イーリス聖王国の魔道士がオラリオに来るのは違っているだろうか? 作:カルビン8
オレが魔道具を作れる事をロキファミリアにバレてから次の日の朝、黒髪のなんというか普通の青年がウチのホームにやってきた。
「初めまして、自分はロキファミリアのラウル・ノールドっていうっす。えーと、主神が契約の件についてウチのホームで相談したいとの事でもし時間があったらついてきてくれないっすか?」
「オレは時間はあるけどベルとヘスティアは?」
「僕は大丈夫だよ」
「ボクも行けるぜ」
「それは良かったっす。じゃあ、行くっすよ」
二人共時間があったので3人で最大派閥ロキファミリアへ向かう事になった。
オレは昨日使っていた杖だけを持ってラウルという人物について行った。
「ここがウチのファミリアっす」
北のメインストリートを歩き北の目抜き通りから外れた街路沿いに長大な館が立っている。高層の塔がいくつも重なってできている邸宅は槍衾のようでもあって赤銅色の外観もあって燃え上がる炎のように見えた。
塔でも一番高い中央の塔には道化師の旗が立っている。
「おお〜、さっすが最大派閥。でっかい建物だなぁ」
「ぐぬぬぬ、いつかボクらだって立派な家を手に入れてみせる!」
「ここにヴァレンシュタインさんが住んでいるんだ・・・」
シエンは立派な建物に素直に感心してヘスティアは対抗心を燃やし、ベルはアイズの事を考えていた。
「ここが応接間っす。ロキを呼んでくるので少しここで待っていて欲しいっす」
そういってラウルは応接間を出て行った。その入れ替わりに翡翠色のプロテクターを持った金髪金眼の少女、アイズ・ヴァレンシュタインが入って来た。
思わぬ人物の登場にベルは腰を上げて逃げようとするがオレは【呪い】を発動させて黒い影でベルの足を拘束した。
「うわわっ!?」
「おいこらベル。どこに行こうというんだ?そもそもここはロキファミリアのホーム、大人しくしとけ」
「いや、つい・・・」
「あの、これ・・・」
そう言って彼女はおずおずとプロテクターをベルに差し出した。最近ベルが身につけていたものだったが昨日帰って来た時に落としたと言っていた。
それを彼女が見つけて拾ったのだろう。
「あ、ありがとうございます!よかった〜無くしたと思っていたんです」
「あの、私達の仲間が貴方達に悪いことを言ってしまってごめんなさい。その事をずっと謝りたかったから」
「い、いえそんな!?僕が弱いのは本当のことですし、ヴァレンシュタインさんが助けてくれなかったらあのまま死んでいましたし、こちらこそありがとうございましたッ!」
そう言ってようやく謝ることのできたベルだった。アイズに夢中なベルにヘスティアは面白くなさそうに頰を膨らましてその光景を見ていた。
「ぐぬぬぬ・・・ッ!」
「いやーお待たせや!なんやドチビ、なにリスみたいに頰を膨らましとるんや?」
「・・・なるほど。レノアが褒めていた真っ黒の男とはやはり君のことだっだのか」
しばらくすると神ロキとリヴェリアさんが応接室に現れて話し合いをする事になった。どうやら実物を見たくてオレ達をホームに呼んだらしい。
それにしてもリヴェリアさんはレノアさんの事を知っているのか、やっぱりあのお婆さんはかなり優秀な魔法使いなのかもしれない。
そしてオレは杖をテーブルの上に置き、杖の説明をした。
「ほーん、そういう効果があるんやな」
ロキはシエンが持ってきた杖を弄りながら思った。
なんだこの便利な杖は、と。
ステイタスの話になるが【魔力】は精神力を使わないと伸びない、つまり魔法を使わないといけない。
しかし、ダンジョンには適していない魔法もあるし、地上で使おうにも規模がデカすぎて使うことができなかったりする。
だが、治療魔法は違う。ダンジョンでは怪我をするのは当たり前で地上でも訓練をしていれば怪我をする。そしてそれを治すために【魔法】を使うので使用頻度が他の魔法に比べて非常に多いのだ。
【魔法】を何度も何度も使えば経験値は溜まっていく、つまり【魔力】が上がる機会増えるということだ。流石に第一級冒険者になると経験としては、しょぼいのでそうそう上がらないだろうが。
この杖は【魔力】さえ持っていれば誰でもヒーラーになれて、怪我の治療だけでなく使用者の【魔力】を成長させるのに適したものと言える。
「私もこれを使えば治療することができる?」
「そうだなアイズ、確かにこれは凄いものだ。ベートが必要だといったのも頷ける」
「あんまり人には知られたくはなかったんですけどね。こちらとしてはオレがダンジョンに行く時間を取られてしまうのであまり作りたくはないんですけど・・・」
「にしし、悪いなぁにいちゃん。1週間ほどしたらウチらはダンジョンに遠征しに行くつもりなんや。材料は用意したるからじゃんじゃん作ってくれや!」
「う、また忙しくなるんですか?」
「ああ、ホンマや。あ、ちゃんと金は払うから安心しとき。いくらや」
「ふっふっふ、ならば依頼料をザッと1億ヴァリスで手を打とうじゃないか!」
話は商談へと変わりヘスティアは膨大な金額を要求をした。ヘスティア自身もお金を手に入れて少しでもマシな生活を送りたいとも考えているし、シエンもしばらく前にホームに缶詰状態で頑張っていたのだ。なるべく高くしてロキが激怒してこの話をなかったことにしても良し、その後の交渉で依頼料の金額を下げる事で作る物の数を減らしてもいい。
ヘスティアは少しでもシエンの負担を減らしたかったからだ。
「アホかァ!そんなアホみたいな金払うわけやろ!それにウチらが材料持ってくるんやで?だから100万ヴァリス!!」
「だったら別にシエン君に頼まなくていいんだぜ?9999万ヴァリス!」
「全然減っとらんやんか、セコッ!?101万ヴァリス!」
「君だってそうじゃないか!9998万ヴァリス!」
「102万ヴァリス!」
「9997万ヴァリス!」
二神は互いに唾を吐き散らしながら交渉を進めた。
「これは時間がかかりそうですね・・・。リヴェリアさん、参考にどういったものが欲しいんですか?」
「どういったものと言われてもな。君の名前はシエン、だったな。シエン、種類は?」
「今の所できるのはアスフィに渡した、単体回復魔法、遠距離回復魔法、範囲全体回復魔法、空間転移魔法に後は「待ってくれ」」
そう言ってリヴェリアはシエンが話しているところに割り込んだ。聞いた話を整理して理解しようとして額に手を当てて目を瞑った。
目の前の真っ黒の男の事を魔道具のことに長けたレノアが認めるだけのことはある。この男は素晴らしく優秀でそして危険過ぎる。作れるものはまだあるのだろう、絶対に敵に回してはいけない相手だ。
ティオナが遠征に行くたびに言う愚痴の『深層に一気に移動する方法はないか』というのはあるはずがないと断言出来ていたがまさか本当にその方法が見つかるとは思わなかった。
空間転移魔法、そんな魔法は長く生きてきたリヴェリアも聞いたことがなかった。
リヴェリアは手を下ろし目を開けてシエンに聞いた。
「サラッととんでもない言葉が聞こえたんだが空間転移魔法というのはどういったものなんだ?」
「遠くにいる仲間を自分の付近に転移させるものですね」
「というと遠くに送ることはできないのか?」
「ええ、まぁ」
そう言って頰をかきながらシエンは苦笑いをしながら答えた。実はそういった杖を作ることができるのだが今聞かれているのは呼び寄せる杖で遠くに送ることができないのかという風に解釈してそう答えた。
シエンとしても仲間を遠くに送り届ける杖を別のファミリアの為に作ることは避けたかったのだ。
「・・・ふむ、1億ヴァリスでも安上がりなくらいだな」
「金は仲間の命には変えられませんからね。見えているのに助けられなくて出来たのは手を伸ばすだけ・・・そんなのが嫌でその杖を作れるように頑張ったんです」
「シエン・・・」
「いや、すいませんね。ちょっと湿っぽくなっちゃって、今回作る事になったら任せて下さいね!絶対に死なせませんから!」
そう言ってリヴェリアに向かって自信に溢れた笑みを向ける。さっきの言葉からこの男も戦場に立ってたくさんの死を見てきたのだろう。少しでも死人が減るように彼は死に物狂いで努力してその杖を作り上げたはず。
「シエン、君は尊敬に値するヒューマンだ」
「尊敬だなんて、言い過ぎですよ。オレはそんなに褒められた人じゃないですから」
褒められて照れて頰が赤くなったシエンは謙虚に言ったが覚醒の世界では戦争中だからしょうがないとはいえペレジア兵を大虐殺している。とてもじゃないがまともではないと自覚しているため尊敬してもらいたくはなかった。きっと幻滅するだろうから。
この場で空気を読まない天然アイズが言った。
「え?でもルルネが『シエンはイーリスの英雄だってヘルメス様が褒めていた』って言ってたよ?」
アイズの一言にその場に居た人達は沈黙した。
「え」
「え」
『英雄ゥ!??』
その場に居た人達は声を揃えて言った。二神は目を大きく開けて驚愕して、応接間でのんびりしていたロキファミリアの団員達も驚きを隠せなかった。中でも英雄に強い憧れを持っているベルの目の輝きっぷりが半端ではなかった。そして英雄と呼ばれたシエンは肩を震わせていて、こう叫ばざるを得なかった。
「ヘルメスゥゥゥゥ!!余計なこと言いやがってェェェェ!!あとお喋りルルネ!ぜってぇ許さねえ!!」
バサーク「おいおい」混乱
サイレス「オレ達を」沈黙
スリープ「忘れてもらっては」催眠
ドロー「困るぜ!」敵の転移
ウィークネス「お楽しみは」弱体化
禍事罪穢「これからだ!」敵の最大体力を半分