イーリス聖王国の魔道士がオラリオに来るのは違っているだろうか? 作:カルビン8
「いよいよ始まるわね、どっちが勝つかしら?」
「あのオグマファミリアの方がかなり有利みたいですが。」
「だがあの子供は全然動揺していないな。大勢の人に囲まれて戦うってことになるのに、場慣れでもしているのか?だとしたらまだわからんぞ、リオン」
モルドは一気に試合にカタをつけるべくロングソードを片手に持ちシエンに突撃した。
「オラァ!!」
「・・・」
シエンはスキル【道具節約】が発動した壊れないナイフで応戦する。
Lv.2になったことで強くなれても【力】の差は歴然で受けきることはできない。アイズとの模擬戦同様に受け流しをして反撃のチャンスを伺った。
「チッ、そんなチャチなナイフが折れねぇなんてよ。何かのスキルか、気に食わねぇ!」
「・・・」
「さっきから黙ってばかりで何か喋れねぇのか?アァン!?」
そう言ってモルドは凄んで見せてもシエンは顔色一つ変えずにただジッとモルドの様子を見ているだけで喋りもしない。
いくら相手の剣さばきがアイズの剣さばきより劣っていたとしても受け流しきれない場合は腕が切り落とされてしまう為シエンには喋るだけの余裕はなかった。現状はシエンが圧倒的に不利だ。
「(・・・ったく。こんなんでどうやって勝てってんだよ。今は受け流すことに集中するか、なんとかスキを見せてくれるといいんだけど)」
「オラァ!まだまだ行くぞォ!!」
控え室では上級冒険者達がシエン達の戦いを見ていた。
「やれ!モルド!!」
「ルーキーに格の違いを思い知らせてやれ!!」
モルドを応援している者達。
「にしてもあのペラッペラのナイフは全然折れないな。どうなってんだ?」
「変な光がナイフから出てるし何かのスキルじゃね?」
「もしかして持ってる物を不壊属性を付加するスキルとか?」
「なんだよそれ!?反則かよ!?」
「いやわかんねぇけどよ・・・そうかなって」
冷静にシエンの持っているスキルを分析している者がいたり。
「あのガキンチョやるな。オレだったらさっさとリタイアしてるぜ。」
「ああ、うまく受け流して今のところ怪我一つ負ってねぇ。魔導士ってのは接近戦は苦手なはずなのにな。」
「だが今のところは攻勢には出れていない。ここからだな。」
そう言ってシエンのことを認めているものもいた。
そんなこんなで10分間シエンとモルドは打ち合った。モルドが主に攻撃して疲れが出てきて呼吸を乱し、肩で息をしていた。対してシエンは防御に徹していたのでまだ体力に余裕があった。
「(・・・ッざけんな!なんでこのオレ様がこんなガキにあしらわなければならねぇ!体格差もあるしリーチ差はとんでもねぇくらいにあるってのに!)」
『おいおい、こんなガキにいなされてんじゃねぇぞ!』
「ッ!(クソ!他人事だと思って好き勝手言いやがって!!)」
モルドはシエンにナイフ一つで己の攻撃を受け流されていることに焦りが出ていた。そして観客からヤジが出てきて焦りによって剣さばきが疎かになっていった。
そしてそんなチャンスを逃すシエンではなかった。
「ッゼァアアアア!!」
「・・・フッ!」
モルドはロングソードを大振りに振り下ろしシエンの頭を狙ったがそれをシエンはナイフで受け流しながらモルドの懐に潜り込んだ。
「何ッ!?ぎゃあああああ!!??」
そしてシエンはナイフをモルドの腹に突き立てモルドの体からは鮮血が飛び散った。モルドの腹に出来たキズにさらにナイフをねじ込んだ。
「年下のガキにいっぱい食わされる気分はどうだ?」
「ッ!?」
その時のシエンは口元を大きく歪ませ笑み浮かべていた。
『ヒッ!?』
『うわぁ・・・』
『マジかよあのガキ・・・』
『えげつねぇ・・・』
『ひひっ、ひひひひひひ!!良〜い顔するじゃねぇか!他神様が気に入るのも分かる気がするぜ!』
『でしょ!?ヴァレッタちゃん!ちくしょー!なんでロキんとこの子なのかなぁ!!』
各地で神の鏡を通して見ていた人達はドン引きしていた。明らかにモルドがシエンの頭を狙っていた方が危険ではあったが、相手の腹を突き刺して抉る幼い子供の暗い笑みのインパクトが強すぎた。尚、闇派閥の連中は大喜びしていた。
「クソがァァァァ!!」
「・・・」
ここからは戦いは一方的だった。シエンはひたすら守りに徹してモルドが腹の傷により動きが鈍ったところを狙って攻撃していた。誰がどう見てもシエンの勝利は目前だった。
「降参する。」
『・・・は?』
勝ち目のないモルドが降参するのではなくシエンが降参した。
「ハァ!?なんでや!もう勝ちが決まっとったやないかい!!」
「ンー。このまま続けていてもシエンはもう戦えなかっただろうしね。」
「どういうことや?」
「ロキ、シエンの両手を見てごらん。震えてるだろう。格上の相手の攻撃を長い時間受け流していたんだ。おそらくもう物を持てないくらいを疲労しているはず。」
「・・・引き際っちゅうことか」
「それにシエンは【魔法】が使えなくても戦えるって事を周りの人達に証明した。それはロキの目的は達成したという事。失うものは無いしそれに手の内を見せたくないときたら・・・」
「さっさと試合をやめるって事か・・・まあ、しゃあないか・・・」
「試合に負けて、勝負に勝ったといったところかの。」
「・・・アイツを鍛えた私としてはもう少し頑張ってもらいたかったがな。」
「あの時笑っていたシエンはめっちゃ怖かったっす・・・」
「やっぱり普通じゃないわね。あの子・・・何者かしら?」
そうしてシエンの戦いは終わった。会場から降りていったシエンの顔は清々しい顔で対するモルドは苦虫を噛み潰したような顔で降りていった。
「畜生がッ!!」
モルドは控え室に行く通路で立ち止まり壁を殴りつけた。相手が降参したから勝ったが、実質は負けていた。あのガキを侮っていたばかりに負けた。不甲斐ない己自身にイラついていた。
「お〜い、モルド!大丈夫か!」
「傷だらけじゃねぇか、ほらハイポーションだ。」
「・・・ありがとよ」
モルドはハイポーションを飲んだ事で体の傷が塞がり体のだるさが治っていった。が、気持ちは晴れなかった。
「・・・」
「・・・まあ元気出せよ。」
「そうだ!カジノにでも行こうぜ!そうすりゃ嫌な事だって忘れられる!」
「・・・ああ、そうだな。・・・よし!オレは棄権する!行くぞオメェら!!」
「「あ、待てよモルドーー!!」」
戦いは納得のいくものではなかったがその事から目を背け、モルドは大会を棄権して取り巻き達と一緒にカジノに向かうのだった。
あの会場には居たくはなかったのだ、モルドが恐怖したあの子供の笑みをもう見たくなかったから・・・
「ただいまー」
シエンは控え室に戻って仲間達に気軽に声をかけた。
「おかえり?」
ホームに帰ってきたわけでは無いので言葉があっているか分からないのでとりあえず返事をするアイズ。
「勿体ねえな、シエン。もうちょっとで勝てたのに。」
「別に、オレは勝つのがオレの目的ではなかったからこれでいい。」
「かーッ!可愛くねぇの!!」
ドライなシエンに呆れる団員。
「アイズ、ありがとな。いつもの模擬戦が無かったらあの持久戦の作戦は取れなかった。」
イーリスにいるころのシエンは戦争が後半になると剣をほとんど握っていなかった。
アイズとの模擬戦で剣を使う戦い方を思い出していたのだ。それがなかったらシエンは手首を切り落とされていただろう。
「・・・どういたしまして。また、やる?」
「ほどほどに頼む・・・もう剣でアイズに勝てる気がしねぇからな。そんじゃ、オレは観客席に行くわ。頑張れよアイズと先輩達。」
そう言ってシエンは控え室を後にするのだった。
まあ、シエンならこうするかなって。勝ってもいいことないし・・・
今後モルドは原作通りカジノに没頭していきます。