貴女の隣を歩みたい   作:アイスの種

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本編ではなく、設定として軽く書いてたやつです。
本当は載せる気はなかったやつです 苦笑。
評価見ると私の小説って読む人を選ぶってよく分かりますね苦笑


番外編
とあるあの子の


 

 

 小花衣風音という如何にも人畜無害そうな少女が、GGOという殺伐としたゲームに出会うきっかけとは一体何なのだろうか。

 

 今回はそういうお話。

 

 

 さて、時間は過去に遡る。

 

 

 

 0.whisper

 

 

 東京都内のとある高校には、学生達の間で有名な人物がいる。

 

 曰く、飛び級の天才少女、と。

 曰く、家が超豪邸のお嬢様、と。

 曰く、何処かの国のお姫様、と。

 

 その他、弓の名手の子孫、魔性の女や合法ロリ(巨乳)の体現者などなど。

 

 面白がった学生たちが根も葉もない噂を囁き合っていた。

 

 ……本人がこのことを知らないのは幸せなのかそうではないのか、悩むところではあるが。

 

 

 

 1.

 

 

 ——お姫様がいる。

 

 新渡戸咲が最初にそう思ったのは一体いつだっただろうか。

 

 視線だけをそっと動かす。

 

 窓際。その一番後ろの席。まさに主人公席と言われる席に座る、小花衣風音を盗み見る。

 

 授業と授業の間にある短めの昼休み。

 そこだけ異国の地に迷い込んだかのような錯覚を覚えるほどに、煌めいている。……かのように咲の目には見えていた。

 

 自身の身長と同じか、それ以下の小柄な体躯は中学生でも通用するのではないだろうか。

 ただ、ある一部は明らかに同い年とは思えないほど成長しているが、咲は見なかったことにした。現実を知りたくはない。

 色素の薄い髪は、柔らかそうにフワフワとしており、窓から差し込む光に照らされてキラキラと輝いているように思えた。

 肌も白く、手足も細い。全体的に華奢な身体つきである。

 

(ミーちゃんも目立つけど、これは確かに……)

 

 咲には同じ部活の後輩にロシア出身の金髪碧眼少女がいるが、あちらとはまた違い、人の目を惹きつける何かがあった。

 

(これがカリスマ性ってやつなのか……?)

 

 それっぽいことを考えたり。

 ついでに、遠回しに後輩のカリスマ性のなさが露呈してしまったことを、心の中で謝っておくことを忘れない。

 

 この学校では、留学生や在日外国人の子女は珍しくないので、それも理由かもしれないが。

 

 机の下から覗くほっそりとした足から、ゆっくりと頭のてっぺんまで視線を動かす。

 

(多分……ハーフとか、だよね?)

 

 色素の薄い髪や肌の白さもそうだが、風音にはそう思わせる要因があった。

 

 世にも珍しい、翡翠色(エメラルドグリーン)の澄んだ瞳。

 

 瞳に吸い込まれそうになる、とはよく聞くが、まさにその通りであった。

 宝石とは違う透明感がより神秘的なものを醸し出していた。

 

 少し空いた窓から入る風にカーテンが揺れる。

 フワフワの髪も、なだらかな風に煽がれて可憐に靡く。

 

 まるで、窓際のお姫様。

 

 女の子なら誰もが憧れる、お姫様がそこにいるのだ。

 

「…………」

 

 本を読んでいるのだろう。それだけで絵になってしまうのは流石としか言いようがない。

 伏し目がちに開かれた瞳に、同性ながら思わず溜息が溢れてしまう。

 

 

 と、ここまで特に意味もなく観察してきたわけだが、咲は小花衣風音について知っていることを軽くまとめてみることにした。

 

 ・試験順位は学年上位の常連。頭はとても良い。

 ・弓道部に属しており、かなりの腕前。弓道部の秘蔵っ子らしい。

 ・恐らくハーフである。

 

 というようなものだけだった。

 ただの知り合い程度の情報である。

 いや、知り合いよりも下かもしれない。

 

(我ながらこの少なさはどうなんだ……)

 

 ついで出所も不明な、信用に値しない不明瞭な噂の数々。

 

 秘密は女を美しくすると何処かで聞いたことがあるが、本当かもしれない。

 

(いやいや、話したこともないクラスメイトに関する情報なんてこんなもんよね、うん)

 

 話したことがないのだから仕方がないだろう、と一人勝手に言い訳を始める。

 恐らく咲以外のクラスメイトも似たようなものだと思われる。

 

 今も、風音の高貴な雰囲気に萎縮してしまい、誰も話しかけようとはしない。

 もっとも、窓際のお姫様も積極的にクラスメイトに関わる気は無いようで、本を読み、自身の世界に没頭している。

 

 だが、今は休み時間。

 この時間はそう長くは続かなかった。

 

「…………………あ」

 

 授業開始を知らせる鐘が鳴る。

 

 気持ちを切り替えるため、続々と教室に戻ってくるクラスメイトを尻目に授業の準備を始める。

 

 すぐに担当教師が扉を開けて教室に入ってきた。

 

 喧騒にまみれていた教室内はしんと静まり返った。

 

 

 小花衣風音についての考察はこの辺りにして、授業に集中しよう。

 

 そう自身に言い聞かせた咲の意識は、眼前の黒板に向けられた。

 

 

 

 2.

 

 

 時刻は更に進んで昼休み。

 

 お弁当を持参している咲は教室にてクラスメイトと昼食を共にしていた。

 

 チラッと小花衣風音の定位置の席を一瞥する。

 

 やはり、いつも通りに風音はいた。

 お行儀よく椅子に座って、購買で買ったであろうメロンパンをチビチビと食べている。

 

 両手でパンを持って頬張るその姿は、リスがドングリでも食べているのを連想させた。

 

(うむ。やはりかわいい)

 

 卵焼きを箸で掴み、口に運びながら改めてそう思う。

 

 一年の頃から風音と咲は偶然にもクラスメイトであった。

 最初風音を見た時も、非現実的な二次元の世界から飛び出してきたのか、と考えてしまった咲だか、それは今も変わっていないようだ。

 

 一人で黙々と食事を続ける風音をオカズ(変な意味ではない)に咲も箸を進める。

 

 一人で黙々と食事を続ける。

 

 一人で黙々と……。

 

 一人で…………。

 

 

 ………あれ?

 

 もしかして、と。

 

 

 これまで観察してきてある結論に至った咲。いや、至ってしまったというべきか。

 もしくは風音の名誉のために、あえて考えないようにしていたのかもしれない。

 

 だが、一度認めてしまうと、もうそういうふうにしか見えなくなってきた。

 

 まあ、何が言いたいのかと言うと。

 

 

 つまり。

 

 

 

 ——友達いない(ボッチ)んじゃね?

 

 

 

 ということだ。

 

 

 

 小花衣風音はボッチであった。

 

 今この瞬間、新渡戸咲の小花衣風音について知っていることリストに『ボッチ疑惑』が追加されたのであった。

 

 

 

 3.

 

 

 新渡戸咲が思っていた通り、小花衣風音はハーフである。

 日本人の父とドイツ人の母との間に風音は産まれた。

 

 父は仕事の関係で世界各地を飛び回っている。その際に、父と母は出会ったようだ。

 

 後に咲は知ることになるのだが、兄妹もいない風音はまるでテンプレ主人公よろしく都内の一軒家に一人で暮らしている。

 

 

 

 さて、本日の授業も全て終わり、夕日が顔を出した放課後。

 

 学友とお喋りを楽しむ者、部活動に勤しむ者、そのまま帰宅する者。

 

 今日の風音は帰宅する者に分類させる。

 弓道部には昨日のうちに休みの連絡もいれてあるようで。

 

 風音本人によると、今日は『気分が乗らなかった』らしい。

 

 余談ではあるが、そもそも風音自体、部活動に熱意があるわけではなく、ただ自身と相性のよい部活が弓道であったから在籍しているだけなのだ。

 

 そそくさと教室を出て行く風音。

 声をかける暇もなく、クラスメイト達はただ眺めることしかできなかった。

 

「今日も可愛らしいものでしたね〜」

「お人形さんみたいで観てるだけで満足しちゃうわ〜」

「癒される……」

「……持ち帰りたい」

 

 ヒソヒソとクラスメイトが何事かを囁きあっているが、咲には聞き耳を立てている余裕もない。

 

「……よし」

 

 自身に気合を入れる。

 風音の後に続くように、教室から飛び出した。

 

(部活?そんなのもの今はどうでも…………よく、はないが、部長権限で後で言いくるめてやる)

 

 思い立ったが吉日。

 気になったら即行動。

 

 自信はないが、彼女は仲良くなれる方法を知っていた。

 前提条件として、風音がゲームというものに興味があるかどうかが重要になるのだが。

 

(私たちだってあんなに楽しくできたんだから、大丈夫大丈夫)

 

 以前、顧問も手がつけられない程に険悪だった新体操部も、なんということでしょう。今では仲良く遊んでいるではないですか。

 

 ということで。

 

「——こ、小花衣さん!」

「………はい?」

 

 あ、やっぱ声も可愛い。などと余計なことを考えながらも、咲は最初の勇気を振り絞った。

 

 

「あの……一緒にゲーム、しない?」

「………はあ」

 

 

 これが、新渡戸咲と小花衣風音の初めての会話であった。

 

 

 

 4.

 

 

「ゲーム………ですか?」

 

 控えめな声。

 ピンクの唇から溢れでた声を咲は聞き逃さない。

 

「そうっ!ゲーム!!しかもVRゲームっ!」

「VRゲーム……」

「興味……ない?」

 

 詰んだか……?

 そう思った咲だが、返ってきたのは意外な質問だった。

 

「興味がないわけではないのですが………あの、私、VRゲームをやったことがなくて……。その、ゲーム機器すら持ってなくて……ごめんなさい」

 

 チラチラとこちらの様子を伺いながらも返答してくれた風音に感動しつつも、咲は更に詰め寄る。

 

「じゃ、じゃあっ、一緒に買いに行こう!分からないことがあったらアドバイスとかするし!あ、もしかして、これから何か用事とかあった……?」

「いえ、特にはありません」

「よかったぁ……。近くのデパートに売ってるからそこに行きましょ。あ、私は新渡戸咲って言います」

 

 こっちは一方的に風音を知っているとしても、あちらは咲のことを認識しているかどうかも怪しい。

 考えた後、少し悲しくなったが、

 

「……知って、ますよ?新渡戸咲さん。同じクラスですよね?」

「へ?」

「……?」

 

 予想外にも知ってもらっていたようで、情けない声が無意識に出ていた。

 変な声を上げた咲に風音は首を傾げている。

 

「な、なんでもない、です……。大丈夫ですよ?」

「あの、同級生ですし、敬語じゃなくてもいいですよ?さっきまで敬語じゃなかったですし」

「えっ、あ、ああっ。それもそうだね!じゃあ普通に話させてもらうね。……えっとー、小花衣さんも敬語じゃなくても、いいよ?」

「いえ、私の敬語は癖みたいなものなのて……」

「そ、そっか」

 

 お互いに緊張しながら話を進めていく。

 学校の有名人と話しているのを意識すると緊張してしまう咲はまだしも、何故か風音もそわそわししている。

 

「——あのっ!」

 

 突如、意を決したように声を上げる風音。

 

「はいぃっ!?」

 

 風音につられて姿勢を正してしまう。

 

「……名前」

「え?」

 

 小さな声。

 

「名前で、呼んでください。……さ、咲さん」

「——ぐはぁっ!」

 

 返ってきたのは、大きな衝撃。

 

 上目遣いに可愛らしい提案をされて、たまらず悶絶する。

 不覚にも、ドキッとしてしまった。

 なんだかいけないものを見てしまった感。

 

(お、おおおお落ち着け咲。何を狼狽しているんだっ?)

 

 いきなり名前を呼ばれてしまって、少し混乱してしまったようだ。

 落ち着いて考えれば、クラスメイトが仲良くなろうとお互いに名前で呼び合うのは普通のこと。そう普通のこと。自然の摂理である。

 

 せっかく風音の方から仲良くなるきっかけの一つを与えてくれたのだ。

 それに答えなければならないだろう。

 

「……か、風音?」

「はいっ!」

「…………」

 

 眩しいくらいの満面の笑み。

 先程までのたどたどしい態度は一体なんだったんだ、と言いたくなるような喜びよう。

 

 笑った顔を見るのは初めてだった。

 教室では憂いを帯びた表情しかしていなかった風音しか見ていなかった分、ギャップが激しくてその笑顔に見惚れてしまう。

 

「……じゃあ、いこっか?」

「はいっ」

 

 見惚れていたのを悟られないように、咲は動き出す。

 嬉しそうにその後ろを付いていく風音の視線を感じながら、お目当てのデパートまで歩き続けるのであった。

 

 

 

 5.

 

 

「あのさ、本当にこのゲームでよかったの?」

「はいっ。これでいいんです」

「でもそれ、結構()()なゲームだけど……。魔法と剣とか無いし。ALOとかの方がよかったんじゃ……?」

「いえ!これが、いいんです」

「そ、そうなの?」

「はいっ。だって、咲さんと同じゲームをしたいですからっ」

「——はうぁッ!!」

「ガンゲイル・オンライン……。一体どんなゲームなのでしょう、楽しみです」

 

 

 

 

 しかし、部活の時間と風音がGGOをプレイする時間が不運にも被ってしまい、一緒にプレイすることは珍しくなってしまったそうな。

 

 

 

 

 

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