貴女の隣を歩みたい   作:アイスの種

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ある意味こっちが本当の一話。
前回はただのプロローグ、いわば体験版のようなもの。


運命的な

 

 時間は遡る。

 

 これは、とある二人が出会うだけの物語。

 

 

 

 

 0.encounter

 

 

 出会いはいつも唐突で、唐突な出会いというのは大抵劇的なもので……。

 

 

 

 1.

 

 

 小比類巻香蓮は自室にて佇んでいた。

 

 目の前に座る人物を見下ろす。香蓮の身長ではそのような形になるのは当然のことだった。

 

 

 何処かの国のお姫様なのだろうか、と。

 

 比喩でも冗談でもない。最初にそんな感想が頭をよぎった。

 

 手足は細く、羨ましいほどに小さな体躯。

 シミ一つない真っ白な肌はきめ細かい。

 色素の薄い髪はフワフワと柔らかそうだ。

 こちらを不安そうに見上げる瞳は翡翠色(エメラルドグリーン)で。

 

 

 明らかに日本人離れしている。

 

 

「………………」

 

 

 さて、どうしてこうなったのか。

 

 

 香蓮は自身の記憶を辿っていくことにした。

 

 

 

 2.

 

 

 

 いつものように大学へ行き、必要な講義が終わればすぐに香蓮の暮らすマンションへと帰宅する。

 

 それだけが、香蓮の生活。

 それが、香蓮の日常。

 

 だが、その日常も少しずつ、確かに変わりつつあった。

 

 今までの刺激のない生活にうんざりしていた香蓮だったが、親友から薦められたVRゲームにて苦労の末、理想の自分に出会った彼女はそのゲーム——ガンゲイル・オンラインをプレイすることが楽しみの一つであり、また日常となってきていた。

 

 今日も家へ帰ったらGGOにインしようと思っていた香蓮だったが、はたして叶うことはなかった。

 

「君、可愛いね〜」

 

 ナンパだろうか。

 そんな声が聞こえたが、悲しい哉。自分に向かって言うはずがないのは分かっているので、特に気にせず歩く。

 チラリと、野次馬精神が顔を出し、ナンパ現場を一瞥すると。

 

「ねえねえ、めっちゃ可愛くない?芸能人か何か?」

「……いやっ、あの……」

「あっ、その制服確かあの有名高校のだよな?じゃあ結構お嬢様なんじゃね?」

「……いえ」

「学校帰り?ヒマならちょっと俺らとどっかに遊びに行かない?」

「大丈夫大丈夫。金は俺らが出すし、絶対楽しいからさ!」

「……ぃ、いやっ……」

 

 二人の軽薄そうな男に絡まれてる女の子がいた。

 横顔しか見えないが、同じ女性の香蓮から見てもかなり可愛い少女だと思った。

 明らかに自分よりも年上の男性に挟まれて萎縮しているのか、怯えているのが分かる。

 

「……………………ん?」

 

 ふと、その少女を盗み見ていると香蓮は何かが引っかかった。

 何故だろうか。

 見たことがある気がする。

 

 あのような可愛らしい少女の知り合いはいない筈なのだが、何故か見覚えがあった。

 

 もう一度、少女をよく観察してみると。

 

(………………ああ!)

 

 少女の制服を見て納得した。

 どこかで見たことがあると思ったら、少女が身に纏っている制服は香蓮の通う大学の高等部の制服であったのだ。

 確かに見覚えがある筈である。

 

「ねぇ、いいじゃん。金とかは払ってあげるっていってんだから」

「……ほ、本当、ごめんなさぃ……」

「そんなこと言わずに。ね?」

 

 少女は震える声で拒絶の意思を示した。

 しかし、相手がか弱くてかなりの美少女だからなのか。押しに弱いと判断した男たちは簡単に諦めたりしなかった。

 

 少女はもう泣きそうになっていた。

 

「……………ぁっ」

「————っ!」

 

 しまった。と香蓮は自身の行動を悔やんだ。

 見すぎていたのだろう。

 

 泣くのを堪えていた少女とばっちり目があってしまった。涙を溜めた目には香蓮が映る。

 か細い声もしっかりと聴こえた。

 

 涙目を堪えて香蓮を見つめる少女は、助けを乞うてるようにしか見えない。

 この状況で、助け以外に香蓮に目を向ける理由などないだろう。

 

 あまり面倒ごとには首を突っ込みたくはない香蓮であるが、自身の通う大学の高等部の少女で、香蓮が羨ましく思うほど憧れる小さくて可愛い少女。

 そんな少女からSOSを求められているこの状況。

 

(………どうしよ)

 

 GGO内だったら男達のこめかみに銃弾ぶっ放すだけでいいんだけどなぁ、とおよそ年頃の女の子が考えてはいけないことを考えてしまっている香蓮。

 だが、そんなことを考えている暇はなかった。

 

 相手は香蓮のことなど待ってくれるはずもない。

 

「ほらっ!行こうぜ?」

「あっ!いやっ——」

 

 痺れを切らした男達の一人が少女の細い腕を掴み、無理やり連れて行こうとしていた。

 

「おぉっ!?ちょぉっ!ちょっと!?」

 

 流石に迷っている暇もなく、香蓮は慌てて声を上げる。思わず変な声が出たがこの際気にしてはいられなかった。

 

「あ?なんだ……よ……?」

「え?うぉっ!」

 

 香蓮に気付いた男たちは、驚いたように少女から手を離した。

 男達は突然やってきた香蓮を()()()()、後ずさる。

 

 ——デケェ……。

 

 声には出していないが、香蓮には男たちの表情がそう言っているように見えた。

 見慣れた光景となりつつあるのが悲しい。

 溜息が出てしまうのも当然だった。

 

 180cmを超える女がいきなり声をかけてきたのだ。驚くのも無理もないが、香蓮も一応年頃の女の子である。

 見慣れた、とはいっても傷つくものは傷つく。

 

 少女を助けることができるのならば、この身長に感謝するべきなのだろうが、やはり素直に喜べないのは女の子として当然であった。

 

(というか、ここからどうしよう……)

 

 声をかけたはいいものの、そこからはノープラン。行き当たりばったりだ。

 変な汗が背中に流れる。

 

「な、なんだよあんた?この子の知り合いか?」

「え?……あ、ああっ!そうっ。その子、わたしの姪っ子でー、えーっと、これから遊びに行く約束してたの」

 

 苦し紛れのハッタリだが、香蓮の威圧感(本人にその気はない)に圧された男たちはあっさりと、

 

「そ、そうかよ。……行こうぜ」

「……あ、ああ」

 

 どこかへ去って行った。

 

「…………………。………はぁっ」

 

 溜め込んでいたものを一気に吐き出す。

 肩に力がある入っていたようで、どっと疲れた香蓮は肩の荷を降ろし、被害者の少女に一言言って立ち去ろうとする。

 

(なんかつかれた……。はやくかえろ)

 

 こんなことはもう二度とゴメンだ。

 心中で嘆く。

 精神的に疲れた香蓮の背中は哀愁が漂っていた。

 

「あの、大丈夫?」

「……は、はい。あ、ありがとう、ございます」

「じゃあ、私もう行くから。これからはあんまり一人で歩くのはやめた方がいいよ。友達とかと一緒に帰りな?」

 

 それだけ言って踵を返す香蓮。

 

 ——くいっ。

 

 歩き出したところで、不意に袖を誰かに掴まれた。

 自分の腕に目を落とすと、細い指が遠慮がちに香蓮の袖を摘んでいた。

 

「………………」

「…………………………」

 

 自然と名も知らぬ少女を見下ろす形になる香蓮。

 少女の可愛さを間近で見ると、同性でありながら思わず見惚れてしまう。

 

「………………ぅ」

 

 決して涙を流さないように我慢してたのだろう。大きな瞳は潤んでおり、今にも大粒の涙がこぼれ落ちそうであった。

 

(なにこの可愛い生物)

 

 あー、ドレスとか似合いそう。なんてどうでもいいようなことを考えている顔をしている。

 

 なるほど。

 確かにこれは男が黙っちゃいないな、と。

 

 可憐でもあり美麗でもある。

 万人の美しいを体現したかのような容貌。

 

 このまま穢れを知らずにいてほしいと願わずにはいられないほどに。

 知らず知らずの内に、香蓮の中に母性のようなものが芽生え始めているのにまだ彼女は気付かない。

 

 

「…………うち、来る?」

 

 

 庇護欲を掻き立てられた香蓮の口からは、自然とそんな言葉が飛び出していた。

 

 

 

 3.

 

 

 回想終了。

 

 

 とりあえず、香蓮は自身に言いたいことがあった。

 

(………ねえ、小比類巻香蓮よ。ミイラ取りがミイラになるって言葉、知ってる?)

 

 ちょこんとお行儀良く座る少女の目の前に、とりあえず持ってきた飲み物を差し出す。

 少女の場違い感に、自分の家なのに落ち着かない。

 自分だけ立っているのもあれなので香蓮も適当に座ることにした。

 

 テーブルを挟んで向かい合うように座った二人。

 香蓮が座るのを確認した少女が形の良い口を開いた。

 

「ありがとうございます」

 

 お礼の言葉を香蓮に告げ、血色の良い唇をコップにつける礼儀正しい少女のことを再び眺める。

 

(うわー、肌白〜。髪もフワッフワッ。小さくてカワイイし…………え、ホントに高校生?)

 

 頭から徐々に視線を下げていき、胸部へと目を向けてしまった。

 年下に胸部装甲で負けた香蓮は軽く絶望した。

 

(いやいや、わたしはオヤジか……。というか……)

 

 胸以上に香蓮の目を惹きつけていたものがあった。

 

(……綺麗な瞳)

 

 大きな瞳は神秘的という表現がピッタリな翡翠色(エメラルドグリーン)で、まるでゲームのキャラクターのようだと香蓮は思った。しかもヒロインのような可憐で美しい少女。

 ピンチになったら主人公が助けてくれるような、そんな物語のヒロイン。

 

 とても絵になる、と香蓮は思う。

 

「……あの」

「えっ!?なにっ?」

 

 不意にかけられた言葉により、思考の海から戻って来る。

 

「先程は、本当にありがとうございました」

「い、いえいえ」

 

 育ちが良いのだろう。

 正座をして、ゆっくりと頭を下げて感謝を伝えてきてくれた。

 

 顔を上げた少女は頬を少し赤らめて、上目遣いで続ける。

 

 

「あの、私、小花衣(こはない)風音(かざね)と言います」

 

 

 これが香蓮の出会った、まるでお姫様のような少女との初めての邂逅であった。

 

 

 

 4.

 

 

 

 物語の出会いというのは唐突で、主人公なんかはその出会いを理不尽なものに思うこともあるのかもしれない。

 

 でも、私はこの出会いを理不尽になんか思いたくはない。

 

 唐突な出会いは劇的で、新しい日常が幕を開ける合図なのかもしれない。

 

 私はこの出会いを、そんな運命の出会いだと。

 そうあってほしいと、願っている。

 

 

 




評価してくれる人がいたのでもうちょっと書いてみたの。
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