貴女の隣を歩みたい   作:アイスの種

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アニメは第一回スクワッド・ジャム、終わっちゃいましたね。
凄い動いてて興奮しました。


戦うための

 

 

 前回のあらすじ。

 

 風音ちゃんと香蓮ちゃんはSJのルールを確認したよ。

 その後、イチャイチャしてたよ。

 

 

 

 0. arrangements

 

 

 私を助けてくれた。

 そんな貴女はかっこよくて。

 

 私は貴女に憧れた。

 

 

 いつか、私を守ってくれた貴女を守れるようになりたい、と。

 

 そう思うように、なれたのです。

 

 

 

 1.

 

 

「……ただいま」

 

 香蓮のマンションから自身の自宅へと帰ってきた風音は、リビングの電気がついていることに気付いた。

 

「……あ」

 

 急ぎながらも、丁寧にローファーを脱ぐ。

 電気の光が漏れたリビングの扉の前まで早足で歩き、息を吸い込む。

 そのまま、声を弾ませながら扉を開ける。

 

「ただいまですっ、常陸(ひたち)さん」

 

 扉の開く音と風音の呼び声に反応したのは、キッチンに立ったエプロン姿がよく似合う女性。

 風音の方へと顔を向けて、おっとりした笑みを浮かべる。

 

「あら、おかえりなさい、風音さん」

 

 小花衣家と契約しているハウスキーパー、常陸真緒(まお)であった。

 

「今日は遅かったですね。部活の方に顔を出していたんですか?」

「いえ、今日はちょっと……、えっと、知り合いの方の所に寄っていて」

「そうでしたか。——さて、もう夕飯の支度はできてますよ。取り敢えず、着替えてきてくださいね」

「はい」

 

 真緒の言う通り、自室に向かった風音は学校の制服をハンガーに掛け、部屋着に着替えた。

 

 少し大きめの白い半袖のシャツに、紺色のショートパンツ。

 上にシンプルなカーディガンを羽織るだけの過ごしやすい服装に。

 

 着替え終えた風音はチラッと、ベッドサイドテーブルの上に丁寧に置いてあるアミュスフィアに視線を向ける。

 

「SJ、かぁ」

 

 香蓮に頼られたから、という不純な動機で参加することになった大会が頭に思い浮かぶ。

 

 実際は香蓮が知らない男性と二人きりで大会に参加するのが不安だったから、同じ女性プレイヤーである風音を誘ったのだが。

 

 更に。

 風音は知らないことだが、初めはノリ気ではなかったレン(香蓮)に対しピトフーイが、

 

『あ、なんだったらフウちゃん誘ってもいいわよ?——いや、つか誘いなさい。分かった?』

 

 と有無を言わせない迫力でレンに迫ったのが全ての元凶である。

 

 まあ、そんなことは風音には関係のない話である。

 

 レンが参加して、と言うのなら風音はフウとなって参加する。

 レンが敵を倒せ、と言うのならフウは躊躇なく引き金を引く。

 レンが優勝しろ、と言うのならフウは全力でレンを優勝に導く。

 

 今までは楽しくGGOをプレイできれば、それでいいと思っていた。

 

 だが、今回は違う。

 勝つという明確な目標があり、一瞬も気が抜けない真剣勝負の戦場に赴くのだ。

 

「少し、緊張しますね」

 

 目を細め、困ったような表情。

 

「……あ、いけない」

 

 夕飯を作ってくれた真緒を待たすのは申し訳ないので、SJについて考えるのをそこで止める。

 

 まだ綺麗なアミュスフィアを撫でて、自室をあとにすることにした。

 

 

 ***

 

 

 リビングに戻った風音の目には先に席に座っている真緒の姿が映った。

 

 いつもは艶のある黒髪をお団子にして纏めているが、今は髪をほどき自然な状態にしている。

 

「あれ、今日はもうお仕事モードではないんですね」

 

 椅子に座りながら、いつもと違う真緒を見た。

 

 真緒は髪を纏めるのは仕事中だけで、プライベートの時とは別にしている。

 自分の中での境だそうだ。

 

 嬉しそうに指摘する風音に、少し不満気な顔をする。

 

「ええ。最近風音ちゃんが私に構ってくれないのが悪いのよ?」

 

 と、プライベートの時は口調も風音の呼び方も変わる。

 これは風音が頼んだことで、最初は渋っていた真緒だが風音の熱意に負けて仕事ではない時は砕けた口調に、普段の真緒の口調に戻すことになったのだ。

 

 仕事中は落ち着きがあって大人の女性といった雰囲気だが、頬を膨らませて風音を見つめる姿はとても大人の女性とは言えない。

 

 成人している真緒だが、このような子供っぽいところを見ると実年齢より若く見えてしまう。

 実際の年齢は風音も知らないらしいが。

 

「あ、あはは……」

 

 真緒の主張も分かる。

 

 最近はGGOという風音にとってのもう一つの世界が拓けたことにより、真緒と接する機会も必然的に減っていた。

 

「帰ってきても自分の部屋にいることも多いし、そんなに楽しいの?VRゲームって」

「ええ、楽しいですよ」

「そう。ならよかったわ」

 

 先程までの不満気な顔は何処へやら。

 嬉しそうに微笑む風音に、安心したような笑みを浮かべている。

 

「っと、せっかくの夕飯が冷めちゃうわ。さ、食べましょう」

「そうですね。では——」

 

『いただきます』

 

 声を揃えた二人の間には、幸せそうな笑みがあった。

 

 

 ***

 

 

 夕飯を食べ終え、本来なら真緒の仕事はもう終わりである。

 

 だが、今日はプライベートモード。

 

 広いリビングにある三人掛けのソファーに二人の姿はあった。

 

 真緒はエプロンも外し、ソファーの一番端に座っている。

 その太ももの上にはフワフワしたものがあった。

 

「常陸さんの太ももは暖かくて気持ちいいです……」

「それはよかった」

 

 風音の頭は真緒の太ももの上に。

 ソファーにゴロンと横たわり、まるで猫のように体を丸めている。

 

 世間一般的に膝枕と呼ばれるものだ。

 

 色素の薄いフワフワの髪を梳くように優しい手つきで頭を撫でる。

 

「えへへ……」

 

 気持ちよさそうに目を細めて、真緒の太ももにスリスリと頬を擦り付ける。

 

「ふふっ」

「ん〜?」

「なんでもないわ〜」

 

 甘える仕草をする風音に、慈愛の眼差しを向けながら頭を撫でる手を止めない。

 

 

 静かで暖かな時間は、風音が眠くなるまで続いた。

 

 

 

 2.

 

 

 1月30日。

 第一回SJ開催まで残り二日と迫った。

 

 GGOの中央都市、SBCグロッケンにある酒場のとある個室にまるで接点のないような四人が集まっていた。

 

 一人は濃い紺色の戦闘服に身を包んだ長身の女性。中性的な顔立ちに困ったような笑みを浮かべている。

 

 一人は全身ピンク一色に染めたチビの少女。大きな目を気まずそうに泳がせている。

 

 フウとレンである。

 

 更にもう一人。

 褐色の肌に張り付いているような黒の戦闘服を着た、両頬にタトゥーを入れたフウ程ではないが長身痩躯の女性。

 

 ピトフーイだった。

 

 そのピトフーイの隣に並び立つ、更に大きい巨漢な男性がいた。いかつい顔をしており、迷彩服の下は鍛え上げられた肉体がありそうなシルエットをしている。

 

「おら、自己紹介しなさい」

 

 と、ピトフーイに催促された男は一歩前へ出て、

 

「エムという、よろしく頼む」

 

 フウとレン。

 エムとの初の顔合わせである。

 

 

 ***

 

 

 軽く自己紹介をした後。

 

 敬語を使うとピトフーイにボコボコにされるというので、エムとレンは砕けた口調で話すことに。フウは免除だが。

 

 そして全ての元凶であるピトフーイは、用事があるとかでどこかへ消えてしまった。

 

 なので、残った三人は気まずそうにしている。

 

 エムは今回のSJにフウ達と一緒に参加することになった一人である。

 

 フウがエムについて知っていることは、ピトフーイの知り合いで強いらしい、ということだけ。

 

 突然呼ばれたフウは状況を確認することを優先した。

 

「あの、今日集まった理由は……?何か聞いてますか?」

「ピトから何も聞いていないのか?」

「僕は特には。多分レンも、ですよね」

「う、うん」

「ピトのやつ……」

 

 はあ、と呆れたように溜息をつく。

 

「じゃあ、顔合わせだけって訳ではないんですね」

「そうだ。俺が来るまではピトと具体的に何を話していた?」

 

 最初に集まっていたのはフウとレン、そしてピトフーイだけ。

 エムはピトフーイからリアルで用事を頼まれていたようで、遅れてやって来たのだ。

 

「えっと、SJについて軽くルールの再確認してて……何故かわたしがリーダーになるってとこまで」

 

 先程までピトフーイと話していたことを思い出したレンは、自身がリーダーに選ばれたことに苦い表情をしている。

 

「ねえ、本当にわたしがリーダーでよかったの?」

「いいんじゃないでしょうか?ピトさんも作戦のうちだと言ってましたし」

「そうだな、リーダーはレンでいい。大丈夫だ。実際の指揮は俺が執るさ。——そして、今日俺達が集まったのはフウの言う通り、ただの顔合わせのためではない」

「じゃあ、なに?」

 

 レンが続きを促すと、エムは頷き、

 

「お互い、どのくらいの能力なのかを確認しておきたいんだ」

「僕やレンの能力ですか?」

「ああ。俺はピトから聞いているが、実際には見てないからな」

「それって何処でするの?フィールドでモンスターとか狩る?」

「いや、これから向かうのは演習場だ」

「演習場?」

「ああ……」

 

 レンは何故わざわざ高いお金を払ってまで演習場を選んだのかピンとこなかったが、フウには心当たりがあるようで、エムの言葉に頷いている。

 

「演習場は予約制だ。誰にも見られずに二人の能力を見れる」

「お、なるほど」

 

 大会に出場する前に、こちらの戦力を相手に知らせることがないようにとの配慮であった。

 

 

 そして。

 

 フウとレンは演習場にて、エムの指示のもとで忙しなく仮想空間で体を動かしていた。

 

 二人とも戦闘用の装備にさせられ、数十メートル先のドラム缶に向かって銃を撃ったり、エムの指定した距離を走らされたり、他にも様々なことをやらされていた。

 まるで訓練のようだと、フウは思った。

 

 レンは基本的にP90を使用した近距離での銃の扱い。

 フウはOSV-96を使用した遠距離での狙撃を主に実演した。

 

 数時間たっぷりと二人の能力を確認したらしいエムは、

 

「うん。分かった。もういいだろう」

 

 と言いながら、ストレージを操作して自身の銃を取り出した。

 

 茶色と緑の迷彩塗装を施したライフル。

 

 米海軍Mk14 Enhanced Battle Rifle。

 ——『M14EBR』。

 M14のバトルライフルの派生型であり、口径は7.62mm。

 

 エムの説明を聞いたレンは、ピトフーイから教授されたことを思い出しながら、

 

「ということは、エムさんの戦闘スタイルは、セミオートでの中距離からの狙撃?」

 

 レンより遠くて、フウよりも近い距離での狙撃。

 分かりやすく覚えることにした。

 

「ああ、そうだ。基本的には相手と距離をとって戦う。だが、室内などでは専らこっちを使用するがな」

 

 そう言いながら、エムは自身の右腿の拳銃を抜く。

 

 ——『H&K HK45』。

 45口径の自動式拳銃。

 

 拳銃の取り扱いについて簡単に説明したエムは、M14EBRを構える。

 何故いきなりエムが自身の銃を取り出したのか。

 それは、銃声を正確に聞き取れるようにするため。

 GGOでは銃声の音量を抑えめに設定してある。現実世界のようにしてしまうと、声が聞こえなくなったり、耳に異常をきたす可能性もあるからだ。

 

 銃声は敵の情報を集める上でとても有効だ。

 

 どのくらいの距離から撃っているのか。

 どこから此方を狙っているのか。

 どんな銃を扱っているのか。

 どのくらい敵の数がいるのか。

 

 このように、銃声は戦場において有利になるためにも必要な情報源となる。

 

 そのため、フウとレンには距離、場所、遮蔽物。その他様々な状況での銃声を聞き分けてもらうことにしたのだ。

 

 

 更に数時間後。

 エムによる戦闘訓練のようなものは終わった。

 

 通常の戦闘とは違い、繊細なことをやらされたレンは精神的に疲れていた。

 

 そこで、ふとフウの方へ視線を送る。

 

 レンと同じく疲弊しているフウ。

 その腕の中には、しっかりとOSV-96を抱きとめてある。

 

「そういえば、今日フウはOSV-96を使って走り回ってたね。いつの間に使えるようになったの?」

 

 以前は筋力値(STR)が足りず、持ち運びが困難だった為、ただの固定砲台と化していた。

 だが、今はもうエムの指示通りにOSV-96を装備しながらでも動き回れるようになっていた。

 

「そうなんですっ。レンとPKをしたり、時間のある時にちょこちょことレベル上げをしてステータスを筋力値に全部振ったら、楽にOSV-96を持ち運ぶことができるようになったんですよ!」

「おおー!それはおめでとう」

 

 大事そうにOSV-96を抱き締め、満面の笑みで喜びを表現している。

 レンには現実世界の小さな風音が大きなOSV-96を抱き締めているのが想像できた。

 

 と、そこにエムが近付いてきて、フウと何事かを話し始めた。

 

「フウ。俺はピトから聞いているが、ラインなし狙撃を教わったそうだな」

「あ、はい。僕にはそっちの方があってるらしくて」

 

 その言葉に一瞬エムが驚いたように見えたが、すぐにフッと笑みを浮かべると、

 

「そうか。もしかして、今日はずっとラインなし狙撃で?」

「そうですね。この子(OSV-96)でやるのはまだ感覚を掴みきれてないところがあるんですけどね」

 

 えへへ、と照れ臭そうに笑う。

 本人はそう言っているが、実際のフウの命中率は見事なものであったとエムは知っている。

 

 狙撃に必要な計算。銃に関する知識。

 それらを全て感覚で補っているのだから驚きだ。

 

「ちなみに、ピトに教えてもらった時は何メートル先まで狙撃できたか覚えているか?」

「ええと、とりあえず1000mまで」

 

 今度こそ、はっきりとエムの顔に驚きの表情が現れた。

 

 ——()()()()()

 

 つまり、フウの感覚ではまだ先まで狙えるということだろう。

 訓練した軍人ならOSV-96というアンチマテリアルライフルを使用すれば1000m先の的に命中させることはさほど難しくないだろう。

 

 だが、フウは銃に関しては素人も同然。

 立ち振る舞いも軍人のそれとは別だ。

 

 エムの予想に過ぎないが、ただの一般人のフウは銃を扱った経験などないはずだろう。

 

 だからこそ、エムは驚かずにはいられなかった。

 

「なるほど。ピトが気にかけるのも分かる」

「え、何か言いました?」

「いや、なんでもないさ」

 

 小声で呟くようなエムの声は、フウには届かなかった。

 

 

 

 3.

 

 

 風音の意識が現実世界に浮上する。

 柔らかなベッドの感触を背中に感じながら、ゆっくりと目を開ける。

 

 第一回SJ開催まであと二日。

 

 内心、緊張はしている。

 今でも心臓はドキドキと脈打っている。

 

 これが心配や不安なのか、楽しみや興奮からなのかは風音自身にもまだ分からない。

 その答えは当日、戦場に降り立てば知ることができるのだろうか。

 

 ——頑張りましょう。

 

 心の中で自身を鼓舞する。

 

「……そうだっ」

 

 しなやかな足を振り上げ、その勢いを利用して起き上がる。

 アミュスフィアをベッドサイドテーブルに丁寧に置き、リビングへと向かう。

 

 扉の先にはやはり真緒がいて、先程思いついたことを伝えるために口を動かす。

 

「常陸さん!明日、カツが食べたいです!」

 

 物静かな風音が大きな声を出したことに少し驚いた真緒だが、彼女はいつものように優しい笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 4.

 

 

 SJに向け、参加者はそれぞれ士気を高めている。

 

 レン、フウ、エム。

 それぞれの頭文字の組み合わせただけの『LHM』というチーム。

 

 その他数チームが集う戦場で、彼女達は一体何を見るのだろうか。

 

 

 

 2月1日。

 

 第一回スクワッド・ジャム。

 その開催はもう目前だ。

 

 

 




いつもより更新が遅れ、お待たせして申し訳ないです。え、待ってない?……あ、そうですよね。
ちなみに、オリキャラの常陸真緒の容姿は読者の皆様のご想像にお任せします。

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