SJの説明はおまけ。
前回のあらすじ。
香蓮ちゃんのマンションに風音ちゃんがやってきたよ。
SJについて説明をするらしいよ。
0. tea time
女の子はズルい。
——いや、わたしも女の子だけど。
魔性の小悪魔。
しかも、それが天然だとしたのなら。
それは尚、タチが悪い。
1.
「えっとね、風音ちゃんは"BoB"って知ってる?」
そんな、香蓮の疑問文からSJの作戦会議、もとい、説明会は始まった。
「びーおーびー?いえ、初めて聞きました」
香蓮の真下から、風音の澄んだソプラノの声が返ってくる。
BoB——バレット・オブ・バレッツ。
GGOにおいて、最強のガンナーを決める大規模な大会。
既に第一回、第二回、第三回大会が開催された。
予選トーナメントで一対一の戦いを制した者達、総勢三十人の凄腕プレイヤーが本戦のバトルロワイヤルへの出場権を獲得することができるGGO内最大のイベントだ。
「香蓮さんは参加したんですか?」
「ううん、わたしは参加してないんだ。あんまり興味なかったしね」
首を横に振って風音の疑問に答える。
同時にピトフーイとの会話も思い出した。
「あ、ピトさんは参加してたらしいよ。第三回。一番最近のやつだったかな」
「なんとなく分かってましたが。……結果はどうだったんでしょう?」
「予選落ちだって」
「それはまた……。あむっ」
お茶菓子として出されたカステラを一口頬張る。
甘い口当たりと、ふわふわした食感が口一杯に広がる。
広い部屋で二人。
重なって座りながら、説明を続ける。
「で、そのBoB第三回大会を観たっていう小説家さんが『スポンサーになるからチームバトルロワイヤルを開催してください』って運営に申し込んで、SJが開催されることになったらしい。——と、これがSJ開催の経緯」
以前ピトフーイから聞いた話をかいつまんで説明する。
「SJのルールは確か……。ちょっとごめんね」
「いえいえ」
前に座る風音の背中を、上半身で押すような形で少し前屈みになる。
カステラを乗せた皿と湯気が立ち上る紅茶の注がれたカップの先に置いてあるタブレット型端末を手に取る。
端末を起動して、運営団体である『ザスカー』から届いた、ルールの書いてあるメッセージを表示した。
後ろから手を伸ばし、香蓮と風音の二人でメッセージが見える位置に端末を持った。
「見える?」
「はい。大丈夫です」
風音の頭から少し顔を出して、香蓮も画面を覗き込む。
そこには、SJのルールがズラリと並んで明記してあった。
「たくさんありますね」
「まあ、小規模とはいえ大会だからね」
「そうもそうですね」
風音の頭に頬をくっつけて話す。
楽な体勢を見つけたようだ。
香蓮は一度ルールをしっかりと読んでいたが、見落としがあったら困るので再度風音と一緒に復習することにした。
順番に目視していく。
『参加者(チーム)が一斉に、他者(他チーム)からそれぞれ1000m以上離れた場所に転送されて試合開始。最後まで生き残った者(チーム)が優勝』
「1000mも離れるんですね」
「それを風音ちゃんが言うとは思わなかった」
「……?」
「風音ちゃんのOSV-96なら1000mの狙撃も出来ちゃうでしょ?……つまりそういうこと」
「なるほどです」
『舞台は特設フィールドで、開始までどのような様子になのかわからない。様々な地形が混ざり合っていて、どの地形に転送されるかはランダム』
「砂漠エリアだといいですね。レンのデザートピンクが活かされますし」
「それだとフウが目立っちゃうよ」
「あわわっ。そうでした」
『ゲーム中、プレイヤーが使用できる武器であればどんなものでも使用可能(銃以外でも可)。フィールドに点在する乗り物等の使用も可能』
「私、免許持ってないので乗り物は運転できないかもです」
「まあ、その時になったらその場で運転してもらうかもだけど……。ゲーム内だから無免許運転とかにならないと思うよ」
『HPが0になると武器がランダムドロップするが、大会ではランダムドロップは発生しない』
「よかったぁ、私の銃が無くなることはないようで。香蓮さんのP90も安心ですね」
「わたしのP90は売ってるものだったけど、風音ちゃんのOSV-96はレアドロップだから、普通の人だったランダムドロップしたら発狂してもおかしくないと思う」
「そんなにですか?」
「そんなにです」
『試合中、一方的に逃げて引きこもる者(チーム)を出さないために、定期的に人工衛星による"サテライト・スキャン"が行われ各プレイヤーの位置情報が参加者に配られる端末に表示される』
「ずっと同じ場所で狙撃は出来ないってことですか」
「そんなことはないよ。次のルールに書いてあるから」
『"サテライト・スキャン"が行われる間隔は10分となっている。また、"サテライト・スキャン"によって位置が表示されるのは各チームのスクワッド・リーダー(分隊長)のみとなっている』
「リーダーだけの位置がバレる訳だから、風音ちゃんの位置まではバレないはずだよ。リーダーにならない限りね」
「あれ?リーダーって誰がなるんですか?チームは私と香蓮さん、あとピトさんのお知り合いの方でしたけど」
「ん〜。たぶんピトさんの知り合いの人じゃないかな?強いらしいし」
『参加には、必ず2人以上のチーム(スコードロン)を組んでの参加となる。上限は6人』
「倍の人数の敵と戦闘になるんですね」
「うん。わたしは勝てる気がしないよ」
「あはは……」
『味方間での同士討ちでも通常通りダメージは発生する』
「風音ちゃんに撃たれたら私即死かも」
「レンはピンクだから間違えませんよー」
『通常、ゲーム内で死んだら(HPが0になったら)消滅しその場からいなくなるが、大会中のみその場に残る。また、死後10分経過で酒場(待合室)に戻ってこれる』
「これは、何のためのルールなんでしょう?」
「臨場感とかリアル感の演出のため、とかかな?」
「おー、それっぽいです」
『リザイン(降参)が可能なのは、リーダーのみ。リーダーがリザインするとチーム全体での負けとなる。また、リーダーが死亡した場合、次の序列のプレイヤーにリーダー権が移譲される』
「この辺は後で相談するしかないか」
「三人しかいないですし、悩むことはなさそうですね」
「——さてと、ざっと見てみたけど、ルールはこんなものかな?」
随分と要約したが、SJのルールは大体これで全てだ。
もう、メッセージに用はないので、タブレット型端末の電源を切る。
「どう?ルールは把握できた?」
「はい。完璧です。しっかりと覚えましたっ」
溌剌とした返事。
顔だけを動かし、香蓮に柔和な笑みを見せる風音だった。
しかし、不意にその表情を崩す。
「あ、あのぅ、大丈夫ですか?」
「え、なにが?」
質問の意図が分からず、香蓮はキョトンとしてしまう。
風音を見ると、だんだんと白い頬がピンク色に染まっていく。手は所在なさげに豊満な胸の前でよじもじとしている。
「……その、私、重くないですか?」
「え。……ああ」
なるほど、と。
何を心配しているのかと思ったら、可愛らしい心配事で不安になっていたようだ。
(女の子だなぁ)
仮想世界では馬鹿でかい銃で遠方から狙撃する彼女だが、現実世界ではしっかりと女の子であった。
「大丈夫。全然重くないよ?」
「ほ、本当ですか?」
本当だ。
風音が小柄なのもあるかもしれないが、随分と軽く感じる。
悩むような重さではない。香蓮の正直な感想だった。
「もちろん。むしろ軽いくらい。ちゃんと食べてる?」
言いながら、風音の制服の上からお腹に手を伸ばす。
が。
「……ん?あれ?」
スルッ。スルッ。
摘もうとした指が空を切る。
(……………摘めない、だとっ……!?)
衝撃の事実に打ち震える。
「……ふぁっ、んふっ、あはははっ!もうっ、く、くすぐったいですよ〜、香蓮さん!」
「………………………」
「ひゃあっ!?あはははっ!ちょ、ちょっと香蓮さん!?……くふふっ、あははっ!だ、だめですって!あはははっ!」
「………………………」
「な、なんで無言なんですかぁ〜!?」
少女の困惑と笑い声が室内に響き渡る。
このマンションは防音なので、隣人の迷惑になることはない。
後ろから風音の脇腹をくすぐる香蓮は無心であった。
笑いすぎて涙目になっても手を止めることはない。
香蓮の心は、一人虚しく泣いていたようだ。
(負けたよ……。なにもかも……)
「——か、かれんさぁ〜んっ!?」
小さくて、可愛い。その上スタイルも抜群ときた。
ちょっとムカついた香蓮の逆襲は続いた。
人はこれを、"八つ当たり"という。
または、自業自得か。
ここが仮想世界の中であったら、P90の弾丸が罪のないプレイヤーを襲っていたのだろう。
風音は、その犠牲者を人知れず救っていたのかもしれない。
***
——数分後。
「……はぁ、はぁ……。んっ、ふぅ………。……んぁ、はぁ……んく。はぁ……はぁ……あぅ……、ふぅ」
香蓮の逆襲という名の八つ当たりを受けた風音は、香蓮の膝の上でぐったりとしていた。
ほっそりした足は無造作に伸ばされ、体重を香蓮へと預けるようにもたれかかっている。
暴れたせいで服は乱れ、スカートが白く眩しい太もも辺りまで捲れてしまっている。
目は虚ろで、頬も上気して赤く染まっており、息も絶え絶えな状態だった。
(や、やりすぎた————っ!?)
我を失ったとはいえ、明らかに過剰にやりすぎていた。
途中からノリノリであったなんて、被害者である風音には決して言えないだろう。
「か、風音ちゃん……?だ、大丈夫〜?」
おそるおそる、荒い息をする風音の安否を確認する。
「……だ……だい、じょうぶ……じゃ、ない、ですよ……」
「お、おぅ。そうだよね……。ご、ごめんねっ!」
「やめて、って……言っても……、やめて、くれません、でしたし……」
「……いや、本当に申し訳ないです」
「……むぅ〜……」
すぐ下から非難の目を向けられる。
なかなか見れない、温和な性格である風音のジトーっとした目。
苦笑しか返せない香蓮に向かって、とんでもないことを言い出す。
「もうっ、香蓮さんはイジワルです!……SJに参加してあげませんからねっ?」
「うえっ!?ちょっ!!そ、それはどうかご勘弁を……!」
せっかく知らない男性と二人きりという状況から抜け出せたのに、また元通りになってしまう。
思わぬ反撃に慌てる香蓮だったが、
「ふふっ」
「へっ?」
風音は先程までとは打って変わって、いつもの柔和な笑みを浮かべていた。
「えへ、ごめんなさい。ちょっとだけ、仕返ししちゃいました」
悪戯が成功した子供のような無邪気な笑み。
心臓に悪い風音の仕返しに慌てていた香蓮はほっとして、深いため息を吐きながら脱力する。
「はあ〜……。冗談かぁ。よかった〜」
「はい。だから、これで
「ありがとう、風音ちゃん」
お互いに微笑み合う。
息も落ち着き、顔色も元の白い肌に戻ったようだ。
「んしょ」
一度香蓮の膝上から退く。
フワリと、花の香りが舞った。
立ち上がった風音は乱れた服装を整える。
ずっと正座をしていた香蓮もそろそろ辛くなってきたので、正直助かった。
のだが。
「香蓮さん。ちょっと胡座をかいてください」
服装を整えた風音が顔だけで振り返り、新たな提案をしてきた。
「胡座?」
疑問に思いながらも言われた通り、両膝を左右に開き、体の前で両足首を組んで座った。
「こう?」
「はいっ。——よっと」
組んだ足首と股の間のスペースに風音は自身の小ぶりなお尻を挟むように、体を横にして足を曲げ、香蓮へと体を預けた。
「えへへ」
「………………」
両手を胸の前で小さくしながら、ニコニコしている。
真っ暗な大型テレビの画面には、お姫様抱っこの座ったバージョンのような格好の二人が映し出されていた。
先程までとは違い、お互いの顔がよく見えるので、香蓮には気恥ずかしさがある。
風音は全然そうは思っていないようで、随分と嬉しそうにしていた。
まるでそれが自然な動作だとでもいうように、風音はまだ一口も食べられていないカステラの乗った小皿を手に取り、
「はいっ、香蓮さん。どぉぞ」
「………………………」
にへら。
と頬を緩めた顔で、フォークで一口大に切ったカステラを、流れるように香蓮の目の前につき出した。
(この年になって、年下の女子高生から『はい、あーん』をされるのは恥ずかしい……。でも……っ)
流石に恥ずかしいのか、カステラに食いつくのを躊躇っている。
だが、香蓮には分かっている。
お膝抱っこの体勢では、香蓮がカステラを食べれないと思ったからこその行動だろう。
実際に香蓮は一口もしていない。
だからこそ、香蓮にくっつきながら且つカステラを食べられるこの格好を選んだのだろう。
そもそも、くっつかなければならない理由が香蓮には全くといっていいほどに分かってないのだが。
この際、そんな問題は些細なものだろう。
今、この瞬間は。
風音の善意を無駄にしないか、自身のプライドと羞恥をとるか。
その選択を香蓮は迫られているのだ。
(……いやっ!やっぱりこれは恥ずかしいって!風音ちゃんには悪いけど、今回は……)
「香蓮さんっ、はいっ、あーん」
「………………………」
2.
その後、小比類巻香蓮は赤い顔で、こう語っている。
天使の善意には勝てなかったよ。と。
後、カステラはすごい甘かったです、はい。と。
こうして、小比類巻香蓮による小花衣風音へのSJのルール説明会は終わったのであった。
3.
近日。
香蓮——レン。
風音——フウ。
二人はあのピトフーイに、GGOへと呼ばれる連絡を受ける。
香蓮さんはそう簡単に攻略されません。
そも、恋愛感情も二人の間にはまだないです。
なんか、いい加減銃撃てよって言われそう…。