カゲルの碁   作:かろんかろんちょ

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2017年 退藤カゲル 16歳①

 

・登場人物

 

 退藤カゲル 主人公。囲碁のプロ棋士を目指す。

 藤原一星  カゲルに憑いた霊。碁の天才。

 戸谷アキラ カゲルのライバル。

 昇     院生一位。

 筒見    カゲルの中学時代の先輩。

 三橋    カゲルの中学時代の同級生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これに勝ったらプロ棋士か・・・

 

 退藤(たいどう)カゲルは、盤を前にして緊張感を覚えていた。

 

 囲碁のプロ試験は、いくつかの種類に分かれる。まず、東京本院、中部総本部、関西総本部と場所別に分かれ、その中から、夏季棋士採用試験、冬季棋士採用試験、女流棋士採用試験等と分かれる。

 退藤カゲルは東京本院の冬季棋士採用試験に挑んでいた。

 冬季棋士採用試験は、まず一般アマチュア=外来を対象とした外来予選が行われ、次に、外来予選で勝ちあがった者と、東京本院の院生による、合同予選が行われる。そして、合同予選で勝ち上がった者六名と、院生の予選免除者十名による、本戦が行われる。

 

 本戦では、十六名総当りのリーグ戦が行われ、そこでの成績上位二名がプロ棋士となる。

 カゲルがプロ試験を受けるのは今年が初めてである。予選を勝ちあがり、本戦へと駒を進めた。

 

 そして、本戦ではここまで十四局が消化され、十一勝三敗。残すは後一局となった。

 

 本当にプロになんかなれるのだろうか。少なくとも今年は無理ではないか。当初、カゲルはそう悲観していた。実際、合同試験では外来予選突破者などに負け、予選敗退まであとわずかであった。

 

 しかし、そこを突破すると、カゲル自身、意外なほど勝ち始めた。

 本戦最終日。カゲルは現在二位であり、今日の対局に勝てば晴れてプロとなる。

 カゲルは、自分でも予想外の勝ちっぷりに最初困惑したが、一方、自分の急激な上達が、何に起因するかは承知していた。

 

 そりゃあ、毎日毎日、名人級のやつと練習してたら強くなるよな。

 ここまで来られたのはお前のおかげだよ。

 

 彼は、傍らにいる和服の人物・・・藤原一星(ふじわらのいっせい)に語りかけた。

 

「どこ見て話してんだ」

 

 カゲルの前に、いかにもおぼっちゃまといった雰囲気の子供が座る。

 

「いや、お前に話してるんじゃなくて」

 

「?じゃあ誰と話してんだよ」

 

 カゲルの目の前に座った人物・・・今日の対局相手の昇(のぼる)は、携帯した巾着からハンカチや扇子を取り出し、対局の準備に入る。

 

 昇は、直前の研修会で一位。今、院生で最も強い人物だった。彼のここまでの成績は十二勝二敗。最終日を前に、既にプロ入りを決めている。

 

「ほらカゲル、集中して」

 

 一星に言われるまでもなく、カゲルは目を閉じ、精神を集中させた。やがて、試験官が対局開始の合図を告げた。

 

「では対局を始めてください」

 

 囲碁では最初に、先後を決める『握り』と呼ばれるゲームを行うのだが、プロ試験では、リーグ表にあらかじめ先後が記入されており、対局者はそれに従う。

 

 パチ。

 

 先手の昇が定石通りの一手目を打つ。

 カゲルは、すぐには二手目を返さず、しばらく間を置いた。

 

 思えば、色々なことがあった。

 ここまで様々な苦労があって、様々な障害があった。そんな俺が、あと少しでプロなんて。

 ここまで来られたのは、本当に、お前がいたからだよ。

 

 カゲルは改めて、傍らに佇む一星を見た。彼は盤面に意識を集中しており、こちらの視線に気付いていない。彼の横顔を眺めつつ、カゲルは過去に思いを馳せた。

 一星と出会った、その時に。

 

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