貴女の隣を歩みたい   作:アイスの種

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勝つための

 

 

 前回のあらすじ。

 第一回スクワッド・ジャムが始まったよ。

 

 

 0. operation

 

 

 貴女の後ろ歩く。

 貴女を守れるように。

 

 

 でも、私はいつか。

 

 貴女の隣を歩いてみたい、と。

 貴女と同じ景色を見てみたい、と。

 

 願わずにはいられなかった。

 

 

 

 1.

 

 

「次のスキャンで都市部にいる敵チームの数を確認する」

「その後はまた待機、だよね」

「はい。覆面のプロチームが都市部にいる他のチームと接敵したら、各自移動開始です」

 

 二回目のスキャンまで後30秒。

 ここからは、一度も気を抜けない戦闘が始まる。

 

「後20秒」

 

 エムはすでにサテライト・スキャン端末をそのゴツゴツした手に用意していた。

 

「後10秒」

「スキャン、きますっ」

 

 二回目のスキャンが始まった。

 素早くスキャン端末から地図を表示させるエム。すぐ、都市部にいるプレイヤー情報が送られてきた。

 

「プロチームは都市部の中央付近。他に……都市部に三チームいるな。それぞれプロチームの更に南の位置にいる。……この距離ならすぐにでも戦闘が始まるだろう。いつでも動けるように準備しておけ」

「了解っ」

「了解です」

 

 装備の準備はすでに整えてある。

 次は気持ちの準備だ。

 

 プロチームは統率力がある。

 一朝一夕には、そのチームワークを凌駕することはできないだろう。

 

 だからこそ、今回の作戦は一種の賭けにも近いと、理解している。

 

(きっと、エムさんは僕とレンのことを信じているからこそ、この作戦を実行しようと思ったのでしょう)

 

 チームとして。

 共に戦う仲間として。

 

 身体の奥が熱くなる。

 頭がスッキリする。

 心も昂揚している。

 

「………よしっ!」

 

 その、フウの小さな呟きは、銃弾の轟く音にかき消された。

 

 

 

 ***

 

 

 

 都市部から発砲音が響いている。

 

「よしっ、プロチーム達が他のチームと接敵したっぽいよ」

「プロチームが戦闘しているかはまだ判断するには難しいが、プロチーム達は南の敵を警戒するはず。プロチーム以外の戦闘だったらプロチームは漁夫の利を狙うだろう」

「と、いうことは……」

「ああ。どっちにしろ、移動するなら今だな」

「よぉーし!」

 

 元気よく意気込むレン。

 森を抜けるため必要なくなった緑の迷彩ポンチョを脱ぎながら、立ち上がってP90を胸の前に構える。

 

 フウとエムもそれぞれ愛銃を持ち、静かに立ち上がる。

 

 すると、耳にはめた通信機からエムの声が聞こえてきた。

 

「ここからは隠密行動を心掛けろ。プロチームに遭遇しても攻撃はするな。見つけたら俺に知らせてくれ」

「うん。分かった」

「プロチームはビルから索敵をしている可能性が高いですよね?そっちはどうします?」

「別動隊の四人組を見つけられれば、おのずと索敵をしているヤツも逆算して、ある程度の位置は特定できるさ。もしかしたらさっきのスキャンの位置にまだいるかもしれない」

「そうなんですか?」

「ああ。あそこには全体を見渡せるビルがある。索敵をするのなら絶好の場所だろうよ」

「な、なるほど……」

 

 この人は何者なのだろう、と疑問に思ってしまう。

 だが、今に至ってはとても頼りになる仲間だ。

 

「戦闘音に意識を向けて、俺達も移動するぞ。レンはこのまま直進して都市部に侵入してくれ」

「オッケー」

「フウは都市部の北西部から」

「はい」

「俺はエリアギリギリの北東部から攻める」

 

 三方向への別行動。

 チーム戦のSJにおいて、わざわざリスクを負う大胆な作戦。

 それ故に、読まれない。

 

 だからこそ、個々の実力や判断能力が肝となる。

 

(まさか、SJでの最初の戦闘でチーム戦を放棄するとは思わなかったです)

 

 とはいえ、フウは一人で戦うことには慣れている。仮想世界でも、現実世界でも。

 

 はやる鼓動を鞭打つかのように、一際大きな爆音が鳴り響いた。

 

「——解散!」

 

 それを合図に、フウ達は静かに、だが確かな闘志を持って動き出したのだった。

 

 

 

 2.

 

 

 二回目のサテライト・スキャンから早数分、概ねエムの予想通りの展開が起こっていた。

 

 都市部にいたプロチームを除いた3チームは互いの距離の近さから、逃げるよりも戦うことを選んだ。

 

 1チームずつ減っていき、最後まで残ったチームをプロチームが仕留めていた。

 

「ブラボー、チャーリー、デルタ。全滅を確認。損害なし」

 

 目出し帽を被った男が、戦闘の成果を迅速に報告する。

 

 報告を受けたのは、ビルの中にいる男だった。

 双眼鏡を持って、都市部全体を俯瞰するように索敵している。

 

「了解。次のスキャンもここで受ける。全周警戒しつつ、指示を待て」

「了解」

 

 おそらくリーダーである双眼鏡を除く男の隣。

 フウの使っていた『M24』を構えている男が、スコープで周囲を警戒しながらリーダーに、

 

「スキャンで見つけた、都市部付近の森林地帯にいた1チームはどうしますか?」

 

 不安要素の一つであるチームについて訊ねた。

 

「姿を確認できなかったな。……都市部にチームが集まっていたのを確認したから、森を抜けて、西部の草原エリアか居住区エリアに向かった可能性がある」

「それが一番妥当な判断でしょうね」

 

 M24を構えながらリーダーの言葉に賛同する。まだ確証がないのが不安要素である理由だ。

 

「だが、姿を特定できなかったんだ。まだ都市部エリアにいる可能性も捨てきれない。——全隊員、未だ発見出来ていないチームがいる可能性がある。警戒を強化しろ」

「了解」

 

 リーダーの通信機器に、仲間の声が届いたと同時にリーダーの男は考えを巡らせる。

 

(サテライト・スキャンの前に移動するべきか?いや、こちらの位置は二回目のスキャンによって判明しているだろうが、ここを狙うなら狙撃、かなりの距離があるあの北西の大きなビルからではないとならないだろう)

 

 双眼鏡で北西にある、一本だけ突出した大きなビルを眺める。

 リーダーと狙撃手の仲間がいるビルに比べれば小さく見えるが、それでも十分巨大なビルだといえる。

 

 距離は目測で1500m程。それ以上あるかもしれない。

 システムアシストがあるGGOだとしても、そう簡単にあたる距離ではない。

 たとえ被弾したとしても次弾にはバレット・ラインが表示される。1500m先からのバレット・ラインを避けるのは容易なのである。

 

 そこまで思考して、狙撃による奇襲の可能性は極めて低いと結論したリーダーの男は、警戒していたビルから目を離し、周囲を索敵しながら、別の可能性も模索していた。

 

(漁夫の利を狙うのなら、タイミングは3チーム全てを倒した先程の瞬間がベストだったはず。わざわざ見逃すとは思えない。……やはり別のエリアに移動したと考えるのが妥当だろうか)

 

 体内時計でそろそろスキャンの時間になったので、思考は一時中断する。

 

「スキャンが始まる。総員、指示するまでは待機」

「了解」

 

 スキャン端末を取り出し、地図を表示させる。

 自分達がいる都市部に注視して、視線を巡らせると、プレイヤーを示す光点が二つ。

 一つはビルに籠っているリーダーの男のもの。

 もう一つは、リーダーのいるビルのすぐ北側。距離にして100mもない所を示していた。

 

 リーダーの男はM24を構えた男に叫ぶ。

 

「近いぞ!こちらから北に約100mの位置だ」

「了解。索敵開始します」

「総員に告ぐ。都市部にもう1チーム発見。数はまだ分からない。リーダーの位置は北に約100mの位置。見つけ次第指示をする。他の仲間に気をつけながら、こちらに向かってきてくれ」

「了解」

 

 通信機器で仲間に連絡を入れる。

 冷静に指示をするリーダーの男だが、不可解なことに顔をしかめる。

 

(何故、ここまで接近されるまで気がつかなかった?二人体制で索敵していたのに、だ。運良くこちらからの死角を移動していたのか?)

 

 謎の危機感を感じていたが、隣にいる仲間の声に意識を持っていかれた。

 

「見つけました。北120m、倒れた車の裏に隠れられましたが、デザートピンクのチビです」

「武器は見えたか」

「戦闘服と同じ色に染めたP90です」

「仕留められるか?」

「車を爆発させられれば、その余波で」

「分かった。発砲を許可する。こちらは他に仲間がいないか索敵を続ける」

「了解」

 

 仲間が狙撃の体勢に入ったのを確認したリーダーの男は、再び索敵を開始する。

 

 そしてすぐに、()()()()重低音の銃声が聞こえた。

 

「———なっ!?」

 

 無残にも頭を撃ち抜かれた男は頭と体を分離しながらは吹き飛ばされ、部位欠損の赤いエフェクトを撒き散らす。即死だ。

 すぐに死亡を知らせる『Dead』のタグが表示される。

 

「やはりいたのかっ!!」

 

 身を隠そうをするリーダーの男。

 発砲源は分かっている。

 警戒していたビルへと視線を向ける。

 

(落ち着いて、バレット・ラインを見ろ。この距離ならラインに注意していれば、簡単に避けられ——)

 

 だか、男の期待は裏切られることになる。

 

 二発目の弾丸はラインを表示させず、男の頭を文字通り、吹き飛ばしていった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 時を同じくして、SJが中継されているSBCグロッケンの酒場も盛り上がりを見せていた。

 

「スゲーっ!なんだ今の!?」

「おいおいっ……!アイツなんて距離から狙撃してやがんだ……!?」

「つかなに、あの銃?頭ぶっ飛んだが」

「あれだろ、対物ライフルだろ?今のGGOじゃあかなり珍しい代物らしいが、ここ最近では増えてきてるらしいぞ」

「そういやBoBにも使っている奴がいたな……」

「逃げる間も与えず、確実に頭と体をさよならさせるとか、怖っ」

「アイツ男?」

「いや女っぽい気もするけど……」

「美形だし女でいいだろ」

「いいなぁ……。俺も撃たれたい……」

『ええぇ…………』

「お前ら、ちゃんと試合見たら?」

「そだな」

 

 男達の視線の先ではモニターの中に、もうフウの姿はなく、代わりにピンクの戦闘服のレンの様子が映し出されるところであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 プロチームのリーダーが一度警戒していたビルには、そんな会場の様子など知りもしないフウが銃口から煙を吐き出すOSV-96を構えていた。

 

「どうだ」

 

 耳に付けた通信機器からエムの声が聞こえてきた。

 

「……二人、倒しました」

 

 エムの声に返答するフウの声は冷たい。

 柔和な顔付きは消え去っており、細められた目には鋭い眼光を放っていた。

 

「よくやった。大方、ラインが見えるからと、油断したんだろう。これでレンは狙撃されずに暴れられるな」

「……そうですね」

「これからレンに指示を出す。ポイントに敵をおびき寄せるまで待機しててくれ」

「……了解です」

 

 短い言葉で通信を行ったフウは、エムの指示通り移動中に指定されたポイントへとOSV-96の銃口を向ける。

 

 スコープの先に映るのは、ビルとビルの間の狭い路地。

 フウから見て東のビル群。そのどこかにエムもM14EBRを構えながら、レンに指示を送っているのだろう。

 

 スキャンによって明らかになったプロチームのリーダーの位置は、エムの予想通りであった。

 

 サテライト・スキャンの数分前に、エムはリーダーを狙撃できる位置をフウに伝え、レンを所定の位置まで移動するよう指示した。しっかりとリーダーのいるビルからの死角を通らせて、だ。

 

 今は、レンの高い敏捷性を活かして、細い路地裏を走り回って敵を撹乱している。

 

 一体どんな指示を送っているのかはフウには分からなかったが、レンは迷いなく路地裏を進んでいく。

 

 痺れを切らしたプロチームは、二手に分かれてレンの入った路地裏へと侵入を図る。

 

 その路地裏が、エムの指定したポイントであると知らずに。

 

「来たぞ」

「………………」

 

 エムからの合図。

 フウが狙うのは、レンを追いかけている四人組が二手に分かれて路地裏に入り、レンを撃とうと静止するその瞬間。

 

 片側はフウが、もう一方はエムが狙撃することになっている。

 撃ち漏らしはレンが始末するという算段だ。

 

 追い詰めたと思い込んでいるプロチーム。

 銃口をレンへと、向けた瞬間、レンは大きく飛翔。

 

「————っ」

 

 異なるビルから、同時に弾丸が放たれた。

 

 吸い込まれるように、プロチームの二人の頭に弾丸が叩き込まれる。

 

 動揺する残存勢力に、間髪入れずラインなし狙撃の弾丸を撃つ。

 

 

 OSV-96とM14EBR、P90の銃声が、都市部に轟いた。

 

 

 

 

 全てが終わった後、敵はエムの掌の上だということには、最後まで気づかなかった。

 

 

 

 3.

 

 

 

 静けさが戻ってきた都市部。

 一度、フウのいるビルに集まることにしたチームLHMは、再び集結していた。

 

「二人ともよくやってくれた。運も味方してくれたおかげで、被害を出さずにプロチームを突破できた」

「すごい!すごいよねっ、わたしたち!!プロ相手に勝っちゃうなんて!」

「……………」

 

 喜びを声高々になって表現するレン。

 対照的にフウは黙ったままである。

 

「………。もしかしなくても、怒っているのか?」

「どう見ても不機嫌そうなんだけど」

「……………つーん」

「え、今"つーん"って口で言ったよ?相当怒ってるよこれ」

「いや、普通口では言わないと思うが……」

 

 頬を膨らませて不機嫌アピール。

 エムにはフウが不機嫌な理由を知っている。

 というか、半ば予想通りである。

 

「レンを囮に使ったことを怒っているんだろ?」

「え?」

「…………ふんっ。当たり前です」

 

 フウに指定したビル向かうように言った時には、すでにレンを囮に使うことを予測していたらしく、若干声のトーンが低かったのを思い出す。

 

 不本意だったが、勝つことがレンの為になると理解していたので、不機嫌になりながらも見事な狙撃を見せてくれた。

 

「仕方ないだろう。これが一番確実だと判断した」

「それは、分かってますよ……。でもっ、一度ならず二度もレンを囮にするなんてっ」

 

 珍しく声を荒げるフウ。

 慌てたようにレンが仲裁に入る。

 

「ま、まあまあ落ち着いて。確かに"リーダーのわたしが囮ってどういう扱いだ"って思ったけど、実際上手くいったんだから、ね」

「むぅぅ……」

「終わり良ければすべて良しってやつだよ!」

「…………ぅぅ。……はぁ、レンがそういうなら。僕からはもう何も言いません」

 

 当事者であるレンにこのように言われてしまうと、フウは仕方ないといったふうに機嫌を直した。

 レンはチラリ、エムへと目配せして、フウと和解するように伝える。

 レンが何を言いたいのか理解したエムはフウへと歩み寄って、頭を下げる。

 

「すまなかったな。これからは気をつける」

「いえ、こちらこそ我儘を言ってしまい申し訳ありませんでした。だから頭をあげてください」

 

 この後もSJは続く。

 このようなことでチーム内に亀裂が出来てしまうのはフウも望むことではない。きっとそれは、レンの為にならない。

 

 フウの機嫌も良くなり、レンも一安心といった表情。

 

「フウはわたしを心配してくれたんだよね」

「……はい」

「そっかそっか。その気持ちは嬉しいよ。——でもね」

 

 小さいレンはフウを見上げながら、諭すように言葉を紡ぐ。

 

「わたしは大丈夫っ。わたしを大事に思ってくれるのは本当に嬉しいけど、わたしを信じて。わたしを頼っていいんだからね」

「………あ」

 

 えへっと照れ笑いを浮かべるレン。

 つられてフウも笑みがこぼれる。

 

 フウの中で、何か歯車が噛み合ったような気がした。

 

「よぉーし!この調子で、優勝目指すぞー!!」

「はいっ!!」

 

 

 荒廃した都市部に、少女達の元気な声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 4回目のスキャンまで、残り数分。

 

 生き残りをかけた戦場に、乾いた疾風が走った。

 

 

 

 




エムさん微強化
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