イーリス聖王国の魔道士がオラリオに来るのは違っているだろうか?   作:カルビン8

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ガンダァァァァァムッッ!!


地下の楽園へ

ダンジョン

 

ベル達が落とし穴に落ちて危機から脱出してから数十分ほど経つと瓦礫が崩れてシエンが出てきた。

周囲を見渡すと瓦礫だらけで所々に魔石が散らばっているだけでモンスターはいなかった。シエンはスキルを使ってベル達の居場所を探ってみたが発見する事はできなかった。上の階に逃げたのかそれとも下の階に逃げたかのどちらかだ。

もう少し周りを見ると落とし穴を見つける事ができてその付近にはリリが持っていた道具が散らばっていた。おそらくベル達は他の場所に逃げる事ができずにあえて落とし穴に落ちたのだとシエンは察した。

中層を初めて行きレベル1の冒険者が2人を連れての移動はあまりにも危険すぎる。地上に戻り応援を頼むという手はあるがそれでは遅すぎるのでシエンは躊躇う事なくベル達が落ちたであろう落とし穴に身を投じる。

 

「あの六人組の冒険者、地上に戻ったら覚えてろよ!特に黒髪の女の【魔力】は覚えたからな!」

 

 

ダンジョン中層 ベル

 

落とし穴に落ちてからしばらくたった。正確な時間を知る為に小型の時計を見る必要があるけどそんな余裕すらない。その一瞬の隙を突いてモンスターが襲ってくるかもしれないからだ。この薄暗いダンジョンの中でちょっとした物音にすら敏感に反応してしまう。いつ何処でモンスターが出てくるか分からないこの緊迫感に僕達はすっかりまいっていた。

ヴェルフは周りを見渡し、リリは僕がシエンから貰った白色の魔法石を少し砕いた物を地面の上に置いていく。これはシエンがもし僕達の落ちた落とし穴に入ってここに降りた時の為の道標、【スキル】持ちのシエンならきっと察してくれるはず。

 

「・・・行き止まり」

 

「チィ・・・」

 

「ダメですね、ここが何処なのか。さっぱりわかりません」

 

僕達が歩いた先はまたもや行き止まりだった。リリの言う通り完全に迷子だ。僕とシエンは13階と14階のマップは頭に入っていたが僕は立て続けに起きたハプニングでもう思い出すことすらできない。

 

「・・・・・・ベル様、ヴェルフ様。一旦ここで休憩にしましょう。それと今後の事について相談したい事があります」

 

来た通路を引き返そうとするとリリがそれを止めた。ここで休憩するのは周りに壁だけでモンスターが来るとしたら、いままで歩いてきた方向からしかないからだろう。もし今いる場所からモンスターが生まれたとしても戦闘準備くらいは間に合うはず。

だから僕は腰を下ろして休憩することにした。それを見てヴェルフもリリも座り休憩、作戦会議が始まった。

リリはバッグパックの中からシエンが作ったライブの杖で僕達の治療を始めながら喋り出した。

 

「ベル様、落ち着いて聞いてください。これはリリの予想なのですが今リリ達は15階層にいるのかもしれません」

 

「「!?」」

 

リリの言ったことに僕とヴェルフは動揺した。確かに落ちている時間は長く感じたがまさか15階層まで落ちているとは思わなかったからだ。

ますます地上、いや上層へ登る事すら難しくなったんじゃ・・・

 

「ですがこれは逆にチャンスとも言えます。このまま14階層への階段を探す為に動き回り消耗するよりも敢えて各地にある落とし穴に入る事で18階層を目指します。そして18階層にいる冒険者達のパーティーに混ぜてもらい地上に脱出する。これならば確実に帰ることが出来ます」

 

「なっ!?」

 

「リリスケ、おまえ正気か?」

 

上を目指すのではなく敢えて地下に潜る、そんなこと考えもしなかった・・・やっぱりリリは頼りになる。頭が良く切れる。

 

「ま、待てリリスケ。確かにいい考えだが18階層に行く為には17階層の奥地に行く必要があってそこにはゴライアスがいる筈だ!流石にそれは避けてはいけねぇぞ!」

 

「いえ、それは大丈夫な筈です。ロキファミリアの遠征は今から10日前です。その時にゴライアスを撃破しているはずです。避けては通れませんし倒した方が安全に通れますから。ゴライアスが復活するのには約2週間かかりますので今ならば問題はありません」

 

「しかし下に行けば行くほどモンスターは強くなり、そもそも17階層に行けるかどうかも分かりません。ベル様、どうしますか?リリはベル様の判断にお任せします」

 

「そうだな、このメンバーでリーダーはお前だ、ベル。オレもお前の判断に従うぜ」

 

僕の決断で全滅するか、無事生還できるかが決まる。もし、もしも上手くいかなかったからと思うだけで全身から汗が止まらない。こんな責任を負えない、嫌だと投げ出したいくらいだ。引くも地獄、進むも地獄、頭がおかしくなりそうだ。

だけど死にたくはない、今の僕には家族がいる。神様を悲しませるわけにはいかない。シエンにだって誓ったんだ、僕はあの人に振り向いて貰いたいと。こんなところで終わるわけにはいかない、シエンにだって笑われてしまう!

 

「いこう、さらに下の階層に。絶対に全員で生き残るんだ!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

「そうだな」

 

・・・ん?なんだか1人多いような・・・?

 

「「「シエン(様)!?」」」

 

いつの間にかシエンがやって来ていた。モンスターを倒した時に出てくる黒い灰を少し被っているだけで見た感じ怪我とかはなさそうだ。本当に無事でよかった!

 

「あの、シエン。ごめんなさい!僕達はシエンを置いて逃げてしまって・・」

 

「いや、オレは逃げろって言ったし無事だったから気にするなよ。それにまだ助かった訳じゃない、気を引き締めろよ。話は変わるが途中から聞いていたけど上に行かずに下に行くって事か?」

 

「は、はい。シエン様が来られたので楽になるはずです」 

 

シエンも無事で全員揃った。これなら18階層にだっていけるはず!絶対に生き残ってみせるんだ!

 

地上、夜

 

この日の朝、ヘスティアがベル達が帰ってこない事を怪しみ、ヘファイストスの所にヴェルフが帰って来ていない事を確認しリリの下宿先にも訪れて話を聞いてもまだ帰って来ていないことが判明した。

ヘスティアはベル達に授けた【神の恩恵】が生きている事でベル達が生きている事を確信している。しかし帰ってこないという事はまだダンジョンにいて何かしらのアクシデントにあったに違いない。

いても立ってもいられないヘスティアはエイナにクエストを発注した。内容は【ヘスティアファミリアの救出】。

それを知りヘスティアに協力することにしたのが集まった者たちがいた。

 

「ヘスティア、スマン!」

 

集まって早速謝罪をしたのは神タケミカヅチだった。彼の眷属がクエストの内容を知り自分達が怪物進呈をした相手のことを知り謝りに来たのだった。

そしてその救出に大男と黒髪の少女に目隠れの少女の3人が参加する事になった。

 

「ヘスティア、あの子に伝えて欲しいの。仲間と意地を秤にかけるのはやめなさい、と」

 

ヘファイストスは自分の眷属が巻き込まれた事を知りヘスティアにヴェルフが入団する時に作った魔剣を持ってきて伝言を伝えた。

 

「いや〜、彼に会うのは久しぶりだねぇ。それに・・・彼には渡しておきたいものがあるしな」

 

そして久しぶりの友人に会いたいとダンジョンに潜ってまで会いにいこうとするヘルメスに付き添いのアスフィ。

 

「ヘルメス様とヘスティア様を護衛をする為に協力してくれて感謝します、リオン」

 

「いえ、シルの友人でもある彼らを私も失いたくはない。知らせてくれて感謝します、アンドロメダ」

 

覆面を被ったエルフこと豊饒の女主人にて働く女性リュー・リオンも参加した。

 

「さて行こう!ダンジョンに!無事でいてくれよ・・・ベル君、シエン君、サポーター君にヴェルフ君!」

 

ダンジョン

 

「ヴォォォオオオ!?」

 

「ガルゥアアアア・・・」

 

次々に現れるモンスター達は威勢良く飛び出してくるがその雄叫びは2人の冒険者によってすぐさま悲痛の叫びとなった。

ミノタウロスは目にも止まらない速さで移動して切り裂くベルによって倒されライガーファングは高速の火球をぶつけられた瞬間に起きた爆発に巻き込まれて爆散した。

 

「【燃えつきろ、外法の技】、【ウィル・オ・ウィスプ!】」

 

ヴェルフが唱えたのは長短文詠唱の魔法だ。ヴェルフの右腕から陽炎がうまれてそれが相手を包み込む。

効果は【魔力暴発】を強制的に引き起こすものだ。しかも相手が使う魔法の威力、魔力が高ければ高いほど爆発力が膨れ上がるという魔道士殺しっぷり。

どう見てもシエンの天敵だった。

モンスターが魔法を使ったわけではないがヘルハウンドが吐く炎も有効だったらしく戦力として戦っていた。

 

「ふぅ、いい感じだな。ヴェルフ、それ良い魔法だな。頼しすぎて怖いくらいだ」

 

「何言ってやがる。オレの詠唱が完了する前に魔法を放たれたら意味がねぇっての」

 

「シエン様、ヴェルフ様。はい、マジックポーションです。精神力を回復させてください」

 

「助かるぜ、リリスケ」

 

「オレはまだまだいけるからまだいいよ」

 

現在は17階層、この階層は岐路も少ない単純な一本道ばかりで道が広くなっていく方向へと向かうとこの階層の奥地に辿り着くことができる。もう少し、あともう少しで18階層だというのに何故か嫌な予感しかしない。

 

「なあ、モンスターの出現率が低くないか?」

 

そう、モンスターの気配がするとはいえ襲ってくる気がまるでないのだ。ひたすらジッとして何かが生まれてくるのを恐れているかのような・・・

 

「・・・少し急ぎましょう」

 

リリもなんとなく嫌な予感がしたのか全員に先を急ぐように言う。走りはしなかったが早歩きで移動して遂に奥地に辿り着いた。

そこは大円形の入り口から広間の奥まで約200Mはありそうで幅は100M、地面から天井までは20Mといったところだ。壁も天井も岩石の塊で形成されているが左側の壁面だけツルツルで表面は凹凸が一つもない。この壁は【嘆きの大壁】とも言われている。ここからゴライアスが生まれて来るのだとここにいる誰でも分かった。

 

オレ達がいざ18階層へと続く洞窟を目指し30Mほど進んだ時、左手にある壁がベキリと音が鳴った。

 

「・・・!?」

 

「ふざけろ・・・」

 

「そんな・・・まだ10日しか経ってないというのに!?」

 

「ホント、嫌がらせの天才だな。ダンジョンってのは・・・急げ!!」

 

壁にヒビが入る音が止まらずそこから視線を外しオレ達は走り出した。今いる位置から20Mほど走った時、壁が崩れそこから7Mほどの灰褐色の体皮の黒い髪の人型のモンスター【ゴライアス】が道を阻むかのように誕生した。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「ヒッ!?」

 

「ウグッ」

 

モンスターの中には強烈な【咆哮】をする事がある。この【咆哮】には相手の心と体を恐怖で縛りつけ強制停止に陥れる効果がある。

レベル1であるリリとヴェルフは推定レベル4といわれるゴライアスの【咆哮】をモロにくらい足が止まってしまう。

その機会を逃すゴライアスではなく、手を組み拳を振り下ろすダブルスレッジハンマーを繰り出した。

 

「やらせるか!【ミラーバリア】!!」

 

振り下ろされるハンマーにすぐさま障壁5枚で対応する。1、2枚目が容易く割られ3枚目が少しヒビが入った後にすぐ割れた。

 

「グッ、かなり、やる!」

 

シエンは思わず両手の掌を障壁に向かって突き出した。意味はないかもしれないが気合は入った。この障壁が破られたらシエン達はミンチになる、それだけは避けなければならなかった。

4枚目が破られ1番精神力を込めた5枚目の障壁でゴライアスの拳は止まった。

障壁にはゴライアスの手の小指辺りから出血した血が付着していた。

 

「グオオオオオオオオオオオ!!!」

 

自分の拳を塞がれた事に苛立ったのかシエン達を潰そうと何度も何度も拳を振り下ろす。5枚目の障壁も耐え切れないのかヒビが入りだんだんと広がっていく。

 

「グ、グググ・・・」

 

「シエン・・・」

 

「だ、黙ってろ。お前に出来ないことをやるのがオレの仕事だ!お前らは先に洞窟に向かえ!!オレが道を作る!!」

 

「どうやって!?」

 

「こうすんだよ・・・・・・・【ミラーバリア】!!」

 

シエンは自分の左手の方向にトンネル型の障壁を張った。強度は今張っている5枚目よりもある。ただ生憎とベル達には見えないが。

 

「左手の方向にトンネルを作った!オレの指差す方を真っ直ぐ突っ走れ!!奴の注意はオレが引きつける!あとはリリ、アレを使え!お前が頼りだッ!上手くやってくれよ!!」

 

「は、ハイッ」

 

ベル達はシエンの指差した方向へ走り出した。リリはシエンの腰に付けていた杖を一つ借りて同じく走り出す。

シエンは更に【呪い】を発動する。トンネルがある方向と逆側に影を伸ばす。ベル達がゴライアスの攻撃を食らう確率を減らした。影の長さは5Mと短いがゴライアスの背中を取り奴の視界から出るには充分過ぎる。

 

「オオオオウウウウアアアアッッ!!!」

 

更なる一撃で遂に5枚目の障壁も破られてしまう。遂にシエンが挽き肉になってしまうかと思いきや。

 

「【ミラーバリア】!!」

 

シエンはもう一度障壁を貼り直す。今度は一枚だけ、トンネルと同じくらいの強度だ。再びゴライアスの拳はシエンの目の前で止まった。

 

「オオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」

 

「お前の言葉は分かんないけど、とてつもなくウザいだろ?」

 

何度も何度も壊しても再び現れる見えない障壁にゴライアスは絶叫する。黒褐色の顔が僅かに赤みを帯びているのが見えて明らかに怒っているのがわかる。

 

「シエン様ー!!」

 

ベル達は無事トンネルを潜りゴライアスの背後を取ることに成功していた。

 

「よし、頼む!」

 

「はい!【レスキュー】!!」

 

リリがシエンから借り受けた杖は転移魔法のレスキューだった。シエンの足元に魔法陣が浮かび上がり魔法陣から光が立ち昇りシエンの姿がその場から消えた。そしてリリのすぐそばに魔法陣が現れてそこからシエンが現れる。

 

「よくやった!さぁ、逃げるぞ!!」

 

「リリは逃げ足なら負けませんよ!」

 

シエンはリリが昔からずっと魔法を使って生きてきたことを聞き、最近魔法を覚えたベルとは違って魔法の扱いに慣れていると思い、杖を託したのだ。

 

「ゴォ!?」

 

突然消えたシエンに驚愕するゴライアス、周りを見渡し後ろを振り返ると忌々しい赤色のローブを着た生き物2体が洞窟目掛けて走っているのが見えた。

生憎とリリはレベル1で魔力もそこそこな為シエンが転移できた場所はゴライアスから40Mといったところだ。ベルとヴェルフはもう洞窟付近に待機している。

 

「オオオオオオオオオオオ!!」

 

ゴライアスは絶対に逃さないとばかり雄叫びを上げながらグルリとシエン達のいる方に身体を向けて一歩を踏み出し、後ろ足を前に出そうとした。

 

「【ミラーバリア】!!」

 

シエンは後ろを振り向きながら魔法を発動して長方形の障壁をゴライアスの後ろ足を前に出そうとしている空間に展開した。

 

「グオ!?オオオオオオオオオオオッ!???」

 

突然足元に障害物が現れそれに足を取られてバランスを崩してしまい、つんのめって大きな音を立てて転倒した。

シエンとリリはゴライアスが倒れている間に洞窟に辿り着き、ゴライアスの雄叫びを背に洞窟へと飛び込んだ。




今回の話
昼過ぎ、ベル達が落とし穴に落ちて数十分後にシエン復活して同じく落とし穴へ

15〜16階層を半日(地上は夜中の2時くらい)

朝、ベル達捜索クエストを発注する

地上では昼、17階層奥地へ

夜、ベル達捜索隊出発

シエンがいる分、原作よりも1日早く18階層に到着している
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