインタビューにてこれでもかと彼の無実を主張したが、後日報道されたニュースにはその部分だけ綺麗にカットされていた。これには報道陣と警察の思惑が強く働いていた。今やオールマイトの発言力は低迷している警察の威信を大きく凌ぐものであり、彼の警察が行った行動の真逆ともいえる言動は甚だ迷惑なものだったからだ。そしてマスコミも、自分達とオールマイトのどちらの発言を信頼するかなど考えるまでも無く、散々件の少年を扱下ろした後でそんなことを言われては看板に傷がつく。そんな保身にまみれた行動が、さらに悲劇を呼ぶことになった。
報道があって以降、緑谷邸には様々な嫌がらせが横行することとなった。品性の欠片もない罵詈雑言が書かれた落書き、汚物やゴミが連日庭に不法投棄されていった。ここまで苛烈になって行った原因は、オールマイトのカルト的なファンの暴走、そして出久少年が無個性であった点だ。
オールマイトとは“平和の象徴”と同義である。そしてその影響力は絶大であり、一番は人其々で在れど、彼を嫌うヒーローファンは皆無と言えよう。だが残念ながら、支持者とは誰もが清い心の持ち主ではない。中には単に自分の行動の正当化にビッグネームを用いる姑息な『自称』ファンも珍しくないのである。この件に加担したのは殆どがそんな連中であった。況してやオールマイトの事件解決率の高さと初動の速さは良く知られており、そのため今回に限って異常に遅れた原因は緑谷出久にある、という誤解は謎の説得性を持つようになっていた。
そして、『無個性』のレッテルは想像を遥かに超えた悪影響を齎した。現代社会は最早個性を前提とした世の中であり、『無個性』はあらゆる面で『個性持ち』に劣る劣等種と見做す人間も少なくない。多感な学生の頃に自らの個性で『無個性』を脅迫し黙らせていた感覚を、社会人になっても引き摺っている人間が殆どであることからもこの問題の根深さが窺える。
『無個性』には何をしても許される、極端すぎる意見かもしれないが大小似た考えを持つ集団の中で、よりにもよってオールマイトの行動を阻害した(と報道された)のである。彼らのブレーキは早々に仕事を放棄したことだろう。
さらに悲劇は続く。――――緑谷 出久の母、緑谷 インコの他界である。
死因は事故死とされているが事件性はないとの警察の判断、そして彼女の両親からの希望により解剖等の究明はされなかった。葬儀等は滞りなく行われ、遺骨は両親に引き取られていった。……遺族の一人、出久少年不在のままに。
彼は依然拘留中であり、母亡きあとは誰も面会に来なかったために釈放されるまで知らなかったのである。そして未成年であった点、そして何より世の中が既にこの事件に飽きたこともあり、出久少年は少年院に行くこともなく釈放された。そして彼は初めて目にすることになる。夥しいほどの悪意に汚された家を、母の死を、祖父母の住所を知らない為に墓参りすら出来ないことを、そして何より祖父母が既にこの家の解体を依頼しており、住む場所すらないことを。
そんな大人すら凍える事実に少年が堪えられるはずもなく、彼は茫然自失のまま泣き叫ぶことしかできなかった。しかし周囲は誰も気に掛けない。世間とは犯罪者にはどこまでも冷たいのだから。
そうして誰も味方が居なくなった少年は、そのまま誰の目にも止まることなく姿を消した。だがそれは世間に何の影響も及ぼさず、時たま『無個性』が事件を起こしたときに話題に上ることもあったが、さらに時間が立てばそれすらなくなった。緑谷出久は文字通り、社会から抹消されたのである。
―――――それからさらに時間が経過した。季節は春となり、この日は多くの学校で入学式が行われている。ここ、国立雄英高等学校も同じであり、明日のヒーローを目指す卵たちが我先にと門を潜っていく。ただし、今年は例年と異なることが一つある。大凡全ての生徒がヒーローを目指しているこの学校に、二人の異分子が混ざり込んだのである。
「―――監視カメラが5台、隠しカメラはその倍で良く分からないギミックが幾つか。校門だけでこれだ、毎年予算○○億円ってことは他にも沢山……(ブツブツ…)」
「はっはっはッ!そんなに挙動不審にしてると通報されてしまうぞ☆ほら、ヒーローには笑顔が不可欠!例え目的が違えど、『今は』ヒーローの卵なんだからそれらしくいこう!!」
「焔紫くんも結構言っちゃいけないこと言ってるからね!?……それにしても雄英、か。結局ここに通う事になるなんて皮肉だよね」
今日この日より、二人の少年、守屋 焔紫と守屋 出(もりや いずる)―――旧姓緑谷出久の物語が幕を開ける。
ただし、これは一人の少年が最高のヒーローになるまでの英雄譚――――などではない。二人の少年が、歪な社会に対するより歪んだ形での逆襲を終えるまでの復讐譚である。
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