イーリス聖王国の魔道士がオラリオに来るのは違っているだろうか? 作:カルビン8
・・・と思っていましたがあっさりクリアしたので更新します!!
なんだかなぁ、10数年待ち望んでいたのにあっさり終わって悲しい気持ちになりました。
野営地 朝
今日、ロキファミリアは地上に戻るべく準備をしている。昨日の夜に下層で受けたという猛毒を治すための薬が次々と届き投与した結果、全員の解毒に成功したからだ。その帰りにオレ達も同行する予定のはずなのだが・・・
オレ達の主神、ヘスティアの姿が見えなかった。探知をしても頭にノイズがかかっているかのようで上手く居場所を探る事ができない。
「シエン!大変なんだ!!神様が、神様が!!」
「どうした、ベル。そんなに慌てて」
「これを見つけて、神様は誰かに拐われたみたいなんだ!」
狼狽したベルがオレの元を訪ねて来てベルが見つけたという置き手紙を読んだ。
『リトル・ルーキー、女神は預かった。無事に返して欲しかったら1人で中央樹の真東、一本水晶までこい』
・・・大変なことになった。誰がこんな事をしたのかは心当たりはある、あの時の酔っ払いの冒険者だろう。アイツはオレにやられても懲りていなかったという事だろうか? 連れと合わせて3人だけで誘拐・・・ありえない。ここは野営地、それなりに人数もいるしいったいどうやって・・・?
「気になることは山程あるが、ひとまず相手の思惑に乗るか。・・・ベル!単身で一本水晶まで行け。オレは囚われたヘスティアを探してくる。・・・出来るか?」
「勿論!行ってくる!!」
そう言ってベルは防具を着てヘスティアナイフ、ミノタウロスのドロップアイテムでヴェルフが作ったという牛若丸という短刀を持って駆け出した。
ベルを見送った後にオレはヴェルフ達にヘスティアがいなくなったことを告げた。ただし、今一番頼りになるはずのリュー、ヘルメス達は見つからなかった。
「シエン、どうするんだ?」
「ベルが万全に戦えるようにヘスティアの救出、そしてベルの援護が必須だ。ヘスティアの救出は不安定ではあるが探知出来るオレが行く。ヴェルフ達はベルの援護を頼みたい!」
「分かった!」
「俺達、タケミカヅチファミリアも助太刀しよう」
「そうか、よろしく頼む!よし、作戦開始だ!」
一本水晶 ベル・クラネル
「来たぞ!」
僕はシエンと別れて一直線に目的地まで辿り着いた。大きな水晶の後ろから前に見たことのある強面な冒険者が姿を現した。
「よく来たじゃねぇか、勿論1人で来たんだろうな?」
「そうだ!僕1人だ、神様を返してください!」
「いいぜ?このモルド様に勝てたらなぁ!出て来いお前ら!!」
そう言ってモルドは合図をすると森に隠れていた他の冒険者達がゾロゾロと姿を現した。
「へへへ・・・」
「ホントに来やがったぜ、馬鹿な奴」
「主神を人質に取ってんだ。従わざるを得ねぇじゃねえか、無理いうなよギャハハハ!!」
「さあ、こっちに来やがれ。戦いの舞台は用意してあるぜ!」
ベルは今までにこのような悪意にまみれた視線を受けた事はなかった。それ故に萎縮しつつもモルドの後をついて行き、ひらけた場所に着いた。
モルドは自身の持っていた剣を抜き構える、ベルも同様にナイフと短剣を持ち二刀流の構えを取った。それなりに様になっているのか周りにいた冒険者も少し感嘆した。
「あの忌々しい魔道士はどうした?」
「ここには来ていないですよ」
「・・・それもそうか!1人で来いって言ったもんなぁ!」
実はモルドは自身を軽く捻ったシエンが来ていないことに安堵していた。仮にやって来たとしてもこの大勢の相手にはどうにも出来ないと思っているが来ないなら来ないでいい。
「さあ、決闘を始めるとしようじゃねぇの!ただし、今から始まるのはただの一方的な蹂躙だがな!!」
そう言ってモルドは隠し持っていた漆黒の帽子を被る事で姿が見えなくなりベルを痛めつける為に襲いかかった。
ベルは突然に消えたモルドに対応出来ず脇腹に強烈な衝撃を受けて転倒した。
「ガッ!?」
「マジかよ!?本当に姿が見えねぇ!!」
「モルド、もっと痛ぶっちまいな!!」
「オラッ、いつまでも寝てんじゃねぇぞ!ルーキー!!」
妬みや嫉妬、やっかみといったあらゆるものがベルに襲いかかる。このような事はベルにとっては初めての事で身体が竦んだ。
騒ぎで聞こえづらくなったモルドの土を蹴る音が迫ってきたのでなんとか震える身体を抑えてその場から離れ、辛うじてモルドの攻撃を躱す。
「ハッ!なんだぁ!ウサギみてぇに震えてるじゃねぇか、さっきまでの威勢はどうしたよ!!」
モルド達の悪意はまだまだ続いた。
ベルが冒険者達に嬲られている所より少し離れ場所にて観察している二人組がいた。
「ヘルメス様、これで満足ですか?」
「辛辣だなぁ、アスフィ・・・。けどこの光景は今でなくてものちに行われる可能性はあった。ならば今のうちに経験させておこうと俺が思ったんだ」
「・・・・・」
主神の言い様には思うところがあったが納得できる事なだけに言い返すことができない。出る杭は打たれる、彼らは目立ち過ぎたのだ。
シエンはともかく、ベル・クラネルという少年は基本的に善人だ。そしてこのオラリオにてあった人物、神は運良く善人だった。
それ故に神ヘルメスはベルの悪意に対する抵抗力の無さを危惧した。
いわばこれは神ヘルメスからの贈り物といったところだろう。送られる側は堪まったものでないが。
「シエンに何されても知りませんよ、私は庇いませんからね」
「彼に魔道具を貸した時点で共犯者さ、そうはいかないぜ?・・・っと、そんな事を言っていたらもう来たのか、カンが良過ぎるのも考えものだな」
ヘルメスはベルから視点を変え、頭上を見上げた。そこには空中を駆ける魔道士がいた。
場面は少し戻りヘスティアは一本水晶から少し離れたところで木に縛りつけられていた。そこには見張りの冒険者が二人いる。
「ちょっと君達!いったい何をしているのかわかってるのか!」
「へへへ、俺達なりの歓迎会をしてるんすよ。あのルーキーにね」
「・・・ッ!」
ニタニタ笑う冒険者を見てロクな歓迎会ではない事を察することができる。そしてベルの足を引っ張ってしまっている事に頭を俯かせ唇を噛み締めていると足元に魔法陣が浮き上がってきた。その魔法陣から光が溢れてヘスティアを包み込んだ。
「これは!?」
「うおっまぶし!」
「なんの光!?」
そして光が消えた後にはそこにいたはずのヘスティアはいなくなっていた。
「おい!女神様がいねぇぞ!」
「嘘だろ!?いったいどこに!?クソッ、近くを探すぞ!」
ヘスティアを見失った冒険者達はその場を離れてヘスティアを探すべく移動し始めた。
そのいなくなったヘスティアはというと、彼らのほぼ真上にいた。
「あれ?ここは・・・って高っ!?それにシエンくん!?君のおかげかい?助かったよ!」
シエンはなんとかヘスティアの居場所を探知してそこに行く途中で敵に遭遇する事を避けるために【ミラーバリア】で空中に複数足場を展開してヘスティアいる場所の真上に移動しレスキューの杖で転移させたのだった。今はヘスティアを抱き抱えている状態だ。
「助けに来るのが遅れてすまんかった。さて、このままベルのとこに行くぞ」
「そうだね!ボクが無事だという事を早くベルくんに伝えないと!じゃないとあの子は安心して戦えない!」
全員でベルを助けにいっている為、ヘスティアを元野営地の場所に送っても誰もおらず彼女を守る者もいないのでシエンはヘスティアと共にベルの元へと急ぐのだった。
一本水晶
シエンがヘスティアを救出してベルの元へと向かっている間も姿の見えないモルドの攻撃は続いていた。主に拳や蹴りだけで持っている剣は使っていなかった。剣で斬ってしまえばすぐに終わってしまう、より長く痛ぶるには肉弾戦の方がよかったからだ。
しかし、だんだんと戦いの流れが変化しつつあった。
ベルはモルドの足音をした場所からすぐさま2Mほど離れるようになった。それだけでも敵の攻撃は回避できる。
それに自分が見られているという【視線】も感じた。
オラリオに来てからやたらと視線を感じるようになったベルは視線に関して感覚がより鋭くなっていた。シエンのような魔力探知はできないが、とある女神による視線によって強化された視線を感じる能力ならばベルの方が上であった。
そして少し離れた木々の上から自分を見つめる二つの視線も感じとれた。
「(クソが、いったいどうなってやがる!?何故あたらねぇ!)」
少しずつながらベルの被弾が減り焦り始めるモルドに対して他の視線も感じ取れるだけ余裕の出てきたベル。
ベルはこの状況で少し前の鍛錬のことを思い出した。
『ん、んん?』
『そこじゃない、もうちょい右だ』
地下18階層で始めた朝練でベルは障壁に触れようと目を凝らしていたが見つけることができない。シエンに場所を教えてもらってもまるで分からなかった。
上手くいかないので一度休憩する事になった。
『どうだ?何か掴めたか?』
『ぜ、全然分からないよ』
『まあ、ベルは魔法を使えるようになったのは最近だから魔力の流れってやつを感じるのはやっぱり難しいのかな』
『うん・・・これじゃシエンの【ミラーバリア】を利用して戦えない』
『焦らなくてもいいさ、見えないなら見えるようにしてしまえばいい』
そう言ってシエンは地面の土を掬い、障壁のある場所へと放った。障壁は土を防いだ後にはね返し土は地面の上に落ちた。
『あっ・・・』
『これで場所はわかったろ?見えなくたって場所を把握する方法はいくらでもある。ま、今回の鍛錬には関係はないけどな!ほら、続きをするぞ!』
『うん!頑張ってみるよ!』
・・・・
・・・
「(そうだ!姿が見えないのなら・・・!)」
ベルは自分のいる場所の近くに生えている青水晶を右手で掴み折って握りしめバラバラにした。
「ウオラァァァ!!」
姿の見えないモルドが突撃してきた気配を察してその場所へと砕いた物を投げつけた。
「なに!?」
青く光る水晶の破片、それをモロに被った透明のモルドの体が光り輝きモルドの姿が見えなくてもはっきりとそこにいることが分かった。ベルはすぐさま右手を突き出し魔法を唱える。
「【ファイアボルト!】」
「ガアアアアアッッッ!??」
緋色の炎がモルドを呑み込んだ、相手はシエンではないので若干手加減をしているがモルドを倒すには十分な威力だった。
「クソッタレがァ!もう遊ぶのは終わりだ!ブッ殺してやる!!」
目を怒らせて叫ぶモルドは抜剣しベルへと向ける。そしてまた戦いを続けようとすると空から何かが降りてきた。
「やめるんだ!」
「か、神様、それにシエン!」
「なんとか俺達も間に合ったみたいだな」
「ヴェルフ、リリ、みんな!!」
「よく頑張ったねベル君、このとおりボクは無事だ!もう戦う必要はないよ、もう止めるんだ!」
「・・・るせぇ!こんなガキに舐められてたまるか!女神がなんと言おうが関係ねぇ、お前らァ!やっちまえ!!」
ベルの仲間達が集まって来たがモルド達の方が人数が多い、頭に血が登っているがままに総攻撃をするように指示を出した。
再び戦いが始まると思われたがヘスティアが静かにベルを守るように前に移動した。
「・・・やめるんだ」
ヘスティアは静かに一言言い放ち神威を解放する。下界の者を平伏させる神の威光。この場にいる全ての子供達の動きが止まった。ベル達だけじゃない、モルド達も傷付かせないためにもヘスティアは神威を解放したのだ。
「剣を引きなさい」
「う、あ・・・」
普段のヘスティアとは思えないような口調に顔でヘスティアは諭すように告げた。
「うああああああ!!」
そして1人の冒険者がその威圧に耐えきれず逃亡、1人、2人とどんどん逃げ出しモルドももう戦える状態ではないと判断して撤退した。
「ベル君、無事・・・じゃないね。早く治療をしないと」
「リリにお任せを!」
ヘスティアは振り向きベルに改めて見ると傷だらけで見ていられなく治療をしようとするとリリが飛び出しリライブの杖を使いベルの傷を癒していった。あとポーションを飲ませて体力も回復させる。
「うう、ごめんよ。本当にボクが捕まったせいでこんなことになってしまって・・・」
「いえ、神様が悪くないですよ。神様を守れなかった僕のせいですし・・・」
「なんでも自分のせいにするもんじゃないぞベル、守れなかったというのであればオレにも責任がある」
「いやボクが」
「いえ、僕が」
ベルとヘスティアの自分が悪い合戦が始まった。
「ああもう、なんでこんなお人好しばっかなんだよ。普通、連れ去ったアイツらが悪いになるだろ・・・」
「それがベル様ですからね」
シエンは思わずため息を吐きながら愚痴ると前にベルに救われたというリリが呆れたようにでも誇らしげに言った。
ヘスティアも無事に取り戻しモルド達を追い払ったのでシエンは地上に戻るべく歩き出そうとしたところで足場が揺れた。
とびっきりの嫌な予感がした。
レスキュー
転移魔法 足元に魔法陣が現れそこにいた人物を使用者の近くに転移させる。
シエンが使った場合は魔法陣に入っている人達をまとめて転移させることも出来る。(複数人まとめて転移しても使用回数は一回とする)